橙の震え、銀の鍍金


【学生寮】


余談話。
現在みゃーこと大内灯里は自室のベッドに潜り込んでいる。
理由はない。
ただそんな事実があるというだけ。

「……だって怖いんだもん」

そう口に出して後悔する。
思い出してしまった、あのときの光景を。

―――――茶畑くんを処刑したあの光景を。

泣きわめき、助けの声を求め、
しまいには脱力して声すらもでなくなったようであり
力なきその首をしっかりと固定され、そのままズバン。
首は放物線を描いて落ちてゆき、不思議と目があったような錯覚を覚えた。

怖かった。

たしかに試合をしたことのある
バスケ選手にガンつけられたときも本当に怖かったけど、そんなのとは種類が違った。

みゃーはバスケ部の主将である。
ただそうはいっても、みゃーには実力があるわけではない。
あったのは、自分で言うと心許ないが
厚い信頼と、正確な観察眼。
ただそうは言っても、どれは天性のものではない。
この恐がり故の、副産物といっても過言でもないがここではおいておこう。

ただ、みゃーはそんな目を以て観てしまった。
茶畑くんの顔を、瞳を。

(よくも助けてくれなかったな)

そんな視線を、イヤと言うほど身を感じた。


さっきも言ったがみゃーはそれなりに信頼には厚い。
それにバスケ部主将という肩書き。
確かにみゃーは助けにきてくれてもおかしくない人材だったのかもしれない。

「……ママー、パパー?……」

不意に生みの親の名を呼んだ。
むろん応えてくれるわけがない。
わかっている、理解はしている。
ただそれでも……。

みゃーは、一人がイヤだった。

なのに部屋で一人きり。
寂しい。悲しい。空しい。苦しい。
広いとはお世辞にもいえないけど、ただただ広く感じる。
まるで世界でひとりぼっちにされた、そんな感覚

だめだ、潰される。
だめだ、殺される。

けれど、みゃーのところには慰めてくる人は愚か、殺しにかかる人もいません。

けーたいを使えば、誰かがすぐにでもくるでしょう。
けれど使えない、使いたくない。
もしも使って呼び出した人が殺す側の人間だったら。
そうなったらみゃーは、もうだめでしょう。
きっとすぐに崩壊する。
なにが? なにかが。

――――あぁ今すぐにでも眠ってしまおう。

そしたらすべてが夢であって。
みんな生きてて、校長先生もいつも通りで。
みんなみんな笑って三年生になる。
そんな日常を。

だから


ばいばい。
おやすみなさい。


そして――――おかえりなさい。




おかしいな
繋がってはいるんだけど。

俺はけいたいをいじって、ある番号を呼び出し続けている。
プルルルル、プルルルル。
延々と続くその音に流石に嫌気がさして、俺は電話の電源を切る。

その電話先は、とある先生が付けたあだ名は『童謡動乱』。
大内灯里ちゃん。
普段は小柄でおどおどしているけど
部活の主将を任されていたりと何かとすごい子だ。
バスケをしている時の姿を何度か見ることもあったけど、それはそれは凄かった。
真剣なまなざし。いっつも垂れ下がって優しそうな雰囲気を醸し出す瞳もキリッ、とした感じで、鮮やかな橙色の髪が舞う姿は、綺麗も綺麗。
惚れ惚れする。

真面目ちゃん。

そんな言葉が似合う少女。
高校生に見えない幼き身体で懸命に頑張る姿など保護欲にそそられる。

けど。
いや、だからこそ。

「殺しやすいと思ったんだけどなぁ」

俺は人目をはばからず、静かにそういった。
自分でもぞっとするような声。
恐ろしいことを言う奴もいたもんだ―――まぁ俺だが。

俺とて人を殺したくなんてない。
ましては元としてでもクラスメイトなんてもってのほかだ。

―――けれど、優勝もしたい。

願いを得るために。

願い
それは、俺の弟の病気を消すこと。
不治の病だと言われた。
もう近いと言われた。
奇跡でも起こらない限りと言われた。


なら、奇跡を起こそうではないか。


クラスメイト13人と弟1人。
天秤に計るまでもなく、弟の方が大事である。

誰が何と言おうが。
誰に何と思われようが。
異論は受け付ける、ただ受け入れない。

だから。
まってろよ。
まっててくれよ。

今すぐ俺が―――お兄ちゃんが―――いや、お姉ちゃんが。


―――助けてやるからな。


この銀河清海の名に賭けて!


俺は大内がいるであろうと考えた、学生寮に足を向ける。
人を殺すため―――――俺は歩く。


太陽が、眩しかった。



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最終更新:2011年11月27日 12:24
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