6:悲劇と憤り
魔王の妻として生きる彼女は、主催者に対する怒りと、夫を失った悲しみの混ざった、
とても複雑な表情をしていた。
「どうしてあの人が…それに、
殺し合いだなんて…あのヒリューと言う竜は何者なの…?」
主催者の赤竜ヒリューからは強大な力を感じ取った。
それこそ、もしもの力を受けた勇者アレックスや、カナエールと言った神に匹敵する力を。
だがそれ程の力を持つ者が存在するとしたら多少なりとも話は聞くはずだ。
だが、今の今までヒリューと言う名前など、全く聞いた事が無かった。
「異世界の住人、なのかしら…いや、それより今は…アレックスさん達や魔王城のみんな、
娘を捜さないと…いつまでも悲しんでいる訳にはいかないわ」
魔王である夫が死んだ今、その妻である自分がしっかりしなければならない。
こんなふざけた殺し合いなど許してはならない、絶対にゲームを転覆させなければ。
名簿を見た限りでは勇者アレックスとその仲間達、魔王軍四天王の二人、殺し合いには呼ばれていない、
四天王のひ一人の義妹、そして自分の最愛の娘。
彼らはいずれも殺し合いに乗るような愚かな人物では無い、と彼女は思っていた。
彼らと合流し、ゲームを潰すための方法を探る――そうしようと、彼女は決意する。
デイパックの中に入っていた、バトルアックスを装備する――重いが、何とか扱えそうだった。
彼女の支給品はこれ一つである。
「ブライアンさんやゴメスさんならうってつけかもしれないけど…」
勇者勢の二人の顔を思い浮かべる。ただ、何となく。
「あれ、嫁様じゃないですか」
「え? ……あ! ブライアンさん?」
まさか思い浮かべた内の一人が本当に現れるとは、彼女も思いもよらなかった。
「まさかこんなに早く知り合いに出会えるなんて思わなかったぜ」
「私もよ…」
「…魔王の事、だけどよ…何て言うか、その…」
「…いいのよ…気を遣わなくて…あの人のためにも、私は、このゲームを潰すつもりでいるわ」
遭遇した戦士の男に、嫁様は自分の決心を述べる。
「ええ? でも、どうやって…!? 首輪はめられて、命握られてんだぜ俺達!?」
「だからって、大人しくヒリューの言いなりになるなんて出来ないわ!
こんな殺し合いをさせられる理由なんてどこにも無いはずよ!」
「そ、そりゃあ……」
「お願い、あなたも協力して…!」
そして嫁様は、ブライアンに協力を求める。
彼は勇者の仲間――確かに問題行動を起こし「ウザイアン」と揶揄される事もあるが、
根は実直で、正義感溢れる男だと嫁様はブライアンを見込んでいた。
だからこそ、ブライアンがこの殺し合いにおいてどうするつもりなのかも聞かず、直接協力を要請したのだ。
そして、ブライアンからの返答は。
「がっ…」
嫁様の腹に対する重い蹴りの一撃だった。
「がはぁっ…!? が、げほっ、ごほっ!」
二メートル程後ろに吹き飛ばされ倒れた嫁様は腹を押さえ激しく咳き込む。
「嫁様…悪いな、やっぱり妙な芝居なんてやめるわ俺」
「…!? な、に、を……あ゛っ、が!」
いつの間にか嫁様の背後に回ったブライアンは、その腕で嫁様の細い首を思い切り締め上げる。
細い首の骨もまた細く、ミシミシと悲鳴を上げる。
「殺し合いを潰すって…どうするんだよ? 具体的に? 決まってないんだろ?
そんな漠然としたやり方よりもよぉ、もっと確実に生きて帰る方法があるだろ?」
「…な…あ…なた…」
「…俺はこんな所で死にたくねぇ、そうだよ、死んでたまるか!」
「……ァ……ッ…ガ」
「安心しなよ嫁様、ムシャもダーエロも、ハー妹も、そして娘様も、すぐに同じ所へ送ってやるから、な!!」
ブライアンが更に腕に力を込めたその瞬間、鈍い音が響き、嫁様はガクリと脱力した。
その顔からは表情が消え、どんどん血の気が引いていく。
股間からは液体が溢れ出し地面の雑草を濡らす。
「ふぅ、楽勝だったな…良かったな? 旦那の所に行けて」
もはや物言わぬ屍と化した嫁様を見下ろしながら愉快そうにブライアンが言い放つ。
そしてバトルアックスを拾い、装備する。
「俺の支給品、発煙筒とヒビの入った花瓶だったからな、有難く貰っておくぜ。
さて……行くとするか……」
ブライアンは森の中を歩き始めた。
後に残された嫁様の死体、その顔には果てしない無念の色が滲んでいるようだった。
【嫁様@VIPツクスレ・もしもシリーズ 死亡確認】
【残り 54人】
【早朝/B-3森】
【ブライアン@VIPツクスレ・もしもシリーズ】
[状態]健康
[装備]バトルアックス
[持物]基本支給品一式、発煙筒(3)、ヒビの入った花瓶
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗り、優勝をい目指す。誰であろうと容赦しない。
[備考]
※特に無し。
最終更新:2012年02月08日 22:20