俺の名前は……まあ、
キョンでいいか。
どうせ本名を言っても、誰もわかってくれないだろうしな……。
とにかく、今回は俺が語り部を務めさせてもらう。
さて、これはいったいどういうことなのだろうか。
俺は今日もSOS団の慌ただしい活動を終え、ようやく休めると思いつつ我が家のドアを開けたはずだ。
だが、そこからの記憶がどうもはっきりしない。
気が付けば俺は、真っ暗な場所で椅子に座って手足を金具で固定されていた。おまけに口には、猿ぐつわまで噛まされている。
どう見ても拉致監禁の被害者です、本当にありがとうございました!
俺なんかを拉致してどうしようっていうんだ、おい。我が家の家計じゃ、身代金なんてたいしてふんだくれないぜ?
それともあれか? もしかしてハルヒがらみか?
ハルヒの力を知るどこかのやばい組織が、あいつの関係者である俺を利用しようと……。
あり得るな。営利目的の誘拐よりは、そっちの方が可能性が高そうだ。
そんなことを考えていると、闇一色だった部屋の一部が突然明るく照らし出された。
その光の中にいたのは俺と同じように椅子に拘束された男と、その傍らに立つ女だった。
意識がないらしく目を閉じたままの男の方は、まったく見覚えがない。だが女の方は、もう見覚えがあるなどというレベルではないほどに慣れ親しんだ顔だった。
俺は、思い切り目を見開いていた。猿ぐつわがなかったら、それなりの音量で叫び声もあげていたことだろう。
何せ俺の前に現れたその女は、
涼宮ハルヒだったのだから。
だが……違う。そいつは俺の知るハルヒとは、微妙に違っていた。
黙ってさえいれば魅力的といって差し支えない顔立ちや体つきは、間違いなくハルヒのものだ。
しかし、髪が長い。切る前の入学当初でも、あいつの髪はあそこまで長くなかったはずだ。
いかんせん記憶が曖昧だが。
それに着ている服も、北高の制服ではなくどこか別の学校の制服だった。
まあ服なんてものはいくらでも着替えられるものであるわけだし、髪だってカツラという手がある。
だが外見的なものを抜きにしても、なぜか俺は目の前のハルヒが自分の知るハルヒではないと感じていた。
「ようこそ、皆さん。我々が主催するバトルロワイアルゲームへ」
大げさな身振りを交えながら、目の前の「ハルヒ」は言う。その声も、間違いなくハルヒそのものだ。
それはそうと、「皆さん」ってことはこの場所には俺以外にも人がいるってことか。
まあ息づかいらしき音がさっきから聞こえていたので、そうだろうとは思っていたが。
そんなことを考えている間に、「ハルヒ」は次の言葉を口にする。
「これからあなた達には、
殺し合いをしてもらうわ!」
はい? 今あいつはなんて言った。殺し合いだと? ここはつっこむべきところなのか?
悪質な冗談にも程がある。意味がわからないし笑えないぜ!
「まあ、いきなり殺し合いなんて言っても信じられないかもしれないわね。
だから、今から証明してあげる。あたしたちが本気だってことを」
そう言うと、「ハルヒ」は指を鳴らした。それを合図に、新たな人物が光の中に入ってくる。
それは銃を持った、兵隊らしき服装をした男だった。あいにく俺はミリオタではないので、格好だけでどこの兵隊さんなのか判別することはできない。
とりあえず、自衛隊ではないと思う。
まあそんなことはどうでもいいわけで、重要なのはここから先だ。
その兵隊さんは無言で、銃口を椅子に拘束された男のこめかみに突きつけた。
おいおい、まさか……。やめてくれ、それこそ洒落にならない!
そんな俺の願いもむなしく、無情にも引き金は引かれてしまった。乾いた銃声が響き、男の頭から血の雨が降る。
少し経つと、ヘモグロビンの鉄臭いにおいが俺の鼻にも届いた。
俺の体は、がたがたと大きく震えだしていた。情けないように思われるかもしれないが、しょうがない反応だろう。
こんな近くで、人が無惨に殺される瞬間を見せられたんだからな。
「これで、あたしたちが本気だってことが伝わったかしら? これでもまだお遊び気分でいるような人は……まあ、早死にするでしょうね。
そうなったら、自分の間抜けっぷりを恨みなさい? あたしはちゃんと忠告したんだから。
さて、それじゃあ細かいルールを説明するわね。
これからあなた達には、こっちで用意した無人島に行ってもらうわ。殺し合いの舞台はそこよ。
その島で、生き残りが一人になるまで殺し合いなさい。最後まで生き残った人は、好きなだけご褒美を与えて元の場所に帰してあげる。
それからゲーム中飲まず食わずってわけにはいかないでしょうから、食料や水はこっちで用意したのを支給してあげるから。
ああ、名簿なんかも渡すから、知り合いがいないかどうかそれでチェックすることをお薦めしておくわ。
それから、武器も何個か支給してあげるからありがたく思いなさい。何が渡されるか、何個渡されるかは完全にランダムだけどね。
あたしの気まぐれでがらくたが入ってたりもするけど……まあそれに当たっちゃったら運が悪かったと思って諦めることね。
あとは……ああ、そうそう」
言葉を句切ると、「ハルヒ」はおもむろにただの屍と化してしまった男の首に手を伸ばす。
「ここに首輪が付いているのがわかるかしら? これと同じ首輪が、あなた達にも取り付けられているわ。
この首輪には、爆弾が入ってるの。ちっちゃいけど、人間の首を吹き飛ばすぐらいの威力はある。
そして私たちは、無線操作でいつでもこの爆弾を爆発させることができる……。言いたいことはわかるわね?」
いったん男の首から手を離すと、「ハルヒ」はポケットから小さなリモコンらしきものを取り出す。
そして、そのボタンを躊躇なく押した。直後、やはりというべきかなんというべきか、男の首輪が爆発する。
名前も知らぬ男の頭部は、完全に胴体と切り離され床に落ちた。なんてスプラッタ映像を見せてくれるんだ……。夢に見たらどうする!
「とまあ、こんな風になりたくなかったら、妙な考えは起こさないことね。
あたしは心が広いからめったなことじゃ首輪を爆破したりしないけど、仏の顔も三度までって言葉もあるし」
笑いながらそう宣告する「ハルヒ」は、とうてい仏には見えなかった。むしろ悪魔だろう、あれは。
「それから、この首輪にはもう一つ役割があるの」
ふいに、「ハルヒ」がしゃがみ込む。「ハルヒ」は爆発した首輪の残骸の中から何かを拾い上げ、それを見せつけるように掲げた。
「首輪にはこれ……青き星条なる世界の象徴である星をかたどったチップが埋め込まれているわ。
これは首輪の主の生存反応が消えてはじめて、首輪から外すことができる。つまり、頑張って他の参加者を殺した人ほど多く星を集められるの。
この星を三つ以上集めて会場にある『交換所』に持っていくと、武器を一個追加か怪我の治療かのどっちかのご褒美が得られるわ。
要するに、殺せば殺すほど有利になるってわけ。頑張りなさい」
頑張れといわれても、人殺しなんてまったく頑張りたくないんだがな……。
一体全体、なんでこんな事になってるんだ。
説明できる奴がいるなら今すぐここに来い! そして俺に説明しろ!
「さて、説明することはこれくらいかしらね。一気にこれだけ喋ったから、さすがに疲れたわ……。
あとゲームが始まって6時間したら放送でいろいろ情報流すから、なんか説明し忘れたことがあったらその時言うわね。
それじゃあただ今をもって、ゲーム開始! 全員、出撃しなさい!」
人差し指を立てた右腕を真上に伸ばしながら、「ハルヒ」が宣言する。
その瞬間、俺の意識はまるでテレビの電源をOFFにしたときのように唐突に途切れたのであった。
【イヨク青木@犬マユゲでいこう 死亡】
最終更新:2009年11月25日 00:48