secret faces ◆0zvBiGoI0k



無人の住宅地を影が走る。日中なのもあってまるで黒い風のようだ。
影の正体はYAMAHA・V-MAX。今なお根強い人気を誇る日本の技術が生み出した鉄の騎馬だ。

その馬に乗り込んでいるのは2人の女性。
1人は白いワイシャツに黒のパンツ、オレンジ色のコートを羽織った成人女性。
ヘルメットを被って顔は見えないが、肩まで伸びた緋色の髪を纏めた端正な大人の顔立ちをしている。
名を蒼崎橙子という。だがそれはもとの肉体の持ち主の名だ。
その身に潜む魂の名は―――魔術師、荒耶宗蓮。

その後ろにしがみ付くのは白のシャツにジーパンというラフな格好の高校生ほどの少女。
バイクにはヘルメットがひとつしか備え付けられていなかったため紫の髪が風で激しく揺らめいている。
名を加治木ゆみという。だがそれは『彼』が採取した皮膚の持ち主の名だ。
その皮を被る男の名は―――魔術師、エツァリ。



互いの姿と素性を偽る魔術師が邂逅し、こうして共に行動しているのはなんの因果か。
自動販売機でバイクを購入し、2人は【A-5】にある【敵のアジト】へ向かっていた。
橙子が言うにはそこに主催者への対抗手段を施してあるという。
加治木―――否、エツァリはその言については半信半疑といったところだ。
主催者への反抗を目論むというがまだまだこの女には不安要素が多い。
だが主催側の人間であったという点は信用してもいいだろう。
首輪やこの会場の結界の作成に携わっているというのもそれなりに信憑性がある。

首輪に関してはまだ詳細は聞き出せていない。詰め寄ってでも聞き出したいものだったが、
今の自分の姿を思い出して踏み止まった。
この姿の元である少女は恐らく魔術や機械の知識、技術を持ち合わせていない筈だ。
そうでなければこの女もそれらに関してなんらかの問いかけをしてくるだろう。
だがそれでもこの少女がなんらかの能力を持っており、
そこから自分の正体を露見させる形になってしまったら……そのときは腹を括るしかあるまい。

いずれにしても自分が得られるアドヴァンテージは他の参加者とは比べものにならない。
物理的な意味で主催者に一番近い位置にいるのだ。正確には元主催者らしいが。
危険はあるが、リスクに見合う価値はある。何よりこの場で争うのはまだ早い。
始末するにしても、もう少し情報を搾り出したい。

(虎穴に入らずんば虎児を得ず、でしたか……。何としても、虎の子を手にしたい所ですね……)

自分が潜伏していた国の格言を思い出して、決意を固めエツァリは腕の力を強めた。







むにゅ







(う……………………)

すぐさま、腕の力が弱まる。
胸に感じる言い知れぬ感触。男が一生味わうことのないであろう感覚にエツァリの思考が歪む。
いや、極度の肥満体ならあり得るかも知れないが……ってそんなことはどうでもいい。

「どうかしたかね加治木ゆみ、手を離しては危ないぞ」

前方から蒼崎橙子の声が伝わってくる。排気音や風を切る音で声が伝わり辛い走行中では頭を背中に付けて振動で声を聞くものだ。

「あ、いや、すみません……」

仕方なく再度腕の力を強める。いっそこの感触を存分に楽しめる性分であれば幸いであったが
あいにくエツァリにそういった趣向は持っていない。もったいない。
言葉に出来ないといったが、あえて表現するのなら“気持ちの悪い”心情を抱えることなど知る由もなく、
黒の影は住宅地を抜けていった。



◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



荒耶とエツァリの乗るバイクは北の山岳地帯沿いに【敵のアジト】へ向かっていた。
橙子からの提案はエツァリも賛成だった。
どの道現在位置から【E-1】と目的地の【A-5】とは殆ど間逆の位置だ。距離もかなり離れている。
その道中に参加者に出遭う可能性はかなり高いと見ていい。
エツァリとしては余り他人と接触するのは得策とはいえない。
出遭った人物が加治木ゆみを知る者、特に東横桃子でないとも限らないからだ。
【学校】にあるこの姿の元の少女の亡骸を見つけられることもないし言うことはない。

……それにこの付近にはあの男もいる。
自分の心の臓を掴んで放さない恐怖の根源、悪鬼という言葉がそのまま当てはまる魔人。
男は学校、東へと進んでいたようだった。ならばこちらには来ていないはずだが油断は出来ない。出来るはずもない。
情けない話ではある。だが現状あの男に対抗する手段がないのもまた事実。
……あったとしても、現実にそれを起こせる気がしないのもまた事実だ。
アレを前にして自分が出来ることはなにもない。



だが、それで万策が尽きたわけではない。
何も戦うばかりがこの場で行うことじゃない。
首輪の戒めを解き、主催者への反抗の切欠を掴むのも重大な目的だ。
橙子の言うとおりに【敵のアジト】に主催者を打倒する術があり、首輪を解除する方法を知ることが出来れば
それらを餌に力のあるものを引き入れるという手もある。

楽観的だろう。余りに都合のいい展開だ。
しかしそうすることでしかエツァリはあの絶望を拭い去る手段がなかった。
それをエツァリに攻められる謂れはない。彼に限らず人間とはそういう生き物なのだろう。
目の前の問題から目を逸らし、自分にとって最も幸せな未来を夢想する。
それは悪手ではない。夢を持つこと、幸せを望むことは間違いではない。
人生において立ち止まり、戻り、ときに回り道をすることは無駄ではないし無意味でもない。
だがそれでも、壁は決して自然に崩れることはない。依然として人生の岐路に立ち続けるのだ。
夢も願いも理想も、所詮はヒトの脳髄に渦巻くだけの波に過ぎない。
現実の世界に確たる証を残してこそ願いに意味がある。夢が叶うという。
それを忘れいつまでも上(ユメ)を見続けているようならば、目の前の壁に気付かずに頭をぶつけ、
理想に溺れて溺死するのみだ。
つまりは、エツァリはいずれ乗り越えなければならないのだ。絶望を、恐怖を、その具現ともいえるあの男を。



不意に、体に感じていた風の衝撃がなくなった。顔を上げると、目の前には今にも倒壊しそうな廃墟が佇んでいた。
看板には【憩いの館】と書かれている。

「少し休むとしよう。まだ体が存分に馴染んではいないのでね、事故でも起こしては事だ。君も休むといい」

自分の家のような足取りで歩き出す橙子。だがエツァリの言わんとすることに感付いたのか言葉を続ける。

「安心していい、中はちゃんと造られている。
君達のために造った施設の一つで、戦闘が起こりにくい仕掛けを幾つか施してある。
尤も、そのために奴らに疑われてしまった訳だがね」

「……そうですか」

幾つか気になる単語に気付き、だが表面には出すことなくから返事をしながら自己の内で思考を巡らす。

(意識の転移、か。
自身の予備の肉体を用意し、死した際に意識を移し命を繋げる……木人形(ゴーレム)とはまた別次元でしょうか。
異世界の魔術、という可能性を差し引いてもかなりの使い手であることは間違いないのでしょうね)

橙子の話す魔術はエツァリにはまるで見聞き覚えのないものだ。
本人の力量や属性云々より根本的な部分にズレがあるように思える。
ヴァンとの邂逅で浮かんだ「異世界の人間が複数集められている」という考えからいけば、
自分のそれとは異なる法則の魔術と捉えるのが妥当か。
そして異世界であろうと生の人間と瓜二つの人形を造りだせる者が只者の筈がない。
主催者に会場の結界や首輪の製作を任されたというのなら相応の腕があると見ていいだろう。

(この館の情報を教えたのは、私の警戒を解かせるため、ですかね)

この会場に建てられている施設の情報。それを知っているというのは確かに自身の証言の裏付けとなる。
会場の建造に関わってるというのも、信じざるを得ないか。といってもまだまだ心を許せるには程遠いが。

(……ん?)

建物の周囲を見回していると、奇妙な部分を見つけた。土が一部盛り上がっている。
まるで穴を掘り、そこに何かを埋めたかのような……

「蒼崎さん、あれは……」

「む……」

指差した方向を、橙子も見やる。すぐさま近づき、土に手を触れた。

「まだ柔らかいな。埋められて1時間と経っていない」

「……人が、埋められているんですか?」

「人でないものを埋める必要もないだろう。心苦しいが掘り出そう」

平坦な声でそんな事を告げ、手刀を墓へと突き入れた。
……なんだか、妙な違和感を覚える。
見た目によらぬワイルドな行動もそうだが、何か、決定的なズレを感じるような―――
違和感が拭えないが、ひとまず保留にして墓穴を覗く。
1時間以内に埋葬された人物。よもやと思うが2回目の放送までに呼ばれた死亡者ではない、
つまりごく最近に死亡した人物の可能性もある。
そしてそれが自分の捜す人物でないとも限らない。確かめる必要がある。

「無理に見る必要はないぞ」

「いえ……大丈夫です」

今の姿ではあまり大胆な行動はできないが過度に萎縮する必要はない。
あくまで目的のために主催者へ立ち向かう非力な少女という形を崩さずに穴を覗き込む。
果たして弔われていたのは自分の知らぬ少女。服のあちこちに血の跡がある。死因は、銃殺か。
カーテンか何かで巻かれ艶やかな化粧を施されていた。これほど丁重に弔うということは知り合いなのかもしれない。

「名は、リリーナ・ドーリアンだったか。君の話では確か―――」

「……はい、一回目の放送時に呼ばれた名前です」

ショッピングモールでエツァリは今まで放送された内容―――死者の名前、禁止エリア、遠藤の発言―――
を伝えてある。無論、加治木ゆみの名前は抜いてある。

「ふむ。そうなると一度誰かに埋葬され、2回目の放送後に墓を暴かれ首を刈られた、と見るべきか」

最悪の結果は避けられたことへの安堵を隠しつつ、足元の遺体を見る。

橙子の言うとおり、遺体の頭部と胴体は繋がっておらず、その間にあるはずの首輪はそこにはなかった。
服を整え死に化粧までして埋葬するほど遺体と親しい、
もしくは心ある者が首を切り落とす真似をするとは考えにくい。
ならば先ほどまで首を刈った相手がこの付近にいることになる。ポケットに入った黒曜石に重みが増す。

「中に……誰かいるのでしょうか?」

「可能性はあるな。だがここに首輪を解析できる設備はないはずだ」

「……どうします?」

「入ろう。絶対とは言えんが中に殺し合いに乗った者がいるとは思えない。
上手くいけば仲間を増やせるかもしれないしな」

遺体に土をかけ直し魔術師は扉へと向かう。それに続いてエツァリも立ち上がる。
墓前にてわずかに祈り、少女は廃墟の中へと姿を消した。



◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

廃墟と思われた屋敷は、中に入ると一変、精緻な造りになっていた。
外の荒れようとは大違いだ。ちょっとしたホラー風ペンションとしても通用しそうな雰囲気だ。
戦闘が起こりにくい仕掛けがあるといったが、なるほど外見からは今にも崩れ落ちそうな館に入ろうとは思うまい。

「内部は地下と二階に分けられている。地下には温泉と遊戯台があるが……今は余り意味がないな。
とりあえず一通り回って見るとしよう」


内部を歩き回った2人だが、結局他の参加者と接触することはなかった。
1階の廊下の奥にあった毛色の違う一室に物色の跡や使用済みのティーセットがあったことから誰かがいたことは間違いないが
戦闘の痕跡もなく、この場の安全は確保できたことになる。

「体の調子は、どれくらいで良くなりそうですか?」

地下のゲームセンターや無駄に広大な温泉を調べ終え、続いて2階の階段を昇る途中でエツァリは問う。
前方の女は振り返ることなくふむ、と一考する。

「―――1時間、回復に専念すれば多少は取り戻せるだろうが、余り時間はかけられないからな。
最低でも30分。それまでここに留まっていてはいけないが、構わないかね?」

「大丈夫ですよ。私も少し休みたかった所ですから」

休息を取りたいのはこちらも同じだ。
現在位置は【C-3】。目的地のおよそ半分まで来たがここまで生きた人間とは1人も会わなかった。
1日目からそうだったがそもそもこの一帯には人口が少ないのかもしれない。
そして各地に点在する死体。これは戦場が東側へと向かっている証ともいえる。
ここからは簡単にはいかないだろう。そもそも【敵のアジト】などというあからさまな名称からして
既に何人かが訪れていても不思議ではない。殺し合いに乗った者も例外ではない。
ならば、ここで最後の休息を取るべきだ。いざという自体にも対応できるように。

だがただ休むだけなのも良手とはいえない。せっかく空いた時間だ。有効に使いたい。

「どうせ暇なら―――少しお話しでもませんか?」

「……話?」

振り返る橙子の目にぎらつく様な光が灯る。

「はい、お話です。貴方が知った、主催者達の目的の話」

行き過ぎた踏み込みとは思わない。ここにいる者、特に主催者の打倒を目指す者にとって、
彼らの目的を知ろうとするのは至極当然の成り行きだ。
そして目の前にはその目的を知ると言う者。意識しない方がおかしい。

こちらを見下ろし、先程よりも長い時間を置いて、魔術師は口を開いた。

「……そうだな。君たちには真実を知る義務がある。2階を調べ終えたら情報の整理も兼ねて少し話すとしよう。

―――このバトルロワイヤルの真実、その一端を」





◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【憩いの館】は外観では3階建てに見えるがその実3階に相当する階層は存在しない。
この場に仕掛けられた館内の参加者の気配遮断の結界と魔術、科学的措置双方による幻覚効果によるものだ。
視覚的効果によるカモフラージュが目的であり、確実視できないものの参加者が立ち寄る可能性が減る見積もりだ。
その2階の1室にて小さな円卓を挟んで2人は腰を下ろす。
目の前には備え付けられた紅茶と茶菓子が置かれている。

「さて―――とはいっても私とて全てを知るわけではない。知る切欠を得る直前に切り捨てられたからな」

荒耶宗蓮がエツァリの提案に乗ったのにはいくつかの理由がある。
1つは体の休息。荒耶は会場の西方面での人口の薄さをとうに認識していた。
今では参加者の位置の特定も意識の転移もままならないがこの体へ移る際、
即ち東横桃子に殺害されるより前の時点での位置なら調べ上げてある。
この【憩いの館】にヒイロ・ユイにファサリナ、リリーナドーリアンの遺体があることも、
それ以外の参加者が付近にいないことも知っていおり、
それなりの時間が経過していることからこの場にいないことも検討が付いていた。
一口飲めば体力がすぐさま回復、などといった都合の良いものはなく
人が集まりやすい場所であるここに「門」はないが、身を休めるのにこれ以上適した施設もあるない。

この施設を荒耶宗蓮が造ったというのは事実だ。施設のおおまかな詳細は把握している。

―――建造したのは荒耶の意志ではなく、他の主催陣の依頼によるものだが。

唯一の懸念は道中にて織田信長と遭遇することだったが、誰一人として遭遇はしなかった。
思考エレベーターの予期せぬ起動により逆方向の【死者の眠る場所】に飛ばされているとは
確認手段がない荒耶には知りようもないことだ。

2つにエツァリから信頼を得ること。
確定ではないがここより先は参加者と立ち会う可能性は飛躍的に高まるだろう。
ここで1時間体調を整えても全快には程遠い。参加者の位置特定が可能となるか、どうか。
【敵のアジト】、小川マンションに着くまではこの男―――現在の姿は少女のものだが―――
に身を守らせる他ない。
そのため目の前の男には自分の重要性を教えておく必要がある。
主催者の情報、エツァリでなくても喉から手が出るほど欲しいものだろう。

「それに前にも言ったがこの体への転移はかなりの荒療治でね、
いまだ記憶が混濁して思い出せない事柄が幾つかある。
時間が経てば次第に思い出すようになるからその時に伝えるとしよう」

無論、全てを教える気はない。話すのは時間が経てば自然に分かる程度のものだ。
主催に払う義理も義務もないとはいえ必要以上に情報を与えてはこちらにとっても害となる。
そもそも己も主催の目的の全容を知っている訳ではないのだ。

「まず確定していることについて話そう。まずはこのバトルロワイヤルの主催者、帝愛グループについてだ」

声の質は変わらぬが、それを聞くエツァリには今まで聞いた蒼崎橙子のものとは違うように聞こえる。
そうして荒耶宗蓮は―――今更補足することもないが蒼崎橙子の皮を被った―――
自身が伝え聞いた帝愛グループの説明をエツァリへした。

消費者金融を中心に膨れ上がった日本最大規模のコンツェルンであること。
裏社会にて様々な法外なギャンブルを行い幾多の人間を蹴落とし、罰し、金を搾取していること。


そして、帝愛は元々「魔法」を所持しておらず、そもそも存在すら認知していなかったということ。


「それは……誰かが帝愛に『魔法』を売った、ということですか?」

エツァリは開会式での宣誓を思い出す。その時帝愛は『魔法を金で買った』と言っていた。
それはそのまま帝愛に『魔法』を売り渡した者、もしくは組織がいることを証明する。

「察しがいいな。その通り、帝愛はあくまで主催の一派に過ぎない。いわば隠れ蓑だ。
私のように魔法について多少なりとも知る者や、元々帝愛を知っている者に対してのな」

あっさりと荒耶は認める。この会場内の参加者を支配する畏怖されるべき存在が、
帝愛グループのギャンブルに対して並々ならぬ趣向と狂気を知る者に
これが帝愛の新しいギャンブルであると信じ込ませるためのブラフであると。

「………………」

これに対してエツァリは―――表面的にこそ驚いたそぶりを出すが余り衝撃を受けることはなかった。
予測の範疇ではあった。インデックスを操り、このゲームを支配する黒幕の存在。
帝愛が傀儡という事は少し予想外でまだ見ぬ敵を厄介に思う反面、納得のいく部分も多くあった。
主催の代表とうそぶく遠藤の顔も、今では道化染みた芝居にしか思えなかった。

「……黒幕の、正体は?」

「済まないがそこまで知ることは出来なかった。私に分かったのは帝愛の裏に控えるものがいるということまでだ。
会場の設置の段取りの際も帝愛の代表者の遠藤と、
魔法に関しての指揮を取るインデックスいう少女としか会ってはいない」

無駄であろうことは想像に難くなかったが、それでも淡い期待が消えたことにエツァリは落胆を隠せない。
分かったのはかなり用心であるということか。

「もっとも帝愛もただ使われるだけの傀儡と言う訳ではない。
表向きとはいえ主催者という名目である以上その権限は強い。少なくとも私よりはな。
会場や結界、その他の施設や仕掛けを直接造ったのは私を始めとした協力者だが作成の決定権は帝愛にある。
私が密かに参加者への手引きを画策していたように帝愛も黒幕の目を隠れて何かを施している可能性もある」

「貴方以外にも帝愛や、黒幕と関係ない協力者がいるんですか?」

気になる発言に気付きすかさずエツァリは問いかける。
今の口ぶりでは自分と同じ立場の人間が複数いるような口ぶりだが……

「ああ、そのようだ。元々私も帝愛からこの会場の作成を持ちかけられた身だ、
相応の報酬を用意するといってな。
私以外にも様々な専門家を雇っているようだ。何人かは知れないがね。
そして彼らの目的は千差万別だ。金に目が眩んだ者、立身出世を狙う者、
殺し合いを俯瞰することに悦を感じる者、『魔法』や数々の超技術を掠め取ろうとする者、
それぞれが互いの目的のために動いており、それを他人に漏らすこともない。
ことによっては主催にとって不利益な目的を持つものもいるかも知れないな」

他ならぬ自分がそうであるように―――声も表情も視線も動かすことなく荒耶は嗤う。
エツァリはその言葉を聞き深い困惑に囚われた。

「それ……組んでいる意味があるんですか?お互いの目的も分からないのに協力し合うなんて、
何だか杜撰すぎる気がするんですが……」

それは―――1枚岩ではないどころの話ではない。
そもそも帝愛の所持する魔法の力が真に万能であれば不安要素を持つ者をわざわざ引き込む必要もない筈だ。

では―――万能ではなければ?1回目の死者の放送の際浮かんだ考えが脳内に蘇る。
自分の知る魔術に照らし合わせれば、魔術とは術式一つの構成にも多大な労力を要する。
数日数ヶ月、十年規模のものもザラだ。
魔力、時間、触媒etc……何のリスクもなく行使できる術などは存在せず、常に等価交換の法則を越えることはない。
そんなエツァリの疑問を代弁するように、目の前の魔術師は口を開いた。

「もっともな意見だ。だが魔法といっても全てにおいて万能の力を持つわけではない。
規模や効果が大きいほどそれに伴う時間、負担は増大する。加えて個人の才能によって可能な範囲も上下する。
これは推測だが―――恐らく主催者、少なくとも帝愛が使える魔法には限度がある。
外部からの協力者を募ったのは、少しでも労力を割くためであろう」

荒耶の言葉はエツァリのものと概ね同じだ。主催と帝愛を分けたのは黒幕の存在だろう。
帝愛が個人で行える魔法には限りがあるということということか。

「今私が思い出せるのはこんなものか。少しは参考になったかね」

「―――はい、有難うございます」

エツァリの得たものは大きい。主催とされた帝愛グループの背後に控える黒幕の存在、
帝愛の持つ『魔法』の限界、大それた行いに反して余りにも多い不安要素……
全部信じるのも考え物だが嘘八丁でここまで話せるものではない。
信頼を得たいのなら少なくとも5割程は真実であろう。
会ったばかりの自分にここまで情報を提示する。普通ならこちらの味方であると信頼するだろうが
エツァリはいまだ信に置こうとはしなかった。
確かに情報こそ多いが主催へ反逆する決定的な手がかりは得られなかった。
記憶が混濁していると言っているがどこまで信じていいものか。
先の内容にしろ目の前のこの魔術師がその黒幕でないとも言い切れないのだ。

「それでは、少し休憩にしよう。私はしばらく休眠に入る。
30分から1時間の間には体の調整を済ませる。外に出る場合は必ず伝えてくれ」

そういうと、椅子に深く腰掛け目を閉じ沈黙した。眠ってしまったかのように微動だにしない。

「………………」

見るからに無防備な姿。ポケットの中の黒曜石を取り出すべきか迷うが、すぐに取りやめる。
彼女の言が真実であれ虚言であれ主催側に繋がっているのは確実。仕留めるには時期早尚だ。
加えてここで仕掛けても絶命せしめられるかどうかは、かなり怪しい。
結局の所、自分に彼女を攻撃する選択肢は封じられた。
【敵のアジト】に着くまではこのまま従う他ないだろう。

(そこまで計算していたとしたら、とんでもない食わせものですね……
……いいでしょう、今は貴方の意のままでいましょう。
ですがこちらにも譲れないものもある。もし邪魔をするのなら容赦はしません。
それまではお互い、水面下の化かし合いといきましょう)

そう改めて心を引き締めるエツァリ。油断なく、躊躇いなく己が信念を貫く為、
今は席に座り、時が来るまで体を休めた。




とする予定だったのだが―――





「……蒼崎さん」

「……どうしたかね」

「ト……いえ、お手洗いは、どこでしょうか」

「……設計通りなら、階段を降りてすぐにある筈だ」

「……有難うございます」

「気をつけたまえ。何かあればすぐ知らせるように」

「……はい」

扉を閉める音が虚しく響く。どこか気まずい雰囲気に、だが荒耶は何も感じることなく体内の調整を再開した。



【C-3/憩いの館(2階の1室)/1日目/日中】

【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(低)、発現可能魔力大幅低下、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身、体内調整中
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン
[装備]:バイク(V-MAX)@現実
[道具]:オレンジ色のコート
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。しかし今は体を完全に適合させる事に専念する。
0: 30分から1時間内に出来るだけ体の状態を安定させる。
1:なるべくゲームに乗った者に出会わないよう、主催に気づかれないように行動する。
2:『敵のアジト』に向かい、体を適合させる。 (工房に寄っていくかは考え中)
3:道中の危険に対し、エツァリを利用して乗り切る。
4:必要最小限の範囲で障害を排除する。
5:機会があるようなら伊達政宗を始末しておきたい。
6:利用できそうなものは利用する。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉があります。
※現在の状態で使用できる結界は『蛇蝎』のみです。常時展開し続ける事も不可能です。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※接触している加治木ゆみの正体がエツァリであることには気づいていますが、気づかないフリをしています。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※調整を終える時間は次の書き手にお任せします。その時点での体調も同様です。
※エツァリに話した内容は「一応は」真実です。ただしあくまで荒耶の主観なので幾らか誤りのある可能性もあります。

魔術師エツァリは他人の皮膚を使いその姿へ変身する魔術を修めている。
記憶の複製こそ出来ないが、骨格レベルでの変容まで可能とする。現に今では性別すら違う少女の姿だ。
だが如何に姿を自在に変えられようとその規範が人間から外れることはなく、
生命である以上、生理現象を抑えることなど出来ないわけで……
つまりはエツァリは尿意をもよおしていた。
些か品に欠けるがそれは恥じることではない。むしろ生命として正常な状態である証明なのだから
何の気も負う必要などないのだが、今現在のエツァリにはそうもいかなかった。

繰り返そう。エツァリの姿は現在女性だ。

そしてエツァリの本来の性別は男性だ。

言うまでもないことだが、男性と女性では排泄行為には大きな差異がある。

「……………………………………………………………………………………………………」

エツァリは何も言わない。何か言う必要などない。これは生物としてごく自然の現象なのだから。
それに間違いは全くない。そのはずなのだが、




「………………………………スイマセン」

何故だか、いや理由は分かっているのだが謝罪をする。




自分が死んだとしたら、この姿の持ち主にもう一度殺されてしまうかもしれないな―――




懺悔の言葉を漏らしながら、エツァリは男子トイレの扉の中へ消えていった。

【C-3/憩いの館(1階、男子トイレ)/1日目/日中】

【海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(中)、加治木ゆみに変身状態 、妙に罪悪感
[服装]:白いシャツにジーパン
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達 、黒曜石のパワーストーン@現地調達
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、衝槍弾頭予備弾薬35発   
    洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達 、変装用の護符(蒼崎橙子)、加治木ゆみの首輪、変装用の衣類
[思考]
基本:主催者を打倒し死者蘇生の業を手に入れて御坂美琴を生き返らせる。
0:………………………………スイマセン
1:蒼崎橙子(荒耶)について行き、首輪の解除と、主催を倒す方法を見つけ出す。
2:蒼崎橙子(荒耶)に対して警戒を怠らないようにする。
3:上条当麻、白井黒子を保護
4:バーサーカーと本多忠勝を危険視
[備考]
※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。
 現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。
※主催者は本当に人を生き返らせる業を持っているかもしれないと思っていますが信用はしていません。
※上条当麻には死者蘇生は効かないのでは、と予想しました。
※加治木ゆみを殺したのは学園都市の能力者だと予想しています。
※ヴァンと情報交換を行いました。
※東横桃子の外見的特徴を把握しました。
※『「上条当麻」か「魔術に秀でた者」、それに「異世界技術に対応した複数の技術者」を一同に揃える事』で首輪の解除が可能かもしれないと考察しています。
※荒耶宗蓮によって首輪の盗聴機能が無効化されています。破壊ではなく無効化なので、主催者側に察知される事はありません。
※蒼崎橙子の正体が荒耶宗蓮である事には気づいていません。
※加治木ゆみに化ける為に護符を使用しました。今現在の姿は加治木ゆみそのものです。
※荒耶宗蓮の話には懐疑ですが、半分程度は真実であると思っています。

【補足説明:憩いの館】
  • 館は2階建てです(地下除く)。魔術、科学双方の効果で外観を隠蔽してあります。
  • 2階の細かな詳細は次の書き手にお任せします。

【荒耶宗蓮の主催に関しての話】
1.帝愛は何者かから魔法を買った。
2.帝愛の裏には指示を下す黒幕がいる。
3.帝愛とも、黒幕とも関連のない第3者にも協力を要請している。
4.第3者には各々の目的がある。帝愛及び黒幕の不利益になる可能性も孕んでいる。
5.4.から少なくとも帝愛単体で使える魔法には限界があると思われる。

以下の話を荒耶宗蓮より聞いています。真偽は現段階では不明。


時系列順で読む


投下順で読む



175:H and S. 荒耶宗蓮 198:好奇心は猫をも殺す
175:H and S. 海原光貴 198:好奇心は猫をも殺す



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最終更新:2010年02月08日 00:23