薔薇乙女(ローゼンメイデン)。
偉大なる人形師ローゼンに生み出された七体の気高き人形たち。
第一ドール・水銀燈。
第三ドール・翠星石。
第五ドール・真紅。
不幸にも、
殺し合い(バトルロワイアル)に招かれた人形たち。
戦う為に――――『父(ローゼン)』に認められる為に生み出され、悲壮なる使命を帯びた気高き彼女たちにとっては、きっと最大の屈辱だろう。
しかし、元を辿れば彼女たちの宿命はこの状況とそう変わらない。
アリスゲーム。七体の人形たちの戦い、残れるのは一体だけ。
実際、それはバトルロワイアルとさほど違わないだろう。だが、彼女たちにはプライドというものがある。彼女たちが神聖視する『アリスゲーム』の改変―――――否、彼女たちにとっては改悪された『バトルロワイアル』自体が薔薇乙女の存在に対する侮辱なのだろう。
さあ、三体の人形にはそれぞれ個性がある。
『第一』は気高く、残忍な面を持つ。
『第三』は気高く、良識的。
『第五』は気高く、大人びている。
彼女たちは殺し合いに怒るだろうが、『どう動くか』はまた別だ。
殺し合いにて散ることは、最大の悲願『父に認められる』が叶わなくなるのだから。
自らの誇りを優先するか、悲願の達成を優先するか。
三体の人形たちの物語(バトルロワイアル)――――――開幕。
□
滝口優一郎は、当惑していた。
彼にとっては二度目の経験となる『プログラム』――――――。
だが、二度目の『プログラム』に臨むなら、まず一度目の『プログラム』を越えなければならない。優勝でも脱出でもして、とにかく生還しなければならない。
そう考えてみると、滝口が二度目に臨める道理は無いのだ。
滝口優一郎は、一度目の『プログラム』にて死亡した。
相馬光子を信頼し続け、最後まで彼女を信じて逝った。
―――なら、此処にいる自分は何だ?
人は死んだら生き返らない。だが、現に自分は生き返っている。
この矛盾を解決できる明確な『解』を滝口は持っていないし、考えられない。
アニメ好きの気弱な一中学生の彼にはこの状況はあまりに非常識すぎた。
それでも、彼は殺し合いに乗ろうという考えには至らなかった。
殺し合いは間違っている、と彼の中の正義は主張する。
綺麗事でも理想論でも、そこだけは譲れない。
彼は甘い。また殺し合いに乗っている者をかばい、結果的に殺されるかもしれない。
だが、きっと彼は後悔だけはしないのだろう。
むしろ、目の前で誰かに死なれて、守れなかった方が悔やむかもしれない。
滝口優一郎はそんな男だ。
「うわ……参加者の数が多いなあ……」
140人以上という圧倒的な人数。年代や国籍を問わずに集められたのか、様々な容姿、名前の参加者たちの名前が所狭しと名簿に並んでいる。
知り合いは三人。
クラスメイトの七原秋也、桐山和雄、川田章吾。
彼の記憶では、まだ三人とも生存していた筈だ。やはり、滝口だけはイレギュラー。
ただ、その件に関して深く考えていても無駄だと彼は悟っていた。
それより、彼には一つ疑問がある。
滝口は決して無知ではない、大東亜共和国の行っている『プログラム』の存在と目的くらいは知っているし、前回の『プログラム』のルールだって覚えている。
重要なのは、これが大東亜のものかどうかということだ。
大東亜は閉鎖的な国だ。国交のある国はそう多くないし、仲が悪い国とは本当に仲が悪い。そして、『プログラム』は大東亜の行う演習なのだ。
なら、名簿に洋名があるのはおかしい。
わざわざ他国を巻き込むほど、大東亜はオープンな国ではないのだ。
なら、これは何だ?
このルール。方式。どう考えても滝口自身が体験した殺し合いだった。
即ち、『プログラム』。
しかし、これは明らかに趣が異なる。この殺し合いは『演習』ではなく『主催側の娯楽』とでも言うかのように、あの主催者は振る舞っていた。
模倣。
テロリズム思想を抱えた異常者によるプログラムの、コピー。
滝口優一郎は特に優れた頭を持ってはいないが、考察した結果だ。
とはいえ。いくら考察したところで、滝口一人に解決できるほどの力は無い。
結果、誰か仲間にして行動するのが最善だろう。
クラスメイトの七原秋也は間違いなく頼れるし、川田と桐山も怖い奴等ではあったが、滝口はきっと仲間になってくれると高をくくっていた。
不幸にも。滝口優一郎は前回の『プログラム』で桐山、川田に遭遇していない。
川田はともかく、桐山のスタンスを知らないというのは痛い。
感情の虚ろな、あまりに空虚な殺人鬼としての桐山和雄を。
安直に、クラスメイトたちは信頼できると考えてしまった。
一人は殺し合いに乗り。一人は誰かを守るために躊躇しない危険人物。
何も知らずに、滝口はマップを暢気に眺める。
どうも彼が今居るエリアはE-1・浜辺エリアのようだった。
『ようだった』も何もない、辺り一面は砂浜なのだから。
特にここに用はないから、他のエリアで人を探そう―――と、一歩踏み出し。
そこで、ズボンの裾を小さな力で引かれた。
予想外。
滝口は尻餅をついてしまうが、見たのはあまりにも非常識な存在。
茶色の綺麗な髪に、左右で異なる色のオッドアイ。優美なドレス。
可愛らしい顔。まだあどけなさが残るが。
しかし、それら全てを一気に宇宙の遥か彼方まで吹き飛ばしてしまうほどのインパクト。その可愛らしい少女の体駆は、滝口の膝より少し低いくらい―――小人のように小さかった。
「……人形が、喋――――!?」
「もうちょっと気の利いた台詞があるだろですぅ」
文法的にかなり怪しい喋りだった。
どうも怪談に出てくるような人形ではなく、会話は出来るようだ。
西洋風のドール。
買えばそこそこに値が張るアンティークにも見える。
彼女こそは薔薇乙女(ローゼンメイデン)第三ドール・翠星石。
『庭師』の片割れ・『庭師の如雨露』を持つ人形。
生まれながらに戦いの宿命を背負った気高き乙女である。
滝口はどう声を掛けていいものか多少迷ったが、どうも敵意は無いらしい。
「僕は滝口優一郎っていうんだけど……君も、参加者なのかな?」
「勿論ですぅ」
何を当たり前のことを、とでも言いたげに、彼女は頷く。
そして次の瞬間には体中で怒りを顕していた。
「あの性悪極悪女!!これは私達(ドール)に対する侮辱ですぅ!!」
アリスゲームの模倣。
滝口は『プログラム』の模倣だと認識したが、翠星石にとっては神聖なるアリスゲームを汚す模倣でしかなかった。それに、
オリジナルを呼ぶというのは最大の侮蔑だ。
翠星石の怒りは治まる気配が無い。
何とか宥めようとするが、まさに焼け石に水。
どうも、殺し合いに乗る気はないらしいが。このままでは冷静さを失っていて危険かもしれない――――まず、これでは会話にならない。
とりあえず落ち着かせようと取り出したのは、何故か支給されていたハンバーグの入った皿だった。どんな原理か、その形どころか上に乗っている花形の目玉焼きもちっとも崩れてはいない。
それをちらり、と見て翠星石は一瞬で顔色を変えた。
「は、花丸ハンバーグですぅ!?」
目が輝く、というのは言いえて妙の表現だと滝口は知った。
一緒に入っていたフォークとナイフ。
それを手渡すと、可愛らしいドールは怒りも忘れて花丸ハンバーグとやらに喰らいつき、あっという間に完食してしまった。
幸い機嫌は直ったらしく、今なら話ができそうだ。
「翠星石ちゃん、だったっけ。君の友達は誰か参加してるのかい?」
翠星石はこくり、と頷き、デイバックの中から名簿を取り出す。
そして、連続して二つの名前を指した。
『水銀燈』『真紅』。
変わった、人形にしてもかなり変わった名前だと滝口は思った。
しかし名前を指す時、明らかに浮かべる表情が違った。
『水銀燈』の時にはあからさまに嫌そうな、忌々しそうな顔。
『真紅』の時にはわくわくしたような楽しそうな顔。
「『水銀燈』っていう子とは、仲が悪いの?」
「最低最悪に危ない奴ですぅ」
どうも機嫌を損ねてしまいそうだったので滝口は深くは追求しなかった。
ただ、翠星石が楽しそうに指した『真紅』は信用できそうだ。
滝口優一郎が最初に得た仲間は、不思議で生意気な人形だった。
【深夜/E-1】
【滝口優一郎@バトル・ロワイアル】
[状態]健康
[所持品]空の皿、不明支給品
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。
1:七原くん、桐山くん、川田くん、『真紅』を探す。
2:翠星石ちゃんと行動。仲間を集める。
※死亡後からの参加です
【翠星石@Rozen Maiden】
[状態]健康
[所持品]不明支給品2
[思考・行動]
0:殺し合いなんて御免ですぅ
1:真紅を探す。
2:水銀燈には気を付けるが、一応探してみたい
※七巻終了後からの参加です
最終更新:2011年10月30日 20:43