D-2エリアの映画館は、つい最近まで営業していたような痕跡がある。
座席に散らばっているポップコーン、残されたままの炭酸飲料、上映終了時のままの映画のフィルムが残されてあるその光景は、あまりにも異質すぎた。
例えば、映画館の映画上映中に乗客全員を『強引に』追い払ったような。
蛍光灯は灯されたまま、無機質な空間を照らしている。
松田桃太は、その光景から発せられる違和感に恐怖していた。
「終わったんじゃ…ないのか……?」
呆然と呟く松田。
松田桃太は人類の歴史史上最悪クラスの凶悪犯『キラ』対策捜査本部の一員である。
本部の中では一番頼りない存在であったし、多少キラに共感してしまうこともあった。
だが、結果的にはキラ――――『夜神月』を糾弾し、その最後の悪足掻きを阻止して見せた。その後に夜神月は味方であった死神に裏切られ、皮肉にも月が悪を『裁く』際に利用していた最悪の殺人兵器ーーーーーー『デスノート』により殺害された。
何もかも終わったと思っていた。松田たちの長い戦いは終わったのだと。
だが違った。何も、終わってなどいなかった。世界を―――否、時代を揺るがすほどの超巨大な『悪』は、世界に君臨する。
「古戸ヱリカ……!!」
松田は強い憎悪を主催者に感じていた。夜神月の『キラ事件』は、絶対に許されない悪行だとしてもそこには『悪の無い世界』を作りたいという真っ当な理由があった。
だが、古戸ヱリカにはそれが無い。
人の命を弄び、見せしめと称してまだ年端もいかない少女の未来を奪う。そこには夜神月が持っていた歪んだ正義さえも無い、正にただの『悪』ーーーー。
先程ホールで行われた『開会式』において、無惨な死体を晒すのは本来松田の方だったかもしれない。彼は許せなかった。冗談だとしても
殺し合いを喜劇と称したことに、声を張り上げて反論しようとした。彼を寸でで止めたのはあの世界的な名探偵にして松田の『戦友』ーーーL。
信じられなかった。Lは夜神月の策略により殺害されたはずだったが、目の前で松田の肩を掴むのは確かに松田桃太の知る『L』であった。
その極端なほどの猫背をする人物を松田は他に知らない。
「L……!?どうして貴方がここに!?」
思わず大声を出してしまう辺り自分はまだ足りないなと実感したが、そう言わずにはいられなかった。Lは『キラ』である月が死んだことを、事件が解決したことを知っているのだろうか。
死人が生き返るというまるで漫画やアニメの世界のようなあまりにも突拍子もない『非科学』を突きつけられたことにうろたえ、思考がぐちゃぐちゃにかき乱される。
落ち着かなければならないのに、落ち着くことができない。
「……落ち着いて下さい。私も何故自分が生き返ったのかは分かりません」
「L…やはり貴方は……」
L自身も自らの死を認識しているらしい。これはどういったことだろうか。
死者を蘇生させる技術。それを主催者・古戸ヱリカは保持している――――。
一番現実的で非現実的。
その事実に対する解答はLにも出せないようだ。
それは当然の話。夜神月やLにはこの現実に解答を出すことは出来ない。いや、彼らには『解答が理解できない』。この会場には解答を出せる者も何人かは存在するが、彼らにはそれは不可能だ。
死人を生き返らせる魔法なんて答えを、彼らは信じられずに自ら拒絶する。
主催者の一人であり実質的な黒幕"奇跡の魔女"ベルンカステルはとてつもなく強大な力を有する。彼女ら『魔女』にとっては一桁の足し算より死者を蘇らせることは容易いし、逆に生者を殺害することも容易いことである。
彼らも、その力を受けた。
L。世界的な探偵さえ井の中の蛙。それが人の理から外れた『非科学』の力。
「…貴方が声を張り上げたところで、何も変えられませんよ」
「変えられるかもしれないじゃないか…賛同者が出ればきっと、」
「彼女は私たちに何かを仕掛けていると思われます」
松田の声を遮ってLはそう耳打ちした。これは単なる考察で、確信となる証拠は無い。
だが、ただ殺し合いを行えと言われれば、当然反対者が力づくの抵抗に出るだろうし、殺し合いの場から逃走される可能性もまた非常に高い。
一度は死んだ者さえ蘇らせ、これだけの人数を誘拐してまで殺し合いを遂行しようとするような輩が、こんな簡単なことに気付かない筈が無い。間違いなく気付いている。
だからこそ、古戸ヱリカは何かしらの『対策』を講じている可能性が高い。
もしかしたら彼女の配下には屈強な兵士達が居て、武力で反乱を制圧するのかもしれないが、だとすれば殺し合い自体がパニックになった参加者により成立しなくなることも有り得る。とすれば、ヱリカは参加者である自分達の体に何か細工を施し、反乱を抑止できるようにしているとLは考察した。
松田に反論することは出来なかった。
やはり、L本人だ。
この冴え渡る頭脳はあらゆる可能性を考慮し、常に答えを導きだしていく。
松田の知るLと何一つ違いはない。そして松田もいつしか冷静に戻っていた。
その後すぐに。神楽と呼ばれたチャイナ服の少女が『反乱対策』に殺害された。
無惨すぎる。松田は嘔吐する。胃の中の吐寫物を吐き出して、やっと立ち直った時にここまでの対策の効果を確かに知る。こんなグロテスクな対策を取る意味を、理解する。
これほどの惨状を見せつけられれば、立て前の正義などでは立ち上がれない。
恐怖による感情の操作。ここにキラ事件につながるものがあった。
夜神月―――『キラ』は、悪人を大量に殺害していった。死神のノートによって。
その効果は、悪事を犯せば死ぬかもしれないという恐怖を人々に与えていった。
月がキラとして君臨している間、世界中の犯罪の数が激減した事実もある。
「……酷い。何てことするんだ!」
「松田さん」
Lはただ松田の事を呼んだ。それは確かに窘めるようにも聞こえたが、ある感情がある。
―――――激しい怒り。
Lは激情していた。感情を表に出しはしないが、主催に対する怒りが声にはあった。
人の命を命と思わない行為。それは卑劣。
「絶対に、古戸ヱリカを逮捕しましょう」
「……こちらもそのつもりですよ、L」
◆
松田は支給品の確認をするためにデイパックを開く。まず真っ先に目に飛び込んできたのは、あまりにも衝撃的な物。松田の知る限り、最悪の殺人兵器―――『デスノート』。
何故これを主催者が所持している。あまつさえ、支給する意味が分からない。
古戸ヱリカが偽名でない限り、ヱリカ自身の首を絞めることになってしまう。
だが、ヱリカも馬鹿ではない。
松田に支給されたのはLの後継者のニアが部下に作らせた偽物のデスノート。
勿論、名前を書かれても何も起きない。
松田はそれに気付かずに自分の中で必死に考えを巡らせる。
「(もし……これにヱリカの名前を書けば、誰も死なずに終わるんじゃないか?)」
ここは映画館だ。探せば筆記用具の一つや二つすぐに見つかるだろう。
書くとすれば二人。蘇ったキラ『夜神月』と憎むべき主催者・『古戸ヱリカ』。
更に言えば、これを持ち帰れば、この先何か大事件が起きたときに対処できるのだ。
これを手にすると月の、キラの気持ちが分かる。
どんなに最悪な人間でも名前を書くだけでこの世から排除できる。
闇の誘惑だった。
正しい方向にこのノートを使えば、世の中を導ける。それこそ『キラ』のようにーー。
邪な考えが次々と頭に浮かぶ。偽物とは知らずに、松田は誘惑に酔う。
「(駄目だ、松田桃太……それじゃあ月君と、キラと同じじゃないか)」
首をぶんぶんと振って偽物のデスノートをデイパックに押し込み、もう一つを取り出す。それは光っていた。日本昔話御用達の木こりが使うようなごく一般的なサイズの斧。
殺傷能力は十二分にあるのだが、松田は外れという感情を抱かざるを得ない。
殺し合いに呼ばれている人物を一人一人把握している訳ではない。例えば、凶悪犯やテロリスト、蘇った死刑囚などが紛れている可能性も考慮すべきだ。
名簿には『シャーロック・シェリンフォード』や『ディルムッド・オディナ』などの洋名が記載されている。もし時代の垣根を越えて参加者が選ばれているのだとすれば、松田の知らないだけで歴史に名を残す極悪人がこの殺し合いに参加させられているかもしれない。
そう言った人物相手には、拳銃を使って対処するのが一番望ましい。
ロクに触れたこともない斧で敵を制圧するのは非常に困難だと松田は考える。
結局支給品はそれだけ、残念だが外れだった。
顔写真付きの参加者名簿を眺める。そして再度眉を顰めた。
視線は二つの名前を行ったり来たりする。
――――――『夜神月』と『弥海沙』の名前を、深刻な面持ちで見つめる松田。
どちらも超が付くほどの危険人物だ。
月はまだ殺し合いに反発する可能性があるとして、弥海沙はほぼ確実にこの殺し合いに乗ってくる。夜神月を生還させるために、平気で人を殺す。
松田自身、この殺し合いを打開するには月の頭脳が必要だと悔しいが思っていた。
夜神月の頭脳でLの頭脳を補完すれば殺し合いだってどうにかできるかもしれない。
あの場でLには言わなかったが、Lも同じことを考えていた可能性は十分にある。Lは『キラ』として月を疑う中で、月の頭脳に関しては非常に高い評価を下していた。
キラと頭脳戦を繰り広げてきたからこそ、この状況で最も頼もしい相手だと言わざるを得ない。Lがそう考える可能性は高いだろう。
皮肉なものだった。自分たちが滅亡に追い込んだ相手を自分が今度は求めている。
自分一人では何もできないのだと松田は実感させられる。
「(僕は…どこまで不甲斐ないんだ…。)」
自己嫌悪に陥る彼の背後から、一人の少女が近付いてきている。
この殺し合いにおいてトップクラスの危険人物、未来日記所有者『2nd』我妻由乃。
その手に持つのは、銀の光を放つ刃―――――短刀だ。
彼女は少なくとも二度、殺し合いのサバイバルゲームを経験している。
故に、わざわざ声をあげて襲撃したりはしない。
ただ静かに背後に忍び寄り、狂気に満ちた笑顔を浮かべながら、刀を――――
松田に刀を振り下ろすことはなかった。
直前に第三者の射撃が的確に刀の刀身に当たり、由乃の手から弾き飛ばしたのだ。
刀が砕けないのが不思議なほどの見事な当たり。
松田は驚いて振り返るが、状況を理解するのに少々時間が掛かってしまう。
やっと状況を理解した松田は、一か八か支給された斧を構えてみせる。
「――――君は逃げるんだ。相手は相当手慣れているようだからね」
「…嫌だ。僕も、あの子を止めるのを手伝う」
「背後からの殺気に気付かないような素人は足手まといだと言ったつもりだけど」
男の口調は厳しかった。
松田も、まさかこれほどまでに強く拒絶された事に微かな苛立ちを覚える。
だが、冷静になるとあれほどの射撃精度を持つ彼はプロの傭兵か何かかもしれない。
だとすれば松田の力では足手まといになる。
「……僕に出来ることは」
「ここから立ち去る事が一番助かる」
くそっ!と叫んで、松田は走り出した。どこまでも不甲斐ない自分を猛烈に嫌悪して。
【深夜/D-2映画館】
【松田桃太@DEATH NOTE】
[状態]強い自己嫌悪
[所持品]デスノート(偽)@DEATH NOTE、斧@現実
[思考・行動]
0:この殺し合いを止める。
1:………くそっ
2:Lと合流したい。
3:月君の協力を得たい。
4:弥海沙を警戒。
※原作終了後からの参加です
※デスノートを本物だと思いこんでいます
■
松田桃太が去った後。射撃の主―――衛宮切嗣は襲撃者・我妻由乃に銃を向けた。
銃の銘柄はデザートイーグル。使ったことは無いが、慣れれば問題は無い。
由乃もまた落ちた刀を取る。
ここで一つ説明しておくと、由乃の持つ刀は普通の刀ではない。
魔界の偉大な鍛冶が打った刀で、弾丸くらいでは破壊することは出来ない。
由乃はそれを再び掴み取ると、切嗣に向けて走り出す。闇雲に走っているわけでは無い。危険な賭けだが、切嗣の放ってくる弾を何とか避けられる角度から攻撃を加えられるように計算されている。
切嗣はそのまま由乃に向けて弾を放つが、由乃に当たってはいない。由乃の近くの足元に弾は着弾し、わずかに由乃のバランスを崩した。それで十分だった。
由乃の刀による突きを避ければ、先ほどバランスを崩した効果が出てくる。
体勢の立て直しに僅かではあるがタイムラグが発生したその一瞬を切嗣は見逃さずに、一気に由乃の懐に潜り込み、拳をその腹に打ち込む。更に動きが止まった側頭部に横から蹴りを打つ。
由乃が吹き飛び、切嗣は更にまだ体勢を立て直さない内に発砲する。
頭を反らすが、頬に一筋のかすり傷が生まれていた。
由乃は日記所有者を殺害する中で、多くの戦いを繰り広げてきた。
この男は戦場マルコに近い格闘センスを持っているが、根本的な人間としての部分で決定的にマルコとは違う。衛宮切嗣には一切の躊躇い・迷いが無いのだ。
敵と認識したなら容赦無く急所に射撃してくる、まるで殺し屋のような。
あながち間違ってはいない。彼は魔術師を幾人も破り、葬ってきた『魔術師殺し』の異名を持つ男なのだから。彼の前には泣き落としは通用しない。
「チィッ!この……っ!!」
弾が由乃に向かい、接近することさえ許さない。
由乃は映画館の椅子の陰に隠れて体勢を立て直そうとする。しかし、それは切嗣にとっては有り難いことである。弾を詰め直すと、今度はディパックに入っていた『もう一丁の銃』を取り出す。
イングラムM12。要するにサブマシンガンだ。
それを由乃の隠れたと予想される座席に向け、一気に弾を放つ。ぱらららららららっ、という銃声が続くが、切嗣は眉を顰めた。由乃の姿が無い。
後ろを振り返るまでも無かった。我妻由乃は隠れたと見せかけて別の場所に隠れた。
ならば、背後にむけてイングラムを放つ。
反動で弾道は大幅に反れたが、確かに弾は放たれた。
それでも。背後に我妻由乃の姿は確認できなかった。
「………さっきの」
先ほど逃がした男を追ったらしい。確かに賢明な判断であったといえる。
だがやる事は変わらない。追って我妻由乃を射殺する。
二人を救うために一人を殺し、万人を救うために千人を殺す。
歪んだ正義の味方、衛宮切嗣は駆けた。
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康
[所持品]デザートイーグル@現実、イングラムM12@バトル・ロワイアル
[思考・行動]
0:殺し合いに乗った者を殺し、乗っていない者を助ける
1:我妻由乃を追跡し、殺害する
2:サーヴァントにはなるべく近付かない。
※少なくとも聖杯の泥を浴びる前からの参加です
■
我妻由乃は、衛宮切嗣の読み通りに松田桃太を追跡していた。
『雪輝日記』には、最愛の恋人・天野雪輝が殺人に失敗したと表示されている。
返り討ちには遭わなかったらしい。
由乃の求めるのは天野雪輝、もしくは自分の優勝。どちらかが生き残れば、もう片方を蘇生させることができる。それさえあれば、既に『救われた』彼女には何も必要なかった。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]腹部にダメージ(中)、疲労(小)
[所持品]魔界の刀@うみねこのなく頃に、不明支給品1
[思考・行動]
0:天野雪輝もしくは自分が優勝できるようにする。
1:松田桃太を追って殺害する。
2:衛宮切嗣は後で必ず殺す。
※原作終了後からの参加です
| とある探偵の最終兵器 |
投下順 |
冷戦 |
| GAME START |
松田桃太 |
[[]] |
| GAME START |
衛宮切嗣 |
[[]] |
| GAME START |
我妻由乃 |
[[]] |
最終更新:2011年08月18日 00:43