ツンデレンタル ◆LwWiyxpRXQ



001


ライダーは思考する。
目の前の男、アリー・アル・サーシェスの提案は確かに悪い話ではなかった。
消耗していた彼女らにとってしてみれば、サーシェスの戦力は組むに十分に値するものであるし、狡猾という表記が気になることを除けば、拒否する要素は見当たらない。
サーシェスの方もそれを分かっていたからこそ、こちらに接触してきたのだろう。

(状況的には提案に乗るべき、なんでしょう)

が、ライダーはサーシェスの提案に対して、易々と首を縦に振ることはできなかった。
狡猾という表記以上に、サーシェスという男の纏う雰囲気、空気とでも言うべき何か、にライダーは警戒心を抱かずには居られなかった。
表面上は紳士的に振舞っている為目立たないが、ギラギラとしたその瞳は野獣を思わせ、その危険性が垣間見える。
自分や藤乃の魔眼とは、また違った種類の危険さを孕んだ瞳を持つこの男と手を組むことが、何かとても危険なことのように感じられるのだ。

(とはいえ相手はただの人間。正面からやり合えば負けるとは思えませんが……)

サーシェスに危険性を感じるといっても、相手はサーヴァントでも、悪魔でもない。
通常ならライダーもサーシェスに対してここまで警戒心は抱かなかっただろう。
だが、既にライダーは、この場に戦国武将などのサーヴァントに匹敵する能力を持つと思われる存在がいることを知っている。
サーヴァントといえどこの場では無敵の存在ではない、そのことをしっかりと認識しているからこその慎重な行動だった。

しかし、サーシェスは詳細名簿を見る限り、戦国武将程の戦闘能力はないと踏んでいた。
傭兵である以上、ある程度は戦えるだろうが、それでも正面から、いや不意を打たれたとしてもサーヴァントを破れる程の能力があるとは感じられない。

だから、ライダーがサーシェスに殺されることがあるとすれば、それは――

(背後から撃たれた場合、でしょうね)

ライダーが恐れているのはサーシェスの土壇場での裏切り。
何時裏切られるか分からないような存在では、とてもではないが戦力として当てにすることはできない。
その不安は何らかの不戦協定を交わしたとしても残る。
相手に守る信用がなければ、そんなものは大して意味を持たない。
サーシェスと手を結ぶには、常に監視している必要がある。

(選択肢としては、拒絶することが最も簡単なのでしょう)

拒絶。
それはサーシェスとの同盟を拒否するということであり、その選択をすればこの場での戦闘は避けられない。
負けるとは思えない。
もしかしたら逃亡を許してしまうことはあるかもしれないが、それでも自分達が遅れを取ることはないだろう。

しかし、戦力が惜しいことも事実だ。
サーシェスは確かに信用できないが、この場で完全に信用できるような味方がそうそうできるとは思えない。

「おいおい何時まで悩んでんだ? 早く返事をくれよ」

考え続けているライダーに堪り兼ねたのか、サーシェスが急かすように口を開いた。
もう少し待ってください、と言葉を返しながらライダーはちら、と藤乃を確認した。
彼女はどうやら選択をライダーに委ねたらしく、意見を発する気配はなかった。

随分と信用されているものだ、とライダーは感じた。
そして、ライダーは同時に自分も藤乃のことを信用していることに気付く。
完全に気を許している訳ではないが、それでも何時裏切られるか分からないような緊張した関係ではない。

(……とはいえ私と彼女は、あくまで利用し利用される関係に過ぎません……)

信用はしていても、信頼はしていない。
何時かは殺し合うことになるのだから、それは当たり前のことの、筈。

(……………………………………………)

ライダーはそこまで考えて、一つの解決案思いつく。
それは戦力の獲得と、自分の安全の保持。それらを共に満たせるローリスクにしてハイリターンともいえる案だった。
だが、その選択をすることに、ライダーは少し躊躇いを覚えた。

(…………いや、迷うことは何もない、筈です)

ライダーはもう一度藤乃を見た。
すると、視線に気付いたのか、その混じりけのない黒い瞳を此方に向けた。
その瞳を見て、ライダーは確信する。
彼女はライダーを、信頼、している。
ならば、自分はその信頼を―――

「分かりました、あなたの提案を飲みましょう」

ライダーはサーシェスにそう言った。
選んだのは、拒絶ではなく友好。
その言葉を聞き、サーシェスはニィ、と笑みを浮かべ此方に歩み寄りながら口を開く。

「お、そりゃありがてぇ。じゃあ同盟の証として握手でも……」
「ただし」

相手の言葉を途中で切りながら、ライダーは拒絶するように、鋭く言った。
サーシェスはそこで一旦、足を止める。
それを確認したライダーは、サーシェスの目を見据えながら告げた。

「条件があります」


背後から撃たれるのが怖いのなら、前を歩かなければいいのだ。



002


(こいつぁまた、予想の斜め上を行きやがったな……)

サーシェスはライダーの“条件”を聞き、一人呟いた。
最もそれを実際に声に出すことをなかったが。

サーシェスも、同盟には何かしらの制約が付くことはある程度予想していた。
初対面の相手に対して、無条件で背中を預けてくれる筈はなく、同行する以上、向こう側の提案を幾つか飲む必要がある。
とはいえ、ライダーの出した条件は、サーシェスの予想していたものとは少々違った物だった。

「嬢ちゃん、そんなに緊張しなくてもいいぜ」

どうしたものかと頭を働かせながら、サーシェスは今しがた出来た、たった一人の同行者に声を掛けた。
話しかけられたことに驚いたのか、少女はびくっと一瞬身体を震わせる。
揺れる黒い髪の中から見えた瞳には、明らかに警戒の色が浮かんでいた。

(えらく警戒されてんな。当たり前といえばそうだが……)

少女、浅上藤乃の様子を見ながら、サーシェスは先程、ライダーから提示された“条件”を思い出す。

「ただし、条件があります」

「ほう、そりゃなんだ?」

ここまではサーシェスの予想通りだった。条件の内容は『四回放送までは互いに手を出さない』などだと思っていたのだが。
その後、ライダーは藤乃に一瞬眼を向けた後、告げた。

「私は同行しません。あなたは藤乃と二人でE-3の象の像に向かって下さい。
 第四回放送当たりでC-6の死者の眠る場所で合流しましょう」

サーシェスが反応するより早く、え、という困惑を孕んだ言葉がその場に漏らしていた。
声を漏らしたのは言うまでもなく、藤乃。
彼女は驚きと共に、訝しげな視線をライダーに向けていた。
だが、ライダーはその視線を振り払うようにサーシェスを見据え、言葉を続けた。

「あなたはそれで構いませんね?」
「俺は勿論構わねぇが、そこの嬢ちゃんはそうじゃないみたいだぜ?」

この条件は想定外だった。
ライダーと浅上藤乃。
互いに信用し合っているようなので、サーシェスは二人での行動は崩さないだろうと予想していたのだが。

ライダーはサーシェスの返答を聞き、藤乃と向き合った。
藤乃はライダーさん、と小さく漏らしながらライダーを見た。

「フジノ、貴方はこの提案に不満がありますか?」

ライダーは藤乃に対して素っ気無く言った。
藤乃はその問いに戸惑したようであり、表情に困惑と懇願を浮かべながら答えた。

「私は……できればライダーさんと一緒が……いいです」

その言葉は段々と音量が下がっていき、言い終わる頃には聞き取ることもままならないようだったが、それでも藤乃は最後まで言い切った。
心なしかその頬は紅潮しているようで、俯きがちでその視線は地面に向いていた。
その言葉を聞いて、しばらく藤乃を見つめていたライダー。
表情は目元が隠れているせいかよく分からなかったが、表面上は無表情だった。

しばらくの間、その場に静寂が舞い降りた。
その内ライダーは考えがまとまったのか、再びサーシェスの方を向き、言った。

「しばらくフジノと二人で話をさせて下さい。話が付き次第あなたを呼びます」
「へいへい、精々早く話を付けといてくれよっと」

そうしてライダーと藤乃はしばしの間、何か会話をしていた。
内容までは分からなかったが、どうやらライダーは藤乃の説得に成功したようで、サーシェスは藤乃と同行することとなる。
そして、サーシェスと藤乃は今、象の像へ向かうべくD-7の街の中を歩いている。
しかし、藤乃はサーシェスに対して警戒を解こうとせず、緊張した空気が二人の間には流れていた。

(まぁいい。ライダーとかいう女の思惑はよく分からねぇが、戦わずに済んだだけ御の字。下手したら死んでいたトコだしな)

目の前の小柄な少女は一見すると、ただの人間にしか見えない。
サーシェスのように常に戦争に身を置いたこともなく、ライダーのように奇抜な外見もしていない。
だが、浅上藤乃は紛れもなく異形。
話を聞く限り、どうやらその眼に何らかの秘密があるらしいが……。

「嬢ちゃん。お願いがあるんだが、あんたの持っている能力とやらを一度見せてくれねぇか?」
「え?」

その不躾な問いに対して、藤乃は困惑を孕んだ声で返した。
サーシェスは藤乃を納得させるように言葉を続ける。

「いや、別に深い意味はねぇんだが、仲間の能力ぐらいしっかりと把握してないと戦う時に困るだろ?」

仲間、というフレーズに自分でも白々しさを感じながら、そう告げた。
だが、藤乃の能力を見ておきたいというのも嘘ではなかった。
一度駅での戦闘を見ているも、その時はゆっくり分析している暇などなく、サーシェスは藤乃の能力を完全に把握している訳ではない。

藤乃は警戒するように、サーシェスの言葉を噛み締めていたが、しばらくすると一応納得したようで肯定の意を示す。
あそこの電柱を凶げます、と短く呟き、立っていた一本の電柱に向かい合った。
そして、

「凶がれ」

その言葉が発せられたと共に、電柱に劇的な変化が訪れる。
ビームライフルを思わせる赤と緑の光線が飛び、ぐにゃり、という擬音を思わず連想してしまうように、電柱が確かに曲がった。
空間が歪み、柱はそのコンクリートを散らしながら粉砕された。

(こりゃあ、確かに化け物だな、おい……)

サーシェスはその光景をみてそんな感想を抱いた。
当の藤乃はというと破壊した柱には既に興味をなくしたようで、全く別の方向を向いている。
その仕草は余りにも普通で、だがその普通さが藤乃の異常性を際立たせているように見えた。
大抵のものならば、その光景を見て、藤乃に対して恐怖を抱くだろう。
だが、サーシェスの表情に浮かんでいた感情は、恐怖などではなかった。
口元を吊り上げ、瞳に凶暴な光を映し、サーシェスは紛れなく高揚していた。

(化け物だぜ……だが、こいつさえ、この力さえありゃ大抵の奴は殺れる)

サーシェスが欲していたのは、アーチャーなどの人外の存在をも打ち破れる、それこそガンダムのような強力な火力。
それが今、自分の目の前にある。
その事実がサーシェスに獰猛な笑みを浮かべさせていた。

(しばらくはこいつの力を利用して、人外共に対抗していくかねぇ。
 そして、できればライダーと合流する前に……)

サーシェスは今後の方針に思考を巡らせながら、藤乃を見る。
その視線はもはや人を見る目ではなく、さながらモビルスーツを見るような、『武器』として扱っているような視線だった。

(ボロ雑巾のように捨ててやるってな)

【D-7/一日目/午後】
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(小)、腹部にダメージ、髭をそった、髪を少し切ってイメチェン
[服装]:ジャケットとズボンと靴(動きやすさは抜群)
[装備]:ガトリングガン@戦国BASARA 残弾数50% 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実 タバコとライター@現実
[道具]:基本支給品一式、 ガトリングガンの予備弾装(3回分) ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 
[思考]
基本:この戦争を勝ち上がり、帝愛を雇い主にする。
1:藤乃を利用して、強力な敵に対抗する。
2:E-3へ第三放送前に向かう
3:更に周辺を見て回り、できれば組める相手を見つける。 それが最適な選択になるならば、組んだ相手を騙すことも。
4:殺し合いをより楽しむ為に強力な武器を手に入れる。
5:ゼクスは胡散臭いが、彼の知り合いに接触する価値はある。 恩を売っておきたい。
  余裕があれば暦に接触してみたい。
6:アーチャーとの決着をいずれ付ける。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
 情報収集のためにヒイロ、トレーズ、デュオ、伊達政宗神原駿河と接触する方針を続行。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※D-6のデパートには駐車場(車あり)があるようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※E-3へ奇襲を仕掛けるか、逆に離れるかは、ライダーと藤乃の出方次第です。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:千里眼覚醒・頬に掠り傷(応急処置済み)疲労(大)後頭部に打撲(応急処置済み) 全身に軽い刺し傷(応急処置済み)
[服装]:黒い服装@現地調達
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、拡声器@現実
[思考]
基本:幹也を生き返らせる為、また自分の為(半無自覚)に、別に人殺しがしたい訳ではないが人を殺す。
1:サーシェスと共に象の象を目指す。
2:サーシェスを警戒
3:人を凶ることで快楽を感じる(無自覚)。
4:断末魔サービスを利用したい
5:サーヴァントと戦国武将に警戒。
6:できれば式を凶る。
7:それ以外の人物に会ったら先輩の事を聞き凶る。
8:逃げた罰として千石撫子の死体を見つけたら凶る。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている。




003




ライダーは二人が去っていった方向を眺めていた。
藤乃の説得は簡単にはいかなかったが、それでもしばらくすると渋々とだが、折れた。
やはり信頼されているのだろう、いや依存といってもいいのかもしれない。
そして、自分はその依存を利用した。
利用し利用される関係である以上、当たり前のことだった。
だが――

(………………………………………………フジノ)

だが、何とも言い表せない痛みが心の奥に走り、その痛みは一向に消えてはくれない。
それが罪悪感である筈はない。戦いにおいて、この選択は何も間違ってはいないのだから。
藤乃の魔眼ならば大抵の者は倒せるだろうし、傭兵のサーシェスがいれば、藤乃の弱点である経験不足も補える筈だ。
これで象の像に集まるという集団を攻撃できる上、サーシェスの話が嘘だった場合でも自分に被害が及ぶことはない。
そして、二人が参加者を減らしている間に、できれば首輪を回収する。
その後は予定通りギャンブル船に向かってもいいかもしれない。
自分は安全な場に身を置きながら、集団を殲滅する。
それがライダーの思惑だった。

しかし、ライダーはどうにも落ち着かなかった。
藤乃を危険人物と行動させているという事実が、心を不安定にさせる。
ライダーはもう一度、藤乃が消えた方向を見た。

(…………フジノ達の後をしばらく追ってみるのも良いかもしれませんね。
 サーシェスが何か不穏な動きを見せてないか確認する為に……別にフジノが心配な為ではなく)

ライダーは思考する。
しばらくの間だが行動を共にした少女、浅上藤乃についてのことを……。

【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(小) 右腕に深い刺し傷(応急処置済み) 若干の打撲 、両足に銃痕(応急処置済み)
[服装]:自分の服
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式x3、ライダーの眼帯、不明支給品x0~5、眼鏡セット(魔眼殺しの眼鏡@空の境界 を含む)@アニロワ3rdオリジナル、
    天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、デリンジャーの予備弾薬@現実、
    ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード 、参加者詳細名簿@アニロワ3rdオリジナル、デリンジャー(0/2)@現実
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
1:サーシェスと藤乃を利用して、殺しあいを有利に進める。
2:サーヴァントと戦国武将に警戒。
3:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
4:戦闘の出来ない人間は血を採って放置する。
5:次の行動を考える。
6:できれば首輪を回収したい。
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
※忍者刀の紐は外しました。
※藤乃の裏切りに備えて魔眼で対応できる様に、眼帯を外しています。
※藤乃の千里眼には気づいていない様子です。
※戦国BASARA勢の参加者をサーヴァントと同様の存在と認識しました。
※以下の石化の魔眼の制限を確認しました。
 通常よりはるかに遅い進行で足元から石化。
 魔眼の効果を持続させるには魔力を消費し続けないといけない。
 なお、魔力消費を解除すれば対象の石化は解ける。
※頭の中に響いていた雑音は弱まりました
※E-3の象の像の前に、第三放送前に対主催派の人間が集まる事を知りました。
※サーシェスがアーチャーと敵対している事を知りました


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191:言葉という無限の刃(後編) 浅上藤乃 210:とある蛇の観測的美学
191:言葉という無限の刃(後編) ライダー 210:とある蛇の観測的美学
191:言葉という無限の刃(後編) アリー・アル・サーシェス 210:とある蛇の観測的美学


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最終更新:2010年02月23日 16:06