アリサの体力は限界だった。相手は仮にも魔物、こっちはただの小学三年生。勝負を目に見えていた。ただ、足を止めれば殺られる。そんな執念が彼女の足を動かした。
そして、その歩みが勝利の可能性を広げていった。
そして、アリサ。ついに当りくじを引く。奇跡、大逆転、土壇場での巻き返し。まるでここまでの頑張りに対して、神が与えたご褒美。
見つけたのは『植田佳奈』のカード。召喚するのはもちろん、八神はやて。はやての得意とする間合いには短いが、ここはすぐに使うしかない。
「お願い、はやて!」
白い魔法陣がアリサの前に現れ、黒白の天使が舞い降りる。
「急ぎみたいやな。任せとき!」
杖を振るい、光が集束していく。
「ラグナロク・ブレイカァァァァァー!!」
白い粒子がティオを襲う。その攻撃範囲はティオでは回避不能。そのカードが役立たずなら、アリサの勝利は約束されていた。
「恵ー!」
「ハイ! チャージル・セシルドン!!!」
全てを覆い尽くす様な掌。それはティオの最大呪文だ。『前田愛』それはアリサには予期せぬ、最悪のカード。
これでは五分、完全な勝利はなくなった。はやての力を信じない訳ではない。しかし、『チャージル・セシルドン』は余りにも強力。原作でもその堅さを発揮した。
意地と意地のぶつかりあい。そして、盾は砕け、矢は折れた。つまりそれは引き分け。それはアリサにとってあまり良くない結果だった。
八神はやては近接戦闘が弱い。同じ原作キャラでいうならばキャロ以下だという。それに超魔法砲撃もすぐには撃てない。
一方、ティオはパートナー、大海恵の登場で行動に幅が生まれる。サイスならまだしもゲーム
オリジナルのギガノ・サイス、最大攻撃力のチャージル・サイフォドンはかなりの脅威だ。
こうなったら無理に戦う必要はない。はやてを防御に回すか。いっそ逃げてから空中で砲撃するか……。
アリサとはやての視線が交錯する。空に退避しようしたその時、ティオが先手を打つ。
「ギガ・ラ・セウシル!!」
宙に居たはやては、透明な丸い盾に閉じ込められる。
「八神はやて、貴方なら“ちょっと”本気を出せば抜けられるわ。だけどそのちょっとの時間。それだけあれば……」
ティオはスカートの中からサブマシンガンを取り出し、アリサに狙いを定める。
「この弾丸がすぐに貴方を蜂の巣にするわ。さようなら、アリサ・バニングス」
ティオの指が引き金を弄ぶ。その指先一つでアリサの命はあっけなく散ってしまう。
だがその慢心がティオの命運を変えた。
――刹那、何者かが合気の達人である大海恵を手刀で倒し、そのままティオの頭蓋を叩き割る様な蹴りを入れる。
その一連の動作は、まるで流れる水の様に。地に落ちたサブマシンガンを拾い、衝撃でうずくまるティオへの止どめも忘れない。命を摘む激しい炸裂音でようやく我に返る。
ティオを殺害した正体は柏木優。少し後ろには青ざめた三千院ナギと――松平瞳子が微笑を浮かべ、静かに立っていた。