第二回定時放送~クビワリサイクル~ ◆1aw4LHSuEI
無機質な声が会場に響く。
それは、一つの区切り。
殺し合いに乗るもの、抗うもの、主催者。
その全てに平等に与えられる時間。
「ゲーム開始より十二時間が経過しました。
第二回目の定時放送を行ないたいと思います。
繰り返しになりますが、皆様お聞きのがし無きようにご注意ください。
………………。
よろしいでしょうか。では、連絡事項をお伝えします。
まず、電車の復旧についてですが、不測の事態が発生して運行休止状態が続行しています。
復旧の目処は現在たっておりません。ご迷惑をお掛けすることをここにお詫びします。
続いて、禁止エリアの発表です。
第一回と変わりなく、三時間後、午後三時以降より立ち入り禁止エリアが三つ増加します。
今回の閉鎖エリアは【A-2】【C-7】【D-6】の三箇所です。
くれぐれも誤って進入しませんように。
そして、最後に第一回放送からこの第二回放送までの死亡者を発表させていただきます。
以上、今回の死亡者は十三名。残りは三十七名となりました。
私からの連絡事項は以上です。それでは」
† † †
「おおっと……! 待ってくれ、まだ終わりじゃないぞ……!
こんにちは、諸君!
遠藤勇次だ……!
俺がわざわざまたこうして出張ってきたわけ……!
別に、またただ単に思わせぶりなことを言いにきたんじゃないぞ……!
『新ルール』……!
そう、今回はこいつの発表をしにきた……!
これを聞き逃したら一大事だ……!
クククク……! おいおい、気持ちも分かるがそう身構えるなよ……!
これはお前達の誰にとってもそう悪い話じゃない……!
むしろチャンス、といってしまっていいかもしれないっ……!
失礼……! 思わせぶりな態度はやめると言ったばかりだったな……!
では、新しいルールを発表しようっ……!
それは……
『首輪換金制度』っ……!
これだけで勘のいいものはどういうことか見当が付いたんじゃないか……?
そう、言葉の通りに諸君らの首についている首輪を金と交換してやる、というルールだ……!
もう少なくない人数の人間が気付いていると思うが……
この《バトルロワイアル》会場内でもペリカが存在し、使用することができるっ……!
しかし、それを得る方法は今まで支給品かギャンブルに限定っ……!
殺人を積極的に行なっていた真面目な者達にはさぞかし不満だっただろうっ……!
だがっ……! このルールにより他者を殺して首輪を奪えばペリカを得ることが出来る……!
より殺したものがより報酬を得ることが出来るっ……! 平等な、正しい世界となるわけだ……!
力の弱いものも安心しろ……! 今ならば死体の首輪は殆ど回収されていないだろうっ……!
死体の首を切る度胸さえあれば……誰にだってペリカを得ることは出来る……!
そこから先で何を得て何を行なうのかは諸君次第というわけだが……!
おっと、肝心の換金方法を言い忘れていたな……!
各施設……地図上に黄色の丸で表示されている施設にそれぞれ換金ボックスを設置した……!
そこに首輪を投入してもらえばペリカが支給される、ということだ……!
なお、その際の金額はその首輪を付けていた対象により異なる……!
より、優勝に近い……と、こちらが判断した対象は多額の賞金が出る、と考えて貰っていい……!
ああ……当然ペリカの使用用途はあるのか、ということが次には気になるだろうな……!
今までペリカが使用できる場所は非常に限られていたしな……!
そう考えるのも当然というものだ……!
だが、その不満にも我々は解消する手段を持っている……!
そう、それは無人販売機の設置だ……! 換金ボックスと並んで設置しておいた……!
それほど仰々しいものは取り扱っていないが、簡単な武器や嗜好品などを取り揃えておいた……!
喜んで貰えると嬉しいっ……!
それだけじゃないっ……!
施設によっては面白いペリカの使い方を用意しておいたっ……!
例えば『死者の眠る場所』では『断末魔サービス』などだ……!
ククク……詳細やその他のものは、是非、諸君らの目で確かめて欲しい……!
さて、そろそろ終わるが、質問や意見は残念ながら放送という形をとっている以上受け入れることは出来ない……!
残念だがな……だが、顧客を飽きさせない工夫はさせて戴くっ……!
それは、時間経過による商品の追加……! 後半になればなるほど派手なものが増えていく、というわけだ……!
それが何なのか……察しが付いた奴もいるだろう……!
ククク……思わせぶりなのはこのぐらいにしておこうかっ……!
では、俺からは以上だっ……! 諸君らの健闘を祈るっ……!」
† † †
ぶつん、と。
今度こそ本当に放送は終わる。
後に残るのは暗い部屋。
闇に満ちた部屋にただ一人、遠藤勇次だけが残された。
「ふうっ……」
額の汗を拭いて息をつく。どうみても余裕の無い様子。
その姿はとてもではないが、先程まで可笑しそうに人々を殺し合いに駆り立てようとしていた様には見えなかった。
当然といえば、当然。
運が巡ってきたと、遠藤は開会式でそう言った。
それはチャンスをつかむ機会がきたと言うこと。
だがしかし、つまり未だチャンスを握りしめてはいないということだ。
もしも、この計画を失敗させてしまったら……?
決まっている。前最高幹部や前会長ですら―――失敗すればあの様だ。
自分だって、碌な目には合わないに決まっている。
だからこそ、なんとしてもこの殺し合いを遂行しなくては―――
カチャリ。
唐突に、軽い音がしてその部屋の扉が開く。
「誰だっ……!?」
即座に警戒して構える。
何故だ。
しばらくこの部屋には放送が終わっても誰も寄越すなと言っておいたはずだが……?
思わず、懐の拳銃に手がのびる。
「誰だと聞いて……!」
「はっはー。どうしたんだい。大きな声なんて出して。元気がいいねぇ、遠藤くん――」
その男は、胡散臭くもにやりと笑って切り返す。
「――何かいいことでもあったのかい?」
† † †
「お前……何をしにきた」
『協力者』の一人であるこの男を遠藤は信用してはいなかった。
実力は間違いなくあるのだろうが、その軽薄な態度と、どうみてもこちらに屈服していないその姿勢が苦手だった。
この男ならば確かに力づくだろうが隠れてだろうが黒服たちを掻い潜りここまで来るのは容易だろうが……何をしにきたというのだろうか。
正体がわからなかった先程よりも、強く疑問を覚える。
「何って酷いなあ……。僕は契約を果たしに来ただけだよ」
「契約だと……?」
「そう。――荒耶宗蓮は死んだんだろう?」
「…………」
荒耶宗蓮は優れた魔術師である。
特に結界に関するならばあらゆる世界でも随一といっていい実力を誇る。
そのために、この《バトルロワイアル》でも結界を作成させていた。
そして、目の前のこの男。
この男は荒耶には及ばないが、結界の使い手である。
また、「バランスをとること」にかけては何よりも高い能力を持っていた。
そう。参加者たちにかけられた、よりこの殺し合いにゲーム性を持たせるための「制限」。
それを構築した一旦はこの男によって行われているのだ。
もっとも完全に互角にしてしまっては面白みはなくなるので、「誰でも優勝できる可能性がある」程度に留めてあるが。
荒耶の「結界」と、この男の「バランス」。
無論、それで全てと言うわけではないが、それらがこの《バトルロワイアル》の中核を担っているのは事実だった。
そして、ゲームに直接参加して内部より結界を調整する、と言った荒耶宗蓮が死んだ今。
結界が、何者かによって破壊されていっているという今。
それに手を出せるものは少なかった。
「だったら、結界の修復は僕に任せるのがいいんじゃないかな?」
「……何のつもりだ」
どう考えても、この男が仕事が好きなようには見えない。
むしろ、自分のやるべきことさえ済ませたら、さっさとどこかへ行ってそうな気配すらある。
そんな男がこの後におよんで望むものは―――?
「んん? 僕はただ仕事に手を抜きたくないってだけだよ。でも、それじゃあ君の気が済まないって言うんなら――」
「何だ……!」
「そうだね。僕だってプロだ。追加料金を貰おうか――。一億でどうだい。もちろん、ペリカじゃなくて円でね」
そうだ。金だろうな。
胡散臭い男だが、プロと名乗るからにはやはり金が目当てだろう。
この仕事を受けた際も高額の金を要求したそうだしな……!
自分以外にそうやり手のいない仕事があって、金を得ることができるから、飛びついてきたというわけか……!
「一億か……。まあ、いいだろうっ……! だが、後払いだっ……! ちゃんと俺たちの手助けをしてくれたそのときに払おうっ……!」
「ああ。それで構わないよ。――だけど、一つだけ訂正だ」
「ん……?」
「僕は君たちを助けない。ただ力を貸すだけだよ」
疑問を浮かべた遠藤に、へらっと笑いながらそう言って。
現れた時と同じく唐突に、その男は部屋を出て行った。
† † †
(しかし、遠藤くんも随分と思い切ったことをするなあ)
暗い廊下を歩きながら男は考える。
首輪の換金制度。
確かにそれはこれまでの殺し合い以上に金が絡むものとなるだろうことは確かだ。
しかし、それは急にここに来てこのルールを持ち出した理由にはならない。
だったら最初からルールを定めておけばいいのだ。
ここにきて急にルールを追加した理由。それは――
(――首輪を参加者に所持されれば都合が悪い、ってことか)
いや、正確に言えば最初は良かったのだろう。
途中からルールが追加されたということは。
だが、結界がいくつか破壊され、荒耶が死んでしまったことで、なにかまずい点がある、ということなのかもしれない。
(僕は首輪製作に関わっていない以上、推測の域を出ないけど)
十中八九、間違いないだろう。
そして、自分と同じように考える参加者は零ではないはずだ。
そうすれば、このルールは裏目に出てしまうが、さて……?
(まあ、いいか。僕は力を貸すだけだ。――だいたい、君らとの契約は、『この場でのバランスを取ってくれ』なんだぜ?)
そう。
忍野メメは揺るがない。
彼に取っていつだって信条としていることは一つ。
中立であること。
金を貰っている以上、露骨なことをする気はないけど……。
「参加者が主催者に勝つ可能性」ぐらいは作ってやらないと、バランスが悪いっていうものだ。
【第二回定時放送終了(ゲーム開始十二時間経過)@残り37名】
【忍野メメ@化物語】
[状態]: 健康
[服装]:
[装備]:???
[道具]: ???
[思考]
基本:この場でのバランスを取る
1:結界を修復する。
2:参加者が主催者を打倒する「可能性」を仕込んでおく。
[備考]
※参戦時期は不明。ひょっとしたら
阿良々木暦らと出会う前かもしれませんし、最終回以後からかもしれません。
※忍野の推測があっているかは不明です。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年03月25日 18:11