旋律の刃で伐り開く(後編)◆hqt46RawAo
『沸き上がる情熱(ねつ)と
燻る魂が 胸を締め付ける 燃える緋の様に』
私は歌う。
声を張り上げ、命じられたままに。
私は演奏する。
弦を掻き鳴らし、命じられたままに。
『There,I'll find my place
Under the rader I'm reaching for the sky』
目の前では二人の超人による、私にとって理解の及ばない戦闘が繰り広げられていた。
伊達政宗という、
明智光秀と同じく戦国武将の名を名乗る男。
四本の刀を豪快に振り回しながら、暴風のように明智光秀に突貫していく。
迎え撃つ明智光秀も背中から血を流しながら、狂気の笑いと共に迎え撃つ。
激突と同時に始まる双方の剣戟乱舞。
私にはまったく視認できないその軌道。
マシンガンの如くに連続して響き渡る激突音が、その凄まじさを表していた。
この戦いから目を逸らしたい。
薬の効果で気分は高揚していて、恐怖はないはずのに。
けれど、つらい。
光秀と対等に戦う伊達政宗。
彼を見ていると、胸が張り裂けそうに痛む。
どうしてだろうか?
考えてしまうと、答えもすぐに自覚できる。
そうだ。あの男の姿は、私に極大の罪の意識を自覚させるのだ。
私は今までずっと逃げてきた。
後輩が死んだとき、なにもしてやれなかった罪悪感から逃げた。
間接的にとはいえ、律やムギ、大切な友達を殺したのは私自身だ。
その罪からも、生き返らせれば許されるなんて甘い幻想に逃げこんだ。
今なら分かる。
どうして、ここに連れて来られたのかが分からなくても、私が今こんな目にあっている理由なら分かる。
自業自得だったのだ。
あの時、明智光秀の甘言。
信じなければいいなんて、そんな思考停止に逃げたから、その罰を受けたのだ。
そして今でも、私は逃げ続けている。
明智光秀の言うままに従っても、私の望みはけしてかなう事はない。
さんざん遊ばれた挙句殺されるのがオチ。
そんな事は分かっているのに、抵抗できない。
恐怖に足がすくんで動けない。戦えない。
そんな私にとって、
目の前で光秀と対等に戦う伊達政宗の姿は、あまりにもまぶしくて。
それがつらくて。
早く死んで欲しいとすら思えた。
戦わなければ絶対に望みは叶わないと、伊達政宗は言った。
嫌だ。
無理だよ。
そんな力、私にはない。
事は全てエレガントに運びなさいと、トレーズは言った。
嫌だ。
できないよ。
私はあんな風に死にたくない。
その上、飲まされた薬の影響で、鋭く研ぎ澄まされた私の意識に響く声は。
――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――
そんなことを言うのだ。
ここまで来ると笑ってしまう。
こんな私に戦えだの、世界を変えろだの、そろいもそろって男の声で。
でも分かっている。
言われなくても分かっているんだ。戦わなくちゃいけないことぐらい。
でもどうすればいい?
怖いんだ、死にたくないんだ。私は強くないんだ。
恐怖で足が動かないんだ。
伊達政宗は、私に私の剣をとれ、と言っていたけれど。
そんな物は無い、あるのはただ恐怖だけ。
それもそのはず、だって私の基になったものは『畏怖』と『逃避』。
飲み込んだ薬物は、私にそんな事を自覚させていた。
薬物の効果はピークに達し。
視界が漂白されていく。
闘技場の景色が歪んで消える。
歌い続ける自分自身の声も、徐々に聞こえなくなっていく。
代わりに聴こえて来たのは幻聴、見えてきたのは幻覚。
軽音部のメンバー達が私を取り囲み。
口々に私をなじる。
「先輩は素敵な人だと思っていたのに、幻滅しました」
すまない、梓。
「澪ちゃんのせいで私達は死んだんですよ?」
ごめんなさい、ムギ。
「私を殺そうとしたよね?」
許してくれ、唯。
友達に囲まれて、軽蔑の眼差しで射抜かれる。
これはきっと、私自身の罪のカタチで、この罰を受けて許されるなら、と。
またしても、そんな都合のいい幻覚に逃げてしまおうと思っていたのに――。
「なに逃げてんだよ。戦えよ澪!!」
ああやっぱり。お前はそう言うのか、律。
お前だけは、たとえ幻覚であろうと私を逃がしてはくれないんだな。
でも無理なんだ。
怖くて怖くて、戦えないんだ。
だって私の基になったものは――。
「そんなもの関係ないだろ!?
澪の望みはなんだよ?澪はどうしたいんだよ!?言ってみろよ!?」
私は……。
私の……私の願いは……。
「もう一度……。もう一度みんなに……会いたい……会いたいよ……」
そうして私は恐怖の底から、その願いを思い出した。
そうだ、もう一度。
軽音部全員で、集まって笑いあいたい。
私と、律、ムギ、唯、梓。
誰一人欠ける事無く、あの日常に帰りたい。
帰りたいんだ。
「だったら戦え!私が、一緒に戦ってやるから」
本当に?
本当に一緒に戦ってくれるのか?律?
お前と……お前となら私は……。
私は戦えるかもしれない。
けれど、目の前にあった律の体はゆっくりと薄れていく。
「まって!まってくれ律!私は……!」
私の世界が輪郭を取りしていく。
闘技場の光景が戻ってくる。
軽音部のメンバーの姿が次々に消えていく。
そして、現実を取り戻した私の目の前に、律の姿だけが薄っすらと残った。
「大丈夫。澪は一人じゃない。あたしはいつも、澪のそばに居るから」
そして、見慣れた笑顔と共に、
最後の幻聴と共に消えていった律の幻。
その幻が先程まで立っていた場所に。
「え……?これって……」
私は、私の剣を見つけたのだ。
■
いったい彼らは何度武器をぶつけ合ったのだろうか。
この決闘にも、終結の時が近づいていた。
闘技場にて対峙する政宗と光秀。
距離は10メートル弱、既にお互いの消耗はかなりの域に達している。
戦いの末、ショーテル一本となった光秀と、六爪を失い新たな武器を取り出した政宗。
もう闘技場内の地雷は、ほとんど破壊されている。
「そろそろか」
「ええ、そうですね」
またしても、二人は武器を構えたまま動かない。
合図を待っている。
戦いの始まりが曲の始まりなら、戦いの終わりは曲の終わり。
歌声が途絶え、スピーカーが沈黙するのを待っている。
やがて、音が消え、決着の時がやってくる。
最後の疾走を開始する二人の武将。
その距離は数秒の内に縮まっていき、双方最後の斬撃を繰り出していく。
先に仕掛けたのは政宗。
片手に持った武器――『ウィリアム・ウィル・ウーのレイピア』。
その刀身が光秀の首へと迫り来る。
対して、己の首の前でショーテル構える光秀。
一見すれば防御の構えだが、それは実のところ完全なる攻めであった。
今ここに、この局面まで温存してきた切り札。その真の解放を。
ショーテルに仕込まれた、ある仕掛けを起動させる。
“ヒート”ショーテルの刀身が赤く染まっていく。
凄まじい高熱が刃より立ちこめ空気を揺るがす。
そして、レイピアがヒートショーテルに激突する寸前に、光秀は全闘気を解放してその腕を振り切った。
鮮やかな半円を描く、赤き剣線。
まるで熱したナイフでバターを切るかのようにレイピアを断割し、一切速度を落とす事無く政宗の兜を両断した。
勝利を確信した光秀はしかし、次の瞬間聴こえた音に驚愕する事となる。
轟く雷鳴。炸裂する電光。
伊達政宗は生きていた。
姿勢を低く屈みこみ、己の足で立っている。
ショーテルが切り裂いたのはレイピアと、脱ぎ捨てられた兜のみ。
政宗は、ショーテルがただのショーテルでない事を知っていた訳でも、察知した訳でも断じてない。
彼の回避行動が間に合ったのは、最初から回避するつもりであったからにすぎない。
理由はただ単に、政宗がハナからレイピアをあてにしていなかっただけである。
彼が先に仕掛けた一撃も斬撃でなく投擲。フェイント。
政宗はレイピアを早々に投げつけると、兜を脱ぎ捨て、速攻で屈み、紙一重で光秀のショーテルを回避していた。
鞘走る、奥の手。最後の武器。
全てはその刃が届く間合いまで接近する為に。
政宗は、今の彼が持つ、最も信用できる武器を強く、ひたすら強く握り締める。
それはこの闘技場に着いた際に、見つけた武器。刀身が中ほどから折れた日本刀。
ただの折れた日本刀などでは断じてない。
なぜならば、その刀は彼の右目であった男が使用していた刀なのだから。
刀が武士の魂ならば、これは正にかの男の魂と言えるだろう。
そして、伊達政宗は全幅の信頼を込めてその名を呼んだ。
「いくぜ小十郎!Are you Ready!?」
まるで『応!』とこたえるかのように、握る日本刀に紫電が滾る。
この決闘において、始めて使用する一刀流。
三本の刀を片手で操る両腕のパワーが、折れた日本刀一本に全て込められる。
そして、ここに最速にして最大扱の斬撃が放たれた。
「Rest in peace. 成仏しなよ?」
「くっ……はッ!まだですッ!」
雷速一閃。狙い過たず、その刃は光秀の心臓を刺し貫く、はずだった。
しかし、狂人は常識はずれな方法で致命傷を避けてみせる。
光秀は刀が体に突き刺さる瞬間、迫る刃へと自ら飛び込んだのだ。
結果、より勢い良く刃は光秀の身に迫り、胸を切り裂いて腹に突き刺さった。
だが光秀の動きによってタイミングがずれた事と、刀の刀身が折れていた事によりリーチが短くなっていた事によって、
またしても政宗の斬撃は薄皮一枚で光秀の心臓には届かなかった。
政宗はすぐさま二の太刀を加えんとするが、抜けない。
刀を光秀の腹から抜く事が出来ない。
光秀は自らの腹筋によって、体内の刀を固定していた。
「つかまえましたよ」
光秀の手が、逆手に構えたショーテルを振り上げる。
「往生際が悪いぜ光秀!」
その手が振り下ろされる前に、腹に刺し込まれた刀から発せられる電撃が、光秀の体を駆け巡る。
だが、電流に全身を焦がされながらも、光秀は政宗の肉体にショーテルを少しずつ侵食させていく。
決戦は持久戦へと、もつれ込んだ。
政宗の電撃が光秀を焦がしつくし、心臓を止めるのが先か。
光秀のショーテルが政宗の胸を貫通し、心臓を止めるのが先か。
「おおおおおおおおおおおお!!」
「ああああああああああああ!!」
闘技場に響き渡る、叫びの二重奏。
どちらも最後まで一歩も退くこと無く。
じくり、と。
心臓を抉る小さな音が、この戦いの結末であった。
■
静まり返る円形闘技場。
ライブの爆音も歌声も、
剣と剣がぶつかり合う音も今は無い。
「…………ご……ふっ……」
静寂を切り裂いたのは小さな声。
白髪の男が、血を吐きながら漏らした呻き声。
次いで、からん、と。ショーテルが地面に落ちる音が鳴る。
明智光秀は己の胸部を見下ろす。
そこから、一本の木の棒が生えていた。
棒の正体は、背中の傷口から体内に侵入し、心臓を突き破って胸の傷口から体外へと突き出たドラムスティック。
それを突き刺したのは、光秀の背後にいた非力な少女であった。
光秀は苦痛に震える声で、
けれど同時に歓喜に震えた声で、己を殺す少女の名を呼んだ。
「……秋山……澪……」
それに応える澪の目は、もう光秀を恐れてはいなかった。
というより、その瞳には光秀など映っていない。
「私は……戦う……。もう一度…みんなと……会いたいから……。
それが私の……望みだから……。だから、もう逃げない」
紡がれていく誓いの言葉。
彼女がその眼に映すモノは数時間前までの彼女自身。
怯え逃げ惑う、一人の少女の姿だった。
澪は打倒するべき己を真っ直ぐに見据え。
迷わず、躊躇わず、握る剣に力を込めた。
「――弱い私はここで死ね」
完遂された誓いの言葉と共に、ドラムスティックは引き抜かれる。
鮮血を正面から浴びながら、澪の意識は霞んでいく。
消耗は心身ともに限界であり、
今度こそ完全に漂白された意識の中、澪はゆっくりと倒れていった。
■
「おっ……と」
伊達政宗は仰向けに倒れていく澪を受け止める。
そして、その死がもう必定となった男を見つめた。
「いやはや……こんな結末になってしまうとは、思いませんでしたねえ……」
光秀は心臓に風穴が開き、胸の穴から血を噴出しながらもゆっくりと歩いていく。
「まったくだ。消化不良だぜ」
政宗は不満げであったが、死に行く男は最後まで愉しげである。
「そうですか……私は結構満足できましたよ……。ああそうだ」
光秀は思い出したように政宗に向き直った。
「信長様に会ったらお伝えください。この不肖者光秀、先に地獄でお待ちしておりますと……」
「気が向いたらな」
「フフフ……ではさようなら……」
別れの言葉と共に、今度こそ光秀は政宗に背を向けて、去っていく。
「ああ……痛い……痛いですねえ……」
彼には、まだやりたいことがあった。
信長を殺すことも出来ていないし、
両儀式や
一方通行との決着もついていない。
秋山澪の行く末が見れないのも残念だ。
悔いがないと言えば嘘になるだろう。
しかし、今このときはそのような事を考えない。
未練を感じるなどあの世に行ってからで十分だ。
今はただ、この全身を巡る痛みに、死の予感に、身を任せていたい。
「ああ痛い。……ああイイッ……イイッ……もっと……もっと感じていたい!
この痛みを……死を……!永劫に感じていたい……!」
迫り来る死に恍惚としながら、フラフラと歩いていく。
「死ぬのは二度目ですが……ああ……ほんとうに、癖になってしまいそうだ……」
そして遂に、光秀の体はその機能を停止した。
彼の体はゆっくりと倒れていく。
そして、直下に残る最後の地雷によって、その身は盛大に散華したのであった。
これが明智光秀の死。
最後までこのバトルロワイアルを、殺戮遊戯を楽しみぬいた男の死に様である。
【明智光秀@戦国BASARA 死亡】
【D-4/円形闘技場/一日目/午後】
【伊達政宗@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、左肩口に裂傷
[服装]:眼帯、鎧 、(兜無し)
[装備]:
片倉小十郎の日本刀(半分ほどで折れている)@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式(ペットボトル飲料水1本、ガーゼ消費)
[思考]
基本:自らの信念の元に行動する。
0:……冷めちまったな。
1:六爪を回収する。
2:とりあえず、澪を保護したまま行動。
3:小十郎の仇を取る。
4:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。
5:信長の打倒。
6:ゼクス、一方通行、スザクに関しては少なくとも殺し合いに乗る人間はないと判断。
7:
戦場ヶ原ひたぎ、
ルルーシュ・ランペルージ、
C.C.に出会ったら、12時までなら『D-6・駅』、
その後であれば三回放送の前後に『E-3・象の像』まで連れて行く。
8:馬イクを躾けなおす。
[備考]
※信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点。長篠の戦いで鉄砲で撃たれたよりは後からの参戦です。
※長篠で撃たれた傷は跡形も無く消えています。そのことに対し疑問を抱いています。
※神原を城下町に住む庶民の変態と考えています。
※知り合いに関する情報をゼクス、一方通行、
プリシラと交換済み。
※三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランに同意しています。
政宗自身は了承しただけで、そこまで積極的に他人を誘うつもりはありません。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。映像データをスザクが消したことは知りません。
※スザク、幸村、暦、
セイバー、デュオ、式の六人がチームを組んでいることを知りました。
※
荒耶宗蓮の研究室の存在を知りました。しかしそれが何であるかは把握していません。
また、
中野梓の遺体に掛かりっきりで蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界には気付きませんでした。
※小十郎の仇(
ライダー)・
浅上藤乃の外見情報を得ました。
※中野梓が副葬品(金銀・宝石)と共にB-3付近に埋葬されました。
※宝物庫にはまだ何らかの財宝(金銀・宝石以外)があります。
【秋山澪@けいおん!】
[状態]: 気絶中、両頬に刀傷、覚悟完了
[服装]: さわ子のコスプレセットよりウェイトレスの服@けいおん!
[装備]:
田井中律のドラムスティック
[道具]:
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
0:気絶中。
1:軽音部全員を救う方法を見つける。
2:見つけ次第、実行する。
3:手段を選ぶつもりはない。
4:一方通行、ライダー、
バーサーカーを警戒
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※光秀が一度は死んだ身であることを信じています。
※トレーズへの拷問と死に様を見ました。
※刹那の声を聞きました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。
※起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※自分の望みのために、起源を乗り越えて戦う覚悟を決めました。
※円形闘技場から広範囲に、爆音と澪の歌声が響き渡りました。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年02月22日 10:34