あけちフィッシュ ◆aCs8nMeMRg



D-4円形闘技場。
血の臭い漂う控え室で、明智光秀福路美穂子平沢唯を見送った後もしばしの間、恍惚とした表情を浮かべ楽しげに体をくねらせていた。
ほど無くして、破壊された窓の外から馬の蹄の音が光秀の耳に届き、
光秀は窓を飛び出していった二人が、光秀達の乗ってきた馬を奪って走り去ったのだということを知った。
しかし、光秀はその顔に浮かべた笑みを崩さずに言い放つ。

「ンフフフフ、逃げますか。いいでしょう、今はお逃げなさい。 再び相まみえるその時を愉しみにしています。
 その時、あなたはどんなお顔をするのでしょうね?
 恨み?憎しみ?それとも恐怖でしょうか?…ああ!今から愉しみです!」

そして光秀は、くねらせていた身体をピタッと止めると控室の天井を見上げ、小声で噛みしめるように呟いた。

「この宴は愉しいですね……」

その後、光秀はこの部屋で死んだ船井譲次琴吹紬の死体には目もくれず、床や机の上に散乱している支給品を回収していった。
死体は苦しむ事も無ければ、恐怖に顔を歪めることもなく、悲鳴を上げたり泣き叫んだりもしない。
そんなものに、光秀は興味無い。

「あ……うぅ?」

光秀が船井達の支給品を回収し終え、今後の行動を思案し始めた頃、それまで気を失っていた秋山澪がうめき声を上げて目を開いた。

「ああ、澪殿。すみません、忘れていました」
「…………」

声に気付いて澪の側へ歩み寄って来た光秀に対し、澪は無言で光秀の長い白髪を目線でなぞる様にして彼の顔を見上げた。

「……ぁ……ぅ?」

澪の様子がおかしい。
その目は虚ろで焦点が合っているのかあやしいし、
その口は半開きで、端からだらしなく涎が流れている。
何より、これまで散々澪の心に恐怖を植え付けてきた光秀を見て何の反応も示さない。

「おやおや、まさか壊れてしまいましたか?」

普段、澪は怖い話や痛い話を聞いただけで悲鳴を上げ、耳を塞いでガタガタと震え上がってしまうような子だ。
目の前で友達が血を流し、次々と死に逝く様を目の当たりにした彼女の精神は、もう限界だった。

「これでは、つまらないですね」

完全に放心状態である澪の様子に、光秀は少し眉をひそめた。
光秀が見たいのは絶望に歪む澪の表情であり、光秀が聞きたいのは恐怖に涙する澪の泣き声だ。
無論、赤子の様な、あるいは人形のような今の澪の状態を許す光秀ではない。

「……あぅ?」

力無く床に座り込み、虚ろな瞳を向ける澪へ向かって、光秀は無言で手を伸ばす。
絶望を、恐怖を、忘れてしまったというのであれば、思い出させるまで。
光秀は澪の腹に手を当てると、そのまま澪の腹筋を握りしめ、捩じ切らんばかりに捻り上げた。

「ひっ、ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

今までの虚ろな様子が嘘のように、澪は苦悶の表情を浮かべあらん限りの大声で悲鳴を上げた。
それを見て光秀は手を離し、澪を解放する。

「あ、あぐ、あ、ああぁぁぁ」

解放された澪は光秀に掴まれた腹を押さえてゴロゴロと床をのたうち回り、そんな澪の様子を光秀は満足そうに眺めた。


「はっ……はっ……はっ…………」

目を見開き、口を大きく開けて何とか呼吸を整えようとする澪。

「うっ、うぅ…………」

徐々に落ち着いてきた頃合いを見て、光秀が澪の傍らに歩み寄った。

「ひっぁ、ひぃぃぃ」

光秀の足が自分の頭のすぐ傍で止まったのを感じた澪は、そこから逃れるように部屋の反対側へ這って行った。
しかし、それほど広くない部屋だ。すぐに行き止まりになり、逃げ場が無くなってしまう。

「あぁぁぅぅぅ、い、嫌、嫌だよぅ」
「澪殿」

壁に縋りつくようにして泣いている澪に、光秀が声をかける。

「う、うぅ………………はい」

しばらく間をおいた後、澪は諦めたように返事をした。
思い出したのだ。
この人には敵わない。
この人に逆らってはいけない。

「正気に戻りましたか?」
「…………はい」

光秀のしたことは単純だ。
精神的なショックが原因で放心状態となり、恐怖や絶望を忘れ去ろうとしているのなら、
より原始的で直接的な恐怖、肉体への苦痛によってそれを思い出させてやろうとしただけ。
単純だがしかし、放心状態が癖になってしまう前であれば効果的な方法である事もまた事実だ。
現に、澪は先ほどまでの放心状態から脱していた。

「それは何よりです。あのままでしたら……殺してしまうところでした」
「ひ、ひぃ」

殺してしまうという言葉に澪は弱々しく悲鳴を上げ、改めて認識した。
この人の機嫌を損ねてはいけない。

「では、外へ出ます。ついて来てください」
「は、はい」

そう言って澪に背を向け控室を出ていく光秀の後を、澪はヨロヨロと立ち上がって追いかけた。
涙や涎でぐしゃぐしゃになった顔を拭う事もせずに。



「そこに立ってください」

円形闘技場の外に出た光秀は、その闘技場の外周部に立ち並ぶ柱の一つを指差してそう言った。

「…………」

澪は黙ってそれに従い、柱の前まで歩いて光秀の方を振り向くと、
光秀はこの闘技場で見つけた、恐らく荷物などをまとめておく時に使うのであろう縄を取り出していた。

「あの、一体何を?」

多分、これからあの縄で縛られるのだろう。
それは何となく察しがついた澪だった。
しかし、今の自分は縛られなくとも光秀に逆らうつもりはないし、光秀の目的が分からなかった。

「前菜とは言え、あまり一度に食べすぎては体に悪いですからね。
 少し、休憩を挟もうかと思いまして」

澪の疑問に直接は答えず、光秀はそんな事を言いながら澪の身体に縄を掛けていった。
身体の自由が奪われることに対する恐怖や嫌悪はあったが、それよりも光秀に対する恐怖が圧倒的に上回っている澪は全く抵抗できない。

「そのついでに、釣りに興じるのもいいでしょう」

澪の身体を縛り終えると、光秀は澪を柱に寄り掛からせ、自らはその周りをゆっくりと回りながら澪を柱に縛り付けていく。

「え、釣り……って?」

最早、縛られる事に関しては諦めてしまっている澪は、とりあえず光秀の言葉の意味を尋ねた。

「ええ、あなたを餌に。ここは島のほぼ中心ですから、待っていれば誰か通るでしょう」

光秀は澪の寄り掛かっている柱の周りを何週か回り、縄が十分に巻き付いたところで柱の後ろ側で結び目を作って澪を完全に柱に縛り付けた。

「い、痛た」

荷造り用の縄がその柔肌に食い込み、思わず澪が声を上げる。
しかし、光秀はその声を無視すると澪の前に回り込み、そして澪の顎に手をかけてクイッと顔を上げさせた。

「どうやら、あなたに任せていても興を削ぐような事しか出来ないみたいですので」
「…………ごめん、なさい」

顔を近づけて来る光秀に対し、澪は眼球だけ動かして目をそらす。

「これから餌の役だけに専念して下さい。
 なに、簡単な事ですよ。ただ時折声をあげて泣いて下されば、それだけで餌としては十分です」

そこまで言うと光秀は澪の顎から手を離し、突然信長の大剣を抜き放った。

「ひっ!?」

光秀の行動が理解できない澪は、悲鳴を上げて混乱する。

「それでは、少しお化粧を施しましょう」

そう言いながら、光秀は澪の頬にゆっくりと剣の刃を当てる。

「…え?お化粧?」
「ええ、そうです。その方が、獲物の食い付きがいいでしょうから」

そして、そのまま剣をスッと引いた。

「い!」

澪の頬にザラリとした感触が伝わり、皮膚がパックリと切り裂かれ、傷口からタラリと血が流れ出た。

「いかがですか?ご友人を葬った刃のお味は」
「い、痛い…………」

ピリピリとした頬の痛みに涙を浮かべてそう言う澪に対し、光秀は切り裂いた方とは反対側の頬に再び刃を当てた。


「い、嫌ぁ」
「そう言わず、こちら側も同じ様にしておきましょう」

そして、先ほどと同じ様に刃を引く。

「い、たぁぁ」

こうして、澪の頬にほぼ左右対称でつけられた傷を見ながら、光秀はさも愉快そうに笑った。

「ンフフフ、我ながら中々うまくいきました。とてもお美しいですよ、澪殿」
「ひっく、痛い、痛いよう」

普段であれば血を見ただけで震え上がってしまう澪は、あまりの事にぽろぽろと涙を流して泣いた。
その涙が傷口に入ってさらにしみたが、縛られているので自分では傷口を押さえる事も、涙を拭う事も出来ない。

「そうです、その調子で泣いて下さい。フフフフフ」
「うっ、うぅぅぅ」

そうして立ち去ろうとした光秀だったが、何かを思い出したように澪へ振り返った。

「この役目を終えた後、まだあなたが生きていらしたら、その時は別の仕事を与えて差し上げます。
 なにせご友人に向かって引き金を引けたのですから、素質はあると思いますので」

最後に光秀はそう言い残すと、澪の前から姿を消した。

「あ、ああ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

一方の澪は、光秀の最後の言葉に胸が張り裂けそうな思いだった。
澪は先ほど、同じ軽音部の友達、平沢唯に銃を向け引き金を引いたのだ。
その事を思い出すと、罪悪感が一気に澪の身体を支配し、心が押しつぶされそうになる。

「ああああっ…………ごめん、唯、うっ、うぅぅ、ごめん、唯」

涙が次々とこぼれ落ち、頬の傷に入ってしみる。

「痛っ、痛い」

傷が痛んで思わず「痛い」と口にしてしまう。
しかし、同時に思った。
何を自分はこんなことで痛がっているのだろうと。
田井中律は光秀に手足を切り落とされ、それでも澪に逃げろと言った。
琴吹紬は光秀に、剣で後ろから体を貫かれた。
二人が受けた痛みに比べれば澪が頬に感じている痛みなど、取るに足らないものだろう。
しかし、それでも、痛いものは痛い。
そんな風に感じてしまう自分が律達に対して申し訳なく思え、澪はさらに悲しくなった。

「ごめん、律。ひっく……ごめん、ムギ。……ごめん、唯。う、うぅ……、うわあああああああぁぁぁぁぁ」

謝罪の言葉が口を付く。

「ごめん、ごめんなさい!う、うぇ、うわああああああああぁぁぁぁ」

澪は、謝罪の言葉を繰り返しながら声を枯らさんばかりに泣き続けた。



【D-4/円形闘技場外郭部/一日目/昼】


【秋山澪@けいおん!】
[状態]: 精神的ショック(大)、両頬に刀傷、柱に拘束中
[服装]: ピンクのナース服@さわ子のコスプレセット
[装備]: 縄@現地調達
[道具]:
[思考]
基本:もう一度律に会いたい。
1:光秀に逆らってはいけない。機嫌を損ねてはいけない。
2:一方通行ライダーバーサーカーを警戒
3:ごめん…………ごめんなさい
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※光秀が一度は死んだ身であることを信じています。





「いい泣き声です。美味しく頂いていますよ、澪殿」

光秀は澪から離れた後、彼女を監視できる位置に潜んでいた。

「さて、獲物はかかるでしょうか?」

元々、休憩ついでの戯事であり、それほど期待はしていなかったが、澪の見事な泣き声を聞くとつい期待が高まってしまう。
あの泣き声を聞けば、殺し合いに乗っている者であれば澪を殺しにやって来るだろうし、
殺し合いに乗っていない者も、澪を助けに来るかもしれない。

「ンフフフフ、愉しみになってきましたよ、澪殿」



【D-4/円形闘技場付近/一日目/昼】



【明智光秀@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(中)、傷は応急処置済み
[服装]:上下黒のスーツに白ワイシャツ
[装備]:信長の大剣@戦国BASARA、九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式×8、ランダム支給品0~2個(未確認) 、バトルロワイアル観光ガイド 、下着とシャツと濡れた制服、
   ブラッドチップ・2ヶ@空の境界、桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、モンキーレンチ@現実、
   ニードルガン@コードギアス 反逆のルルーシュ 、桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、
   法の書@とある魔術の禁書目録、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×2、軽音楽部のティーセット、
   シアン化カリウム入りスティックシュガー×5、特上寿司×20人前@現実、 さわ子のコスプレセット@けいおん!、
   桜が丘高校の制服@けいおん!、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、ナイフ
[思考]:前菜を片っ端から頂く。
1:殺しを行いながら澪を更に絶望へ追い込む。
2:信長公の下に参じ、頂点を極めた怒りと屈辱、苦悶を味わい尽くす
3:信長公の怒りが頂点でない場合、様子を見て最も激怒させられるタイミングを見計らう
[備考]
※エスポワール会議に参加しました


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153:切り札(後編) 明智光秀 176:苦痛
153:切り札(後編) 秋山澪 176:苦痛



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最終更新:2010年01月15日 23:52