000
緊急事態と言うほど、今の僕は緊急事態では無かった。
あの懐かしき男―――ゲオルグ・ワイスマンと言ったか。
あいつの言葉を借りるとしてこの実験『バトルロワイアル』は僕にとって二回目であったから。
とは言ったものの僕は見事最後の一人にまで生き残り、栄冠を手にしたと聞かれたら勿論のこと答えはノーと答える他ない。
僕は、勝手に堕ちて行っただけだ。
一人で勝手に絶望しただけであって、僕は何もしていない。
クライマックスまで生き残っていた訳じゃないし、生還するに貢献した訳でもないし。
愚痴になっているかもしれないけれどこれは本当の話で、最後は一人悲しく自殺したって話である。
そこに感動的な理由がある訳でも無し。
そこに同情的な理由がある訳でも無し。
強いて言うならば、恋人が死んだと思いこんで起こした精神崩壊にも満たない精神汚染が僕を動かした。
人間強度が下がるとか言って作らなかった親友が出来たというのにそいつをを殺して、
最後は精神汚染に罹ってしまったため路頭に迷って挙句の果てに変な石ころにやられた同情も出来ない最低男の一人である。
けれど、僕は今生きている。
確かにゲームの世界だってことで実は生きていたという希望はあった。
だが同時に僕達にはここで死んだら死んでしまう、という絶望も確かにあったのも事実。
故に僕らは自然と
殺し合いをしていて。
消えていって。どうしようもなくて。
―――――――――はあ
被虐的な溜息が漏れる。
そう、だが現に僕は生きている。
あそこで起きた一件は、すべて無かったことにされた。
良くも悪くも、良いもなく悪いもなく。
全てを含めて、ごちゃごちゃした事情をまるっきし単純に零に戻した。
その為、僕は一度―――いや二度か。どちらにせよ諦めた命を未練がましく噛みしめていたのである。
だが、僕は何時の間にか命の重さと言うものをそこで忘れてしまったのかもしれなかった。
緊張感の欠片もなく僕は何ら感慨も憤怒も歓喜も湧くことなく――――ただここにいる。
001
「何じゃおまえ様……」
僕がここに呼ばれてものの一分。
僕の影からは忍が出てきた。
忍野忍。
吸血鬼の成れの果て。はたは絞りかす。
怪異の王(キングオブアウトサイダー)。
元、伝説の吸血鬼。
自称、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。
負け知らずというよりは、常識知らず。
そんな彼女は、艶やかな金髪を振り乱しながら影から僕の前に姿を現した。
――――怪訝そうな表情を浮かべて。
余談ではあるが僕の名誉のために追記しておこう。
僕としては今日はまだ何もやってない。
ていうより、夢オチだと分かって、二度寝をしている最中に連れてこられたのだ。
何をしようとか、考える時間すらもなかった。
無論八九寺とも会っていない。
つまりは神原とは違いも節操はある僕は今日は何もしていないことを意味する。
僕とて最近誤解されがちだが、そこらの変態とは違うのでそこらへん注意して欲しいところだ。
―――兎も角として。
「……どうしたんだよ、忍」
だから、僕は忍が何に対して、怪訝するようなことがあるのか分からない。
……僕、なんかしたかな?
こんなところで忍と仲違いはしたくないんだが。
殺し合いの最中。
一階仲違いしちまったら、修正するのも楽ではないし、それ以前に『ゲームオーバー』になるかもしれない。
そんな結果は僕は望むわけないだろう。
よりにもよって忍と。―――――掛け替えのない忍と。
と、いくら僕が思おうとも、忍がその態度をを変えることはなかった。
勿論のこといくらかは僕の気持ちは伝わっているとは思うが、それでも忍は態度を変えない。
「いやのお……。おまえ様よ、自覚もないのか?」
「だからなんだよ……。もったいぶってんじゃねえよ」
「――――はあ」
いやいや、僕としては溜息を吐かれても。
忍は僕の気持ちが分かっても、僕から忍の気持ちは直接伝わってこないし。
……あらやだ、この幼女のジト目ってアニメから思ってたけど素敵。
いや、冗談(でもないけど)言ってる場合じゃないな。
――――忍の言い分を聞かなくては。
「だからのぉ、おまえ様。―――――この悪趣味な催しに何も感じんのか」
「………」
――――は?
どうしたこの幼女。
いきなり突拍子もない。んなわけないだろうが。
「いや、ふざけやがって、ぐらいはさすがに思うけど」
一応言っておくが僕は怒ってるぜ?
また僕を巻き込みやがって、って。
くだらねえ茶番劇にまたしても参加させやがって―――――と。
「………まあいいがの。そう言うんならそうなんじゃろ」
と、忍は話を引っこめた。
………何だったんだ? 一体。
「それで、どうするんじゃ? 一体全体」
「………まずは春原でも探そうぜ。あいつは殺し合い何かに乗ってねぇよ」
「ほう、そいつは知らん名じゃな。――――どうして言い切れる」
そりゃ当然の疑問だな。
こいつはあのデータの世界にいたわけじゃないんだし。
無論として僕は話す暇もなかったし―――――話したくはない。
例えそれが忍であっても。
あんな失敗譚を好き好んで話したいわけじゃないし、世の中知らない方が幸せなことってのもある。
そりゃまあ本気で忍に隠しきれるとも思わないけど、それならそうで言わなければ僕の勝ちだ。
―――――悪いけどこれは、忍の為でもあるんだから、こちとらそう簡単には折れるつもりはないさ。
まあそれもさておいて。
僕と春原との関係ねえ。親友以外なにものでもないだけど。
つーかなんで親友って言っただけで僕にそんな猜疑の視線がぶつけられているのが心底心外なんだが。
いやまあね?
人間強度が下がるとかいって作らなかった(作れなかったわけではない。勘違いはよしてくれよ?)時期もあったけど、それももはや過去の話。
所詮人――――まあ人ですらねえけど、過去の自分はいっちまえば赤の他人な訳で?
そうだぜ、今の僕はあの時とは違う。
友達の一人ぐらい作るって。今の僕の夢は友達百人作ることだ。
とは言ったところで、やはり説明しづらいところはある。
あの
数字の世界の説明せずに、春原を説明する――――中々難しな。
………ただなあ、黙っていても怪しまれるだけだし。
しょうがない、無難な手で落ち着かせておくか。
「そりゃあ、決まってるだろ―――――ツイッターで『僕は誰も殺さないよ!』って言ってたから」
「余計怪しいじゃろうが! おまえ様よそれを本気で言っておるのなら一回殴ってやるぞ。それに何時からうぬはツイッターを始めたんじゃ!?」
「おまえは今頃何を言ってるんだ? 僕は既に三つ四つアカウントを持ってる僕に対してそれは失礼にも程があるぜ。
それにおまえと僕はフォローし合った仲で通ってるだろ。さすがの僕とて傷つくじゃねえかよ」
「それはきっと儂じゃないと思うのじゃが! 騙されんではない我が主!」
「おいおい忍、言いがかりはよせよ。おまえはツイッターではあんなに大胆なのにな」
「……いや確かに儂はそういうキャラで通ってるがおまえ様が言うと意味合いが違ってくるように思えるのじゃが」
「まあ今回はそういうことにしてやる。ネットはちゃんと現実と仮想を区別しないといけねえからな」
「先ほどの発言と矛盾しておるのじゃが………。っていうかなんじゃ、また次があるような言いぶりはの」
「そりゃ次があるからに決まってるだろ。僕は忍の鎖骨を十分に撫で回すまで死ねないんだ」
「待て待て、確かに儂の身体は蠱惑的で魅力的で破滅的じゃがそんなことで死ぬんじゃない」
「まあそりゃ分ってるよ、死んでも死にきれないだけだ」
さすがにそんなことは冗談では言わねえさ。
冗談では、言わねえよ。
閑話休題。
さて、というところで忍にも春原の存在が分かってもらえたところで。
「おい、おまえ様こんなところで閑話を休題させるんじゃない。
色々儂としては云いたいことがあのじゃが。何故ツイッターのないことないこと言われて終われなかあかんのじゃ」
あくまで閑話休題。
しつこい忍ちゃんはさておいてとして、僕は議題を次に進めることとする。
「さて、もう春原と言う奴のことは分かったか忍」
「先あたっては変態と言うランク付けで間違いないの」
確かに間違いではなかった。
002
場面はA-5。
その赤い少女と出会ったのは、開幕一時間ほど経ったとき。
前回、開幕早々モンスターに襲われていた僕から見たらスロースタートもいいところであった。
まあだがそんなことは正直どうでもいい。
一先ず決めるべきは僕はこれからどうするかということだ。
この赤い少女と別れて行動するか。
この赤い少女と共に行動するか。
この赤い少女を―――――殺しておくか。
僕とてこんな思考に至ったのは不思議でこそあったが、よくよく考えれば当然の話であって。
あんな御伽噺。なんの題名もつかない物語を先ほどまで体験してきた僕にとって命はとても軽かった。
生きたいという執着は不思議と湧かないし。
死にたいという挫折も一向に訪れて来ない。
忍野忍。
この幼女を前にしては易々言えた台詞じゃないけれど、命の重さが分からなくなっている。
何度も死にかけている僕にとって――――人間を止めたことがある僕にとって、そのことは軽さを知るのに手間取ることもなく。
「………やあ、僕の名前は阿良々木暦だ。どこかの小学生の如く名前を間違えてくれんなよ」
「水倉りすかなのが私の名前なの。―――唐突だけど、供犠創貴って子を見たかどうかを答えるのが貴方」
不思議な喋り方をする少女だった。
ただ初対面の相手にツッコムほど僕は不躾ではない。
―――――さて、僕はどうしたいんだろう………。
生きたいか
死にたいのか。
逃げたいのか。
殺したいのか。
視線を落とし、影を見る。
さて、僕は………。
最終更新:2011年11月13日 13:27