暗闇がどこまでも広い、とても広いホールを満たしていた。
この光景は、まさに僕のかつての相棒ーーーーーいや、思い出したくもない。あいつは僕を裏切った。あの場であいつが敵の名をデスノートに書けば、僕を阻む壁は何も無いはずだったのに。この狂いきった世界は、作り直さなければならない。
悪を裁く神ーーー『キラ』が支配する、新世界に。
僕の名前は夜神月。今本来この場に存在しているのは『おかしい』存在だ。
ニアーーーーーあの憎らしい探偵に認めたくないが敗北した僕は、あいつに裏切られて永遠の無に葬られるはずだったが、今僕は確かに此処に存在している。
誰がやったのかは知らないが、有り難い話だ。おかげで僕にはまだ新世界の神となる可能性があるのだから、実に有り難い。
しかし、冷静になってみるとここは"無"とはほど遠い空間だと気付く。
僕の他にも連れてこられた奴が何人も居るらしく、驚愕する声や悲観する声、或いは怒りに身を焦がす声が会場の闇を満たしていた。
そして、ついにその時はやってくる。
会場の何もかもを塗りつぶすような闇の中に、ぼうっと光が点った。
眩しいとは不思議と感じない、むしろ神々しいと言える。
とにかく、不思議な気持ちになる光。天使の光の輪はこんな感じの光を放っているのではないだろうか、と僕は珍しくそんな事を考え、苦笑した。
苦笑の理由は自分の想像ではない。
これだけの人数を誘拐し、僕のような死者までも蘇らせるような輩が、天使などである筈が無い。今回の首謀者は間違いなく、何かを目論む犯罪者だ。天使などではない。
『皆様、本日はお集まり頂き誠にありがとうございます』
光の中から、まるでバーチャル映像のように足元から具現化していく『誰か』。
それは意外にも、僕や海沙より年下に見える青い髪をした少女だった。
にこやかな笑顔に安堵する者も居たようだ。しかし、何人かは険しい表情のままだ。きっと僕もその一人にカウントされる。
あの少女の笑顔は、嘲笑だ。
例えるなら、蟻の群れを無邪気に踏み潰す子供のような、残酷な微笑み。
「(あいつはまずいな……完全に何かが飛んでる)」
死神のノート『デスノート』を手にした人間がしている目にどこか近い。
海沙や火口卿介も、同じような目をしていたはずだ。
背筋に鳥肌が立つ。以前までの僕なら、ここで何か一言言っていたかもしれないが、僕には出来なかった。
深層心理が警告する。彼女に逆らってはいけない。あれはきっと探偵Lや僕を死に追いやる一つの要因となったニアを優に超える『恐ろしい相手』だ。彼女に逆らえば、僕は間違いなくここで今度こそ生涯を終えることになる。根拠のない恐怖が僕を震えさせた。
『私は、探偵の古戸ヱリカと申します。以後お見知りおきを』
スカートの裾を掴んで礼をするその姿は優美すぎて、下品さを欠片も感じない。
ヱリカと名乗った少女は、会場を見渡すと満足気に微笑む。
「(駄目だ……夜神月……あの子の、ヱリカの警戒を解くな…!!)」
『皆様にお集まり頂いた理由は、ただ一つです。それは我が主の願いでもあり、私の願いでもある、誰にも汚すことの出来ない理由があるのです』
ヱリカの声色が急に変わった。それは人に対する申し訳の無さなど欠片もない、まさに堪えきれないほどの笑いを必死に我慢しているような。
会場の無知な奴等も、さすがに何かおかしいと気付いたのか、ざわつきが大きくなる。
間違いない。これから古戸ヱリカは僕たちに絶望的な何かを言い渡すのだ。
吐き気のするようなことでも、決して声を荒げてはいけない。
『皆様には、これより喜劇をーーーたったひとつの優勝枠を巡って、
殺し合いをして頂きます。……ぷっ、あははははははははははは!!』
笑い続けるヱリカ。僕は笑うことさえ出来なかった。
喜劇?優勝枠を巡った殺し合い?そんなのは死刑どころじゃ済まない。
公開処刑クラスの、人間ではない悪魔の所行。
『キラ』として悪を殺し続けて、時には人を見捨ててきた僕でさえもあまりの狂気に圧倒されていた。こいつは危険なんてものじゃない。
だが、僕は自分を必死に抑えつけた。ここであいつに反論してはいけない。これほどのことをやってのける奴が、反逆者に何の対策もしていない筈がない。
それに、『その役割は僕じゃない』。
確実に、この中からヱリカに怒り、反旗を翻す者が出てくるーーーーー。
焦る必要はない。僕はただ、そいつの末路を観察し続ければいい。
『……あら。神楽さん、何か言いたげですね、どうぞ?』
神楽と呼ばれたのは、チャイナ服を着たまだ年端もいかぬ少女だ。しかしその目は明確な敵意と殺意を持ち、古戸ヱリカに向けられている。一方のヱリカは涼しい顔でそれを見ているだけ。
「何で殺し合いなんかしなきゃいけないアルか!生憎、私も含めたここに居る全員が、お前なんかの為に命を使うのは御免のーーーー、」
言葉が途切れた。だが、それはヱリカが何か行動を起こしたからではない。
神楽自身が、言葉どころか体の全ての動きを止めたのだ。
ヱリカはそれを見てまた笑い、銀髪の男が駆け寄ってきた――――その時。
神楽の肉体が内側から弾け飛び、不謹慎だがハンバーグに使う挽き肉のような無惨な死体に―――――いや、死体とも取れないほどの無惨な『肉の塊』と言うべきか。
吐き気を押し殺して僕は考える。あの死に方は有り得ない、と。
何らかの手段で僕たちの体内に爆弾を仕込んだのかもしれないが、それならあそこまで綺麗には崩れず、四方八方に飛び散る。
デスノート。それが僕の出した答えだ。
ヱリカはさっき『我が主』と確かに言った。『主』はきっとあいつら――――死神からデスノートを手に入れていると考えるのが一番自然。
ならば、主催に歯向かうのは自殺行為としか言えない。デスノートに書かれた死は覆すことのできない絶対の死だと、僕はよく知っている。
「てめえ…よくも神楽をやったな!ぶっ殺してやる!」
まだ逆らうのか。だが逆に幸運だ。人数が減れば殺し合いは自然と有利になる。
確かにヱリカは吐き気がするほどの悪人だが、新世界の神になるチャンスを棒に振ることはできない。つまらないプライドなど、極限の場においては意味を為さない。
残念ながら、近くに居た数人が銀髪を止めに入ったために二度目の執行はなかった。
『皆様にタダで
命を賭けろとは言いません。こちらで用意した賞品は『願望』――――愛があれば、私たちにはそれさえ可能なのですから』
願望。何人かの顔色が変わるのを僕は見た。彼らの中には、今の一言で殺し合いに乗ることを決意したものも少なからず居る。競争率はむしろ高まってしまったようだ。
僕も、また同じ。
『あの時』に、ニアや松田などのあの場に居た奴等を皆殺しにするという願いがある。
それで今度こそ僕は―――新世界の神になる!
ヱリカが再び一礼すると、頭に鈍器で殴られたような衝撃が走り、僕の意識は落ちる。
さあ、最高のボーナスゲームの始まりだ。
【神楽@銀魂】 死亡
【残り130人】
【愛好作品バトルロワイアル】 GAME START
◆
「……ご苦労様、ヱリカ」
高級そうな洋椅子に腰掛けて紅茶を口に運んでいるのは、ヱリカと同じ青い髪をしている――――だがヱリカより格段に幼い体をした、目に光の無い少女だった。
"奇跡の魔女"ベルンカステル卿。
数多の世界のカケラを記憶し、その世界の人々を観測して時に弄ぶ大魔女である。
彼女こそが古戸ヱリカの『主』であり、一筋縄ではいかないほどの悪い性格をしたヱリカを服従させるだけの力を持つことが窺える。
その傍らにはもう一人。
いや、一人と言うよりは『一体』と言うのが適切かもしれない。
恐ろしい風貌をしていた。彼を見た人は誰もがこう思うに違いない。『悪魔だ』『死神だ』と。彼―――リュークは後者であり、かつてキラと呼ばれた少年にデスノートを与えた張本人でもある。
「……リューク。貴方の役割は分かっているわね?」
『ああ、分かってる。お前にデスノートを貸す、そしたらお前は俺にとびっきり面白いもんを見せてくれる―――だろ?』
ベルンカステルはリュークが手渡してきたデスノートを手に取り、ページを開く。
このノートに名前を書かれた人間は、死ぬ。
それを読んだベルンカステルはただ笑って見せた。どこまでも黒い笑顔を。
リュークもまた、下品な笑い声をあげる。ベルンカステルの考えたゲームはなかなかに面白い。夜神月の起こしたキラ事件に勝るほどに、魅力があった。
探偵と魔女と死神。
異なる立場の三人が作り上げる一つの『ゲーム』。結末は神のみぞ知る――――――いや、もしかするとこの結末は神でさえも知らないのかもしれない。
狂気、絶望、恐怖。どろどろに混じり合う感情は、時に予想もできないことを起こす。
『バトル・ロワイアル』の幕は、開かれた。
| GAME START |
投下順 |
鬼退治 |
| GAME START |
夜神月 |
[[]] |
| GAME START |
古戸ヱリカ |
[[]] |
| GAME START |
坂田銀時 |
[[]] |
| GAME START |
ベルンカステル卿 |
[[]] |
| GAME START |
リューク |
[[]] |
| GAME START |
神楽 |
GAME OVER |
最終更新:2011年09月04日 18:13