GEASS;HEAD(前章) ◆hqt46RawAo
□ 視点A:『見える人々』 □
エリアD-5にある政庁の屋上。
そこに、三つの人影があった。
長身細身の少年、ルルーシュ・ランペルージ。
存在感が希薄な、制服姿の少女、東横桃子。
ゴスロリという派手な服を着込んでいながら、見る者にどこか儚げな印象を与える少女、平沢憂。
同盟関係にある三人は今、これからの行動を話し合いながら闘技場の方角を伺っていた。
「桃子、状況はどうなっている?」
屋上の端で伏せながら、ルルーシュは隣に立つ桃子に声をかける。
憂も同様に、手摺の影に身を潜めながら桃子を見上げていた。
これは他の参加者から見つかる危険性を考慮しての位置取り。
政庁の屋上は周辺都市部の中でも、頭一つ抜いて高い場所にある。
地上からそこに居る者を確認するにはかなり上方を向かなければならず、またある程度政庁から距離を置く必要がある。
普通に突っ立っていても、見つかる可能性は低いと言えた。
しかし、参加者の中には常識外の視力を持つ者が居ないとは言い切れない。
いつ誰から命を狙われるか分からない状況で、少しであろうが危険をおかす事は憚られた。
よってこれは念に念を入れた危機回避策なのだ。
「んー。ちょっと操作がよくわかんないっすね……。」
そんな中で東横桃子だけは真っ直ぐに立ち、平沢憂から受け取った双眼鏡で、西の方角を見つめていた。
三人の内でも彼女だけは持ち前のステルスによって、見つかる可能性を限りなくゼロに近づける事が出来るからだ。
「ルルさん、もう一度説明書を見せてくださいっす」
「分かった」
桃子は、ルルーシュから渡された双眼鏡の説明書に目を通す。
本格的な双眼鏡は、覗けば好きな距離の様子が見えるというわけではない。
操作にはそれなりの慣れが必要になる。
彼女はピント合わせや視度の調整に手間取りながら、
なんとか説明書に従って、闘技場の光景を鮮明に見る事が出来た。
「あ、見えたっすよー…………。あちゃー、こりゃだめっすね」
少し顔を顰めた後。
桃子はその光景を二人に説明した
目に飛び込んだ光景は闘技場の決闘。
『白髪の男』と『隻眼の男』が戦っている様子。
そして、中央で歌う秋山澪の姿。
「あの中に飛び込んで行くのは無茶っすよ。戦ってる人達、人間の動きしてないっす」
ルルーシュと憂も一瞬だけ屋上から顔を出し、双眼鏡で闘技場を伺う。
瞬時に、ルルーシュは闘技場で行なわれている出来事を推測した。
戦っている二人の男の内の一人、白髪で長髪の男は阿良々木暦から聞いていた危険人物の特徴と一致する。
明智光秀、戦国武将の名前だった。相対する男もその鎧姿から、戦国武将の一人と推測された。
織田信長の可能性も僅かにあるが、隻眼という特徴から、伊達政宗と思われる。
状況はおそらく、明智光秀が秋山澪にあの馬鹿げた行為を強要し、それに釣られてきた伊達政宗と激突した。
といったことろか。
「なるほど……。あの二人はセイバークラスの超人か……。
確かに、下手に近寄るのは危険すぎるな。憂、残念だが闘技場行きは無しだ。
暫くここで状況を見るぞ」
「うう……分かりました」
先程までは闘技場へ行こうと言っていた憂も素直に頷く。
秋山澪をメンバーに勧誘したいという思いも確かにあったが、
彼女とて、今の闘技場がどれだけ危険か分からないほど愚かでは無かった。
今闘技場で戦っている二人に横槍を入れるとなると、命がけになるだろう。
加えて、闘技場から響き渡るライブ音に釣られて現れるであろう、参加者同士のぶつかり合いに巻き込まれる事になる。
「もういいぞ、桃子。お前だって俺達よりかなりマシとは言え、見つかる可能性は有る。
そろそろ中央に移動するぞ」
「了解っす。
でも、これからどうするっすか?ルルさん」
屋上の端から離れ、三人は揃って屋上の中央部に腰を下ろした。
この位置ならば、例え立ち上がっても誰にも姿を見られる事は無いだろう。
「それを今から説明する」
二人の少女と一人の少年は輪を描くように座っていた。
その中央にルルーシュは次々と持ち物を並べていく。
地図、『おくりびと』、爆弾、拳銃。
三人の同盟関係。
それは全員が個々の役割を果たしているからこそ、成り立つものである。
ルルーシュの役割は二人の少女に策を授ける事だった。
これからどうするか?
どのように殺し合いを生き延びるか?
その方法を考え出し、二人の少女に伝える。
少女達は策を貰う代わりに、彼の指示に従う。
それがこの同盟の正体。
そして――。
「まず最初に確認しておく。
俺達はいずれ、殺しあうことになるかもしれない関係だ」
その事実を一言目に告げて、彼は己の役割を果たし始めた。
■ 視点R:『腹 黒 の 騎士団』 ■
「俺達はいずれ、殺しあうことになるかもしれない関係だ」
何故、俺はこんな当たり前の事をいちいち口にしたのか。
目の前に座る二人の少女。
東横桃子と平沢憂。
二人にもこんな事は分かっているはずだ。
いやむしろ、中途半端な仲間意識を持ってくれた方が利用しやすいはず。
こんなことは俺自身が意識していればそれで良い筈だ。
では何故……?
「だが、この局面に置いて俺達はチームだ」
取り繕うように言葉を続ける。
もしかすると……。
俺自身が二人に仲間意識を持ちつつあったのかも知れない。
だとすると……それは不味いな。
二人は確かに今は味方だが、優勝を目指す明らかな危険人物。
気を許してはいけない。
そして、俺には俺の目的があって、そのためには彼女達を使い潰す事も辞さない覚悟が必要だ。
その為に、二人はいつでも切り捨てられる対象でなくてはならない。
俺にとって、大切な者になってはいけない。
甘さを断ち切れ、あくまで二人は利用するべき対象。
それ以外の価値を見出してはいけない。
これを自分に理解させる為に、俺は先の一言を発したのだろう。
そうと分かれば、彼女達をこれからどう扱うか考えるとするか……。
「なに当たり前の事を言ってるんすか?ルルさんらしくないっすね」
「そうですよ、私達はチームです。一緒にバンドを組むんですから!」
不審そうな顔をする桃子と明るい表情の憂。
おそらくだが、桃子は『将来殺しあう可能性について』肯定し。
憂は『俺たちがチームである』ことを肯定したはずだ。
「ははっ、そうだったな。まあいい、話を進めよう」
二人は共に優勝を目指している。
しかし、必ずしも彼女達は同種の方向性を持っているわけでない。
――平沢憂。
姉への思いを失い、しがらみから解放された少女。
今の憂は一見して、桃子よりも遥かに危険人物に見える。
しかし、実はそうでもない。
彼女の目的はただ生き残る事であり、誰かを生き返らせたい訳でも、殺したいわけでもない。
生きるための躊躇いの無い暴力。それが彼女を凶暴に見せている。
だが、逆に言えば生き残る為に殺す必要が無くなれば、一転して無害な存在になるということ。
つまり、憂とは将来的に殺しあわなくても済むかもしれない。
阿良々木暦にだけはなにやら殺意を抱いているようだが、それは俺にとっても都合がいいことだ。
そして、何よりも彼女には『俺を裏切るな』と言うギアスを掛けてある。
このギアスの効力は今までにも実証済み。
強制力は十分に作用している。
問題が有るとすれば、どの程度の行動が『裏切る』に値するのか?ということ。
今のところ憂と対立する展開に発展する事は無さそうだが、もしもの事もある。
想定しておいて損は無いだろう。
『俺が指示する作戦には従って貰わねばならないが、俺はお前の行動に干渉しない。』
これが、憂に言った契約の内容。
俺の指示に従うこと。
コレに『裏切らない』となると、憂は俺に絶対服従に見える。
事実、憂自身が自覚していなかった『殺す理由』を俺に教える程の効力だった。
しかし穴はある筈。
例えば、指示に従いながらも俺に危害を加える行為は裏切りか?
俺自身が先に契約を裏切った場合はどうなるのか?
分かっていないパターンは多々あるだろう。
今のところ、その様な状況に陥る目算は無い。
しかし、そうなった時の対策は考えておくべきだろうな……。
次に――東横桃子。
ステルス麻雀少女。
正直言って、俺は憂よりも桃子の方が危険度が高いと認識している。
たしかに、出会った頃から殺人を戸惑わない様相だった憂と違って、最初のコイツはまだまだ硬かった。
性格的にも今は桃子の方がおとなしく落ち着いているし、馬鹿げた行動で周りを混乱させるタイプでもない。
しかし、ただ生還を目指す憂と違って、桃子には生還以上の目的がある。
慕っていた先輩の蘇生。
彼女は憂と違って、優勝の恩恵を得なければ納得しないという訳だ。
憂よりもかなり高い確率で、俺と桃子は将来的に殺し殺される関係となるだろう。
それを避ける為には主催者の持つ死者蘇生の秘密を解き明かすしか無い。
だがそれには難解を極める。
いざとなったら、ギアスを使って始末するしかなくなるか。
『死ね』『殺せ』が使えない以上。
単純な命令をここぞと言うタイミングで行使しする。
同盟の契約を結ぶ機会にギアスをかけれなかった以上、憂と同じ手は使えない。
なんにせよ彼女は、憂よりも遥かに、動向に注意を払わなければならない存在だ。
――とにかく、コレが俺の二人に対する認識。
それ以上でも以下でもない。
自分に深く言い聞かせ、話を進行させた。
「さっき言った通り、暫くここで闘技場とその周囲の様子を伺う。
あの戦いとそれが及ぼす影響を見物する。
その間に、これから如何するかを決めてしまおう。」
俺は地図の上に『おくりびと』と死者をメモした紙を置いた。
「俺たちはこれから、主催者に対抗する集団に合流する」
とりあえず、行動の方向性を宣言した。
荒耶宗蓮。
奴との戦いを切り抜けられたのはセイバーの存在があったからだ。
あの場を俺と桃子、憂の三人だけで臨んでいれば全滅も有り得ただろう。
このまま、三人だけでまた荒耶宗蓮や今闘技場で戦っている二人クラスの敵に行き当たる訳にはいかない。
至急、超人クラスの手駒が必要だ。
しかし、桃子や憂の様な同盟を結べる強者が容易に見つかるとは思えない。
だが、このゲームに反抗するセイバーの様な超人も確かにいる。
あるいはスザクの様な戦いに適した達人。
ならばその人物が属する集団に入り込み、内側から俺の都合のいいように操ればいい。
「残り人数は約半数、このバトルロワイアルも中盤戦と言った所だろう。
そろそろ、大規模な集団が各所に出来上がっている筈だ。
この政庁を訪れる対主催者集団、または闘技場のライブが呼び寄せる対主催者集団。
そのどちらかに合流して、戦力増強を図り、内側から俺達の都合のいいように使い倒してやる訳だ。
なんなら、俺たちが集団を作り上げたっていい。兎に角、セイバークラスの戦力が必要だ。
そうでなければこの先、荒耶宗蓮のような相手とは戦えない」
そして、集団との接触は首輪の解析の近道にもなるだろう。
「やっぱり、そうするっすか」
桃子も俺と同じ事を考えていたのか素直に頷き、続きを促した。
「当然、合流する集団の内部に居る人間によって、少々状況は変わってくる。
幾つかのケースを先に想定して、決めてしまおう」
そう、接触する集団によってその後の状況は変化する。
その最たる例が、スザクのいる集団に接触できた場合だ。
俺の目的はスザクの生還ただ一つ。
スザクにさえ接触できれば、スザクの生存を最優先した計画にシフトする。
だがそんな簡単に行くとも思えない。
大まかに想定するべきは、大きく分けて三つのケースだ。
「まず、『なんら人員に問題のない対主催集団』に接触できた場合だ。これを仮に『ケースA』としよう
この場合、集団の中でも俺達だけのネットワークが必要になる。
よって、実際的に接触するのは俺と憂の二人だけになるな。
俺と憂は無害な人間を装って集団に溶け込み、桃子はステルスで誰にも知覚されない状態で集団に入り込んでくれ。
船井の集団にいた時のようにな。ステルス持続時間の限界は未知数だが、最低でも6時間以上は持続する事が実証済みだ。
おそらく問題は無いだろうが、万が一ステルスに支障が出てきたりしたら俺達に知らせてくれ。」
この作戦は駒を増やしたい俺と、優勝を目指す二人の利害と一致する。
俺は集団を内側からギアスで操り、憂と桃子は何時でも邪魔者に対する不意打ちが可能だ。
当然、集団の内部で策を弄するには人目が邪魔だ。
しかし、ここで桃子の存在が活きてくる。
例えば俺の作戦を桃子と憂に伝えたい場合。
その内容を示したメモをステルス状態の桃子に渡し、桃子がそれを憂に渡せば全員に伝わる。
「つまり、大きなチームの中に俺達の小さなチームが在るわけだ。
俺達のチーム名は『黒の騎士団』まあ、合言葉みたいなものだ」
「なるほど、異議なしっす。でもそのセンスはちょっと……」
「私も異議なしです。カッコいいですね!黒の騎士団!」
「……そ……そうっすか?」
二人は俺のプランに同意した。
だが、この計画には一つの問題がある。
憂はそれに気がついたらしい。
「ええっと、でも……阿良々木さんはどうするんですか?
あの人が私達の事をばらしていたら……」
「それも考慮してある」
阿良々木暦。
奴を逃がした事は後々響く事になるだろう。
阿良々木は憂はもちろん、俺や桃子が殺し合いに乗っていると認識している。
対主催集団に紛れ込む作戦は俺にとって、もう一つの意図がある。
目の前の二人の少女。
最終的な状況によっては彼女達を切り捨てて、完全に対主催派に鞍替えする事も出来るのだ。
行ってしまえば同盟の裏切り行為である。
しかし、これには阿良々木暦の生存が大きく邪魔になる。
奴によって、俺が殺し合いに乗っていると吹聴されれば、
俺は対主催派から危険人物と見なされ、狙われる立場となるのだ。
桃子の阿良々木に対する余計な一言。
俺と桃子と憂が手を組んでいるという発言は、俺と二人を一蓮托生にしかねない物だった訳だ。
「阿良々木暦本人が属する集団との遭遇は最悪の展開だな。
阿良々木一人なら如何にでもなるが、俺達の悪評を聞いた集団との激突は避けなければならない。
だが、『阿良々木を知っている』集団との遭遇ならまだ大丈夫だ」
「それはつまり、キタローさんを知ってはいるけど、
私達が殺し合いに乗っている事は把握していない集団って事っすね?」
「その通り。阿良々木暦が俺達に会う前に遭遇した人物。
枢木スザク、真田幸村、両儀式、セイバー、デュオ・マックスウェル。この5名が該当するな。
内、セイバーと真田幸村は既に死亡しているから実質、3名か。
この三人は問題ない。三人は俺と桃子のスタンスを認識してはいない。
おそらく、憂に対しては警戒心を抱いているだろうが、
そんなものは憂本人と俺が『それは阿良々木暦の嘘だ』と否定してしまえばいい。
よってまだ『ケースA』の枠内だ。当然保険を掛けてはおくが……」
そう、例え問題なく集団に入り込めても、阿良々木暦の存在、と奴が広める俺達の悪評は後で確実に問題になる。
阿良々木暦から俺達のことを聞いた集団か、または阿良々木暦本人に遭遇する可能性は多分にあるのだ。
その時のために、対策が必要となるだろう。
「俺達は接触する集団にこう言ってやればいいのさ。
――阿良々木暦は殺し合いに乗っている。とな」
「ああ、なるほど。
阿良々木さんが私達の悪評を広めるのと平行して、私達も阿良々木さんの悪評を広めるって訳ですね」
憂の言葉に深く頷く。
俺は優勝を狙っている訳ではないし、別に阿良々木暦に対して特別恨みが有る訳でもない。
だが、こうなった以上は俺にとっても阿良々木暦だけは邪魔な対象でしかない。
敵を増やす存在は、ともすればゲームに乗った人間よりも厄介だ。
俺達への悪評を阿良々木暦への悪評で打ち消しつつ、味方という手駒を増やす。
接触する参加者に、阿良々木暦へ何らかの対応を強いるギアスを掛けるもの有効だろう。
こうしておけば、たとえ後々俺たちが属する集団と、阿良々木暦が属する集団が遭遇しても、
俺達の属する集団はすぐに俺達の敵になる事がない。
阿良々木暦の悪評と俺達三人の悪評が衝突した時。
かなりの混乱が予測されるが、その時こそギアスとステルスモモの出番というものだ。
「確認するっす。対主催者集団に接触して同行する作戦。
ルルさんと憂さんは無害を装って同行。
私はステルス状態で、ルルさんと憂さんにしか気づかれないようにこっそり同行。
接触する人物全員にキタローさんの悪評を吹き込んでいく。
これでいいっすね?」
「ああ。
次は『ケースB』だな。これにも阿良々木暦が関わってくる。
『阿良々木暦を深く知る人物』を含む集団に遭遇した場合だ。
ようするに、阿良々木暦が殺し合いに乗っていると言っても、信用しなさそうな人物。
戦場ヶ原ひたぎと神原駿河がこれに該当するな。
何よりこの二人は阿良々木と遭遇した際に、確実に俺達より阿良々木暦を信用する人物と予測される。
速やかな排除が必要だ」
阿良々木が話していた、阿良々木の元の世界での知人達。
これに阿良々木暦本人を加えた三名。
それは、俺達三人の作戦を崩しかねない三名だ。
こいつらには一刻も早く消えてもらわねばならない。
「まあやる事は『ケースA』とそう変わらない。
集団に紛れ込み、阿良々木暦の悪評を吹聴する。
違いは隙を見て戦場ヶ原ひたぎか神原駿河、またはその両方を排除する事。
その一点だけだ」
理想を言えば、三人とも俺達のあずかり知らぬ所で勝手に死んで欲しいものだ。
しかし、そう上手く事は運ばないだろうな。
三人のいずれかと、ぶつかる覚悟は必要だろう。
「最後に『ケースC』
『殺し合いに乗った者が潜む集団』だった場合だ。
俺達と同じ考えを持った人間が潜んでいた状況だな。
このケースはケースAから派生する可能性があるパターンだ」
最初から乗っている人間が紛れている事に気づくのは難しい。
そこでまた、桃子の出番だ。
この対主催派合流作戦の全般において、桃子にはかなり働いてもらう必要があるな。
「桃子には合流する集団内の人間全員を、よく観察していて欲しい。
誰かと居る時は仮面を被った人間も、一人になったタイミングでは本性を見せるはずだ。
そして、ゲームに乗っている者を発見できた場合。俺と憂に知らせてくれ」
「了解っす。でも、その後はどうするっすか?」
「可能なら味方に引き込む。無理そうなら排除する。」
集団に溶け込むという発想は俺達三人と共通する思考だ。
場合によっては協力関係に持ち込める可能性も有るだろう。
「大まかな想定ケースは以上だな。
当然これは接触する集団内にセイバークラスの強者がいた場合に限る。
戦力外しかいないような集団なら、阿良々木暦の悪評を伝えた後すぐに分かれるか、そもそも関わらない」
戦力にならない人間といくらチームを組んだところで、邪魔者が増える事態にしかならない。
そもそも、船井との交流を早々に切り上げたのは、あの場に足手まといしかいなかったからだ。
「それじゃ、他に何か想定される案や、ケースはあるか考えよう。
二人に何か意見はあるか?」
「あっ、はい。じゃあ私から……」
話を振ると、憂が勢いよく手を上げた。
「『おくりびと』を見られると不味いと思うんですけど、何所に隠しておくんですか?」
「そうだな、とりあえず集団と合流する前に桃子に預けて置いて――」
…
……
………
…………
そうして、幾つかの状況を想定した作戦を練った後。
俺達の策は纏まった。
次に各自が持っていた武器をバランスよく分配する。
俺はもう片腕しか使えない状態だ。自転車や両手を使う武器は桃子と憂が持っておくべきだろう。
ただしミニミ軽機関銃はトラップにも応用できそうだった為、まだ俺が持っておくことにした。
そして、桃子と憂に発信機と『スーパーで手に入れていた面』を持たせていた時、闘技場から聴こえていた曲がふと止む。
「曲が終わったな。桃子、どうなった?」
すぐさま、桃子が双眼鏡をもって屋上の端に移動し、闘技場を見る。
「白髪の人が死んじゃったみたいっすね。澪って人は生き残ったみたいっすよ」
「良かった!これでバンドに誘えますね」
なにやらキラキラした目線で、俺を見つめてくる憂をなだめながら思考する。
「桃子、生き残った男は秋山澪をどう扱った?」
「殺すつもりは無い見たいっすね」
「分かった。もういいぞ」
つまり、あの場においてはゲームに乗っていない者が勝利した事になる。
だがこれからだ。
ここから、あの場所には様々な人物が集まってくるだろう。
その過程でもうひと悶着有る筈だ。その結果を見届けなければ動けない。
だがそのひと悶着の結果として、あの場に集まる対主催者集団が最終的な勝者になった場合は、それに接触するべきだろう。
闘技場と政庁付近の様子からは目が放せないな。
「すぐに動かなければならない状況もありうる。
付近の様子に目を配りながら話そう。作戦についてはこれで纏まった。
後は闘技場の顛末を見届けるかこの付近に何者かが現れるまでに、残る参加者の危険人物を予想をしてみようか」
とりあえず、俺の知人と、桃子の知人、憂の知人についての情報。
それと手に入れた『おくりびと』を使って、残る参加者の危険人物。
または上手く使えそうな人物を想定してみよう。
そう考えて、おくりびとの表示で第一回放送までの死者を映す。
おくりびと。
死んだ人間と、その人間が死んだとき一番近くに居た人間を映すデバイス。
ゲームに乗っている者の特定までは出来ないが、何度も『おくりびと側』に映っているような人間は高確率で殺人犯だ。
特にバーサーカーと長い明智光秀の二人は確定だろう。
けれども、明智光秀はたった今死亡した。
そもそも、バーサーカーは俺自身感じ取った映像で、二人の男を殺していた。
『おくりびと』単体ではそれほど有意義な情報は得られない。
せいぜい容疑者程度の疑いを持つべき人間が判明するくらいか。
しかし、不可解な点もあった。
おくりびと側にC.C.の姿がある。
おくられたのは『茶髪の少女』
C.C.が自分の生存のために誰かを率先して殺すとは思えない。
むしろ死にたがっていたくらいだ。
よってC.C.が殺した可能性は低いが、まあ一応警戒はしておく。
そして、それと連鎖するように、一つの疑念が湧き上がる。
以前俺は、ユフィが『日本人を殺せ』というギアスが掛かった状態でこの島に来ていると推測した。
ならばスザクは?C.Cは?一体どの時系列からここに呼ばれている?
俺と同じ時系列からここに呼ばれるか?そう言い切れるか?
出会えばすみやかに協力体制が築ける関係。あの主催者達がそんな単純な関係でこのゲームに俺達を放り込むか?
ユフィに関する考察と同様に、下劣な仕込をされていてもおかしくない。
それは、俺に最悪の展開を想定させた。
例えばC.C。彼女が記憶を失っていた時期から召還されていたとしたらどうなる?
例えばスザクが、俺と対立していた時期から呼び出されていたとしたらどうなる?
C.Cは役に立たず、スザクとは協力する事が至難になる。
そのことを思うと。
スザクとの接触は最大限の警戒を持って臨まなければならないだろう。
最悪の場合、出会った瞬間に殺し合いに発展しかねない。
そんな事を考えながら、『おくりびと』の表示を次々に進めていく。
俺は『おくりびと』と、『阿良々木暦から引き出した情報』から考慮される危険人物を手駒の二人に伝えた。
その時、憂と桃子が何を思っていたかなど、俺には知るよしも無いことだ。
■ 視点U:『そうしつ。』 ■
「現在生存している、明確に姿と名前が分かっている危険人物は2名だ」
ルルーシュさんの話が続いている。
でも、なんだかその話に集中できない。
私は『おくりびと』の画面から目が離せなかった。
「バーサーカー、ライダー。
セイバーの話が正しければ、この2者はサーヴァントと呼ばれる存在。
俺たちだけでは到底太刀打ち出来ない。おくりびとで顔が割れたのは幸いだな」
デバイスに映るツインテールの少女。
中野梓。
彼女の姿を見た瞬間、私の胸に去来した感情はいつ以来のモノだろうか。
苦しみと悲しみ。
もう彼女と会えないという事実に、膨大な喪失感が湧き上がり心を蝕む。
私は神様に助けてもらって、心は普段以上に清清しくて、
もう、こんな辛い感情からは解き放たれたと思っていたのに。
「憂?おい憂、聞いているのか?」
どうしてなんだろう、お姉ちゃんの事を考えても、もう何も感じないのに。
なんで、梓ちゃんが死んじゃった事はこんなに悲しいんだろう。
それとは別に、もう一つおかしい事がある。
私の心はもう楽になった筈なのに。
一体何故、私は常に心の何所かで、嫌な気分を抱えているのか。
この感情は一体なんなんだ?
もう私の心にはお姉ちゃんは関係ない、私は私の為だけに生きる。
お姉ちゃんがどうなろうと、別にそこまで気にならない。
私は紛れも無く、そう思っている。
だから、私がお姉ちゃんの為に殺しをやった、なんて誤解している人は不快だ。
早くこの世から消えて欲しい。
だから、阿良々木さんは絶対殺す。
そう、お姉ちゃんは気にならない。
お姉ちゃんなんて、どうでもいい。
それは確かなこと。今だってそう考えている。
でも、どうでもいいと思う事がどうしてか、とてつもなく辛い――気がする。
……いや、違う!
私は楽になったんだ!
辛い思いから解放されて、それで自由に生きているんだ!
何も……なにも辛いことなんて……なにも無い……!
「憂!しっかりしろ!」
「……あ」
ルルーシュさんに肩を揺さぶられ、はっと我に帰る。
「えと……大丈夫っすか?憂……さん」
桃子ちゃんも心配そうに、私の顔を覗き込んできた。
ずきりと、掌に痛みが走る。
痛んだ場所を見ると、少し血が滲んでいた。
私は無意識の内に、爪が皮膚を破るほど硬く拳を握っていたらしい。
「……うん。大丈夫です、ごめんなさい」
「もしかして、この人は憂さんの知り合いだったっすか?」
桃子さんがデバイスに映る梓ちゃんを示めす。
頷いて、言葉にして、私はハッキリとそれを肯定した。
「……友達……だったよ」
私の思考はお姉ちゃんから梓ちゃんに戻る。
やっぱり辛いな。
お姉ちゃんと違って、梓ちゃんについてはどうでもいいと思う事が出来ない。
彼女が死んだことを思うと、胸が苦しくなる。
そして、隣に映る男を見ると怒りがこみ上げてくる。
「えっと……なんていうか……ごめんなさいっす」
桃子ちゃんはかなり微妙な表情をしていた。
荒耶宗蓮。
梓ちゃんを殺したのは十中八九この男だ。
正直、阿良々木さん以上に殺したい相手だったかもしれない。
桃子ちゃんは私が親友の敵を討てなくなったことに、気を使ってくれたみたい。
「気にしないで……。桃子ちゃんが殺らなきゃ、みんなが死んじゃってたんだし」
それは事実だし。
後であの男の死体を蹴っ飛ばすくらいはしてやりたい気分だったけど。
そんな事したところで溜飲が下がるとも思えなかった。
実はまだ生きているなんて、そんな展開はありえないだろうか?
魔法なんて荒唐無稽なモノが存在する世界なんだし。
なんて、そんな都合よく人が生き返る訳ないか。
「もう大丈夫か?話を続けるぞ……」
「はい。ちゃんと聞きます」
「よし。次は『おくりびと』によって顔だけ判明している参加者。
それと、名前だけ分かっている危険人物だな。
顔だけ判明している要注意人物は『白髪の少年』『顎の尖った男』『黒髪の少女』の3名か」
私が落ち着いたことに安心したルルーシュさんは、再び話を進め始める。
最後に、ふと思った。
未だ残る梓ちゃんへの思いに対して、もう何所にも無いお姉ちゃんへの思い。
私のお姉ちゃんへの思いは、一体どこに消えちゃったんだろう。
今、どこにあるのだろう。
お姉ちゃんへの思い。
あれ程、考えるのが辛かったのに、捨て去りたいと願ったのに。
でもあの辛さはもしかすると私にとって、とてもとても大切な物だったのではないだろうか、と。
一瞬、そんな馬鹿みたいな事を考えて。
私はそれを振り払い、ルルーシュさんの話に集中する。
その時、桃子ちゃんが何を思っていたかなんて、私には知る由も無かった。
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最終更新:2010年03月09日 18:22