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暗闇の中。
殺し合いの主催者である荒耶宗蓮は、興味深げに一箇所のモニターを見ていた。映し出されているのは、天才少女牧瀬紅莉栖と、『ジョーカー』音無結弦。
ーーー働きは上々だ。
荒耶の予想を遙かに超えて、音無は暗躍していた。
彼が自我を失っている理由は力の代償のためなどではなない。彼自身が自我を捨てて行動しているのだ。立華奏を救うために、無駄な情を切り捨てるために、彼は殺戮機械となった。
荒耶の与えた莫大な力を見事に操り、指弾を用いて椎名まゆりを殺害した。
実は。本来ジョーカーとなる予定だったのは宿海仁太か岡部倫太郎であったのだ。
しかし、参加者の一人である音無は一番強い意志を持っていた。『立華奏を守るためになら他の全てを殺すこと』すら実行する。
当初のジョーカー候補の二人は今主催打倒のために動き出している。
興味深そうに荒耶はそれを眺めた。
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音無結弦の指先に謎の素粒子が集まっていく。
『証明はできないが確かに理論上存在する』暗黒物質に限りなく近い物質。
牧瀬紅莉栖はそう分析した。
ゼットソーを拾い上げるが、まゆりの死体を見る限りまゆりはあの素粒子の塊に頭を撃ち抜かれたのだろう、と思い動けなかった。
そして、かなりの速度で素粒子弾が放たれた。
紅莉栖の右肩をかすめていく。痛みに顔をしかめるが、まともに命中しなかったということからあの素粒子をまだ音無は使いこなせていないのだろうと推測する。
まだ幸運だ。音無がこの力を使いこなせるようになっていたら今の一発で紅莉栖は死亡していただろう。
ならば後は簡単だ。今はこの怪物から逃げることだけを考えればいい。
とすっ、という音がした。
投げたのは投擲用のナイフ。しかし先端から睡眠薬が分泌されるようになった。
倒れる音無。しかし一息つく暇など無い。紅莉栖はまゆりに一言謝ると、走り出した。
最終更新:2011年07月05日 09:45