さて、どうしたものか。
 意識が確立した赤井秀一がまず行ったのが、身を低くし近くの木々に背中を預ける形で隠身だ。
 比較的障害物の多い緑の中ではあるが、何時何処から誰に襲われるか分からない状況で棒立ちは危険である。

 次に行ったのが、ライトを取り出しその大半をバッグで覆いながら一瞬だけ名簿に光を当てることだ。
 暗闇の中で光は嫌でも目立ってしまう。必要以上に漏らさず、且つ短く照らすことで外敵に察知される確率を下げる。
 名簿で見えた名前は江戸川コナン、安室透、ジン――顔馴染みだ。

 こうまで面子が揃うものか、と赤井秀一は出来過ぎた名簿に対し、軽く口元を緩める。
 江戸川コナン――ジンの手から生き延びた数少ない生存者であり、組織に対するジョーカーでありシルバーブレッド。
 薬の投与により小学生となってしまった天才高校生探偵工藤新一。組織を追い詰めるために危険を顧みない若き探偵である。
 彼はFBIとの共同戦線時に共に肩を並べた仲間でもある。
 また、赤井秀一は彼の策により黒の組織を出し抜いた経験もある。きっと殺し合いの場に置いても彼は――。

 次が安室透。
 組織のコードネームはバーボンだ。
 しかし彼はNOK――組織にスパイとして潜入している公安の人間である。
 安室透も偽名であるが、どうやら名簿に記載されている辺り、主催者は彼の本名を把握していないのだろう。
 考えてみれば江戸川コナン、安室透、ジン、そして赤井秀一。
 これらの記載にはまるで共通点が見受けられない。正体を知っているのか、知らないのかが全く見えてこない。
 また、安室透と赤井秀一にはただならぬ因縁が存在している。スコッチを始めとした――これは別の機会で明らかになるだろう。

 そしてジン。
 黒の組織の幹部的存在であり、実質No.2のラム。その存在の次に重要視されている構成員である。
 数々の世界で暗躍し、その腕は一流である。
 国家を揺るがす大物――と聞けばどれだけ響きが良い事だろうか。
 彼もまた、江戸川コナン、安室透、赤井秀一とは切っても切れない関係がある。

 最も江戸川コナンの存在を知らなければ、安室透には疑いの目を掛けているだけである。

 ジンの本命は赤井秀一であり、殺し合いに置いても積極的に仕掛けてくるだろう。

(ジンは同じ参加者なのか?
 ならばこれは組織の犯行じゃない……そうすれば江戸川コナンや安室透には納得が出来る)

 ジンがコードネームで記載され、安室透はバーボンとして記載されていない。
 そして江戸川コナンは工藤新一ではない。赤井秀一もライとは記されていない。

 つまり参加者の素性を何一つとして把握していない可能性がある。
 偽名も本名も適当に記載されていることがその推測を裏付けており、逆に言えば、真意が見えてこない。
 いっそ組織の犯行ならばターゲットが明確になるため、幾分か動きやすい。

(獣の槍、妖怪――夢でも見ているようだな)

 それは二次元的な現場であった。
 一人の男が死に、数名の聖職者もこの世を去った。
 科学では説明出来ない何かが潜んで――(誰か近くにいるな)。

 相手は息を殺している。足音も気配も出来る限り押さえ込んでいた。
 気付けたのは赤井秀一自身が闇の世界を生き抜いて来た経験によるものだ。
 木々や草むらの僅かな揺れから何者かの接近を察知し、バッグからアーミーナイフを取り出した。

(銃があればよかったのだが、主催も敢えて赤井秀一に銃を支給することはしないか)

 ダーハラと名乗った男も馬鹿では無いらしい。
 何はともあれ近付いて来た人影が赤井秀一の目の前に現れ――。


「あ、赤井!?」


「――――――バーボン」



 ワルサーを構えた男は赤井秀一がよく知る安室透だ。
 僅かなライトを辿り此処まで来たのならば凄まじい観察力と集中力、それに度胸だろう。
 わざわざ灯りに近付くのは相当な勇気がいる筈だ。最も安室透には最初から備わっているのだが。


「バーボン。ジンは一緒じゃないのか?」


 指で軽く首輪を叩きながら赤井秀一は語り掛ける。
 その仕草を見た安室透は眉間にシワを寄せた。まるで「そんなことは俺も解っている」と謂わんばかりの表情である。
 参加者にプレッシャーを与える首輪だが十中八九盗聴器能があるだろう。
 彼らはそれに気付いている。そして赤井秀一は安室透を気遣ったのだ。
 コードネームで呼んだのは仮に組織へ安室透の名前が漏れていない可能性を考慮したためである。
 無論、安室透も偽名ではあるが、用心はするべきだ。彼と赤井秀一は敵では無い。

「俺は何も聞かされちゃいないさ。
 仮にジンが知っていたとしても俺やお前と一緒に名前が載ると思うか」

「正論だな。組織の犯行じゃないことが解れば――!?」

「西の方角から銃弾!? この暗闇で赤井の頬を掠め取っただと?」

「直撃しなければどうということはないさ」

 一触即発。
 安室透と赤井秀一はこれから一戦が始まる空気を曝け出していた。無論、安室透サイドの話だ。
 赤井秀一を目の敵にしている彼からしてみればこの状況で居合わせたことは何かの運命とも感じ取れる。
 この場で決着、或いは心の整理を付けるために――しかし乾いた銃声がソレを阻む。

 赤井秀一の頬を掠め取った銃弾。
 彼はアーミーナイフを投擲し、犯人を威嚇する。草むらから人影を飛び出した所に近付き距離を詰める。

 途中に石を拾い、適当に放り投げると犯人は更に銃弾を放ち石を粉砕。
 暗闇の中でも確実に命中させる腕はかなりのものだが、おかげで居場所がはっきりと認識できる。
 硝煙が上がった箇所に身を低くしながら接近。安室透がワルサーで援護射撃を行ったことにより、犯人は身動きが取れていない。

 赤井秀一が犯人と対面し、無力化を狙い足を蹴り出し――。


「まさか君のような少年が潜んでいたとはな」


「おじさん、意外とやるね」


 膝だ。
 赤井秀一の膝が犯人である少年の顔に当る直前で、少年は転がるように回避し銃を背中へ突き付けた。

「でもお終い。背中は俺が取った」

「その背中を取られていることに気付かないか?」

「……」

 更に犯人の背中に銃口を向けるのが――安室透だ。

「何故こちらに発砲した」

「……」

「答えるつもりはないか」

「やめろバーボン。本気で撃つつもりか?」

「何を言っている赤井。
 少年と云えど油断出来ないことは俺もお前も知っている筈だ」

「うるさいな――じゃあね、おじさん達。
 今は俺の分が悪いから逃げるけど、次会った時にはちゃんと話して味方になれればいいね」

 少年の言葉に赤井秀一と安室透は固まり、彼を黙って見つめてしまった。
 その足元には煙が発生しており、火薬の一種と予想出来る。
 それは大きな煙を放ち続け、一種の煙幕となり視界の全てが制限されてしまった。

「ま、待て!」

「待つんだバーボン! 深追いは危険――行ってしまったか」

 煙の中から離脱する少年。
 彼を追い掛けバーボンが消えたことにより赤井秀一は一人、煙の中に残される。
 アーミーナイフを回収したところで、やはりというべきか、彼らの足取りを掴むことは不可能だった。

 少年の瞳はコントラストに欠ける、謂わばそちら側の瞳だ。
 第一印象からしてみれば、人殺しの目であり、きっと経験があるのだろう。
 詮索するつもりはない。けれど、この殺し合いが一筋縄でいかないことを示しているようだった。

(首輪の解除と主催への反逆。
 奴らの陰謀を暴き、阻止し、全員を安全に送り返す――君ならどうする)

 赤井秀一の長くて短い殺し合いの扉が――開かれた。

【D-6/深夜】
【赤井秀一@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:アーミーナイフ、支給品一式、不明支給品(1)
[思考・行動]
基本方針:主催者の調査を行いつつ一般人を守り殺し合いからの脱出。
1:さて、どう動くか。
2:首輪の解除のために解析を行う。
3:ダーハラを知っている人間がいるならば接触を行う。
4:ジンへ警戒。
5:江戸川コナンの保護。
6:安室透のことは信じている。
[その他]
※参戦時期は緋色シリーズ(原作84及び85巻、アニメ779~783話)終了以降。
※名簿の記載に疑問を抱いております。
 ・ジンのみがコードネーム記載→組織の犯行と推測。
  →しかしバーボンが安室透と記載されているため、組織の犯行とは断定できず、むしろおかしい。
 ・赤井秀一は赤井秀一として記載されている→組織時代のコードネームであるライではない。
 ・江戸川コナンは工藤新一として記載されていない→正体を把握していない。
 これらのことから主催者は「彼らの正体を把握していない」と推測→しかし、それならば何故この面子が集められたかは現段階では不明である。
※瞬間的にしか名簿を見ていないため、【江戸川コナン、安室透、ジン】の参加者しか把握をしておりません。
※首輪には盗聴器能があると睨んでいます。


「くっ、逃がしたか」

 少年を見失ってしまった安室透は苛立ち混じりの唾を吐く。
 赤井秀一を助けるつもりはないが、この状況で躊躇なく発泡する少年を見過ごす訳にはいかない。

 反省だ。
 赤井秀一を見つけたことで、恥ずかしい話しではあるが、冷静さを失っていた。
 此処は一度、状況を整理し、落ち着くことが重要である。


(安室透の記載から公安の人間だとはバレていない筈。ジンの記載からしてそれは確実だ。
 だが、安室透として拉致をするか……? それならばバーボンで記載するのが普通……何が目的なんだ。
 まぁいい。こんな巫山戯たことを考える連中に情け何て必要ない――まずは首輪を外す方法を考えつつ、一般人の保護だ)

 組織が関わっているかも解らないこの状況で――安室透は出口と言う名の光を追い掛ける。


【D-7(北)/深夜】
【安室透@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:ワルサーP99(残り19発)、支給品一式
[思考・行動]
基本方針:主催者の調査を行いつつ一般人を守り殺し合いからの脱出。
1:少年を追う。
2:まずは情報収集。
3:ダーハラを知っている人間がいるならば接触を行う。
4:ジンへは警戒しつつ接触を試みる。
5:江戸川コナンの保護。
6:赤井秀一との決着。
[その他]
※参戦時期は緋色シリーズ(原作84及び85巻、アニメ779~783話)終了以降。
※名簿の記載に疑問を抱いております。
 ・ジンのみがコードネーム記載→組織の犯行と推測。
  →しかしバーボンが安室透と記載されているため、組織の犯行とは断定できず、むしろおかしい。
 ・赤井秀一は赤井秀一として記載されている→組織時代のコードネームであるライではない。
 ・江戸川コナンは工藤新一として記載されていない→正体を把握していない。
 これらのことから主催者は「彼らの正体を把握していない」と推測→しかし、それならば何故この面子が集められたかは現段階では不明である。
 しかし、組織が安室透をNOKと察知し罠に嵌め殺そうとしている可能性も考えている。
※首輪には盗聴器能があると睨んでいます。
※組織が関わっていると推測はしています(確定ではない)


 ビスケットが死んだ。
 失った仲間の存在は大きい。
 いなくならないと思っていた。けれど、消えてしまった。

 大きな穴だ。
 穴が出来る何て考えてもいなかった。

 でも、それが戦争であり、生きることだ。

 止まれない。

 止まれない。

 教えてくれ、オルガ・イツカ。


 俺は次――何をすればいい。


 夜空を舞う蒼い三日月は何も答えてくれない。


【D-7(南)/深夜】
【三日月・オーガス@機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:H&K USP(13/15)、支給品一式、予備弾薬30
[思考・行動]
基本方針:――
1:どうすればいい。
2:何故こんな所にいるのか。
3:みんなはいるのか。
4:俺は次にどうすればいい――オルガ。
[その他]
※煙は支給された煙玉@現実です。
※参戦時期はビスケット死亡後~カルタ死亡前。
※名簿を見ていません。
※方針は何も決まっていません。考えていないと表現するのが最適解です。


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赤井秀一 029:快楽殺人者との付き合い方あれこれ
安室透 029:快楽殺人者との付き合い方あれこれ
三日月・オーガス 029:快楽殺人者との付き合い方あれこれ

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最終更新:2016年07月07日 17:19