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鬼退治

ボサボサの髪に無精髭。精悍な顔立ちを台無しにしてしまっている。そんな『残念』な風貌に医者の着る白衣を合わせた男。外場村にて『屍鬼』たちと戦い、屍鬼を駆逐することを目的に孤独に禁欲的な戦いを繰り広げてきた。
彼は外場村の救世主などではない。
屍鬼を駆逐するために自らの妻を実験に使い、彼の手で妻『だったもの』に止めを刺す。『屍鬼』駆逐に侵された男の名を、尾崎敏夫といった。

「……クソッ!俺には…もうあの村には時間がねえってのに…!!」

近くの電信柱を渾身の力で殴りつける。拳から血が滲むが気にしてはいられない。
外場村が屍鬼に完全に支配されるのは遠くないのだ。一分一秒の時間も惜しい状況下で、こんな茶番を仕掛けた古戸ヱリカには激しい怒りを覚えた。

――――俺の戦ってきたことを無駄にする気か

そうだ。敏夫の屍鬼に抱くのは既に敵意や殺意を通り越してしまっている。
この世から根こそぎ狩り尽くし、二度と現れないよう徹底的に駆逐する。
彼は屍鬼を殺すことに関してはきっと村内の人間では一番詳しいはずだ。
尾崎敏夫は帰らなければならない。敏夫の自己満足かもしれないが、屍鬼の駆逐を諦めることだけは許さない。

敏夫は長い自問自答の果てに、ようやく支給品の入ったディバックを確認する。
まず第一に目に入ったのはデリンジャー。
比較的有名な銃である。敏夫も名前だけは知っていたが、まさかこれを引けるとは思っていないのだから、言いもよれない安堵感が敏夫を包む。
もう一つはカッターナイフだ。これもまた凶器であり様々な応用が可能な『当たり』なのだが、敏夫はそれを見て思わず眉を顰めた。カッターには血がべっとりと付着し、まだ完全には乾ききっていない。確実に、誰かの命を奪った痕跡があるのだ。
贅沢を言っていられる状況じゃないのは確かだが、さすがに不気味だ。

一旦カッターをディバックにしまい、今度は参加者の顔写真付き名簿に目を通す。
まず『結城夏野』『村迫正雄』は殺し合い以前に尾崎敏夫の敵―――――『屍鬼』だ。
夏野には少しばかり思うところがあったが、すぐに甘い感情を振り切る。
『屍鬼』を野放しにすれば連中は参加者の血を吸って仲間を増やす。つまり、分かりやすく言えば吸血鬼。心臓に杭を打ち込むことで殺害することも可能、即ち伝説上の吸血鬼と弱点は何ら変わらない。日光の下に長く居ても連中は燃え尽きて死ぬ。


敏夫の妻は『屍鬼』だった。連中に噛まれて彼女もまた屍鬼となり、敏夫に襲いかかる―――はずが、冷酷な敏夫はその妻をモルモットにして屍鬼の弱点を炙りだした。
後悔はしていない。敏夫にとっては妻さえも―――きっと親さえも屍鬼となれば皆平等に『殺すべき害悪』とみなされるのだろう。

「………奴等を殺しに行くか」

結論から言って、敏夫は殺し合いに乗る気は無かった。
尾崎敏夫は医者である。村民たちも安心して身を任せられる、患者のためになら過労死寸前まで働き続けることも多い『善人』―――――。
古戸ヱリカの所行は許されることではない。必ず、あの頭に鉛弾をぶち込んでやる。
殺された少女の分の怒りも燃やし、敏夫は静かにデリンジャーを右手に持った。
第一に、彼の理解者であり友人の僧侶・室野静信を見つけて行動を共にすること。
『屍鬼』の抹殺より先に、唯一無二の親友である静信を探すことを第一にした。静信は敏夫と比べても圧倒的なまでの『善人』―――つまり、殺し合いに乗る可能性はほぼ0%。
この極限状況で信頼できるのは彼しか居ない。

空を見上げる。漆黒に包まれた一面の暗闇に、珠のような星がいくつも散りばめてある。美しい光景だった。
これが殺し合いの最中でなければもっと良かったのに、と敏夫は苦笑した。
その時だったのだ。確かに草の陰から、銃の弾を装填するような音が聞こえた。

「誰だ。出てこなければ―――――――――」

ダァン!という音の後に敏夫の頬を一滴の血が滴う。
警告の段階で発砲してきた。それは敏夫の脳内で殺し合いに乗っていると認識される。
敏夫もまたデリンジャーを構え、何の躊躇いもなくその引き金を引いた。

「っ!!」
「待ちやがれ!」

出てきたのは、黒髪の少年。肩からポーチを提げてその上に青いジャケットを着用し、年は中学生くらいと推測できた。敏夫は彼の目を見て瞬時に判断を下す。
この少年は危険人物だ。今ここで殺害するべきほどに。
敏夫の判断は正しいといえる。襲撃者の名前は天野雪輝。『ツインタワービル』のテロ事件の犯人の上、未来を予知できる日記を用いた殺し合いの参加者『1st』。
敏夫は発砲するが、雪輝は見透かしたかのように逃げ回るばかりだ。
弾切れを狙っているのか――――、と脳内で推測。
残る弾数は3発。再装填できないのは痛い。

「(考えろ。あいつは何故俺の行動をああも的確に読んでいるんだ―――――?)」


雪輝は思った。殺し合いに呼ばれた時はどうなるかと思ったが、彼には心強いまさに彼だけのアイテムーーーー未来日記『無差別日記』が与えられたのだ。
周りの未来を予知する日記。我妻由乃の『雪輝日記』―――天野雪輝の未来を予知する日記―――があれば完全な予知を実現できて尚良いのだが、『日記所有者』で無ければ『無差別日記』だけでも十二分に何とかなる。雪輝はそう考えたのだ。
実際。相手側に未来日記が無ければまず未来日記の有る側が有利となる。だがそれは、あくまでも『有利になる』というだけの話である。
例えば探偵・秋瀬或。
彼は後に未来日記『探偵日記』―――所有者の行動を予知する日記を手にし、雪輝たちを追いつめたが。彼は日記を手にする前から、雪輝たちの強力な敵だった。
尾崎敏夫は間違いなく、この状況下では逃亡しない。
雪輝が自分の行動を読める理由を探り、対策を講じてくる。
そして天野雪輝は一つ忘れている。
未来日記の所有者に追加される言うならば『もう一つの心臓』。
未来日記の媒体を破壊されることは、その日記の所有者の死を意味することを。

「(……いける!日記が無い相手になら、楽勝だ!)」

敏夫がデリンジャーを再び構える。
敏夫の弾を放つ方向を予知するために雪輝は携帯に目をやる。

――――――――――――――――――――――――

0:10[B-2薔薇庭園]
弾は相手から見て真っ直ぐ僕に放たれる。

――――――――――――――――――――――――

「よお、その携帯には何が書いてあるのかな?」

確かに弾は真っ直ぐ放たれた。
ただし『天野雪輝』に向けてではなく『未来日記』に向けて―――――。

「このっ!」

地面を転がるようにして避け、雪輝は自分に支給されたM9ミリタリーを敏夫に向けて発砲する。しかし、不安定な体勢から放たれた弾は敏夫には当たらずその横を突き抜けていく。
まさに形勢逆転。
実際に敏夫は雪輝の携帯電話が『未来日記』であるとの確信は無かった。だが、攻撃される間際に携帯を開く行為に理由が無いはずは無い。
だから、敏夫はカマを掛けたのだ。
そして雪輝の今の反応で確信する。どんな物かまでは分からないが、あれは敏夫の放つ弾の飛ぶ方向を確認できるなど不可思議な性能を持つ携帯電話だと。
更にあれが破壊されると雪輝にとっては非常にまずいということも。


「(まずい、まずいまずいまずい!日記の意味に気付かれた!)」

雪輝には対抗して戦う勇気ももう残っていなかった。目の前の男は未来日記の存在に気付き、日記を狙って攻撃してくる。故に長期の戦いは逆に雪輝を滅ぼすことにつながるのだ。
どうにかして逃げなければならない。雪輝は必死に、目の前の男から逃げる策を考える。
その時、足元に生えていた薔薇に足元を掬われ、雪輝は盛大に転倒する。

「(……哀れだな)」
「ひぃっ…来るな、来るなぁぁああああああああああ!!」

雪輝は闇雲にディバックから取り出した『何か』を敏夫の後ろに放り投げた。
破片手榴弾ならまずい。この距離でも敏夫に致命傷を負わせることができる。
だが、それは手榴弾ではない。
それは、起爆と同時に大音量の爆音を炸裂させる『音響爆弾』であった。

キィィィィンンン!!と、とてつもない音が鳴り響く。敏夫の行動が封じられ、雪輝の聴力も一時的に奪われる。今敏夫を撃てばよかったのだが、雪輝は一目散に走り出した。後には、敏夫だけが残された。



「…っ、ぁあ…くそ、逃げられたか」

耳が聞こえない。一時的だが、あの大音響にやられてしまったらしい。
惜しかった。最初から相手の弱点は携帯だと気付けていれば、勝つのは敏夫だった。
聴力が戻るまではあまり動かない方がいいな、と誰にともなく呟き、敏夫は立ち続けた。彼は何を考えたのだろうか。殺した妻のことか、『屍鬼』のことか。
それは、彼にしか分からなかった。

【深夜/b-2薔薇庭園】
【尾崎敏夫@屍鬼】
[状態]聴力低下(一時)
[所持品]デリンジャー、カッターナイフ@学校であった怖い話
[思考・状況]
0:殺し合いの主催者を殺す。
1:『屍鬼』である結城夏野、村迫正雄は必ず殺す。
2:『屍鬼』が他にも居た場合それらも殺す。
※漫画版七巻終了後からの参加です
※天野雪輝の声・服装・容姿を記憶しました



失敗した。未来日記を見破られたくらいで、情けない話だ。
僕は止まるわけにはいかない。父さんと母さんを生き返らせるまでは、止まれない。
僕は殺し合いに乗る。優勝して僕はみんなを『ハッピー』にするんだ。

【天野雪輝@未来日記】
[状態]砂埃が付着、疲労(中)、聴力低下(中)
[所持品]M9ミリタリー@現実
[思考・状況]
0:優勝してみんなをハッピーにする。
1:由乃は利用して、最後には全てを話してから殺害する。
2:無理そうな相手ならすぐ逃げる。
※10巻、ツインタワービル脱出後からの参加です
※未来日記に制限は無く、本物です

【支給品説明】
【カッターナイフ@学校であった怖い話】
語り手の一人、岩下明美の物。
岩下1話目のバッドエンド時に主人公を殺害したもので、血はその時のもの。

【音響爆弾@未来日記】
9th『雨流みねね』の持つ爆弾の一つ。
作中では刑事の西島と通り魔である3rd・火山高夫の撃退に用いられた。

ボーナスゲーム・スタート 投下順 とある探偵の最終兵器
GAME START 尾崎敏夫 [[]]
GAME START 天野雪輝 [[]]

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最終更新:2011年08月18日 00:35
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