セイギノミカタ ◆MQZCGutBfo
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「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ。」
「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。
そんなコト、もっと早くに気が付けば良かった。」
「そっか、それじゃしょうがないな。」
「そうだね。本当に、しょうがない。」
「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。
爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。
まかせろって、爺さんの夢は―――俺が、ちゃんと形にしてやっから。」
「そうか。ああ―――安心した―――」
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□
「……ねぇ、衛宮さん」
「ん?何だ、白井?」
自転車を漕ぐ少年と、横向きに荷台に乗る少女。
一昔前の青春ドラマのようなシチュエーションの中、『神様に祈る場所』に向け、林道を走る。
黒子としては、士郎の言う『正義の味方』について詳しく聞きたいのだが、
まず話の取っ掛かりとして、それぞれの『能力』について会話している。
「『これ』は先程お話した『投影』という技で作ったのですわよね?」
「ああ……物を複製させる魔術なんだ。まあ、あまり使いどころが無いけど。」
投影したタオルを観察しているが、どう見ても普通のタオルである。
当然触ってみても、普通のタオルである。
「使いどころがない……果たしてそうなのでしょうか。
わたくし達の世界の『能力者』は一人に一つの能力しか使えませんの。
だからこそ、その能力を研究し、高め、応用できるように考えに考えますの。
例えば、わたくしの能力は『空間移動(テレポーター)』。
真っ先に思いつくのは、わたくし自身の空間移動、ですわよね。
でも他に『わたくしが触れた物を移動させること』ができますの。
例えば―――」
持っていたタオルを前方に空間移動させてみる。
「うわ!」
目の前に出現したタオルを士郎がかわし、黒子がキャッチする。
「―――とまあ、こんな感じで相手への奇襲もできますのよ。
他にも……例えば……電撃使いの能力者なら、電撃を使った攻撃だけでなく、
電磁力を使って砂鉄を操作するとか、水を電気分解し、水素を利用して飛行するとか……
たった一つの能力を極限まで高めて応用して使っていましたの。
………………だから、その『投影』も応用次第だと思いますのよ。」
「……へぇ、そんなものかな。」
誇らしげに、そして悲しげに話す黒子の変化には気がつかないフリをして、士郎は相槌を打つ。
と話しているうち、タオルが光の粒子となって消えていく―――
「あら……もしかして、維持できる時間が決まっていますの?」
「え?いや……普通はずっと残る物だけど……」
そもそも『投影』という魔術で作った品は通常もって数分なのだが、
魔術の常識を知らない士郎は、残るのが普通と考えている。
「そうなんですの……制限、なんでしょうか。」
時計を確認し、船でタオルを出してくれた時を思い出す。
「だいたい……2時間くらい、ですのね。
……わざわざ制限されている以上、やはり『有効』な能力だと思いますの。」
「そうかあ……実際使えそうなのは『強化』と『解析』の方だと思っていたからなあ。ちょっと使いどころを考えてみるか。」
「ちなみに、その二つについても教えて頂けます?」
エスポワールでの簡単な情報交換では聞き落としがあるかもしれないと、説明を促す。
「ああ、まず『強化』については、その存在の力を高め物質を強化する魔術なんだ。例えば、ポスターの強度を強化して、鉄のように硬くしたりできる。」
「物質を強化……能力を向上・強化させることはできませんの?例えば、跳躍力を強化するとか。」
「あ、ああ……何度か試してみたが、筋肉などの身体強化はできないみたいだ。ただ、神経の強化――視力を良くする、とかはできるみたいだ。」
黒子の頭の回転の速さに押され、タジタジになりつつも答えていく。
「あら……それでは露天風呂に入る時などは気をつけなくてはなりませんのね。衛宮さんに覗かれてしまいますもの。」
「な……!俺はそんなことの為に魔術は」
「うふふ、存じていますの……それで、『解析』の方は、物体の材料や構成などが分かるんですのね?」
首輪を解析したことを思い出しながら尋ねる。
「ったく……いや、それ以外にも、製作技術と憑依経験、それに蓄積年数が分かる……時がある。
製作技術ってのは、その物体がどうやって作られたかという技術と工程。
憑依経験は所有者がその物体をどうやって使っていたか。
蓄積年数はその物体がどんな歴史を持ち、どうやって扱われてきたのか。」
「そんなに……分かるんですのね。」
聞いた黒子は感心する。
それこそ、現場に残った遺留品などから情報を取れるということだ。
風紀委員(ジャッジメント)にとって、とても有力な人材ではなかろうか。
「衛宮さん、もしよろしかったら、ジャッジメントになりません?
堂々と『正義の味方』にもなれますのよ―――」
―――ドクン、とした。
ジャッジメントになれるわけが無い。
超能力の資質とか、そういう問題ではなく―――
もし、仮に、この戦いで生き残ることが出来たとしても
衛宮さんとは…………衛宮さんとは、二度と会うことが出来なくなってしまうのではないか、と
この真っ直ぐで、危なっかしくて、そして、誰より優しい少年と―――
そんな当たり前のことに、今更ながら気がついた。
―――きゅっと、士郎の背中にしがみつく。
「えっと、、、白井?」
「黒子ですの。」
「は?」
「くろこ、ですの。」
「ええっと……?」
「く・ろ・こ」
ペダルを漕ぎながら、ぽりぽりと左頬をかく。流石にもう痛みは引いている。
鈍い、と良く言われる身でも、流石にどうして欲しいかは分かる。
しかし改まって言われてしまうと、なんだか余計に恥ずかしい。
「えーっと、じゃあその……………………く、黒子」
「なんですの?」
にっこり微笑みながら、そう返す。
「いや、何でもないです……」
しがみ付かれたまま、しばらくお互い無言で、自転車は進んで行く。
□
「……ねぇ、衛宮さん」
「ん?何だ、しら……じゃない、黒子?」
少し間を置いて、改めて聞いてみる。
「衛宮さんの言う、『正義の味方』とは一体どのような存在なんですの?」
「ん……」
ペダルを漕ぎながら、息を吐く。
「…………10年前にさ、冬木市―――俺の住んでいる街で、大火災が起こったんだ。
詳しく覚えては無いんだが、家族も、まわりの人も、災害に合った人は俺以外、誰もが死んでしまったんだ。
俺も、ああ、もうこのまま死ぬんだな、って死を受け入れた時に、
親父が―――ああ、俺の義父が―――助けてくれたんだ。
―――その時の親父の顔は、今でも覚えてる。
目に涙をためてさ、生きている人間を見つけられたと、心の底から喜んでいるような顔で。
それが、あまりにも嬉しそうだったから―――
俺も親父のようになりたいと、そう思ったんだ。」
士郎につかまりながら、無言で話を聞き続ける。
「そんな『正義の味方』のはずの親父がさ、死ぬ間際に言うんだよ。
僕は正義の味方に憧れていた、てさ。
だから、代わりに俺がなってやるって誓ったんだ。
親父はさ、誰かを救うのは、他の誰かを救わないことだ、なんて言っていたんだけど。
誰かが救われないなんてのは、やっぱりおかしいよ。
誰かの為に生きて、それで誰かを救う、それが『正義の味方』ってやつじゃないかな。」
―――苛々した。
『自分』を完全に度外視している衛宮さんにも、
それを教えてあげない周りの人達にも―――
以前感じた『歪』の正体が分かった以上、黙っていることなどできない。
「……自転車を、止めて下さいですの。」
「……?ああ、分かった。」
自転車を止め、自転車から降りる少年と少女。
「乗り物に弱かったか?気分が優れないなら、少し休もうか。」
「ええ、わたくし気分が少々優れませんの。」
木漏れ日の中、黒子が振り返って士郎に問う。
「……衛宮さん、貴方はどこにいますの?」
「は?……どこって……ここにいるけど。」
「ええ、そこにいらっしゃいますの。
けれど、貴方が他人を助けようとする時、
貴方自身のことを何も考えていないんじゃありませんの?」
「…………」
鼓動がおかしい、黒子は一体何を言おうとしているのか。
「……自分より、他人が大事。口では簡単に言えますけれど。
それを躊躇なく、『自分のことを全く考えていない』行動は間違っていますの。」
風紀委員でもそうだ。単独でも無茶な行動は慎むべきであり、その為に『仲間』がいるのだ。
だが、この少年は。『自分』を全く顧みていない。
軍用車で南へ向かっていた時の突っ走ろうとした行動や、
船から一人残り、澪達を助けに向かおうとした今回の件などから、それは感じていた。
「衛宮さん……貴方の生き方は、ひどく歪、ですの」
―――ドクン、とした。
「歪……だって……?」
「ええ、自分より他人が大切なんて生き方は間違っておりますの。
……誰よりも大切だったお姉さまがいなくなって、
後を追って死ぬことも、復讐の鬼になって他人を殺してお姉さまを生き返らすことだって、
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も考えましたわ!!
それでも、わたくしは、こうして生きています。
それは、衛宮さんが、わたくしを傍で支えてくれたからですが……何よりも『わたくし』がここにいるからですの。」
一度言葉を切り、士郎の目を見て話す。
「それなのに衛宮さんは、他人のことばかりで、自分を全然顧みておりませんの。
このままでは……いつか、衛宮さんは、壊れてしまいます。」
「…………ああ、きっと、黒子は正しい。」
自分より他人を優先するのは歪だ。
それは何か、手順をひどく間違えている。
「けど、救われたのは俺だけだった。その時に思ったんだ。
―――この次があるのなら。助けられなかった人の代わりに、すべての人を助けなくちゃいけないんだって。」
「……いい加減に、いい加減にしてくださいませ!」
「黒子……?」
「それが、『正義の味方』ですの!?
それで、その『正義の味方』が死んでしまったら、残された者はどうなりますの!?
わたくしは……!!」
士郎の胸倉を掴み、叫ぶ
「衛宮さんはわかっていないんですの!!
誰かの為に戦って、誰かを救って、それで貴方が死んでしまったら!
貴方を想っている人はどうなるんですの!
残された人はどうなるんですの!!」
「黒子……」
「衛宮さんは大馬鹿者ですから、きちんと言って差し上げますの!!
ええ、言って差し上げますの!!
無節操だと、代償行為だと、誰に言われても、言って差し上げますの!!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが、悲しみますの!!
衛宮さんが理解するまで、何度でも言ってさしあげますの!!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが悲しみますの!!
わたくしが、悲しみますの!!!!
わ た く し が か な し み ま す の!!!!
衛宮さんがいなくなってしまったら、わたくしが、
白井黒子が、悲しみますの!!!
わたくしが……」
ポロポロと、涙を零しながら、士郎を揺さぶる。
「貴方が死んでしまったら、すべての人を助けるということはできなくなってしまいますの……
なんでそんな簡単なことが、分からないんですの……………………」
自分一人でずっと首を傾げていた疑問。
正義の味方になりたくて、ずっと誰かの為になろうとした。
その方法がどこかおかしいと気づいていながら、理解できなかった。
―――それが、こんなにもあっさりと判明した。
目の前で、他人である俺の為に、本気で怒り、そして泣いてくれる誰かのおかげで。
「ああ―――理解した―――
ありがとう、黒子」
心から、感謝の言葉を形にする―――
衛宮士郎は人形ではなく、人間なのだから……
「確かに俺は何か間違えてる。けどいいんだ。
だって、誰かの為になりたいっていう思いが、間違いの筈がないんだからな。」
「な……」
黒子の涙を指で拭う。
「けど、黒子が死んでほしくないって思ってくれたことは、良く分かったよ。」
「……それなら、約束して下さいまし。」
「ん……?」
「一緒に、『生きて』ここから出るってことを、ですの」
「……ああ、分かった、約束する。
―――衛宮士郎は、白井黒子と共に、この世界から出るって。」
『いいかい、士郎。女の子を泣かせちゃいけないよ。』
(ああ―――ようやく実感したよ、親父――――)
□
―――ひとしきり泣いて落ち着いてから、再度出発するシロクロコンビ。
丘の上に立つ教会が視界に入ってきたのは、もうしばらくしてからのことだった―――
【C-5/「神様に祈る場所」付近/一日目/午後】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 健康、魔力消費(中)、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂村原学園制服
[装備]: カリバーン@Fate/stay night 、衛宮邸の自転車(二号)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカの札束(投影品、1時間後に消滅)、参加者位置情報2時間(
秋山澪、
明智光秀)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
1:『神様に祈る場所』を調査する。
2:『円形闘技場』で秋山澪と明智光秀と合流する。
3:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
4:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める
5:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする
6:
一方通行、
ライダー、
バーサーカーを警戒
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※残り令呪:なし
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※投影魔術自体は使用可能です。しかし能力を正確に把握していません。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※
原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※このゲームに
言峰綺礼が関わっている可能性を考えています。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。
よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、精神疲労(中)
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:衛宮さんと共に生きてこの世界から出る。
1:衛宮さんと秋山澪の所までむかい、合流する。
2:衛宮さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:衛宮さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:衛宮さんが心配
6:衛宮さんはすぐに人を甘やかす
7:一方通行、ライダー、バーサーカーを警戒
8:少しは衛宮さんを頼る
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
距離に反比例して精度にブレが出るようです。
ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が
130.7kg。
その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※美琴の死を受け止めはじめています
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
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最終更新:2010年03月07日 10:00