「我 が 名 は め ぐ み ん !」

めぐみんは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の主催者を除かなければならぬと決意した。
めぐみんには政治とかその他色々な些事が分からぬ。
めぐみんは冒険者である。爆裂を撒き散らし、仲間と助け合って暮して来た。
邪悪に対して人一倍に敏感でもないが、それでもしてはならない事柄の分別はあった。

「アークウィザートにして、最強の攻撃呪文・爆裂魔法を操りし者!
 されど我が強大なる力は無辜の人々を傷付ける者に非ず!
 こんな悪趣味で、残忍で、愚劣な催し物で炸裂させるものでは断じてありませんっ!」

故に、この地にてめぐみんが選んだ道は1つ。殺し合いには乗らず、ダーハラを打ち負かすこと。
頼れるとは言いづらいけど、それでも信頼している仲間達ならば同じ道を選んでくれるであろうと信じて。

一先ず自分を奮い立たせるため、めぐみんは高らかに自分の決意を宣誓することにした。
決して一人で見知らぬ場所に放り出されて心細かった訳ではない、決して。
手に携えるのは愛用しているマナタイト製の杖ではなく、鞄に入っていた一振りのシャベル。
非力な魔法使いの身では重さが少々応えるが、仕方ない。

かつんかつんととシャベルの先を床に打ち付けながら、めぐみんは歩く。
そう、めぐみんが現在いる場所は何かしらの建物の中だった。
真っ白な床、真っ白な壁。廊下の両側には規則的に部屋が並んでおり、部屋の中には清潔に整えられたベッドが幾つかある。
アクセルの街にはない、見慣れない造りと材質の建物だ。

「ダーハラなる者よ、よぉく聞きなさい!
 紅魔族の誇りにかけて、必ずや貴方のスカした顔に我が渾身の爆炎を叩き込んで―――」

ぶん、とついいつも通りの癖で杖をかっこよく振る様にシャベルを振り回し……
いつもと違う重さにバランスを崩しつつも、くるりと華麗に一回転。
びしっ、とポーズを決め啖呵を放つ。

「―――貴方の愚かさをその身に焼き付けてやりましょうっ!!!」

「……は?」

直後、横合いから上がる疑問符。
そろりと視線を横に向ければ、長い廊下が途切れ上下に続く階段が姿を現している。
そしてその下り階段の中腹、此方へ上がってこようとする青年の姿があった。
黒髪、灰色の衛兵の様な衣装、肩に下げているのは自分も持っている肩掛け鞄。恐らくは、自分と同じ、この地に連れて来られた参加者。
かの青年の視線は雄弁に物語っていた、『何だコイツ』と。

「……怪しい者ではありませんっ!」
「……一先ず、お話をお伺いしてもいいでしょうか。」

咄嗟に上げた弁明の台詞に帰って来たのは溜息雑じりの冷静な提案。
どうやら怪しい者、への疑惑は晴れなかったようだった。



 ※ ※ ※



「―――と言うわけで、我はダーハラの野望を打ち砕かねばならぬという使命が……!」
「……無茶を口にしている自覚は有りますか?」

呆れた様に言う衛兵のよう姿の青年は、アインと名乗った。
ギャラルホルン、という軍隊の様な組織の一員らしい。カセーなどという聞いたことのない場所の支部の人間だとか。
知らない組織だと言うと不思議そうな表情をされたが、めぐみんの自己紹介を聞くとその顔が更に不審そうな物へと変わる。
具体的には『何言ってんだコイツ』とでも言いたげな。

「それよりも、めぐみんという名前は……本名で?」
「だからさっきからそうだと言っています!ほら、ここにもそう載っていますし!」

名簿に書かれた自分の名前を指さしぐいぐいと相手の鼻先に押し付けると、分かった分かりましたと渋々納得した返事が返ってきた。
最初に出会った頃の和真と似たような反応だ、全くどうして皆紅魔族の名前をキワモノの様に扱うのか。

「何はともあれ、現在この建物にいるのは私達だけのようです。
 適当な部屋にベッドや棚でバリケードを作って閉じこもれば、暫くの間安全は確保できるでしょう。」
「成程、確かに……って、それを私に説明してどうするんです?」
「どうするんです、って……自分の安全を確保して、避難して貰いたいのですが。」
「それは出来ない相談です!」

真面目な声色で引きこもりを勧めるアインに対してめぐみんは申し出を突っ撥ねる。

「私は和真にアクア、ダクネスを探さねばなりません!
 きっと今頃私と同じ様にダーハラへの対抗を考えて……いや、アクアあたりはヘタレているかもしれませんが……
 とにかく、私は仲間を探したいんです!アインさんにはそういう、探したい人はいないんですか?」

探したい人、という言葉にアインの眉がぴくりと跳ねる。
誰かいるんだ、と察しためぐみんは勢いに乗るように言葉を畳みかけた。

「いるんですね?」
「確かに、自分の上官にあたる人が2人、名簿には書かれています。」
「なら、一緒に探した方がいい筈です。1人より2人の方が……」
「……ですが、」

片手を上げてめぐみんを制し、アインは言葉を続けた。

「地図を見るにこの悪趣味な催しの会場は広い。
 この場所の何処にいるか見当もつかない相手を探すことが、どれだけ難易度の高い事か貴女には分かって……」
「それはアインさんも同じでしょう!
 更に言うなれば和馬やアクアやダクネス、アインさんの上司さん達も同じです!」

今度はアインの言葉が制される番だった。

「確かに閉じこもっていれば私は安全かもしれませんが、他の仲間達はそうはいきません。
 残念ながら私は、自分だけ平和な場所にいて他力本願していられるような性格はしていないのです!」
「……。」

数秒、めぐみんの真紅の瞳とアインの青い瞳がにらみ合う。
根負けしたのは、アインのほうだった。

「……分かりました」

渋々といったその言葉に、よっしゃとガッツポーズを取るめぐみん。
その様子を見ながらアインは不安そうな表情を浮かべた。

「ですが、危険を感じた場合は自分の安全を優先するように。
 これだけは守っていただかないと困ります。」
「ふっ……ご忠告には感謝いたしますが、心配には及びません。
 もし罪深き存在が現れた際には、我が爆裂魔法の真髄、その比類なき威力ををお見せいたしましょう!」
「頼りにはしていません。」
「そこは普通『頼りにします』って言う所じゃないんですか!?」



 ※ ※ ※
(……変な子供だ。)

アイン・ダルトンのめぐみんに対する印象は、それなりに冷めていた。

意味の分からない儀式のような物に巻き込まれ、目覚めたのは白い壁と床の清潔感漂う建物の中。
即ち病院。鞄に入っていた地図と照らし合わせて、自分の現在位置がB-4であると認識した。
同じく鞄に入っていた名簿に記された自身の名前と、よく知る人物の名前を見付けて改めてこれが紛れもない現実であると理解する。
急いで知人を見付けなければと病院を飛び出しかけた矢先、上階から聞こえてきたのは足音。そして人の声。
よもや自分と同じように連れてこられた参加者がいるのか、と警戒しながら様子を伺おうとした結果……

アインはこの殺し合いの儀式以上に理解しづらい存在に出くわした。
三角帽子にマントと眼帯、所謂魔女のコスプレをした少女である。何故かシャベルを振り回す、少し痛い感じの。

元来真面目すぎる程に真面目な性格である。上官に「つまらん男」と評された事もあるアインにユーモアを理解するセンスはない。
ふざけている場合かと怒りが湧きかけもしたが、見れば相手は十代半ばの少女。
先程人の首が弾け飛ぶ様を見せられて、泣き喚いて錯乱しないだけまだましというものだ。一種の逃避も、認めてやるべきだろう。
それに何より、彼女の奇抜な言動を見て自分に冷静さを取り戻せたこともある。
闇雲に真夜中の市街地に繰り出すよりも、先ずは現状把握に努めなければ。

めぐみんと名乗った名前も到底本名とは思えない名前だが、深く本名を追及することは止めておくことにした。
名簿に記されてしまっている以上便宜上はそう呼ぶしかない。
他にも人名とは思えない名前も記されていることではあるし。らぶぽんとか、とらとか。

あの座敷で目覚めて以来、起こる事柄は全てアインの常識の埒外だ。
少女に襲い掛かる異形の群れも、それを止めた男の首が弾け飛ぶ有様も、次に現れた男の軽薄な声色も。
全てアインは覚えている。自分の目で見た、信じられないような真実を。

(だからこそ冷静に考え、行動しなくてはいけない。
 何を信じ、何を信じないか、何を探して、何を切り捨てるのか。)

自身の持つ常識が当てにならない可能性がある以上、あらゆる行動に冷静な判断が求められる。
今の所、確実に自分が信じられるものは二つだけ……いや、二人だけ。

(ボードウィン特務三佐、ファリド特務三佐……)

名簿に記載されていた自分が知る二人の名前を思い出し、拳を握りしめる。
現在の上官であり、清く正しい軍人で在らせられるボードウィン特務三佐。そしてその盟友で在らせられるファリド特務三佐。
自身に道を示してくれた、信じるべき、誇るべき人達。
この地に居るのならば―――必ず守らねばならない、命に代えても。

(命に、代えても……)

アインには今、どうしても信じられないことが1つある。
自分がこの地に送られる前。あの座敷で目覚める、更に前のこと。

(あの時、俺は……特務三佐を庇って)

地球外縁軌道上にて、地球へと降下しようとする鉄華団を阻もうとした戦闘。
あの憎きバルバトスに劣勢を強いられていた特務三佐のキマリスを庇い、自分のシュヴァルベ・グレイズのコクピット直下に槍の直撃を受け。

(どう考えても無事では済まない傷を、俺は負った筈なのに……)

ひしゃげたコクピットの外壁が自身の肉体を押し潰す感覚と、おぼろげな意識の中で聞こえた特務三佐の叫びを覚えている。
しかし、今この身は五体満足。身体のどこにも痛みも、違和感もない。
まるで魔法か何かで、肉体だけあの怪我を負う前に戻したのかのように。

  『どんな願いをも、と言われても信用は出来ないだろうが、正しくどんな願いも叶えるとここに誓おう』
  『大金、死者の蘇生、憎き相手の殺害、恋愛の成就』
  『貴様らが思いつくであろう全てを叶える用意が我等にはある』

(まさか、いや、そんな筈は……)

僧服の男達が言っていた言葉を思い出す。
死者の蘇生などある筈がない。高度に発達した医療技術によって百年単位の延命は可能になった今の時世でも、それだけはどうしても叶わぬ筈だ。
失った生命を、死に別れた人を取り戻す手段など。もし、そんなものがあったならば―――

「俺は、仇討ちになんて……」
「……どうしたんですか?アインさん?」

掛けられた声にはっとする。
考え込むあまり、脚をいつの間にか止めてしまっていたらしい。
斜め下から覗き込むめぐみんの心配そうな瞳が、此方を見ていた。

「どこか、具合でも悪いんですか?」
「いえ、少し考え事をして……気にすることではありませんよ。」
「そうですか?なら良いのですが……こんな状況ですから、幾ら探し人がいるといっても無理は禁物ですよ?」

先程までの奇抜でおかしな言動とは違う、真っ当な労わりの言葉。
その言葉に、アインは自身を恥じる。

(保護するべき対象である子供に逆に心配されるなんて何て様だ……
 気を引き締めろ、今はこの場所から生還する方法を考えるんだ。)

アインから見て、めぐみんという少女は普通の子供だ。
仲間と呼ぶ人達を心配して、悪辣な主催者に声を荒げる様な、どこにでもいる感性の。
誰かを殺して、誰かに殺されるような、こんな場所にいてはいけない子供。

(まだ年端もいかない子供に、こんな非道な行いを強制させるなんて……許されることではない。
 ダーハラ、世界の秩序を守るギャラルホルンの一員として、必ず貴様のその罪を裁いて見せよう。)

罪のない子供を殺すことを良しとせず、情けを掛けたが為に命を落とした亡き恩師を思い浮かべる。
あの薄汚く悪辣な火星ネズミ共と違い、目の前の少女は少々奇抜な衣装と言動に目を瞑れば何の罪もない、守られるべき存在だ。

(頭のおかしいだけの子供に罪はない……そうですよね、クランク二尉。)

心の中で呟き、軍服の胸元に手を入れる。しかしそこには何の感触もない。
常に持っていた恩師の形見の徽章が無いことが、少しだけ心細かった。


【B-4 病院/深夜】
【めぐみん@この素晴らしい世界に祝福を!】
[状態]:健康
[装備]:胡桃のシャベル@がっこうぐらし!
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~2)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:仲間達を探す。
2:ダーハラはぶっ飛ばす。

【アイン・ダルトン@機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出
1:特務三佐達の捜索。必ず守る。
2:死者の蘇生について気になる
※参戦時期は19話後ですが、五体満足です。
※めぐみんの言っていることは半分くらい信じていません。

支給品紹介
【胡桃のシャベル@がっこうぐらし!】
恵飛須沢胡桃が愛用しているシャベル。対ゾンビ戦で大活躍。


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GAMESTART アイン・ダルトン 037:スースーするの
GAMESTART めぐみん 037:スースーするの

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最終更新:2016年08月08日 00:41