アットウィキロゴ

糸切り(意図霧)≪前編≫

曲絃糸、曲絃師。
糸を用いた暗殺・戦闘技術を持つ、糸使いの最高峰。
その気になればビニールテープでさえ人を輪切りに出来る。

恐るべき力を持った彼ら≪曲絃師≫の中で、熟練といえるまでの腕前を持つのは、一人の女子高生。本来普通に生きられた筈の、女子高生。
――――――否。彼女は、最初から壊れ物だったのかもしれない。
――――――重ねて否? 最初は、普通だったのかもしれない。

人類最強の請負人や、≪人喰い(マンイーター)≫の殺し屋にさえ匹敵する戦闘能力を持った少女は、過程として多くの血を浴びてきた。
≪策士≫と呼ばれる少女も、≪闇突≫と呼ばれる期待のホープも。
ひとえに死の前には等しく無力だった。
そんな彼女がほんの僅かな間でも人並みの幸せを味わうことが出来たのは、彼女―――――紫木一姫にとって大きな救いだったろう。
戯言遣いの師匠に、骨董アパートの住人達。赤い請負人。
多くの人たちという『糸』と絡まって、紫木一姫という『糸』は伸びていった。
――――尤もそれは、仮初めのまま終わる幸せに過ぎなかったのだが。

唐突に、紫木一姫の糸(意図)は切断される。
匂宮出夢という一人の殺し屋によって、終わらせられる。
両腕を奪われ、首をあらぬ方向に捻じ曲げられた、死体に変えられる。


≪曲絃師≫にして≪病蜘蛛(ジグザグ)≫の弟子は、死んだ。



「……………本当に、どうなっているですか」

が。その少女は、断崖絶壁の淵に立ち、呆然と呟いた。
紫木一姫。
終わった筈の少女は、何の因果か再び、生命を与えられている。
間違いなく、彼女は死んだ。何処の世界に、何の能力も持たない人間が―――首を折られて死なないという道理が存在するだろうか?

≪糸を≫≪手繰り≫≪結び直す≫。

「………本当に、奇跡です」

尤も、こんな殺し合いなんかじゃなければもっと奇跡です―――と、足す。
参加者名簿を眺めると、見知った名前が幾つか載っていた。
実際に会ったことのある人間だけでも数人いる。



≪いーちゃん≫、哀川潤、匂宮出夢、西条玉藻。
≪いーちゃん≫―――つまり、紫木が≪師匠≫と呼ぶ戯言遣いの青年。
哀川潤に関しては言うことは無い。紫木の知る限り、哀川潤はこんな茶番劇を好むような正確ではない。というか、間違いなく怒るだろう。
それに、哀川潤―――人類最強の赤い請負人が、無惨に殺されるなんて想像がつかない。きっと彼女は、還付無きまでにこのゲームを叩き潰すだろう。
匂宮出夢。危険人物。紫木一姫を殺害した張本人。
彼の持つ殺人の技術は正に脅威だ。一撃必殺の平手打ち≪一喰い(イーティングワン)≫は、言葉通り一撃必殺の威力を誇る。
そして西条玉藻。≪闇突≫。
彼女は紫木自身が殺害した筈だ。きっと彼女もまた、何らかの方法により再度生命を宿らされたのだろう。………まあ、危険だ。

「……まあ、潤さんと師匠を探すのが胸壁ですかね」

それを言うなら定石だろう、という突っ込みは返ってこない。
先ずは、曲絃師に必要な≪糸≫を早急に手に入れる必要があるだろう。
殺し合いを進んで行う気はないにしろ、襲われたら殺さなければならない。


紫木一姫には、殺人に対する躊躇いが欠如している。

戯言遣いと出会った、請負人と戦った≪首吊学園≫の一件から、『殺人はしてはいけない、幸せには必要ないもの』と認識はしていたが、そう簡単に認識は改められるものではない。
彼女はきっと、躊躇わない。
得意の糸使いの技術で、相手を場合によっては秒殺するだろう。


彼女の支給品に入っていたものが糸の類ではなくて幸いだったのかもしれない。
彼女のデイパックの中では、女子高生には余りにも不釣合いな『凶器』が入っている。

トンプソン・コンデンダー。
≪魔術師殺し≫と形容されたとある魔術師が用いた銃だが、真に恐ろしいのは違う。

まず、その銃床は殴っただけで相手の骨を砕くほどに硬い。
銃弾の性能はそう高い訳ではない。
一発ずつしか撃てない欠点はあまりにも大きく、かなり扱いにくいだろう。
しかし、この銃の最悪に最高で最恐な点は―――このトンプソン・コンデンダーが『衛宮切嗣の用いる』ものだという一点に尽きる。


魔術師殺し。
幾多の魔術師たちを屠ってきた男の切り札は、弾丸だ。
起源弾。彼の起源―――≪切断≫と≪結合≫の属性を内包した弾丸。
魔術師に放てば、即座にその魔術回路を切断し、自立歩行さえ困難にする最強の―――相手からすれば核兵器さえ超える脅威となる。

一般人だろうが、これで魔術師は封殺できる。

そして、紫木一姫は何も理解しないまま、進む。





サーヴァント。
たった一つの万能の願望器『聖杯』を巡った戦争における、『武器』といっていい。
一騎当千クラスの戦闘力を持ち、各個が何らかの英霊である。

青い髪の毛に、赤い、闘志の漲った瞳をぎらつかせた男が居た。
精悍そうな顔立ちに引き締まった体格。
『色男』を体現したような風貌。
彼の名は、クー・フーリン。 光神ルーの血を引く半神の英霊である。
携える槍の名は『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』。
心臓を『貫いた』という事実だけを生み出す、回避不可能の呪いの槍。
しかし、ここではその力が相当抑えられていた。
心臓を貫いても死なないような相手にしか発動しないとされ、ほぼ宝具としての力は失われている。


「舐めやがって――――――とでも言うと思ったのか、馬鹿が」


クー・フーリン――――――ランサーは、不敵に微笑む。
そう。元より、『突き穿つ死翔の槍』など、必要ないのだ。
彼の極めた槍の腕前と英霊としての異常な力さえあれば、他は必要ない。

反逆する。主催者の思惑を打ち砕いて、とっとと元の世界に帰ることが、彼の第一目標で、全てだった。
面倒くさそうに参加者名簿を眺める。

『衛宮士郎』―――確か、セイバーのマスターだったか。この『遠坂凛』という少女と仲が良かったはずだ。自分は、最期の瞬間まで『遠坂凛』を守ろうとしたんだったか―――――――――――――――と、ランサーは苦笑する。
『間桐慎二』は、警戒するまでもない小物だ。勝手にくたばるだろう。
『セイバー』『アーチャー』『バーサーカー』『アサシン』――――他のサーヴァントたちは、一応警戒すべきだろう。
特に、バーサーカーは危険だ。
あの戦闘能力には、ランサーでも相当の警戒が必要だろう。
そして、言峰綺礼。自分を裏切った、背徳の神父。


「……あー……とりあえず、衛宮って兄ちゃんたちを探してみるか」

頭をボリボリと掻きながら、ランサーはそう呟いた。
次に視界に捉えたのは、小柄なセーラー服の少女と、長く艶やかな黒髪が特徴の――――だが、明らかに危険そうな少女だった。





匂宮出夢。
彼と彼女は同じ身体で時を過ごしている。

二人は一人、一人で二人
二人が一人、一人が二人

彼女はジキルで彼はハイドだ。

肉体に架された名前はない。

精神に貸された、名前が二つ。

《人喰い》(カーニバル)の理澄に、《人喰い》(マンイーター)の出夢。

同じ身体に対極の精神。

白と黒の、太極の精神。
表の顔は天衣無縫の名探偵。

彼女は調べる。

物事を裏の裏まで圧倒的に調査する。

裏の顔は悪逆無道の殺し屋。

彼は殺す。

人間を裏の裏まで圧倒的に殺戮する。

殺戮奇術の匂宮兄妹――――――――の、≪兄≫で≪人喰い(マンイーター)≫。



彼女――――いや、彼は、紫木一姫と相対していた。
その顔面に張り付けたのは、疑念と猜疑の表情―――平たく言えば敵意。

「………おいおい、解せねえな。確かに殺したはずなんだが」

「姫ちゃんもそう思いますよ―――で、戦るですか?」


互いに、譲歩して和解する気など毛頭ない当然といえば当然。

自分を殺した相手に。
自分が殺して、しかし何故か生き返っている相手に。
誰が好意を向けられるか?


「――――まあ、容赦はしねえよ。つうか、自分が殺した相手が立ってるってのも気味の悪ぃもんだからな」

「―――勘違いしないでくださいです――――姫ちゃんは、別に貴方と殺し合いたいわけではありませんから。出来ればもうちょっと後が良いです」


出夢は殺る気だ。
しかし、紫木には不利な状況である。
使い慣れない銃―――しかも、扱いの難しいトンプソン・コンデンダーだ。
勝ち目は、零に等しい。



「つー訳で、まあ諦めて殺されてくれや―――紫木一姫」





両手が合わさる。
≪一喰い≫をいきなり使う気のようだ。
≪人類最悪≫さえ驚嘆したほどの一撃。回避するのも、困難だ。
かと言って迎え撃つのもまた骨が折れる。

「(………姫ちゃんピンチですね。一分先は神です)」

一寸先は闇、と言いたいのだろう。


が。匂宮出夢の必殺が、紫木一姫に炸裂することも。
紫木一姫が、匂宮出夢の必殺を回避することも。
紫木一姫が、匂宮出夢を迎え撃つことも。

無かった。


「――――――――おいおい。戦る気のねえ相手に一方的な攻撃は感心しないぜ」


青い槍使いが、出夢の≪一喰い≫を食い止めていた。槍一本で。
出夢にすれば驚きだ。自らの必殺を、止められる槍が存在し、更にその防御による反動さえ苦にしない目の前の男が、余りにもイレギュラーだったから。
ランサーの槍は宝具だ。≪一喰い≫を何発受けようが、そう簡単には破壊されない。
英霊であるランサーだろうと、反動によるダメージはしっかり蓄積するが、英霊としての補正もあり、彼は倒れない。
とはいえ、直撃したら彼でも致命傷、下手をすれば即死の危険性がある。

「――――はん。やるじゃねえか―――――そんじゃあ、第二ラウンドと行きますかねえ?ぎゃははは!!」

「上等だ――――ランサーのサーヴァントクー・フーリン――――――推して参る!!」

闇突と壊れ物の夢 投下順 糸切り(意図霧)≪後編≫
GAME START ランサー [[]]
GAME START 紫木一姫 [[]]
GAME START 匂宮出夢 [[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年10月19日 00:18
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。