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時は、あの悪夢の開会式から数十分前に遡る。
両手を手錠で拘束された少年だった。彼の名は音無結弦。とある地下鉄事故にて、多くの命と引き替えに若い命を散らせた少年。
やっと仲間たちと成仏できたはずなのに。
立華奏が消えた後しばらく経過してから、彼の前に明らかに異質な外套の男が現れたのだ。NPCではなく、確かに自分の意志を持っている。
『貴様の愛する者は既に私の手中にある』
男はそう言った。とっさに携帯していた銃で頭を打ち抜くが、応えている様子はない。
そのまま、気付くと今の状況だったのだ。
モニターには、鎖に拘束された立華奏の姿があった。意識は無いらしく、男曰く指先一つで生命を真の意味で終わらせることができるらしい。
男の要求はたった一つだった。
『音無結弦。貴様にはエネルギーの一部を分け与える。立華奏を守りたくば、貴様はできるかぎりゲームを盛り上げ、殺せ。働き次第では解放してやろう』
そして、音無の肉体には莫大な力が注がれ。
音無結弦は大切な者を守るために、ジョーカーとなった。
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足元には、一人の少女の無惨な死体が転がっていた。
立ち尽くすのは牧瀬紅莉栖。呆然としたような顔でそれを見おろしていた。
「嘘……まゆ、り……」
椎名まゆりはSERNに射殺された。名簿で名を見つけた際にはうれしいやら悲しいやら複雑な気分であったが、今はもうそれはない。
奇しくも同じ箇所である額を撃たれて、椎名まゆりは絶命したのだ。
紅莉栖は手に持っていたゼットソーをかたり、と取り落とした。
「tgfde死ね」
ノイズ混じりの声ではあったが、明らかな敵意は感じられた。
最終更新:2011年06月26日 23:23