誰も私を責めることはできない ◆1aw4LHSuEI
―――魔力の奪取というのは、どうやってするのかと。
駅にまで移動する途中に彼女に聞いたことがある。
別に、深い意味はなかった。
未だ慣れない彼女相手への、ほんの軽い雑談。
それと僅かばかりの知的好奇心からくるものだった、と思う。
それを分かっていたのか、いなかったのか。
彼女は答えて言った。
方法は、色々あるけれど、自分が主に行なう方法は、吸血。
―――そして、粘膜接触だ、と。
初めは意味が分からなかったけれど、つまりは性行為のことだそうで。
より体の内部に近いところで触れ合うことで魔力のラインを繋ぐことができる、ということらしい。
そうですか。
と、そのときは聞き流した。
そういったことに、あまり興味はない。
どちらかといえば、嫌悪感のようなものがないでもないけれど。
それは、私の経験によるもので、行為そのものに付いては、特に感情を持っていない。
彼女が、吸血にしろ、それを行なうにしても、自分には関係のないことだと、そう思っていた。
でも、今になって思う。
そうか。
別に、粘膜接触は性行に限定されない。
例えば、口付けでもいいのだと。
―――舌を絡ませる彼女を感じながら、そんなことを考えた。
卍 卍 卍
彼女のそれに気づいたのは、白髪の少年や、レインコートの怪物から逃げて、適当な民家に潜り込んだ後のことだった。
完全に意識を失っているというわけではないようだ。
しかし、瞳は、虚ろになり焦点が合わず。
話しかけても、呻くだけでまともに返事もできない。
体中に刻まれた傷から、血が流れている。
死ぬ、ということはないだろうが、放っておけば後に尾を引くかもしれない。
服を脱がせて、簡単な治療を行う。
基本的な医療品程度なら、基本支給品のなかに入っていたし、民家にも存在する。
幸い、傷そのものはさほど深かったわけではなかったので治療はさほど困難ではなかった。
だが、問題は彼女の体力だ。
傷そのものが深かったわけでもないのに、これほどまでに疲弊しているのは、彼女が身体的には通常人だからに他ならない。
この会場についてからの何度も繰り返し行った戦闘は、確実に彼女の体力を消耗させている。
もはや、まともに意識を保つことすら困難なほどに。
彼女の意識が回復し、再び戦闘を行えるようになるまでどれだけの時間がかかるのか?
少なく見ても2~3時間。最悪、6時間はかかるだろう。
その間、ここで隠れて彼女を守る……。
まだ、周囲にあのレインコートや白髪の少年、
セイバーがいるかも知れないというのに?
そんな余裕はない。残念ながら。
そこまで考えて、もう一度彼女のほうを見た。
苦しそうに息をして、虚ろな瞳で必死で生きようとしている彼女。
今ならば、小さな子供でさえも殺せそうな弱々しさ。
そして、自分を見る。
体に傷を負い、魔力をも失い、心もとない状態。
できれば魔力を補充したい。そんな、状態。
彼女はなんだ。
浅上藤乃。
私に似ていて、あの子に似ていて、人殺しの、怪物候補。
生きるために、殺しあうために手を組んだ同盟相手。
情をかけることなどない、利用しあうだけの関係。
…………。
躊躇いは、きっと一瞬だけだった。
卍 卍 卍
キスをするのは―――多分、初めてじゃない。
全てを覚えているわけじゃないけれど、あの男達に私が思いつくような行為や。
思いもしなかった行為の大半は、行なわれている。
きっと初めてのキス、なんて神聖なものはとっくに失われた。
だから、こうして口を吸われているという事実そのものには、あまり忌避感は覚えない。
むしろ、これほど丁寧に、そして執拗にされたのは初めてで。
そこに心地のよさすら感じないではない。
彼女の舌は長くて、まるで蛇のように動きまわった。
その動きは、乱暴なようで、どこか繊細。
口の中で無尽に動き回り、私の舌と絡め合う。
くちゅりくちゅりと唾液の絡まる音が、体の中からして、直接鼓膜に響く。
それが、益々雰囲気を盛り上げて、私の鼓動を高鳴らせる。
―――ああ、私は興奮しているのか。
ここに来て、私の無痛症は収まっている。
それはつまり、私も他人と同じだけの感覚を得ることが出来るようになったということ。
―――正確に言えば。
私は、今、生まれて初めて。
身体接触による、快楽を覚えているということなのだ。
だから。
もしかしたら、今のこれが。
私にとって、本当のファーストキスなのかも、しれない。
少し残念だった。
これで、最後になるだろう、というその事実が。
体が、弛緩していく。
力が、抜けていく。
私の全てを奪い尽くすように、彼女の舌は私を汚す。
魔力を奪われる、ということはこういうことなのか。
今の私は何もできなくて。
こんなことをされても、歪曲はおろか身をよじり抵抗することもできない。
―――死ぬ。
死んでしまう。
だというのに、体の動揺に反して、心はどこか落ち着いていて。
まるで、俯瞰するように自身を見つめている。
仕方がないと思っているのか。
いっぱい人を殺したから、殺されても、仕方ないのか。
でも、嫌だ。
まだ、死にたくはない。
そうだ。
先輩に、また会いたい。
両儀式と、殺しあいたい。
彼女に、また、褒められたい。
その、彼女が私を殺す。
私が、もう使い物にならないから。
同盟を組む相手として、ふさわしくないから。
役立たず、だから。
……いやだ。
ライダーさんに必要とされたい。
褒めて欲しい。
一緒に、喜びを分かち合いたい。
単純な人間だ、と。
心の中で冷静な私が言う。
利用されていただけなのに。
少し優しくされただけなのに。
簡単に。
絆されている。
馬鹿みたいだ。
でも、
そんな優しさでさえ恋しかった。
先輩に優しくされたのだってたった二度。
でも、それだけで私はあの人が誰より大切になった。
なんて―――無様。
優しくされた。
それだけで。
たった、それだけなのに。
私は、この期に及んでも彼女を嫌うことができないでいた。
私を死に追いやる彼女を。
私を抱きしめる彼女を。
暖かい、彼女を。
嫌えない。
彼女は、変わらずに私を攻め立てた。
ときに、強く彼女は私を押し倒し、
柔らかいクッションを後頭部に感じる。
最初のうちは肌を撫でていただけの彼女の手は、次第に下着の中へ。
動きも、ゆっくりとしたものから激しいものへと変わっていく。
終わりが、近づいているのだと、感じた。
息が、苦しくなってくる。
頭にかかっていた靄が深まっていく。
だんだんと何も見えなくなっていく私の目の前で。
彼女の、ライダーさんの顔だけが、間近で見えた。
水晶みたいな。綺麗な瞳。
目と目が合って。
それで―――。
ほろり、と。
一滴だけ涙が零れた。
何に対するものだったかは、良くわからない。
わかりたく、なかった。
目を瞑る。
そして、それを最後に私の意識は遠くなった―――
卍 卍 卍
ベットの上で横たわる彼女の姿。
力の抜けた、その肢体。
先ほどまでの荒れた吐息はもうそこには感じられない。
あれほどに聞き苦しかった呼吸も。
聞こえない。
静かに、なった。
瞳。
綺麗な色をした彼女の瞳。
その色が、私のことを睨んでいるような気がして。
彼女の魔眼を思い出すと、それが少し気味悪くも感じた。
なにを、考えているのだろう。私は。
彼女の歪曲に凶げられるなど、あるはずもないのに。
今の彼女に、そんなことができるはずも無い。
それでも。
全く罪悪感を覚えていないわけではない。
だから、私は心からの謝罪を口にした。
「ごめんなさい―――でも、仕方の無いことだったんです」
返事はない。あるはずも、なかった。
だから、わからない。
それだけで、許されるものなのか。
私には、わからなかった。
故に、もう少し言葉を続けた。
「―――だから、いきなりだったのは悪かったですけど、あれは治療なんですって、フジノ」
「……分かってますよ。そんなことぐらい」
彼女は、少しだけ躊躇った後、私に答えてそう言った。
粘膜接触において出来ることは、魔力の交換である。
そして、それはより魔力のコントロールに優れた方―――今回で言えば私―――に主導権がある。
普通ならば、相手から魔力を奪うために使用される方法だが……。
逆に、魔力を与える、と言った使い方も可能ではある。
彼女が失っていたのは体力だが、魔力と体力はそれぞれ相互関係にあり。
魔力が枯渇すれば体力は失われるし、逆に補給されれば体力も充実する。
もっとも、奪う場合とは違い、魔力から体力への変換はそれなりに効率が悪いのだが……。
それでも、彼女という戦力を失うよりはいいだろうと、そう判断した。
いや、しかし、最初は殺すつもりだったのだ。
彼女に口付けたそのときまでは。
だけれども。
もう少し、生かしておけないかと。
彼女の今にも途絶えそうな鼓動を感じて、そう思ってしまった。
そもそも、魔力を吸収するためだけならば、吸血するほうがよほど効率はいい。
それを考えると、口付けという手段を選んだ時点で、殺したくないと、私はどこかでそう思っていたのかもしれない。
同情、だろうか。
それとも、似ている彼女との傷の舐めあいのつもりか。
自分でも、よく分からない。
儚くて、可憐で、なのに狂気を隣り合わせに持っていて。
あの子にも似た、彼女。
多分、妹だったら完璧だった。
そんな、壊れた幻想。
……でも、こんなことはこれっきりだ。
相手に魔力を与えての体力回復。
正直、経験に薄く結果もはっきりと保証が聞くようなものではない。
相手の消耗を考えたら、失敗しなかったことの方が不思議なぐらいだ。
彼女の魔眼に魔術に近しい属性があって、魔力変換が上手くいきやすかったのかもしれないが……。
とにかく、成功したからよかったものの、失敗していたら二人とも無駄に消耗するだけになっていた可能性すらある。
以後、自重しよう。
そうだ。
どれだけ、あの子に似ていても。
彼女は彼女で、あの子はあの子だ。
私の望みはあの子の元へ帰って聖杯戦争で勝利させること。
彼女も利用するだけの存在だ。
それを忘れてはいけない。
見誤ってはいけない。
そう、自分に言い聞かせた。
「……ライダーさん。聞いてます?」
「え? ああ、はい、なんですか?」
聞いていなかった。
それが分かってか、彼女は睨むような目をきつくしながら私を見る。
「キスが治療だって言うのは、まあ分かりました……。舌を入れたのもいいんですけど……」
「はい」
「……どうして最後に胸を触ったんですか?」
ああ―――そんなことは簡単だ。
「私の趣味です」
ぽすん、と。
顔に向けて投げられるクッション。
そんな他愛ない彼女の抗議が可愛く思えて。
私は思わずくすりと笑った。
[D-7/駅周辺民家:寝室/一日目/昼]
【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(大) 右腕に深い刺し傷(応急処置済み) 若干の打撲 、両足に銃痕(応急処置済み)
[服装]:自分の服
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式x3、ライダーの眼帯、不明支給品x0~5、眼鏡セット(魔眼殺しの眼鏡@空の境界 を含む)@アニロワ3rdオリジナル、
天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、デリンジャーの予備弾薬@現実、
ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード 、参加者詳細名簿@アニロワ3rdオリジナル、デリンジャー(0/2)@現実
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
0:とりあえず放送までは隠れて藤乃の体力回復を待つ
1:藤乃を利用して、殺しあいを有利に進める。
2:サーヴァントと戦国武将に警戒。
3:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
4:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。
5:戦闘の出来ない人間は血を採って放置する。
6:魔力が減っているセイバーを追撃し駆逐する
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※
C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
※忍者刀の紐は外しました。
※藤乃の裏切りに備えて魔眼で対応できる様に、眼帯を外しています。
※藤乃の千里眼には気づいていない様子です。
※戦国BASARA勢の参加者をサーヴァントと同様の存在と認識しました。
※以下の石化の魔眼の制限を確認しました。
通常よりはるかに遅い進行で足元から石化。
魔眼の効果を持続させるには魔力を消費し続けないといけない。
なお、魔力消費を解除すれば対象の石化は解ける。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:千里眼覚醒・頬に掠り傷(応急処置済み)疲労(大)後頭部に打撲(応急処置済み) 全身に軽い刺し傷(応急処置済み)
[服装]:黒い服装@現地調達
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、拡声器@現実
[思考]
基本:幹也の為、また自分の為(半無自覚)に、別に人殺しがしたい訳ではないが人を殺す。
0:もうちょっと休む
1:ひとまずライダーと共に行動する。
2:人を凶ることで快楽を感じる(無自覚)。
3:サーヴァントと戦国武将に警戒。
4:
琴吹紬を探して凶る。
5:できれば式も凶る。
6:それ以外の人物に会ったら先輩の事を聞き凶る。
7:幹也に会いたい。
8:逃げた罰として
千石撫子の死体を見つけたら凶る。
9:セイバーを追撃する
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている。
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最終更新:2010年01月17日 12:27