金の廃れ、紅の哀哭

 ○


【学生寮付近】


 ○


ああ、どうしてこうなんだろうか。
どうしてこう上手くいかないのだろうか。
私、金井哲一は考える。

手には、クロスボウ。
矢は先ほど一本使ったので残りは二本だ。
そう。
私はすでに矢を一本ばかし使わせてもらった。

白神康平委員長。

彼を殺すために。
どうやら幸運、あるいは不運なようで私の命中力は中々のものだった。

いやはや、まさかここまで殺人がつまらないものだとは想定外だ。
私は殺人というものは少しばかりは楽しいものだと思っていたのだが、
どうやらその考えは撤回した方がよさそうだ。

もし、殺人が楽しいものであったなら。
私はこんなにも悩まなかったのに。
一人を、たった一人を勇気をもって殺してしまえば。
あとは野と成れ山と成れ、といった具合に狂気に走ることも可能であったのだが。
それも叶わぬ夢のようだ。
これからも私はこんな、辛い辛いしがらみに捕らわれなければならないようで。

そもそも私が人を殺すのは生きたいからだ。
それは変わらない。
だからこそ、私は悩み悩み悩む。

「私がそこまでして生きたい理由……」

はたして何だったのだろうか。
白神委員長を殺してからそれが行方不明。

完全に見失ってしまった。

確かにあったはずなんだ。
私の心には。
だから―――殺した。

白神委員長の苦虫を噛み潰したような顔が脳裏に浮かぶ。
私のせいでああなったのだ。

無論のこと、私なりに考えてみた結果。
一番悪いのはこの学校、もしくは校長だろう。

しかし、だ。

私、金井哲一という存在が彼、白神康平という存在を消したのもまた事実。
この事実に対しては、校長のせいではなかろう。

悪いのは、私。

これを校長のせいにするにはあまりに責任転嫁。
ご都合主義も甚だしい。

故に私は自責の念……というよりも、自害の念に潰れていくのだろう。

自業自得。

そんなありふれた言葉が私を射抜いて砕く。
贖罪だったらまだよかったのに。
悔恨だったらまだよかったのに。
けれど違う。
これは自業自得で自己満足な自己犠牲だ。
白神委員長は出る隙間がないくらい、私の心は自分で一杯だったのだ。

悔しかった。
こんな私が悔しかった。

あまりにも救いようのなさに、どうにかなってしまいそうだった。

またこんな私のために人が死んでしまう。
駄目だ。
危険だ。
それはやってはいけない最低最悪の行為だ。


自暴自棄。


そうなってしまう前に一つの手段。

それを行使していこうと思う。

もう後腐れもない。
元から腐った鉛のような人物だったのだ今更だ。

腐ったものは廃棄処分。
それが一番。

そう思ったが早く。
私は構える。

一本の矢を、喉に当てる。

いわゆる自殺。
それ以上もそれ以下も無論あるわけがない。

「ヤ、どうしようもないね。私」

ということで。
私には殺したあいつの分まで生きようなど
図々しく烏滸がましいヒーローのような思想は持ち合わせていないので
ただ単純にその身をもって、終わらそうと決めたのだ。

だから終えよう。
だから朽ちよう。

てなわけで。

私は剥きだしの矢を深々と喉に突き刺した。


ああ、なるほど。
死ぬとはこういうものなのか。

覚悟を持って死んでこれなのだから、不意打ちされた白神委員長はもっと痛かったのだろう。
いやもしかすると逆に痛覚など消え去ったのかもしれないが。

ともあれだ。
私の人生はこれにておしまい。

次回の金井先生の作品にご期待ください。


そんなわけで、おやすみなさい



【金井哲一:死亡】





「うぅ………ぐすっ、うぅぅぅ」

今ね、桜江はね、泣いてるの。
目の前の哲一君の―――死体を見て。

哀しいね。

死んでいくのは悲しいね。
どうしようもないぐらい。

「うっ、うぅぅ」

泣く。
桜江はね、泣いちゃう。

もう嫌だ。

桜江のね、心の中ではそんな言葉が反響して木霊している。
なのに――――終われない。

終わりたくない。
終わりたくない。
終わりたくない。

「…………」


このモヤモヤはしばらく忘れられそうになかった。



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最終更新:2011年12月04日 12:30
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