納鳴村へ  ◆QkyDCV.pEw




広瀬康一と松野カラ松の二人は、三日月・オーガスと別れた後、南へと下った。
方角的には下るであっているのだが、実際は山を登る形だ。
夜間の山登りである。康一も流石に平静にとはいかず、肩で息をしながら登って行く。
そしてその後ろを歩くカラ松は、もう肩でどころか全身を汗だくにしつつ、ぜーはー言いながら登っている。
康一は何度か振り返ってたずねる。
「大丈夫?」
すると決まってカラ松はこう答えるのだ。
「おーけい、問題、なんて、何も無いぜ、康一ボーイ?」
気取って一々音節を区切っているのではなく、単純に息が切れているだけだ。
あの殺し屋二人組みも、夜間に山中を突っ切るルートを使うとは思わないだろう、そんな考えから選んだ道であるが、康一が考えていた以上に山道はキツく、考えが甘かったかと少し反省していた。
何処かで一度休憩を、と思っていた所で、森が開けた。
そこは、小さな村であった。
「へぇ、こんな山の中に村かぁ。でも、少しありがたいかな。ねえ、ここで休んでいこうか」
かなり後方から、へーこら言いながら追って来ていたカラ松は、息も絶え絶えに答える。
「そいつは……グッドアイディアだぜ……康一……ボーイ……」
道端の大きな岩に腰掛け休むカラ松を置いて、康一は村の中を歩いて回る。
「ごめんくださーい、誰か居ませんかー」
なんて声を全ての家の前で出してみたのだが、一切反応は無い。
家の玄関前にしゃがみこみ、暗がりの中だがじっと石畳を観察する。手で触れる。
「……人が通った気配無し、か」
思い切って引き戸を引き、家の中に入っていく。ごめんくださーい、失礼しまーす、なんて言葉と共にそうするのが、彼らしいと言えばらしい。
家の中も、玄関の敷石がそうであったように埃が積もっており、最近誰かが使った様子は無い。
ただ、何年も使った形跡が無い、というには埃の量は少ない気がする。
照明を探し、スイッチを入れてみる。点いた。
灯りの元で再度屋内を調べてみるが、やはり誰かが居た形跡は無い。そしてこちらもまた、何年も放置されているという程荒れてもいなかった。
この家以外の家も数軒同じように調べた後、康一はカラ松の居る場所へと戻る。
彼はバッグから飲料を出してこれを飲み干していた。
「どう? そろそろ回復した?」
「ふっ、ハナっからこの程度でまいる俺じゃあないさ。何時でもオーケイだぜベイビー」
広瀬康一は、変な奴に絡まれる事が非常に多い。なので、この程度ならば特に意識せずとも自然にスルー出来る。
「そう、じゃあちょっと手伝って欲しいかな。夜が明けるまでこの村で過ごそうと思うんだけど、全部の家に人が居ないのを確認しときたいんだ」
「オーケイ、バディ。……人、本当に居ないんだよな?」
「僕が見た限りではね。廃村っぽいけど、電気は通ってた。まあ、灯りつけるのは最低限にした方がいいだろうけどね」
カラ松の表情がマジビビリ顔に。
「あ、アイツ等、また来るか?」
「山の方には来ないとは思うんだけど……用心はした方がいいだろうね」
「お、おおおおおおう。用心、するぜっ。超するぜっ」
カラ松と康一は二手に分かれて家を捜索に回る。
が、ものの五分もしない内にカラ松は康一が調べている家に駆け込んで来た。
「おーい、康一ボーイ! おーい! 聞きたい事があるんだが」
「ん? 何?」
「この、家なんだけど。勝手に入っていいものなのか?」
「……それ超今更だよね。もし人が居たら、事情を話して謝るとしよう。今はこの村に誰も居ないのを確認する方が先だよ」
「おーっけい。手間をかけたな」
すぐに走って自分の担当家に戻るカラ松。しかし、また五分もせぬ内に康一の下へと駆けてきた。
「へいへーい、こーいちー! 聞きたい事があるんだが、おーけい?」
「えっと、何?」
「家の中、すげぇ埃だらけなんだが。これ、調べたりするんなら下手にいじりまわさない方がいいのか?」
「いや、僕はそんな警察みたいに調べるとか出来ないし」
「そっか! おーけいおーけい、わかったぜ。じゃあ行ってくるぜ!」
そして、二度ある事は三度あって。
「こーいちー!」
「もー! 今度は何!」
「電気、つけない方がいいんだよな! それだと真っ暗で何も見えないんだが、それでもつけない方がいいんだよな!」
康一は概ね善良な人なので、そんなもん自分で考えろ、なんて怒鳴ったりはしない。
そして彼に一から十までを説明した時得られるものと、そうしなかった場合とでかかる労力の差を冷静に見極める事も出来る。
「わかったよ。あんまり別々でいるのも良くないし、一緒に見て回ろうか」
康一のとても優しい配慮に、カラ松は全く気付かず。
「ん? 二手に分かれた方が効率が良いけど……でもまあ康一ボーイがそう言うんならそうなんだろうな! もちろん俺から否やは無いっ」
これで当人、全力で康一の役に立つべく努力してるつもりなのだから、始末に終えないとはこの事か。
そもそも、カラ松と康一の間に明確な上下は無いはずなのだが、カラ松にとってこの道行きの主体は康一になっている。
それは康一がそうしてくれているというのもあるが何より、カラ松には今この時この場でどうしていいのかが全くわからないからだ。
口調といい、そんな態度といい、康一はカラ松にムカついても仕方が無いものであるが、康一が本気で腹を立てたりしないのは、先程のやりとりを見ているからだ。
スタンドもない一般人が、拳銃片手にあの恐ろしい修羅場に戻って来たのだ。
康一を助けようと必死の形相で。
全身をがったがたに震えさせながら大声を張り上げたあの勇姿を、康一は決して忘れないだろう。
『絶対に、死なせてたまるもんか』
億泰辺りは、もしかしたらムカっときて殴ってしまうかもしれないが、カラ松のここ一番での勇気を教えてあげれば、きっと仲良くなってくれると信じられる。もちろん、仗助とだってだ。
だから皆と合流するまで、何としても康一が彼を守り抜いて見せなければならない。
「さ、行こうカラ松君」
それに、カラ松の目が、康一は気になっている。
何処か焦点が合っていないような、目の前の景色は見えているのだろうが、彼はその色を認識していないとでも言うような、不安定で不気味な気配。
きっとあれは、兄弟が殺された事を受け止めきれずにいる証なのだろうと、康一には思えてならなかった。



赤井秀一はじっと身を潜めている。
安室透にトドメを刺した後、赤井は即座にその場を離れた。
そして二人組が戻るのを確認し、彼等がここを離れ北東に向かうのを見届けた後、自身は山中へと向かった。この理由は康一と一緒だ。
安室がした失策、二人の人間離れした感知能力を赤井が避け得たのは、目的が彼等の調査ではなく、単に行く先を確認するのみであったからだ。
調査は必要無いし、そのような危険は冒すべきではないと充分すぎる距離をあけていた事が、赤井の命を救っていた。
そして赤井はこの村、納鳴村へと辿り着いたのだ。
地図を見るに、ここは中央部であるが、森深い山中である事から基本的にここを目指して移動する人間は少ないと考えられる。
また地図東部と西部を繋ぐ移動に用いたとしても、川沿いを歩くのが一般的で、わざわざ苦労して山の中を突っ切る必然性は無い。
地図に所在が明記されているのが大いなるマイナス要素であるが、こうした人の手の入った場所は、赤井にとって小細工し甲斐のある場所だ。
誰かが来た時、隠れるにしろ逃げるにしろ、その為の備えをするのも難しくは無かろう。
そんな山中にある村。しかもどういう訳か電気ガス水道まで通っている。これは、赤井は知らぬ事だが異常である。
本来の納鳴村には、家の中にレンジや冷蔵庫が置いてあるにも関わらず、電気は通っていなかったのだ。
そんな事は知らぬ赤井は、レンジやらを見て、廃村ではあれど昔から電気は通っていたし、今も何故かそのインフラは確保されていると考えた。
まあそもそも、本来の納鳴村には極めて厳しい入場制限があるのだが、それもここではスルーのようで。
拠点として用いるには悪く無い。そんな事を考え、赤井は村の中を捜索し、そして二人組が近づいて来るのに気付き隠れた。
二人の会話を盗み聞いていると、どうやら二人共がここは殺し合いを強要されている場所で、充分な注意を払って行動しなければならないという事を良く理解しているらしいとわかる。
そして、そう考えるような目に遭って来ただろう事も。
特に小柄な方の少年は、その背の小ささと妙に大人びて落ち着いた態度から、何処かの誰かを彷彿とさせてくれる。
実際、二人の間で主導権を握っているのは背の小さい方であるようだ。
彼等は、どうやら一時ここで休息を取るつもりらしい。
夜の山を歩き回るような不注意な連中、そんな見方も出来たのだが、赤井はそうは考えなかった。
会話の端々からわかる、小柄なコーイチという少年の聡明さを考えるに、彼等は目的を持って山を登り、そして運良くこの村を見つけたという事らしい。
『おそらく、同じ理由かな』
赤井が考えたのと同じ理由で、山を登って来たのだろう。なら、一々赤井が出ていって指図しなくても自分達である程度なら安全に動く判断も出来よう。
となれば、赤井は不測の事態に備えるべし、と影に潜み続ける事を選ぶ。
もちろんそれだけが理由でもないのだが。
『……少し、用心深くしすぎか? いや、ここはきっと、そうすべき場所だ。意識を切り替えろ。必要なのは……』
赤井は心の内で、今居る場所を日本ではない場所へと規定していく。
それは人知の及ばぬ大密林であったり、住民が全てマフィアな南米の都市であったり、雨のように爆撃の降り注ぐ紛争地帯であったり、だ。
『サバイバルだ』



【C-6納鳴村/早朝】
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに反対。
1:ここに居るらしい仗助と億泰を探す。
2:ヤモリ、クレマンティーヌから逃げる。
3:カラ松を守る。
4:吉良吉影の危険性を伝え、捕まえる。
※本編終了後より参戦
※スタンドのことは「どうせ見えないだろう」と隠しています。

【松野カラ松@おそ松さん】
[状態]:健康
[装備]:H&K USP(13/15)
[道具]:予備弾薬30、支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:帰る。
1:康一に引っ張られて移動する
※トド松の死体を見ました。
※康一のスタンドも見ましたが、その事を康一に確認する時間的余裕はありませんでした。

【C-6納鳴村/早朝】
【赤井秀一@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:アーミーナイフ、支給品一式、不明支給品(1)
[思考・行動]
基本方針:主催者の調査を行いつつ一般人を守り殺し合いからの脱出。
1:江戸川コナン、灰原哀、毛利蘭の保護。
2:首輪の解除のために解析を行う。
3:ダーハラを知っている人間がいるならば接触を行う。
4:ジンへ警戒。
[その他]
※参戦時期は緋色シリーズ(原作84及び85巻、アニメ779~783話)終了以降。
※名簿の記載に疑問を抱いております。
 ・ジンのみがコードネーム記載→組織の犯行と推測。
  →しかしバーボンが安室透と記載されているため、組織の犯行とは断定できず、むしろおかしい。
 ・赤井秀一は赤井秀一として記載されている→組織時代のコードネームであるライではない。
 ・江戸川コナンは工藤新一として記載されていない→正体を把握していない。
 これらのことから主催者は「彼らの正体を把握していない」と推測→しかし、それならば何故この面子が集められたかは現段階では不明である。
※瞬間的にしか名簿を見ていないため、名簿では【江戸川コナン、安室透、ジン】の参加者しか把握をしておりません。
※首輪には盗聴器能があると睨んでいます。
※安室透の死に様が、心にこびりついています。

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038:快楽殺人者との付き合い方あれこれ 赤井秀一 059:納鳴村の見え方
広瀬康一
松野カラ松

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最終更新:2017年03月31日 11:28