12:憤慨、驚愕、贖罪
「お嬢ちゃん、怖いだろ? おじさんが守ってあげるよ」
「……っ」
豪邸にて、神谷茜は窮地に立たされていた。
レオポルトと名乗る茶色の毛皮を持つ人狼の雄に遭遇したのだが。
その人狼の雄は茜を発見するなり異様に興奮し、息を荒げ、涎を垂らし、股間のそれはいきり立ち、
先端から透明な汁が糸を引いていた。
「あの、わたし、い、いいです、一人でいきます」
身の危険を感じた茜は人狼から逃げようとする。
「どうして逃げるんだい?」
しかし当の人狼がそれを許すはずも無い。
手を伸ばし、茜の肩を掴んだ。
「いいから、おいで」
「い、いやあ!!」
レオポルトの手を振り払い、茜は部屋の出口に駆け出す。
このままでは、きっと自分は酷い目に遭う。これ以上無い程、想像も出来ないような。
逃げなければ、一刻も早く、あの狼から。
「待てよ」
「嫌ああああ!! だ、誰かっ…!」
「クククッ、誰も来やしないよ……」
「はぁ、はぁ…!」
「逃げる事無いだろ? おじさん、本当に茜ちゃんの事が心配なんだよ…?」
(う、嘘だ、嘘だぁっ…!)
身体の全ての細胞が、脳の奥の本能が、一斉に危険信号を発しているような気がした。
あの人狼は危険だと、絶対に捕まってはならないと。
「う そ じ ゃ な い よ ?」
しかし、ろくに豪邸の構造も知らなかった茜は、あっさり袋小路に追い詰められてしまった。
「あ、ああ…!」
「どこに逃げようって言うんだい…? さあ、良い子だから……ね……おいで」
舌舐めずりしながらレオポルトが少女にゆっくりと近付く。
まさしく絶体絶命、もはや茜には何の手立ても残されていない。
恐怖で思考が狭まり、自分のデイパックの中を見ると言う選択肢が浮かばない。
欲望を剥きだしにした獣が、無垢な少女を汚そうとした時。
バチッ!!
「ガアアアァア!!?」
「えっ!?」
突然、何かが爆ぜるような音と同時に人狼が悲鳴を上げた。
その場に倒れ込み、泡を吹いて苦しみ出す。茜には何が起きたのか全く分からない。
「大丈夫!?」
女性の声で茜は我に帰る。
手にバチバチと火花のような物が走る黒い小さな物を握った若い女性の姿を認めた。
「がああああアぁア、か、隠れテやがったノか…!」
「早く、一緒に逃げよう!」
女性は苦しむ人狼の傍を走り抜け怯えて震えている少女の元に駆け寄った。
「大丈夫? 立てる?」
「え……あ…はい」
呆然としている茜に力強く声を掛け立ち上がらせる女性。
そして部屋の出口に向かって、茜の手を握りながら一気に駆け出した。
だが、女性の足を人狼の手が掴んだ。
「待ちやがれ…!!」
「きゃあ!!」
女性は足を取られ思い切り転ぶ。茜は無事だった。
「お、お姉さん…!」
「うっ…ぐ…行きなさい! 早く! 私の事は良いから!!」
「でも…!」
「早く!!」
「……っ……ご、ごめんなさい!!」
女性は必死に、茜に向かって逃げろと叫び、茜は泣きながらそれに応じて全力で走り出した。
「このアマ…舐めた真似しやがって!!」
怒り狂った人狼、レオポルトは女性に馬乗りになり、何度も顔に平手打ちを食らわす。
普通の成人男性より強い人狼の力で殴られて女性の顔がただで済むはずが無く、口からは血が溢れ始め、
女性の目に涙が滲む。
「折角良い感じの獲物が見付かったのによぉ、テメェのせいで逃げちまっただろうが、ああ?
殺し合いなんかに巻き込まれてイラついてんだよこっちは…あのガキで発散出来ると思ってたのによぉ、オイ」
「うっ…ぐぅ……」
女性の首を掴み、窒息しない程度に絞め上げ、レオポルトはドスの利いた声で言い放つ。
「ムカついた…テメェは犯す気にもなれねぇ、この女、殺してやる」
「ア゛……ア」
女性の首を絞め上げる手に更に力が加えられ、女性の呼吸が止められた。
必死に人狼の手を払おうとする女性だったが、やがて、抵抗は無くなり、静かになっていき、完全に静止した。
「ケッ……くそっ、まだフラフラしやがる……」
女性の死を確認するとレオポルトはふらふらと立ち上がった。
自分が餌食にしようとしていた少女はもうどこかへ去ってしまっている。
ふと床を見ると黒い小さな物体――スタンガンが落ちているのを見付けた。
どうやら女性はこのスタンガンで自分の背中に一撃を加えたらしい。
悪態をつき、レオポルトはスタンガンを部屋の隅に向け思い切り蹴飛ばす。
「あア゛ーーーッ!! 糞が!! 畜生、ゼェ、ゼェ……」
突然殺し合いに巻き込まれた上、それによって生じたストレスを発散させようと見付けた折角の獲物を、
突然の邪魔者によって逃がした事、更にその邪魔者に軽度とは言え負傷させられた事により、
レオポルトの機嫌は最悪になっていた。
……
もう豪邸は見えない。周囲には森が広がるばかり。
神谷茜はあの自分を助けてくれた見ず知らずの女性に言われた通り、必死に走って逃げていた。
あの女性はどうなったのだろうか、死んで欲しく無いが、あの様子では無事では済まないだろう。
(どうして、どうしてこんな…また殺し合いだなんて…!)
神谷茜は以前にも殺し合いに巻き込まれていた。
その殺し合いで茜は◆VxAX.uhVsMと言う青年と共に行動し、そして堀川翔太と言う男に殺害された。
そう、一度自分は死んだはずだった。
しかし意識を取り戻した時、自分は天国でも地獄でも無い、いや、ある意味「地獄」――再び殺し合いの参加者となっていた。
撃たれた傷は完全に癒えていた。
――恐怖は終わらなかったのだ。
(◆VxAX.uhVsMさん……助けて……!)
いつしか茜は、以前の殺し合いで行動を共にしていた青年の名前を心の中で何度も呼び、助けを求めていた。
あの殺し合いの中で、◆VxAX.uhVsMと言う人物は見ず知らずの他人であるはずの自分に優しく接してくれた。
無意識の内に茜は◆VxAX.uhVsMを非常に信頼出来る相手として見ていたのだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
どれぐらい走っただろうか、茜は足を止め乱れた呼吸を整え始める。
「……そう言えば、まだデイパック見てなかった」
まだ支給品の確認を行っていなかった事を思い出し茜は手近な樹木の根元に座り自分のデイパックを開ける。
名簿を取り出し、開く。
「……」
書かれている名前に目を通していると。
「……え?」
ある名前に目が止まり、そして茜は驚いた声をあげる。
「……◆VxAX.uhVsM、さん……嘘……?」
……
守谷彩子は、とある殺し合いに巻き込まれた。
彼女には刀が支給された――ただの刀ではなく、手にした者の正気を奪い血に飢える人斬りに変える力を持った、妖刀。
彼女はその力にあっさり自分の身体を操られ、何人もの参加者をその手に掛けた。
その心の奥底に確かな元の意識を保ちながら。
もう一人の自分が、容赦無く他人を殺すのを、まるで窓のついた部屋に閉じ込められ見せ付けられているようだった。
そして、守谷彩子は死んだ。三人組の男と戦い、一人を殺し、一人と相討ちになった。
しかし、何の因果か、彩子は再び生を与えられ、別の殺し合いに呼ばれた。
今度はしっかり自分の意識があり、自分の意思で身体を動かせる、そして彼女は決めた。
この殺し合いに抗い、以前の殺し合いで犯した罪滅ぼしをしようと。
支給品はスタンガン一つ、心許無いが、妖刀よりは遥かにマシでまともな支給品。
結果。
豪邸にて、茶色い狼の化け物に襲われていた小学生ぐらいの少女を助ける事が出来た。
だが、代わりに自分の、再び与えられた命は間も無く消える。
自分の首を絞める人狼の手にはどんどん力が加えられ、もう呼吸は出来ない。
意識が段々と遠退いていき、心臓の鼓動が弱まっていくのを感じた。
――また、死ぬみたいね、私――。
死ぬのは二度目だ、しかし今度は以前より意識がはっきりしている分、痛いし苦しいし怖い。
しかし、穏やかな気持ちでもあった。
――少しでも、罪滅ぼし、出来たかな? 誰か、出来たよって言ってくれると、うれしい、な――。
願わくば自分が助けたあの少女がこの殺し合いを生き抜いてくれますように。
それが守谷彩子の最期の願いだった。
【守谷彩子@◆6LQfwU/9.M氏のオリキャラ 死亡確認】
【残り 47人】
【早朝/???(森林地帯)】
【神谷茜@◆6LQfwU/9.M氏のオリキャラ】
[状態]肉体、精神疲労(大)、驚愕
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、???(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いはしたく無い。
1:◆VxAX.uhVsM、さん…!?
[備考]
※
需要なし、むしろ-の自己満足ロワ3rd本編死亡後からの参戦です。
※レオポルトを危険人物と認識しました。
【早朝/B-2豪邸二階】
【レオポルト@オリキャラ】
[状態]身体に軽い痺れ、背中に軽い火傷、機嫌最悪
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、???(1~2)
[思考・行動]
基本:自分の欲望のままに行動する。死にたくはない。
1:ああイラつく…!
[備考]
※ロワ参加前からの参戦です。
※神谷茜の名前と外見を記憶しました。
最終更新:2012年02月08日 22:19