百年の迷路に閉じ込められたことはあるだろうか?
あるならおめでとう。貴方は立派な悲劇のヒロインだ。
無いなら、貴方の知る苦難はまだ甘く、温い。
死が決められた運命を生き、再び―――否、幾十、幾百の世界を繰り返す。
例えば暁美ほむら。
鹿目まどかという存在を守るために、幾度も時間軸を繰り返した少女。
例えば岡部倫太郎。
自分の周りの世界を救うために、体感時間約100年の時と世界線を越え続けて、やっと勝利を勝ち取った『救世主(マッドサイエンティスト)』。
そして、その二人と同等の痛みと苦しみと絶望と希望を見てきた少女。定められた死の運命に反逆し、愛する仲間たちと過ごす未来を目指して世界を繰り返し続ける。
周りの何もかもが狂い壊れ外れていく世界と戦い続ける『百年の魔女』――――――古手梨花は、未だ救われてはいない。正確には『この時点では』だが。
梨花は後に、『祭囃し』と呼ばれる世界で文字通り『ハッピーエンド』といえる結末と未来を勝ち取ることになるのだが、幸か不幸かこの梨花は『罪滅し』と称される世界時点から最悪のゲームに招待されたのだ。
妙と云うよりは奇怪だ。
今までの惨劇は、たとえ村民2000人を犠牲にしようが、どれだけ救いの無い結末だろうがあくまで『雛見沢村』の中での話でしかなかった。
が、今回は違う。
雛見沢の外で、今まで名すら聞いたことも無い人間たちと殺し合いのゲームを行うという、絶望的過ぎるイレギュラー世界。
普通なら孤独と恐怖に発狂してもおかしくはないが、古手梨花の精神は既にこの程度の恐怖など些末なことと捉えられるほどに疲弊しきっていた。
それに、梨花は今一人ではない。
他者からは視覚することさえ叶わないが、彼女のすぐ傍に、梨花にとって最大の味方であり最高の家族といえる存在が居る。
その名は縁結びの神『オヤシロさま』こと『羽入』。
梨花を理不尽な死の運命から救い、幾度と無く『リトライ』し続けてこられた理由となる力を持つ存在。
「…………羽入、あなたはどう思うの?」
『僕は、諦めるべきだと思うのです』
欠点を、挙げるなら。
羽入は、惨劇の迷路に囚れ続ける梨花を見続ける内に彼女もまた、精神が疲弊しきってしまった。だから、彼女は諦めに走る。
そして、今回も。
「そうね―――――今回は、諦めた方がいいかもしれないわね」
熟知してさえいる世界さえ越えられないのだ。
未知の世界の惨劇に立ち向かうのは余りにも無謀といえるだろう。
「―――それでも、私は諦める気は無いわ」
きっぱりと、未練や迷いを断ち切るように、梨花は言い放った。
泥臭くみっともなく無様に滑稽に足掻いてでも、この惨劇の世界には屈しないと。
『あぅ……梨花は、分からず屋なのです』
羽入は困ったようにおずおずと言った。
尤も羽入自身もまた、梨花が諦めないと感付いていたのかもしれない。
『罪滅し』の中で見た一抹の希望。前原圭一による狂気の浄化。
まだ、希望にすがりつくことは許されている。ならば、古手梨花が戦うのには十分だ。百年の間、絶望しか見てこなかったのだから。
先ずは、『支給品』の確認だ。
大げさな銃などよりも、何度か使っている催涙スプレーや園崎詩音が用いていたスタンガンなどが望ましい。あくまで殺し合う気は無いのだから。
適当に取り出したのは、一本の鎌。
ありきたりな、工具店の園芸用具コーナーに売っているような。
『巫女』の仕事で鍬なら扱うが、鎌を扱った試しなど梨花には皆無。
あまり当たりの武器とはいえないのが残念だ。
それでも、モップで戦わざるを得なかった時に比べればマシだ。
こんなものは諦める理由にすらなりはしない。
むしろ幸運とさえ取ることができるくらいだ。
「見ていなさい、羽入。この程度の運命、私は今度こそ打ち破ってみせるわ」
『ぁぅ…僕は「そこの少女。独り言を言うのはこの場では命取りだぞ」
声が割り込んだ。透き通った、凛々しさを感じさせる声だった。
梨花から少し離れた場所に、声の主は立っている。黒い優美な髪を風に靡かせ、顔には僅かな笑みすら貼り付けて。梨花の友人たちとは違う雰囲気―――『美少女』というよりは『美女』に近いかもしれない、優美な姿。
そもそも、梨花よりも五~六才は歳が離れているだろう。
「――――ふむ、驚かせてしまったようだな。おねーさんは来ヶ谷唯湖だ」
「…………殺し合いには、乗っていませんですか?」
『百年の魔女』ではない表の『古手梨花』の顔でおずおずと梨花は言う。
勿論だ、とすぐに返事が返ってくる。その声色には恐怖の感情は微塵も感じられず、動揺の色すら窺えない。
梨花からすれば、それは頼もしくもあり、また不気味でもあった。
「ボクは古手梨花といいますです。唯湖、宜しくです。にぱー☆」
「……待て、君は私を萌え殺しにする気なのか?」
来ヶ谷唯湖。彼女はその凛々しい見た目に反して、可愛い美少女をこよなく愛し、時には少々変質的なこともする。そんな彼女にとって、通称『萌え落としの梨花』の仕草や言動は彼女の変態脳を加速させる要因となる。
悶えながら微笑む来ヶ谷を若干引き気味に見つめる梨花――――――だが。こんな和やかな光景を、一人の少女が見事に引き裂いた。
「――――ゆらぁり」
<<闇突>><<狂戦士(ベルセルク)>>―――西条玉藻。
□
両手にコンバットナイフを持ち、時折霧のように揺れる少女。
西条玉藻の放つ雰囲気は、幾百の世界を越えてきた梨花でさえ、明らかに異常と見えた。まず、彼女は玉藻のような人間を見たことさえ無かったのだが。
来ヶ谷もまた、玉藻と平和的に話し合うことは不可能だと悟る。
「……君は、何を求めて殺し合いに乗る?」
「とりあえずー、二、三刃刺してから説明しますよぅ」
話し合いは無理だ。
戦うしかない、と来ヶ谷は暗に悟り、デイバックに手を入れる。
神は彼女にも味方した。中から出てきたのは、一本のナイフ。
峰理子という『武偵』の少女が愛用していたそれなりの品。
「梨花くん、下がっていたまえ――――なぁに、心配は要らない。所詮は―なのだからな」
一部が聞こえなかった。
来ヶ谷が玉藻の前にゆっくりと歩み出て、玉藻を見据える。
痺れを切らしたのか、<<闇突>>は来ヶ谷に突撃する。来ヶ谷は二本のナイフを受ける前に、今まで彼女が仲間たちと行ってきた遊びの経験から考察していた。
"――――成程、彼女は相当の腕前のようだな――――"
と。
ガキィィイイイイイイインンン!!という音がした。
西条玉藻の戦闘における、特にナイフを用いた場合のセンスは来ヶ谷を優に超える。しかし、来ヶ谷は体術でその差を何とか補って玉藻に対抗しているのだった。
仲間たちとの『バトル』でも最強クラスの実力を持つ彼女でさえ、防戦一方になってしまう。
玉藻の攻撃を受け、押し返し、また受ける―――鼬ごっこは必至だ。
「(……あまり良い戦況では無いな……だが、運動能力ではこちらに分があると見たぞ)」
キィィイン!!
来ヶ谷が一際強く、力を込めて真横から玉藻のナイフに攻撃を加える。
これでナイフを片方でも取り落としてくれればラッキーだが、そんな初歩的なミスを<<闇突>>は犯さない。
しかし、それでも来ヶ谷のささやかな狙いは達成された。
戦いにおいて、今のように鼬ごっこを演じる際。優勢な相手は大抵何かしらの『ペース』や『パターン』を構築しながら戦っている場合が多い。
相手のそれに飲まれたまま戦いを続けることさえ時には要求される。相手が人間である限り疲れは溜まるのだから、辛抱強く戦い、相手を押し切ることも重要だ。
しかし、それはあくまで実力が拮抗もしくはこちらが勝っている場合のみだ。
来ヶ谷は驕らなかった。明らかに、西条玉藻の力量は来ヶ谷唯湖の力量を超えている。そんな悠長な戦いをしていれば、打ち負けるのは来ヶ谷の方だろう。
だから、彼女は玉藻のペースを乱す戦い方に切り替えたのだ。
「随分と、『こしゃく』な?戦い方なんですねぇ―――」
「戦略的と言ってほしいものだな。おねーさんは策士なのだよ」
「策士はー、二人も要りませんよぅ」
疲れの色は両者共に見えない。
まだ軽口を叩けるだけの余裕はあるよう―――――――――だが。
二人の肉体には、高速で行ってきた戦いの疲労が蓄積している。
この勝負も、もう長くは続かない。
片方が倒れて片方が立つ。もしくは、それ以外か。
「では、仕切り直しといこうかね」
「ゆらぁりぃ……!!」
再びの激突。しかし今度は来ヶ谷がペースを生み出す番だ。
ナイフだけでの戦いに一石を投じる行動――――体術を混ぜる。
来ヶ谷のナイフ捌きもなかなかのものだが、かつて筋肉の塊のような少年を圧倒した体術を今度は『攻撃』に活かしていく。
勿論危険も加算される。蹴りを放ったところで、玉藻の腕前なら下手な隙を見せればそのまま切断されかねない。ハイリスク・ハイリターンな戦いとなるだろう。
"だが――――そんな事柄、恐るには足らないな"
賭けでは意味がない。全力の戦いだからこそ、正確さが求められる。
なら、正確に補正して戦えばいいだけのことだ、と来ヶ谷は断じた。
玉藻のナイフが再度来ヶ谷のナイフに激突した時。
来ヶ谷の鋭い蹴りが、一切の容赦無く玉藻の顔面に放たれた。
目を見開いて驚いたものの、玉藻はとっさにナイフを交差させてそれを止める。さすがは澄百合学園――――『首吊学園』期待のホープといったところか。
「(これも止めるか……全く、実に素晴らしい)」
今度はナイフ。止めたら蹴り。止めたらナイフ。止めたら蹴り。
ペースは作られた。
玉藻としても、ナイフでなら互角以上の戦いをすることが出来るとはいえ、それでもそのナイフ捌きに見合うだけの身体能力を持ち併せている。
だが、常日頃から『遊び』として戦いを行っている来ヶ谷の方が、戦い方のパターンも広い上、如何なる外れ武器でも使いこなすことが要求されるのだから一枚上手なのは当然である――――――――――。
ここで、戦況が再度大きく動く。
来ヶ谷がナイフで攻撃を仕掛けた瞬間に、玉藻は力と速度でそれを押し返し、一気に距離を詰めることに成功したのだ。
まさに一瞬。
「――――ゆらりぃ」
「(そう来たか……くっ、手痛いが致し方あるまい)」
来ヶ谷唯湖がほんの一瞬の時間に下した決断は、常軌を逸していた。
誰が。
誰が片方の眼球を捨てて、攻撃を利用した反撃に出ると思うか。
しかし、来ヶ谷唯湖にも西条玉藻にも確信があった。
"この打ち合いで、決まる―――――。"
それは、どちらの勝利にしろ戦いが決着するという意味だ。
眼球を捨てた捨て身の攻撃か、ナイフ使いの刺突か。
―――しかし、決着はそのどちらでもなかった。
玉藻が、予定した攻撃に出る前に後退する。それは本能的なもの。
圧倒的な、もはや威圧に近いだけの殺気。それを感じ取った刹那、玉藻が居た空間を不健康すぎる白色の閃光が高速で通り抜けていった。
学園都市第四位の超能力者・『原子崩し』麦野沈利が、君臨する。
■
「……シケた見世物見せてんじゃねえよ、私は今頗る機嫌が悪いんだ」
長身に、右手首に未だ閃光を溜めながら麦野は二人に言い放った。
逆らうことを許さない絶対の殺意。
手を出せば、一瞬で肉塊にされるのは目に見えている。
麦野は二人を一瞥し、来ヶ谷の後ろに居る梨花の姿を捉え、両者の立場をある程度把握する。次の瞬間には、玉藻の方に体を向けていた。
「どうするよ?かかってくるなとは言わねぇけど」
閃光が渦を巻く。
麦野の匙加減一つで、『原子崩し』―――――粒子波形高速砲が玉藻に向けて放たれる。避けて戦うことも勿論可能だし、玉藻もそのつもりだった。
「――――ゆらりぃ」
コンバットナイフを構える。それに向けて麦野も右腕を向ける。
「――――――――バン!!」
空気の塊が、砲弾のように麦野に迫っていく。
しかし、学園都市第四位の少女を止めるためには余りにも力不足だった。
『原子崩し』が空気砲弾を呆気なく破る。
視線で人を殺せるとしたら、きっとそれは必殺の視線だったろう。
救援に入った眼鏡の少年を、余りにも明確な殺意の視線で射抜く。
しかし、少年は震えながらも、麦野に向けてこれまた敵意を向け続けた。手に装着した空気砲を麦野に向けて、勇敢に立ち向かおうとしていた。
「チッ……私の気が変わらねえ内にそのガキ連れて消えろや、
ヒーローさんよ」
闘志を殺がれた。
麦野は拍子抜けしたように手を振り、少年は玉藻の手を引いて走り出した。
その行動力は大したもんだがな、と呆れ果てたように麦野は一人ごちた。
◇
「助かったよ、生憎私一人では痛み分けが良いところだったろう、麦野女史」
「はいはいそいつぁどうも」
梨花を後退させて、麦野と会話する来ヶ谷。麦野のやや暴力的な言動に梨花が怖がらないための配慮であった。
来ヶ谷から麦野に尋ねたのは、彼女の用いた能力は何かということ。
学園都市の存在しない世界の来ヶ谷に説明したところで、納得できるはずもない。麦野はここで、来ヶ谷は不可思議にも学園都市の存在しない世界・即ち『平行世界(パラレル・ワールド)』から来たのだと考察した。
来ヶ谷はそれ以上食いつくことはない。
「じゃあ我々はここで別れることになるか。名残惜しい限りだよ」
「そうかよ―――――――そうだ、一つだけアンタに聞きたいことがあるんだ」
麦野沈利は、暗部組織『アイテム』のリーダーは、来ヶ谷唯湖に対して素朴な、だが無視できない疑問を抱いていた。
「来ヶ谷――――アンタは何だ?」
――――アンタは何だ?
麦野は玉藻と来ヶ谷の戦いを途中まで見ていた。そこで、来ヶ谷に一つの疑問を抱いたから横槍を入れたのだが。
普通の日々を謳歌している少女に、あんな戦い方が出来るはずはない。
少なくとも、眼を捨てて敵を断つ覚悟を瞬時に決められるなど異常だ。
「アンタはどうしてここまで物怖じしない?」
「おかしな事を言うなぁ。こんな物は、私の生み出した夢に過ぎないのだよ。目が覚めれば、全てリセットされるのだからな」
麦野は無言で背を向けた。そして、口元を僅かに歪ませる。
「"アンタ"は私寄りだな、壊れすぎてる」
【深夜/C-6】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、高揚
[所持品]不明支給品2
[思考・行動]
0:『敵対』する輩をブチ殺していく。
1:来ヶ谷唯湖に興味。
※新約一巻終了後からの参加です
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]健康
[所持品]鎌@現実
[思考・行動]
0:殺し合いには乗らない。
1:圭一たちを探す。
2:唯湖……?
※罪滅し編、死亡後からの参加です
【羽入(非参加者)@ひぐらしのなく頃に】
0:梨花を見守る。
1:どうせ今回の世界は無理なのです……
【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
[状態]疲労(中)
[所持品]峰理子のナイフ@緋弾のアリア
[思考・行動]
0:殺し合いという『夢』を楽しむ。
1:殺し合いに乗っている相手は殺す。
2:梨花くんを守る。
※来ヶ谷ルート、理樹に告白される前からの参加です
※殺し合いは自分の新たな夢の世界と思っています
□
少し離れて。少年・野比のび太は、やっと一息吐いた。
自分より年上の人を連れて逃げるという慣れない経験に、疲労したのだ。
西条玉藻は、霧のように時折揺れながら、ぼうっとのび太を見ている。
「良かった、逃げ切れたみたいだね、本当に――――」
ざしゅっ、ぷしゃあああああああああああああっ。
野比のび太から、赤い、真紅の飛沫があがった。
首が深々と切り裂かれ、とめどなく血が溢れ、地面に吸い込まれていく。
彼は、玉藻が危険人物だという可能性を失念していたのだ。
薄れゆく意識の中。
最期に、最愛の友たちと、最高の家族のロボットに想いを馳せた。
「ドラ……えも…ん…」
「ゆらぁりぃ」
血塗れの少女・西条玉藻は狂気混じりの呟きを漏らした。
狂戦士(ベルセルク)が、殺し合いを開始する。
【野比のび太@ドラえもん】 死亡
【残り134/141人】
【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]疲労(小)、返り血(中)
[所持品]コンバットナイフ@ひぐらしのなく頃に
[思考・行動]
0:とにかく殺していく。
1:ぶらぶらする
※『クビツリハイスクール』、いーちゃんと会う直前からの参加です
| 答えを知る者と出す者 |
投下順 |
糸切り(意図霧) |
| GAME START |
麦野沈利 |
[[]] |
| GAME START |
古手梨花 |
[[]] |
| GAME START |
来ヶ谷唯湖 |
[[]] |
| GAME START |
野比のび太 |
GAME OVER |
| GAME START |
西条玉藻 |
[[]] |
最終更新:2011年10月19日 00:14