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閉ざされた世界

「どうだい? 『第三候補(サードプラン)』の様子は」
「上々だよ。肉体は完全に修復できた。能力も十二分に発揮できる筈だ」
「それにしても凄いね。あんな状態の人間を完全に修復するなんて」
「私が持つ技術だけでは到底不可能だったさ。私の技術は壊す事や痛めつける事を前提としているからね。延命措置ならば得意なのだが、まあこれだけの世界の技術が集結しているんだ。蘇生もできない訳がないだろう」


 声が、聞こえていた。
 何も見えず、身体も動かせない中で、声だけが聞こえる。


「正直、人類の技術力には末恐ろしさを感じるよ。このまま進歩を続けていけば、そう遠くない未来、人類は僕の母星をも上回る技術力を手に入れるだろうね」
「私としては君達の存在の方が恐ろしいさ。遥か遠い宇宙にて、宇宙の存命を目的に活動する生命体……ふ、本当に宇宙は、いや次元世界とは広いものだ」


 子どものように高く純粋な色を含んでいながら、それでいて淡白な雰囲気を滲ませた声と、口調は丁寧であれど聞いているだけで理由もなく不快感を覚える声。
 この声達は、一体何を話しているのだろうか。
 思考が回らない。
 重い。ただひたすらに頭が重い。


「それで『彼女』に行った細工はどうだった? 上手く作動しているのかな」
「今のところは支障なく作動しているね。充分に『集結』しているみたいだ」
「……『鍵』。この『第三候補(サードプラン)』や『もう一人の鍵』ならまだ分かるが、あんな何処にでもいそうな少女がそれだけの力を秘めているとはね」


 虚ろに漂う思考の中で、声だけが耳に届く。
 欠如した思考では、いや元通りの思考があったとしても理解不能な会話。
 漠然として時の中で、二つの存在が言葉を交わす。


「彼女は特別さ。因果を重なり合わせた末の結果だからね、僕達からしてもイレギュラーな存在だよ」
「……駄目だね、どうしても臆病になってしまうよ。正直言うと、私は『彼女』の存在を消し去ってしまいたい。『彼女』はただの人間のくせに力を持ちすぎている」
「へえ、人類の進化系である君であっても恐怖の感情はあるんだね。これは興味深い情報だ」
「当然だよ。むしろ人間よりほんの少しだけ進化してしまったからこそ、恐れるのさ。進化の隣人である人間を滅ぼさねば、種としての確立はないからね。
 君やネウロ、『彼』のような存在の方が、まだ親しみは持てる」


 『第三候補(サードプラン)』
 『彼女』
 『彼』
 『鍵』
 『もう一つの鍵』
 言葉としては聞き覚えのある、だがしかし真意の読めない言葉が流れていく。


「『彼』か。僕達からすれば『彼等』のような種族こそが脅威だよ。『門』を開き、別次元の世界からエネルギーを『持ってくる』、それこそ魔法のような力。エントロピーを完全に無視した存在だね」
「そのような存在こそを、君達は探し求めていたのではないのかな? 目減りする宇宙全体のエネルギーを補填してくれる存在じゃないか」
「君だって気づいてるんだろう? 『彼等』が生成した質量分のマイナスエネルギーが、ある一点に蓄積されている。しかも、そのマイナスエネルギーは『彼等』の種族が稼働すればする程、更に増加していくんだ。
 蓄積され続けたマイナスエネルギーが爆発でもすれば、それこそ文字通り宇宙は吹き飛ぶよ」


 宇宙のエネルギー。
 宇宙が吹き飛ぶ。
 一笑に値する冗談のようなスケールの話が、この声達を通すと何故だか真実味を帯びて聞こえた。
 まどろみの中で、困惑が漂う。
 声の主は何を目的としているのだろうか、と。


「余りに規模が大きすぎる。私には理解の及ばぬ話だね」
「そうなのかい? 君を見ていると、何だか全てを理解しているように感じるよ」
「買いかぶり過ぎだよ。私はそこまで万能じゃあない。所詮一度は人外の者に滅ぼされた身だ。過度の期待には答えかねるよ」


 意識が闇へと吸い込まれていく。
 二つの声も徐々に遠ざかっていく。
 眠気を何倍にも強くしたような感覚に、抗う事ができない。


「さて、『保険』も用意した。『必要悪』にして『第二候補(スペアプラン)』である『彼』。そしてこの『第三候補(サードプラン)』。『計画』は滞りなく進行できる筈だ」
「後は『鍵たる二人』を接触させるだけだね」
「ああ、楽しみだ。全てを知ったその時『鍵達』がどんな反応をしめすのか、想像するだけで心が沸き立つよ」


 片方の声はやはり平淡なもので、もう片方の声は吐き気を催す愉悦に満ちていた。
 ふと、気付く。
 意識が落ち掛けている事に自分は安堵をしている。
 これ以上、この声達の会話を聞かなくて済むと、心の底から安堵している。
 そんな安堵感の中で最後の最後に聞こえてきた言葉は、


「だから、君も精々頑張ってくれたまえ。『第三候補(サードプラン)』」


 大した期待もこめられていない、嘲りと侮蔑の含まれた声であった。
 逃げるように意識は更なる深淵を求めて沈んでいき、そして―――






 そして殺し合いが開始して十数分ばかりの時間が経過したその時、垣根帝督は薄暗い住宅街にてボンヤリと空を見上げていた。
 垣根は無表情に記憶を遡る。
 微睡みの中で聞こえてきた二つの声。
 朦朧とした意識の中で聞いた事だからか、その内容については殆ど零れ落ちている。
 だがそれでも、会話を聞いたという事実だけは記憶に刻まれていた。
 会話を聞いている中で覚えた不快感も然り、だ。

「……チッ、どうなってやがる」

 自分は、死んだ。
 いや、殆ど死んだも同然の状態であった。
 『超能力を吐き出すだけの塊』となり、停止した思考の中で身体が弄くられていく過程を見ていた。
 延命の為にとグシャグシャとなった身体を更に切り開かれ、切り分けられた。
 延命の為にと殆ど崩壊しかけていた頭蓋から脳を取り出され、切り分けられ、保管された。
 性善説という概念を抹殺してしまいたくなるような、最高にふざけた光景だったように思う。
 今にして思えば、自我を失っていた事が幸運に思える程だ。
 人道も、倫理も存在しない狂気の現場であった。
 まるで地獄のようであった。

「……くそっ」

 垣根帝督は大きく舌打ちをして、空を見詰める視線を険しいものにした。
 垣根の身体が僅かに震えていた。
 小刻みに、だが震えは身体全体を支配する。
 垣根を襲う感情は、恐怖であった。
 暗部に生き、何十という人間を惨たらしくも殺害してきた学園都市第二位の怪物が、恐怖に身体を震わせる。
 そんな有り得ない光景が、確かに深夜の住宅街にて広げられている。

「訳が分からねえぞ、おい」

 思い出せば思い出す程、震えが強くなる。
 生きながらにして身体を腑分けられるその記憶。
 その記憶は学園都市・第二位としての矜持も、自尊心すらも、打ち砕いていた。
 世界中の軍隊を相手取れる怪物を、恐怖に身体を震わせるただの少年へと貶める。

「どうしろってんだ」

 ふと思い出す言葉。
 思い出せた数少ないワードの中の一つ。

「どうしろってんだよ、おい……」

 『第三候補(サードプラン)』。
 自分など存在しないかのように交わされた言葉の中で、唯一自分へと向けられていた言葉。
 かつての学園都市でも、近い言葉に位置づけられていた。
 だからこそ印象強く、半ば気絶状態の意識の中でも記憶に残ったのだろう。
 アイツ等はこの殺し合いの根幹を知っているのだろう。
 この『バトルロワイアル』とやらの奥に潜む何らかの『計画』。
 その『計画』の保険の保険として―――『第三候補(サードプラン)』として、自分は参戦させられた。
 あんな状態だった身体を完全に修復させてまで、自分を殺し合いに参戦させたのだ。
 だが、分からない。
 自分は何を成す為に蘇生させられたのか、この殺し合いに於いて何をさせるつもりなのか、分からない。
 分からないからこそ、垣根は混乱する。
 地獄の記憶により脆弱となった精神には、ともすれば恐怖の念すら滑り込む。

「……ふざけやがって」

 夜空から視線を外し、恐怖を振り切るように首を左右に振る。
 それでも心に根付いた恐怖は、強引に怒りへと転化させる。
 自分は学園都市の第二位。
 そう簡単に利用されるような存在ではないし、やろうと思えばあの主催者陣だって容易く壊滅できる。
 殺し合いを終わらせ学園都市へと帰還したら、お礼参りも兼ねてあの狂った街を粉砕してやろう。
 統括理事会も、統括理事長も、あのクソったれな研究員達も、全員ぶち殺す。
 自分にはそれができる。
 そう、だから恐れる事はない。
 恐れる事ないのだ。

「ああ、ムカついた。ムカついたぜ、この野郎」

 垣根帝督は無人の住宅街を睨み付けて歩き出す。
 心根に確かな恐怖を宿したまま、そしてその恐怖を決して認めようとせずに、学園都市の第二位が活動を始める。
 そんな彼が、その男と遭遇したのは更に半々刻ほどが過ぎた時であった。
 適当に歩き回った市街地にて、隙なく周囲を警戒している男を発見する。
 垣根は道角にて身を隠しながら、男を観察していた。
 身体のラインにぴったりと張り付いた、青色のライダースーツのような服を纏った男。
 薄い褐色の肌と燈色の瞳。
 癖っ毛に曲がる髪は首元にまで伸びている。
 その風貌を見て、垣根の暗部としての勘が鮮明に告げていた。
 この男は、若い見た目と反して荒事に慣れている。
 それも生半可にではなく、相当なまでに、だ。
 だが、その外見からして学生ではないだろう。
 つまり、超能力の類は使えない。
 垣根が有する学園都市第二位の超能力・『未元物質』にはどう足掻こうと敵う事はない。
 まぁ、例え能力が使えたところで垣根と勝負になる訳がないのだが。

(さて、どうするか……)

 垣根は思案する。
 殺し合いに乗るか、乗らないか。
 たった数十人ばかりの人間を殺害するなど、垣根からすれば欠伸が出る程に容易い事だ。
 だが、こんな殺し合いに巻き込まれただけの哀れな人間を見逃すぐらいの恩情は、垣根だってまだ有している。
 しかし、殺し合いに乗ってしまった方が手っ取り早く、面倒でない事もまた確かだ。
 どうするべきかと、垣根は男を見据えたまま思考を回転させていく。
 先の男達の会話も気になる。
 腹立たしくも『第三候補(サードプラン)』と位置付けられた自分。
 奴等の魂胆は分からずとも、利用されていると知っていながら言う事を聞くほど、垣根はお人好しではない。
 奴等の思惑からは出来るだけ外れるように行動を取っていきたい。
 殺し合いに乗るか否か。
 どちらが正解なのかは分からない。
 垣根は第二位の脳をフル回転させながら、分かる筈もない問題を必死に解こうとしていた。
 そんな逡巡の垣根を置いて、事態は動き出す。
 視界の中にいる男が何かに気が付いたかのように顔を上げ、垣根の方へと顔を向けたのだ。
 気配は断っていた。物音もたててはいない。
 あのタイミングでバレる要素は何もなかった筈だ。
 だというのに、男はこちらに気が付いた。
 いや、それどころか、こちらに近付いてさえくる。

(チッ、どうする)

 思考の中に焦燥が混じり始めている事を、垣根は感じていた。
 どう行動すれば、自分はあの会話の主達の裏をかけるのか。
 殺し合いに乗ることが正解なのか、乗らないことが正解なのか。
 分かる筈のない自問に身を焦がしながら、垣根は接近してくる男を見つめる。
 そして、遂に男が垣根の隠れる道角へと到達する。
 塀を背に思考する垣根と、歩み寄る男とは最早数メートルと離れていない。
 手を伸ばせば届く距離に、男と垣根は接近し、



(……は?)



 そして男は、垣根へと視線を向ける事すらせずに、離れていった。
 思わず垣根は、ポカンと口をだだ開きにした。
 別段、男は垣根の存在に気が付いた訳ではなかったのだ。
 確かに男は『何か』に気が付き、顔を上げた。
 だが、それは垣根を発見したという訳ではない。
 また別の『何か』が男の注意を惹き付け、その歩みを向けさせた。
 右往左往と動揺していたのも、結局は垣根の一人相撲だったという訳だ。
 大きく垣根の舌が鳴る。
 その表情には明確な苛立ちが宿っていた。

(らしくねえことばかりじゃねえか、クソが)

 心中で悪態を吐きながら、垣根は男の後を追って歩き出す。
 深い考えはなく、ただの興味本位でしかなかった。
 自分でさえも気付けなかった『何か』に気付いた男に、垣根帝督は興味をもった。
 ただそれだけの事だ。
 男は何かに吸い寄せられるように深夜の家並みを進んでいく。
 垣根も気持ち距離を空けながら、男の後方を忍び歩いていく。
 男が立ち止まったのは数分ばかりの歩行の後であった。
 男は、住宅街に並ぶ民家の一つを前にして立ち止まった。
 垣根からは周囲のものと何ら変わりない民家にしか見えないが、男にとっては何かが違うのだろう。
 男はジッと家を見上げ、そして玄関を開けて、中へと入っていく。
 垣根はその様子を見て、民家の裏側へと回り込んだ。
 男が気付いた『何か』はこの民家内にあるのだろうが、バカ正直に後へ続けば流石に追跡がバレてしまう。
 家の側面にある窓を覗き、垣根は室内の様子を観察する。
 そこには、一人の怪我人と一人の少女がいた。






 ソレスタルビーイングのガンダムマイスター刹那・F・セイエイは、急転した事態に混乱の極みへと叩き込まれていた。
 人類の存亡を賭けた『対話』を果たす為、ダブルオークアンタを駆り、ELSの母星へと量子ワープを行った。
 ELSが母星の位置は木星。
 通常の航路を取れば年単位での期間が必要な距離も、ダブルオークアンタの力をもってすれば一瞬に短縮できる。
 そこでELSと『対話』を行い、相互理解を深めていた……その最中であった。
 なのに、気付けばこの殺し合いの場にいた。
 クアンタからも降ろされ、宇宙空間にいた筈の自分が地面へと立っている。
 何が起きたのか、刹那の理解が追従する事はない。
 混乱の渦中に落とされた刹那は、それでも何とか冷静の思考を取り戻そうと努めた。
 謎の老人から伝えられた『バトルロワイアル』という名のゲーム。
 生き残る為には他の参加者を殺害し尽くさねばならない、人道という言葉からかけ離れた陰惨極まる殺し合い。
 刹那は自身の内側にたぎるものを感じていた。

(変わらない……)

 争いを見てきて、争いを無くそうとし、争いに生きてきた。
 その末に緩やかなれど世界は変革されていった。
 争いの無い世界へと、皆が皆で手を取り合える世界へと、少しずつ少しずつ変わっていった。
 勿論、全ての争いが消失した訳ではない。
 世界の各地では小規模な紛争が続けられているし、それを利用して自らの利益を手に入れようとする人間もいる。
 だからソレスタルビーイングは存在し、誰にも知られぬ歴史の裏側で活動を続けてきた。
 それでも確実に人々の心へ変革の光は灯されていき、その範囲は拡大していった。
 そう思う。
 そう信じている。
 だからこそ、心の内側で騒ぎ立つものがある。
 変革していった世界で、ELSという異種生命体の襲来により一致団結した世界で、そんな世界でも、このような事を執行する人間がいる。

(変わらないのか……人の心は……)

 苛立ちと、そして虚しさが宿る。
 世界とは、人の心とは、変わらないのか。
 ELSの襲来、人類の滅亡という障害を乗り越えて尚も、変わらない者がいる。
 その事実は刹那へと苛立ちと、そして苛立ちを遥かに超える虚しさを与えていた。

「なら、俺は―――」

 刹那の瞳に、刹那の身体に、力が籠もる。
 この殺し合いを、このバトルロワイアルを、止める。
 ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、刹那・F・セイエイとして、自分は動く。
 それが自分の成すべき事、成さねばならぬ事だ。

「―――破壊する……俺は、この歪みを破壊する」

 デイバックの中にあった拳銃を装備し、刹那は暗闇の中を歩き出す。
 最初期の場は暗闇の森林であった。
 刹那は周囲を警戒しながら道無き道を進み、人を探し始める。
 だが、十分二十分と経過せど、人の姿は発見できない。
 焦りが募り始めてくるが、こればかりはどうしようもなかった。
 ただ五感と足に任せて会場を踏破していくしかない。
 森林を抜け、住宅街に差し掛かる。
 人の気配も灯りの一つもない住宅街は、言いようのない重圧を刹那へと与えていた。
 周囲を見回しながら道を進むも、やはり人の気配はない。
 音もなく、静かな静かな世界であった。



「―――ッ!?」



 その時だった。
 市街地の探索を始めて十数分ばかりの時間が経過したその時の事だ。
 声が、聞こえた。
 どうしてこうなったの、と。
 怖いよ、と。
 助けてよ、と。
 声が、聞こえた。
 まるで脳内に直接語り掛けられているような声であった。

(これは……)

 近い感覚を上げるとすれば脳量子波による共感と同調。
 だが、その感覚は今まで経験したそれとは異なる、あちら側から語りかけてくるだけの、まるで一方通行の共感であった。
 頭蓋に直接語りかけてくる声は、悲壮と悲痛と絶望に満ちている。
 刹那は―――純粋種のイノベイターたる男は頭蓋に響いた声に顔を上げ、振り返った。
 そして、声のする方角へ引き寄せられるように、歩みを始めた。
 声はまるで泣いているかのようであった。
 いや、実際に泣いているのかもしれない。
 この声の主はイノベイターと成りうる可能性を持っているのだろうか。
 だからこそ、この殺し合いに呼ばれてしまったのか。
 もしかしたら、この殺し合いはイノベイターに対する忌避感を有する者が開催したのではないか。
 止めどなく溢れる考えに包まれながら、刹那は足を早めていく。
 数分後、刹那は一軒の民家を前に立ち止まっていた。
 何の変哲もない、灯りも灯っていないただの民家。
 刹那は躊躇う事無く家内へと侵入していく。
 侵入し、そして発見した。
 六畳ほどの和室にて寝かされている男と、その枕元にて男を庇うように両手を広げている少女を。
 刹那は発見した。
 発見し、理解する。
 あの声の主は、この少女なのだろうと。
 理解し、口を開いた。

「落ち着け。俺は殺し合いには乗っていない」

 拳銃をデイバックへと収め、戦意はないと伝える為に両手を頭上へと上げ、言葉を紡ぐ。
 紡いだ言葉に、少女は一瞬の当惑を浮かべ、安堵感に脱力した。
 ほどけた緊張に身体を弛緩させ、少しの間を開けてしゃくりを上げる。
 少女は声を押し殺すようにして、涙を流し始めた。






 そして、そんな少女の泣き声を、垣根帝督は民家の裏庭にて聞いていた。
 どっちらけだ―――正直に今の垣根の気持ちを表すならばこうであった。
 男の追跡の果てに何が待ってるのかと思いきや、どっからどう見てもただの学生でしかない少女に、満身創痍の怪我人だ。
 あそこまで身構えていたのがアホらしくなる。
 滑稽とも言えた。
 あんな暗部のあの字も知らないようなガキを集めて殺し合い?
 第二位の力を、あんなガキや能力者でもない男を数十人ばかり殺害する為に使え?
 馬鹿らしい。
 ああ、馬鹿らしい。
 深く考えるのは止めだ。
 俺は好きなようにやらせてもらう。
 せっかく掴んだ二度目の生なのだ。
 『第三候補(サードプラン)』だろうと何だろうと、関係ない。
 俺は俺だ。
 垣根帝督として好きなように行動し、お前等を、学園都市をぶっ潰す。
 それだけだ。
 垣根帝督が歩き出す。
 玄関口から家内へと入り、啜り泣きが聞こえる部屋へと惑いなく向かっていき、入室した。
 一斉に此方を見つめてくる二つの視線。
 涙目の少女は恐怖感を前面に押し出し、少女に寄り添うように膝を折る青年は警戒を前面に押し出す。
 青年は淀みない動作でデイバックから拳銃を取り出し、垣根へと銃口を突き付けた。

「俺は垣根帝督。俺も殺し合いには乗ってねえ」

 彼は接触した。
 大それた理由などない。
 ただの気紛れに従って、垣根は一軒の民家にて集結した集団と接触した。
 もう誰の思い通りにも動かない。
 学園都市の暗部としてではない。
 学園都市の『第二候補(スペアプラン)』としてでも、奴等の『計画』の『第三候補(サードプラン)』としてでもない。
 『未元物質』垣根帝督として、自分の好きなように動かせて貰う。
 だから殺し合いには乗らない。
 その上で、奴等も、学園都市も、ぶちのめす。
 それが、垣根帝督の意志であった。

「まぁ、よろしく頼む」

 涙目の少女はポカンと間抜け面でこちらを見ている。
 薄褐色肌の少年は未だ警戒と当惑をない交ぜにした表情でこちらを見ている。
 垣根は両手を上げて、警戒心を解くように、それでいて小馬鹿にするような笑みを浮かべた。







【一日目/深夜/G-8・住宅街・民家】

【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:自分の好きなように行動する。殺し合いには乗らない
1:とりあえず目の前の男達と行動してみる
2:首輪も外しといた方が良いか
3:『第三候補(サードプラン)』……何の事だ?
[備考]
※『能力を吐きだすだけの塊』となった後からの参戦です


【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-】
[状態]健康
[装備]ダッチのリボルバー@ブラックラグーン
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]
基本:『バトルロワイアル』に介入し、殺し合いを止める
1:眼前の少女と情報を交換する。少年についてはまだ警戒を解かない
2:殺し合いに乗っている者がいれば止める
3:首輪の解除法を考える


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:こ、この人は……?
1:相川の治療。
2:相川と行動し、皆を探す。
3:ほむらちゃん、どうして……?
4:何だったんだろ、さっきの胸の痛み……


【相川始@仮面ライダー剣】
[状態]腹部、胸部、左足にダメージ大(治癒中)、ジョーカー化への欲求(極少)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ラウズカード(ハートの2)@仮面ライダー剣、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを止める。兵藤の元へ行き、兵藤をぶっ殺す
0:気絶中
1:まどかと共に、他の参加者とまどかの友達を探す
2:ラウズカードの確保
3:橘達とも合流する
4:剣崎……。
※原作終了後から参加させられています








 ―――そして、『悪意』の定向進化を果たした男と宇宙の存命を目的と掲げる異種生命体は、そんな三人の様子を、暗闇に映し出されたモニターを通して見つめていた。



「予定通り『鍵の二人』が接触。おまけに『第三候補(サードプラン)』も合流だ。君はここまで予想していたのかい、シックス」
「まさか、幾ら何でも、ここまで上手く事が転がるとは思っていなかったさ。幸運というものだよ、インキュベーター」


 男は、暗闇の中でお気に入りの椅子に腰掛け、膝に白色の犬のような生き物を乗せて、モニターを見つめる。
 表情には愉悦があった。
 まるで全ての結末を知っているかのような、その行く末の悲劇を知っているかのような、そんな歪んだ笑顔。
 深い深い愉悦と、そして不快感を振りまく笑顔で、その光景を見る。


「さて、後は見守るだけだ。彼等が『第一候補(メインプラン)』を発見できるのか、そして『彼女』の仕掛けがしっかりと機能するのかを、ね」


 男は膝上の動物を優しく撫でながらモニターを見据え、ゆっくりと口を開いた。
 男は思う。
 希望の果てに待つだろう結末。
 その結末を知った時、彼等はどのような反応をしめすのか。
 その反応はどんなに面白いものなのだろうか。
 どれほど我が脳髄の欲求を満たしてくれるのか。
 思いながら、知らずに口を歪ませる。
 歪な歪な笑顔で、男はモニター上の『バトルロワイアル』を観戦していた。
 モニター内の世界では、夜空が更なる深淵をもって参加者を包み込んでいく。
 長い長い『バトルロワイアル』はまだ始まったばかりであった―――、




Back:友達ができるよ、やったねマミちゃん 時系列順で読む Next:絶望【シアワセ】
Back:友達ができるよ、やったねマミちゃん 投下順で読む Next:絶望【シアワセ】
敗者の刑 シックス Next:
もう誰にも頼らない キュゥべえ Next:
GAME START 垣根帝督 Next:
GAME START 刹那・F・セイエイ Next:
もう誰にも頼らない 鹿目まどか Next:
もう誰にも頼らない 相川始 Next:

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最終更新:2011年09月16日 21:24
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