「……あれ」
目を覚ました時には椅子に座っていた。
俺…須藤凛はさっきまでバスの中にいたはずなんだ。
座っていたのは1番後ろの席だ。
前には不良グループの1人笹川走馬がいる。
横には無口な湯川蓮(男子十四番)がいる。
どうやらこれは俗に言う名簿順と言うやつだ。
俺の友人…津村匠はまだ寝ていた。
というよりほぼ全員起きてるのにお前は寝てんのかよ。
ずっと寝てただろうお前は…。
「みんなー、起きてるねー」
前からガラリと音が鳴った。
それはドアが開けられる音に間違いなかった。
先生…かと思いきや入ってきたのは先生ではなかった。
顔の所々にしわがある、40代のおっさんってところだ。
男は教壇に立って周りを見渡す。
「ふんふん…32人ですか、いいですね」
何がいいのかわからないが男は黒板に文字を書きだした。
「島田 信作」と大きな文字で書かれる。
これは説明もなしでもわかる、あいつの名前だ。
「はい、新しく担任になった島田信作だ、よろしくな」
「新しく」という言葉に引っかかる。
つまりそれは、担任が栗山悟ではなくなったということだ。
「とりあえずお前ら…戦闘実験第六十八番プログラムって知ってるよな」
その単語を聞いて、数人の生徒がざわめきだす。
何故それが…どうして…そんな声だ。
島田はそんなことも気にせずに話を続ける。
「実は…それが復活することになったんだ…戦争に負けた?
そんなのは表面上のことだ、俺らの国はまだ米帝なぞには負けていないんだよ!
このプログラムは再び反旗を翻すための第一歩なんだよ」
簡単にいえば、戦争を再びするためにそのプログラムをしろっていうのか?
……そのプログラムが何かは知らないけど。
だが、周りのざわめきを見る限り…数人は知っているようである。
最も顔を青ざめさせていた大里俊明(男子三番)が叫んだ。
「なんで、なんで実験を僕のいるクラスに…!
実験をするというのは父から聞いていた、だが…なぜ僕のクラスが!」
そのプログラムが何か知っているだけでなく関係者の親族らしい。
そういえば、あいつは父親が政府に属しているとか言っていたな。
そんな叫び声を聞いて島田は笑った。
不愉快なほどに大爆笑していやがるぜあの野郎。
「ははははは…何を言うかと思えば、そういえば同じようなことを言っていた生徒が昔のプログラムにいると聞きましたね…」
過去にも同じことをいった奴がいるらしい。
だが、その過去のことなんて俺には全然わからない。
「人間は皆平等なんだよ、自分だけ特別だとでも思ってんのか?」
今までになかった―――覇気の籠った声。
ざわめいていた教室が一気に静まった。
そして―――
「知らない人のために説明しておきましょう…このプログラムはね……」
「……は?」
コロシアイ?何を言ってるんだ?あの爺さんは。
老害で頭が逝っちゃってるんですか?
そんな事を思っていると、脇谷の奴が笑った。
「はっはっは!ナイスジョーク!いやー…最近の大人も面白いことがいえるとは…先生は今の芸人より面白いですよ!」
笑い転げてやがる、ただ一人。
そんな脇谷を見て島田が困った顔をする。
そして、左ポケットから「ある黒いもの」を取り出した。
それは俺でも見たことはあった。
ゲームでも出てくる、主人公がゾンビとか悪役を倒すために使う「あれ」だ。
「……あら、まだ寝ているとは…不真面目ですねぇ」
そいつが、匠に向けて、それを突き付けた。
俺は何が起きていたのかわからなかった。
だけど、俺は走っていた。
そして叫んでいた、「止めてくれ」と。
だけども、時が急に止まって助けれるなんてことはない。
次の瞬間、匠の頭が、粉々になった。
隣に座っていた二人と後ろに座っていた一人が叫んだ。
それは、まごうとなき恐怖だった。
「匠ぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は叫んで匠に近寄る。
俺の友人が、俺の友人だったものが、俺の友人の残骸が。
俺の手の中にあった、顔はもう判別できないくらいにつぶれている。
そして、次の瞬間にこみあげてきた感情…。
怒り―――
「島田ぁああああああああああああああ!!!!!」
いつの間にか俺は島田に殴りかかっていた。
俺もここまで怒ったことは無かっただろう。
こんな感じに吹っ切れたことなんてなかった。
殺されるのは目に見えていたのにだ。
それでも俺は、大事な友達を殺した友人を許せなかった。
「ぐ、ふぁ!?」
だが、いきなり吹っ飛ばされた。
横に立っていたのは、委員長川村香織(女子五番)だった。
まさか女子に殴られるとは思っていなかったが、助かったのか。
「誠に申し訳ないのですが…この馬鹿をお咎めなしということにできないでしょうか」
「……ふん、まあいい………」
「あと一つ質問したいのですが、栗山先生はどこに行ったのでしょうか」
委員長が冷静に言っている。
だが、それはいつもの口調より焦りが含まれている。
それもそうだ、さっき一人の人間が死んだのだ。
「ああ、忘れていた…栗山先生はな、プログラムに反対したんだよ」
「それはそうでしょうね、賛成する先生なんていないでしょう」
「ああ、でもこれは国家命令なのにね…国家公務員が国家に逆らったらどうなると思う?」
「……解任ですか?」
島田はパチン、と指を鳴らした。
すると、上から物体が降ってきた。
「上から来るぞ!気をつけろ!」くらい言ってくればいいのにな。
――――なんていう冗談が言えたのは、それが視界にとらえる前までだった。
「ひっ、きゃあああああああああああああ!!!!」
委員長が珍しく叫んでいた。
だが、叫んでいたのは委員長だけじゃない、俺以外全員だ。
俺も立ち上がって、何があるのかをみる。
いや、見えないほうがよかった。
そこにいたのは、栗山先生だった。
だが、生きてなんていない。
眼球は飛び出し、腸ははみ出し、肉が見え、骨も見える。
一瞬で俺は理解した、死んでいるんだなって。
「う、げぇぇええええ!!」
口から酸っぱいものが出てくる。
腹に何も残っていないため、胃液しか出ない。
周りの奴も、所々で虚ろな眼をしていたり、吐いたりしている。
「うんうん…とりあえずルールとかは用紙が作ってあるからなー、席に戻れ、配るからな」
俺は立ち上がって、ふらふらと自分の席に戻った。
すると、紙が回ってくる。
そこに書かれているのは、文字の羅列。
今は見る元気も気力もないんだよ。
「ふん…とりあえず、お前らにはその紙の裏に「僕たちは
正々堂々と殺し合いをします」と書いてもらうか」
何を言ってやがんだあの老害。
そんなもん、誰が書くってんだ。
そんな風に思いながら、島田を見ていると左から何かが突き付けられた。
拳銃―――書かなきゃ殺すってのか。
仕方なく、俺はシャーペンをとる。
僕たちは正々堂々と殺し合いをします
僕たちは正々堂々と殺し合いをします
僕たちは正々堂々と殺し合いをします
書き終わると、やっと突き付けていた男が離れた。
島田が笑顔になり、何かを持ってこさせる。
そこにあったのは、俺達の荷物だった。
「そこにはお前らが持ってきていた荷物と、私たちからの支給品を入れてある…それについては紙に書いてあるからな」
紙を見ていなんだけど、とは言えない。
「よし、ではいいな…では名簿番号1番浅倉翔から荷物を受け取って出ていけ!」
そうして、始まってしまうのだ。
この悪夢が……。
考えてみれば、あの時の予感が当たっていたんだな。
そんな皮肉を小声で言いながら、自分の番を待った。
【残り 31人】
最終更新:2012年08月02日 20:07