友達ができるよ、やったねマミちゃん

 『過負荷』であり『負完全』な男・球磨川禊は傍からその戦闘を見詰めていた。
 始まりはそう、暗闇の中で聞こえた女性の悲鳴。
 恐怖に満ち満ちた悲鳴に釣られてみれば、そこでは既に戦闘が繰り広げられていた。
 一人の男と、一人の少年。
 金色の髪に、ファッションとするにも余りに奇抜なグルグルと渦を巻く眉毛。
 黒色のスーツに身を包む男は蹴りを主体とした戦闘で少年を迎え撃っていた。
 対するは白色の布一枚で身体を覆った、あどけなさが残る少年。
 球磨川から見ても何処か底の知れない少年は、男の蹴りをいなし、受け止め、回避する。
 攻めるは男、守るは少年。
 男の攻めは苛烈で、また常識離れした速度と威力を秘めていた。
 蹴りが地面を捉える度に、地面に僅かな振動が響く。
 蹴りが木々を捉える度に、木々は真っ二つにへし折れ、地面に横たわる。
 また蹴りは一撃では終わらない。
 巧みな体捌きで身体を操り、間断なく蹴りを飛ばす。
 球磨川の後輩たる人吉も常人離れした蹴り技を持つが、眼前で戦闘をしている男には到底敵わないだろう。
 あの黒神めだかであっても、通常の状態であれば苦戦は確実に思える。
 そして、そんな男の蹴りを余裕の風貌で受けきる少年もまた、常識離れの存在だ。
 前述の男の攻撃を、こともなげに耐えきっている。
 木々をへし折る蹴りを、その両腕で防御し、時には掌で受け止めさえする。
 どんな防御の型をとったところで、あんな攻撃を身体で受ければ骨の一本や二本は易々と砕ける筈だ。
 だというのに、少年は防ぎきる。
 痛みの一つも浮かべることなく、男の攻撃を終始として捌き切る。
 眼前で繰り広げられる攻防に、球磨川は思わず溜め息を吐いて大仰に肩をすくめた。
 見ているだけで分かる。
 彼等は『特別』な『エリート』なのだろう。
 肉体的にも精神的にも、彼等は人よりも強い。
 自分のような『過負荷』とは違い、真っ当で真っ直ぐでカッコイイ存在。
 少年漫画的に云う『ヒーロー』にあたる存在が彼等なのだろう。
 何故二人が戦っているかは分からないが、それでも戦闘をする理由に『過負荷(マイナス)』の気配は感じられない。
 彼等は彼等の信念に従って戦っているのだ。

(『カッコイイなぁ。こんな殺し合いでも信念を貫き通す! いやあ、まさに少年漫画の主人公って感じだ』)

 こんな殺し合いで活躍するのは、自分のような『過負荷』ではなく彼等のような『ヒーロー』なのだろう。
 自分など精々モブキャラA的なノリで殺されるのが落ちだろう。
 球磨川は再び小さく溜め息を吐き、呆れたようにその細い肩をすくめた。
 この殺し合いには『過負荷』の仲間も参加していない。
 唯一の知り合いは究極の『エリート』たる黒神めだかぐらいだ。
 球磨川は思う。
 黒神めだかに掛ればこの殺し合いさえも容易く打開してしまうのだろう。
 皆が皆、黒神めだかや眼前の男達のような『ヒーロー』に救われていくのだろう。
 そこに『過負荷』の出番はない。
 『過負荷』など、咬ませ犬の如く扱いで淘汰され、もしくは排除される。
 元々の世界でもそうだった。
 社会からつまはじきにされ、忌み嫌われ、嫌悪されて、恐れ避けられて、暮らしてきた。
 世の中は『マイナス』でできている。
 それを知っている球磨川には、殺し合いの行く末が分かる。
 黒神めだかや『ヒーロー』が勝利したとしても、例え黒神めだかや『ヒーロー』が敗北したとしても、其処に『過負荷』の居場所はない。
 元の世界に戻ったって居場所などないのだ、こんな殺し合いで居場所などある訳がない。

『んー、そうだなあ』

 明り一つない市街地にて息をひそめ、球磨川は思考する。
 この殺し合いの中で、『過負荷』である自分はどのように動いていけば良いのか。
 勿論、『過負荷』だからといってただ黙って殺されてやるつもりはない。
 死んだところで『大嘘憑き』の力で復活できるのだが、それでも死ぬ訳にはいかない。
 死んだら彼女と出会う事になるし、何よりも誰にも見せぬ自分の奥底で心が叫んでいる。
 アイツ等に、勝ちたいと。
 黒神めだかのような『エリート』達に勝ちたいと。
 こんなどうしようもなく『マイナス』で、嫌われ者で、憎まれっ子で、やられ役な『過負荷』であっても、主役を張れるんだと証明したい。
 誰にも打ち明ける事のないだろう対抗意識が、心の奥底で滾っている。

『取りあえずはマイナス十三組の代表として頑張ってみようかな』

 殺し合いには乗らない。
 乗ったところであの兵頭とかいう爺を喜ばせるだけだし、それに未成年での殺人は損をした気分になる。
 だが、殺し合いを止めようとも思わない。
 殺し合いたければ殺し合えば良いし、どうせ黒神めだかのような『ヒーロー』が殺し合いなど止めてしまう筈だ。
 一先ずは早々に首輪を外して、この生死の境にいる状況を抜け出したい。
 それでもって『過負荷』として出来る事をしていくだけだ。

『ん、あれは』

 男と少年の戦闘に見切りをつけ、球磨川は行動を始めようとしていた。
 そこで、発見した。
 ぶつかり合う二人から少し離れた場所にて横たわる、少女。
 学生服に身を包んだ少女は、見たところ球磨川と同年輩か。
 少女はぐったりと身体を横たえ、動こうとしない。
 おそらくは気絶しているのだろう。

『あの子がさっきの悲鳴の子かな?』

 前方の二人の意識は戦いに囚われていて、女性へは向けられていない。
 ふむ、と何かを考えるように球磨川は顎に手を当てる。
 表情には何時も通りの子どもっぽい笑顔が張り付いていて、球磨川の心中を読むことはできない。
 その体勢のまま僅かばかりの時間が過ぎ、そして球磨川は動き出した。
 気絶中の少女の元へと、物陰から出て近付いていく。
 戦闘中の男達へと意識を向け、バレないよう息を潜めて行動する。

(『ま、バレたらバレたで面白そうだけどね―――』)

 と、心の中で呟きながら球磨川は女性の元へと辿り着く。
 女性の側へ屈み込み、その様子を伺う球磨川。
 女性に息はあり、予想通りに気絶中であった。
 球磨川の口端が引き上げられ、にんまりと弧を描く。
 『過負荷』の頂点に立つ男は察知していた。
 最初の最初に聞こえてきた声。
 恐怖、驚愕、絶望、拒絶……様々な感情に満ちた悲鳴は、言ってしまえばマイナスそのものであった。
 しかも、その声はこの『バトルロワイアル』という状況だけで形成された薄っぺらなものではない。
 恐らくは長年蓄積された、凝縮に凝縮を重ねた上で、限界を越えて暴発したかのような『悲鳴(マイナス)』だ。
 球磨川は女性をお姫様だっこで担ぎあげる。
 この子は少なからずの『過負荷』を抱えてこの殺し合いに連れて来られた。
 話を聞いてみよう、というのが球磨川の考えである。
 幸運なことに少女の強奪に、二人の戦闘者が気づく様子もなかった。
 というより、球磨川の隙を突くスキルが余りに高すぎるのだ。
 球磨川禊は自身を地球上で一番弱い生き物だと自負している。
 球磨川は弱さという弱さを全て知り尽くして生きてきた。
 だからこそ弱点や死角といった『突くべき隙』を察知できるし、だからこそ『地球上で一番弱い生き物』である球磨川は此処まで生き抜くことができた。
 そのスキルがここにきて光る。
 『突くべき隙』に付け込んだ球磨川は、ぶつかり合う二人のデタラメーズを出し抜いて、少女を連れ去ることに成功した。
 少女を抱きかかえながら、球磨川は争乱の場から離れていく。
 視線を少女へと落としながら、球磨川は夢想する。
 この殺し合いの中でも『過負荷』な人々はいる筈だ。
 そんな『過負荷』とぬるい友情を築き、無駄な努力をして、むなしい勝利を掴み取る。
 その第一歩目が、この少女だ。
 少なからずのマイナスを心に溜めこんだ少女。
 『過負荷』にして『負完全』な少年が僅かに心を弾ませながら、市街地を歩いていく。


【一日目/深夜/G-4・市街地】

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:『『過負荷』とぬるい友情を築き、無駄な努力をして、むなしい勝利を掴み取る』
1:気絶中の女性から話を聞く
2:首輪を外したい
3:黒神めだかについては保留。
[備考]
※戦挙編・書記戦終了後からの参戦しています


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]健康、恐怖、
[装備]ソウルジェム(穢れ無し)@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:気絶中
1:もう何もかも怖すぎる
[備考]
※シャルロッテ戦・捕食の直前から参加しています



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最終更新:2011年08月24日 23:17
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