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人魚姫の涙

最初に収集されたときに着ていたやや大きめの赤いリボンが特徴的な制服ではなく、
戦士を思わす白いマントに露出の多いコルセットにミニスカートという
出で立ちで、美樹さやかは星の光だけを頼りに地図の隅に記載された村の一角を前進する。
脇にぶらりと垂らした手に握った武器であるサーベルの切っ先で、地面に彼女の行く先を掘りながら。

さやかの中にゲームのことや他の参加者のことなんか頭に無かった。
恭介が死んだ。ただあの瞬間だけが意識の中全てを支配していた。
信じたくない。認めたくない。受け入れたくない。何もかもが嘘。
でも、否定なんて意味が無い。
上条恭介が死んだことは曲げようのない事実。
この目が、心が、記憶が、震える身体が、さやかの全てが、それを知っている。

(恭介が…死んだ。殺された……)

最初に集められたあの空間。殺しをゲームと称して淡々と説明していたゴーグルの女。
あの女に殺された。さやかの目の前で、あの女が恭介を殺したのだ。

(許さない…)

黒く、黒く滲んでいくさやかの心。
息が弱くなった希望。
比例して、ソウルジェムが増す濁りにさやかが気付くことはなかった。

(絶対に許さない)

憎しみ。
怒り。
悲しみ。
絶望。

恭介の死を理解したからこそ湧き出たそれらの感情だけが、さやかの手を引く。
行く宛もなく、引きずるようにして両足を繰り出して…前方を横切る少女を見つけた。
見覚えのある…ありすぎる少女の姿を。

「ころす」



――せっかく、救えたと思ったのに。

「おい、妹」

人が生活していた名残が感じられる民家の一室。
御坂美琴は鏡台の中の自分自身を睨みつけ、か細い声で『妹』へ呼び掛ける。

「アンタは生まれてこれて良かったって…そう言ってくれたわよね。
 でもさ、こんなことさせられて、アンタはそれでもまだ、同じことが言える?」

御坂妹(シスターズ)とは、美琴が提供したDNAマップをもとに製造されたクローンである。
絶対能力進化(レベル6シフト)計画において10000体以上もの御坂妹が犠牲となり、
ある少年のおかげで最近ようやく凍結させることができた。

――救えたと、思ったのに。

差し込んだ光はすぐに影に覆われた。

「私…何もできなかった。また…あのときみたいに…」

殺し合いを強要し、見知らぬ少年を惨殺した妹。
しかし美琴がそれだけが真実とは認めるわけがない。
恐らくミサカネットワークが何者かに支配されているのだろう。
木から降りられなくなった子猫を助けたり、第一位に殺されそうになった
自分を守ってくれたとても優しい、大事な妹なのだ。
あのとき。この部屋に転送されるとき、確かにあの子は何かを伝えようとしていた。
あの子はきっと、助けを求めている。

「…嘆いている時間なんてない」

さきほど確認した名簿に載っていた大切な人たちの名前。
白井黒子、初春飾利。彼女たちを失いたくない。
そして妹に、これ以上誰かを傷つけてほしくないし、傷ついてほしくない。

「きっと私が救ってみせる」

そうと決まれば第一に重要なのは黒子と飾利、二人との合流の実現。
黒子はともかく、心配なのは飾利だ。
たしかに彼女は黒子と同じく風紀委員に所属する人間。一般人とは違う。
ただ、これまで美琴が関わった事件の中での飾利の活躍を
考えると、彼女はサポートタイプであって決して実践型ではないと判断できる。
ずば抜けている情報処理能力で、何度も試した美琴ですら敵わなかった
首輪の解除は可能かもしれないが、万が一彼女が殺し合いに乗った人物に
遭遇したときの対応力は無いはずだ。

…善は急げ。
まずはマップを開いて飾利が行きそうな場所の目処をつける。

「きっと初春さんはこの首輪の解除方法を探すと思うから…。
 パソコンのある場所…。市街地辺りかしら?って、遠いわね…」

現在地がエリアE。市街地はエリアA、B。
正反対の場所に位置しているため、この地図で区切られた一コマの直径は定かではないが
相当時間が掛かることは容易く想像できる。
しかし、そんなことを言っていられる状況ではない。
時間が無いのだ。一刻も早く二人を保護しなければ。

早速荷物をまとめ出口を潜り抜けて、北西に足先を向けて前進を始めた…瞬間だった。

月灯りに煌く三つの閃光が、美琴を襲ったのは。


(…どうなった?)

召喚した三本の剣を“ゴーグルの少女”目掛けて放った。
土煙が舞っていて様子が見えない。少しだけ接近して様子を窺う。

やがて明らかになったのは、“ゴーグルの少女”が立っていた場所が闇と化していること。
…闇?
さやかは不思議に思う。
時刻は深夜。天井に広がるのは当然夜空。
けれど、辺りの風景がうすらと見えるほどにはこの暗闇にも目は慣れているはずだ。
少女の姿を視認できたのもそのため。
でも剣に串刺しになっている少女の姿も、その奥に佇む景色も何も見えない。
ピンポイントでその空間が切り取られているかのように、そこだけ真っ暗闇。
何かがおかしい。
サーベルを強く握り締めて、また一歩だけ、少女へと近付いてみる。

途端その暗闇が、凄まじい速度でさやかの身体の真横をすり抜けていった。
いや、暗闇なんかではない。
黒い粒のようなものが群となって、大きな塊を形成しているようだった。

「不意打ちだなんて、随分と卑怯なマネしてくれるじゃない」

晴れた視界。そこに見えたのは少女の亡骸なんかではない。
傷ひとつ負っていない少女の姿。
その足元に散らかっている三つの刃はさやかが仕向けたものに違いなかった。
普通の人間にそんなことは不可能。
とすればこの女も魔法少女か?それともあのときこいつ自身が言っていた、超能力や錬金術とやらか。

(何だっていい。とにかく私はこいつを…)

下唇を強く噛んで、平然と立っている少女を睨みつける。

「アンタ、このゲームに乗る気なの?」
「ゲーム?」

…あぁ、そういえば。
殺し合いだとか何だとか言っていたな、とさやかは薄っぺらい記憶を一つ引っ張り出す。
しかしよくよく考えれば、全部この少女が言い出したこと。
何にせよ、殺し合いだってこいつさえ居なくなれば終わる話。

「アンタの言いなりになるつもりはない」
「はぁ?ってアンタ、あのとき殺された男の子の……」

今更気付いたのか。
全部仕組んだのはお前だろう。
こうしたのはお前だろう。
殺したのはお前だろう。
殺したくせに。

殺した、くせに。

「あんただけは絶対に許さない!!!!」
「!」

魔法少女としてのさやか特有の速度をもって、少女の懐に潜り込む。
弾かれたように少女は後方へと上体をそらしてバランスを崩した。
チャンスとばかりに剣を振るい上げるが、ギリギリのところでかわされる。

「外した…」
「ねぇ、あなたは」
「黙れぇぇぇええぇえぇえ!」


速い。
二撃目を見て驚いたのは、相手の持つ絶対的なスピード。
一秒もたたぬ内に肉薄され、上手く体勢が保てなくなった一瞬を狙っての斬撃。
気持ちが昂ぶっているせいか、動きが雑なおかげで何とか回避はできた。
近付いてきた地面を手で押し跳ねて、何とか安定感を取り戻す。
もしも少しでも反応が遅れていたら…きっと剣の餌食になっていたはず。

「外した…」

忌々しそうに呟く相手の顔を、もう一度確認する。
…やはりそうだ。
あのとき、妹が首輪を爆破した少年に駆け寄っていた少女。
先刻の反応からして恐らく、彼女はゲーム云々というより少年を殺害した『ミサカ』が許せないのだろう。
向けられた切っ先は、妹とまったく同じ顔を持つ自分。
ゴーグルがあるかないか、普通の人ならそれだけでしか判別できまい。
その唯一のポイントも、装着を止めたと考えれば
少年を殺したのが自分だと誤解されたっておかしくはない。
…だからといってここで殺されるのも御免だ。
ならば解決する方法は一つ。彼女と話をしなければ。

「ねぇ、あなたは」
「黙れぇぇぇええぇえぇえ!」

話し合いの余地は無い…か?
激情に任せた直線的な突撃。今度はやや余裕をもって右手に避ける。

(だったら力ずくでも話を聞いてもらうわよ…!)

大きく背後へと跳んである程度距離を作り、バチバチと
火花を散らす前髪を起立させる。
一撃。一撃だけでいいのだ。
いくら速いとはいっても感情的になっている相手の動きを見極めるのは簡単。
相手が攻撃を外した隙をついて、強い一撃を見舞えばいい。
腰を低く落として、美琴は迎撃体勢に入る。
挑発するかのように不敵な笑みを表情に添えて。

「チッ。ナメてんじゃないわよ!」
(来た!)

予想通り荒さが目立つ四度目の攻撃。
心臓を目標に突き出されたサーベルの先端を潜り抜け、今度は美琴が相手の懐に入り込んだ。

「くそっ!」
(イケる)
「な、え?あっ…」

逃がさないように両腕で強く相手を抱き締め、
人間が簡単に意識を失うほどの威力を持った電撃を直接身体に叩き込む。

「あ、あぁぁぁああぁぁあぁあ!」

衝撃を受けた相手の上半身がビクンと跳ねて、力が失われていくのが分かった。
握力が無くなった手から剣が落下する。
一応念のために、徐々に威力を弱めつつも攻撃は続行する。

「…っと、こんなもんかしら」

脱力しきった胴体が美琴の肩にもたれかかった。
自分に掛かる体重によって、相手から戦闘力を一時的に奪うことに成功したと感じ
放電を止めて、気絶している相手の肩と腰に手を回し支えつつ隣へと移動する。

(やっぱり、まずは誤解は解くべきよね。
 それから妹のことも伝えて…分かってもらおう。
 ゲームが始まってまだ数十分。この子は私を殺せなかったし、
 きっとまだ誰も殺してない。
 だったらまだ引き返せるし、きっと落ち着いて話せば分かってもらえる…わよね)


横から相手の寝顔を眺めながら、今後の彼女への対応を思慮する美琴。
それによって注意力が散漫となり、足元に三本の剣が出現したことに気付くのが遅れた。


魔法少女になることと引き換えに、美樹さやかが願ったのは『上条恭介の手を治すこと』。
誰かを呪うことではない。人に希望を与える、癒しの祈り。
その影響で彼女の魔法少女としての回復力は普通よりも優れているのだ。
だからこそ、あれだけの威力を持った電撃を喰らったとしても、気を失うだなんて有り得ない。

単純だ。
御坂美琴の敗因は、それを知らなかったこと。
ただそれだけのこと。


三本の剣に貫かれた少女の身体を見下ろして、さやかはその場に座り込む。
今度こそ、本当の本当に脱力した。
抑えこんでいた涙が頬を流れる。

(恭介…ごめんね、恭介……あたし、守れなかったよ。
 恭介の手、せっかく治ったのに。
 これからたくさん、恭介のバイオリンが聴けると思ったのに)

声を出さずに、けれど激しく。
さやかは精一杯泣いた。
一人ぼっちのまま、精一杯悲しみに暮れた。

無関係な女の子一人を、殺してしまったことを知らぬままに。

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲 死亡】

【一日目深夜/E-4、村】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:健康
[装備]:サーベル@魔法少女まどか☆マギカ、ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[所持品]:基本支給品、アイテム1~3所持
[思考・行動]
基本:ゲームには乗らない?
1:恭介…。

※殺し合いが終わったと思っています。
※御坂妹と美琴を同一人物だと誤認しています。


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GAME START 御坂美琴 Next:GAME OVER
GAME START 美樹さやか Next:

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最終更新:2011年07月31日 20:02
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