『暗黒物質』という言葉を知っているだろうか。科学、ーーーーー宇宙粒子学理論などに触れたことのある者ならば聞いたことくらいはあるだろう。
理論上存在するはずだが、まだ確認されていない物質。
重力などが部類されるだろうか。しかし、この物語に登場する暗黒物質とはそれとは違う。だからとはいえ某ラノベに出てくる常識の通用しないレベル5の方では決してない。
『科学』の代わりに『魔術』が発展していくことを世界が選んだあったかもしれない未来の世界。そこには、『魔物』が存在し、一度生まれれば人々を性欲に任せて暴走させる最悪の魔物もまた存在した。
ーーーーー『ダークマター』。
黒髪の少女を基点に周りに黒い闇が絡みついている生物で、魔物形態ーーー戦闘形態時には下半身を黒い球体が包み込み、まさしく闇の化身となる。
リリーステイクはそれを手に入れ、
殺し合いに招いた。
ーーーーーこれは、魔物にして圧倒的な『闇(マイナス)』と、人間にして底辺的な『負(マイナス)』の交差するまでの過程を記した物語。
◆
「『ああ下らない』『せっかく夢の裸エプロン学園が叶うかと思ったのに』『邪魔するなんて』『よし』『決めた』『あの二人は過負荷的に敗北させてやろう』」
"過負荷"球磨川禊は、両手に巨大なネジを持ちながら、そのまま言った。
彼には不思議なことが一つあった。
生徒会長にして見せしめに選ばれた少女、黒神めだかに倒された際に失った過負荷(マイナス)ーーー"大嘘憑き"が不完全ながら使えるようになっている。あれは安心院なじみから借り受けた一京分の一のスキル。故に与えられるのは安心院しかいない。
「『やれやれ参ったな』『また僕らは君の手の上なのか』『安心院さん』」
あの怪物を相手取れば全開の球磨川でさえも只では済まないかもしれない。
しかし彼は元から失う誇り(プライド)などは持ち合わせていない。ならば今回は敗者的に過負荷的に、怪物たちをねじ伏せる。
そうと決まれば早速行動だ、と思い立つと、首輪に手を当てた。
カラン。
首輪が足元に転がっていた。
大嘘憑きは『すべてをなかったことにする』過負荷。首輪さえも例外ではない。たとえ失敗しても自分の死をなかったことにしてしまえばいいのだから。
鎖から解き放たれた球磨川禊。
次に見たのは、眼前に迫る闇の鞭の数々であった。
◆
バババババァァン!!という音。球磨川の肉体が吹き飛ばされていく。
鞭の先にいたのは、背の低い、しかし肉体の所々にまとわりつく闇の断片が幼女らしい無邪気さを台無しにしている『少女(ダークマター)』エネティア。
闇の鞭は殺傷性は低いが、あれだけ打ち込まれれば間違いなく死亡する。しかし攻撃した理由は『殺し合う』ルールに則ったプレーをしてみただけ。
生まれながらの魔性、エネティアには感情が一部欠落している。数多くの民を欲に溺れさせる性質のために、『愛情』の類の感情が一部欠落。
球磨川禊に目も向けずに歩きだそうとしたその時。
ーーー目の前に居た殺した筈の球磨川禊が、エネティアの纏う闇の一部を大きなネジで地面に串刺しにしていた。
「……ぇ、?」
「『危ないなあ』『僕に力が戻ってなかったらきっと』『頭蓋骨陥没』『全身打撲』『脊髄骨折』『内蔵破裂』『明らかに死んでたぜ』」
球磨川は『自分の死ぬ間際に負った怪我』をなかったことにした。
そして闇の防御力をなかったことにして、地面に縫いつけた。
「『さあて』『お仕置きが必要かな』『何がいい?』」
「わたしは、悪いことなんてしてない。だって、こういう"遊び"なんでしょ?久しぶりだったんだよ、遊んでくれるひーーーーーーー」
どすっ。
エネティアの顔の少し横の地面に勢いよくネジが突き刺されていた。
「『じゃあ僕も』『ルールに則って君を殺そうかな』」
球磨川禊の目は、確かにそれが冗談ではないと物語っていた。
明らかな異質の力を持つ目の前の少女がどう攻撃してくるか、と思っていると。
「ひぅ……えっく、えぐっ」
エネティアの喉から嗚咽が漏れ、瞳からは涙が流れていた。
ダークマターとは基本的に幼体のまま永遠の時を過ごす生物だ。
しかし、親から生み出されて日が浅いエネティアにはいかんせん経験が足りなすぎた。
「(『困ったなあ』『どうしていいものかさっぱり分からない』)」
二つのマイナスが交差するとき、世界は想定外に展開されるーーーーー。
最終更新:2011年07月09日 11:06