どこかで銃声が聞こえた。
と、いうことはどこかで殺しがあった可能性が高い。
銃を撃った者は、何故このようなものにのったのだろう。優勝を狙っているのだろうか。自分の努力で手に入れていないものなど、手に入れたところで扱いきれないに決まっている。それとも人殺しがその「努力」だといいたいのだろうか。
「……愚かだわ」
完全に独り言だった。だから。
「全くです」
返答があるとは思っていなかった。
正直なところ少々驚いたが、その声が知人のものであったために、私は比較的すぐに平生を取り戻した。
「……気配もなく突然後ろに立つの、やめていただけません?」
「ああ、申し訳ありません。でも、「突然」ではありませんでしたよ? しっかりと歩いて参りました」
「……鴉天狗は皆気配がないのですか?」
「では白澤は皆気配が読めないのですか?」
「……若輩者め。今は私が質問しているんです。答えなさい」
「若輩者? 私も妖怪の中ではかなり老人なんですがねぇ」
貴女よりは若いですが、と品よく笑う彼は鬼一樹月という鴉天狗だ。私と接しているところを見ると誤解してしまうかもしれないが、本来彼は凄まじく善人なのだ。
ただ私とは仲が良すぎてお互いにまともなことが言い合えないだけで。
私と樹月は二人とも妖怪であり、ともに長い年月を生きている。まあ、私から見れば彼など子供同然なのだが(何せ私の半分程度しか生きていないのだ)、それでも他の妖怪から見れば、彼はかなり長寿な方に入る。
「……まあいい。用があったのでしょう? 言ってみなさい」
「柚希を殺します。手を貸してください」
「……!」
思ったより直接的な申し出だった。樹月は相当頭にきているらしい。
柚希は私よりも年長者であり、恐らく(いや、必ず)今の樹月では敵わないだろう。だが……私と組めば話は変わるかもしれない。
我々にはそれぞれ部下と呼べる妖怪がいる。あの教室で樹月の弟子である西行氷哉をみたから、私の部下である円千代がいる可能性も低くない。
私も柚希には腹が立つし、協力しても良いのだが……さきに理由を聞いておこうと思う。
「何故?」
「決まってるではありませんか。あの女の好きにはさせたくないのですよ」
と、ここで樹月が一度言葉を切る。左手で顔を覆ってため息をついた彼に、思わず鳥肌が立った。……ああ、樹月が怒っている。
左手で顔を覆うというのは、本当に怒ったとき、樹月が行う癖である。こういうときの彼はとても怖いのだ。
「俺だけなら許せる。だけどな、西行まで危険に晒しやがって……その上善良な人間まで……あの愚者、殺さねば気がおさまらねえよ」
ああ、口調まで変わってしまってる。……理由、聞かなければよかったかもしれない。
すこしだけ間を置けば、樹月ははっとしたような顔をした。続いて居心地悪そうに視線を逸らす。
「……失礼しました。忘れてください」
「…………そうするわ」
過去に一度、彼に二重人格の気はあるのかと聞いたことがあるのだが、どうやらそういうわけではないようだ。ただ意識はあるのだが、感情の制御がうまくいかないときがあるらしい。
それが彼の幼さであると思うのだが、彼も今では弟子を抱える身。あまり問題と捉えていないのかもしれない。
……まあとりあえず、樹月の意見が聞けただけでもよしとしようか(まあもとから協力する気はあったので確認に過ぎなかったのだけれど)。
「いいわ。協力してあげる。ただし条件付きでね」
「ええ、予想はしておりました。後ろの彼でしょう?」
頷いてみせる。流石、樹月は頭が良い。彼を「なんとかできれば」、私も協力することにする。――だってほら、足手まといの手助けなんて、御免だと思わない?
後方十数メートルに一人男がいる。殆ど気配を感じないので相手もかなり手強い相手かもしれない。
振り返れば、男はあっさりとでてきた。
「私は鬼一樹月です。お前も名乗りなさい」
偽名でも使えば良いのに、樹月は正直に名を名乗る。彼の「私」という一人称は、こういう場面だと妙に恐ろしいなと思った。そして出てきた彼は思ったより長身だ。
そもそも樹月が小柄な分類になるからかもしれないが、同じスーツを着た男二人を見るだけで(私や彼はともかく、樹月の外見年齢は成人していないはずだが)、少々樹月が不憫になった。
……これは言わないでおく。男も身長は高いが、それほど体格が良いわけではない。ただ、ほどよく筋力はついているようだったようだが。
「……ジェラール・サトゥルクオンです、お二方」
深々と頭を下げる彼に、争う気は無いようだ。とりあえず彼とは距離を置いて話を続ける。
「何故盗み聞きなどという趣味の悪いことを?」
ジェラールと名乗るその青年は、なかなかに美しいその容姿をすこしだけ歪めて、もう一度私たちに謝った。
「同士かと思い、お話を聞かせていただきました。お話しが切れたところで失礼しようかと思っていたのですが……」
「それ、証明できますか?」
口を挟んでみる。我ながら意地の悪い質問だと思う。案の定彼は困ったように眉を下げた。それは当たり前。
だからこちらから指定して差し上げなければ、ね。樹月を見れば、彼は私の言いたいことを理解したようで(流石である)、小さく頷いた。
「申し訳ありませんが、疑いが晴れるまでは監視させていただきます」
「……監視?」
「ええ。あなたの身分を明かしていただき、暫くはこちら側の命令に従っていただきます。……よろしいですね?」
正直なことを言えば、ただの奴隷である。だから「よろしい」ことはないのだが……まあ、どちらにしろ彼に得はない。だって彼は先手を打たれたのだから。
彼はほんの少しだけ悩んだような顔をし、それからは諦めではなく決意を表情に滲ませた。
「……ルキフェシル王国王国軍一番隊隊長兼剣術師範のジェラール・サトゥルクオンです。疑いをかけられるという状況を私はとても好みませんので、晴れるまでお好きなようにお使いください」
跪く彼には、どうみても敵意は無い。樹月としてはこの手にあまり良い顔は出来ない様だが、従わせてから「仲間」に格上げさせるのもかなり良い手であるのだ。知っておくと良いよ、樹月少年。
ジェラールに我が名を名乗り、暫くは三人で行動することにした。
彼の身分を聞くと、結構な剣の使い手のようだ。……これは使える。
二人に見えないように小さく笑ったとき、ふと気づく。
……私、思ったより悪女じゃないか?
【8-E/道/一日目-午前】
【土御門伊織@黄昏シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:???
[持物]:基本支給品
[方針/目的]
基本方針:生き残る
1:樹月の提案した「柚希マジ殺す作戦(仮」には参加する
2:ジェラールのことは疑っていないが、少々利用させてもらおうと思っている
[備考]
※ 実年齢は柚希に次いで第二位。九桁という、凄まじい状態です。が、見た目としては二十一くらいです
※ 白澤という妖怪です
※ 柚希とは知り合いです
【8-E/道/一日目-午前】
【鬼一樹月@黄昏シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:???
[持物]:基本支給品
[方針/目的]
基本方針:柚希殺す
1:生き残る気はあるようだ
2:無駄に殺人を犯す気は無い
[備考]
※ 近くに伊織がいるせいでわかりにくいですが、伊織(実年齢九桁)の半分ほど生きているということは……
※ 一応申し上げておきますが、男性です。一人称にだまされてはいけない
※ 外見年齢は十九歳程度
※ 読みは「きいち いつき」です
※ 鴉天狗です
※ 柚希とは知り合いです
【8-E/道/一日目-午前】
【ジェラール・サトゥルクオン@UNKNOWN】
[状態]:健康
[装備]:???
[持物]:基本支給品
[方針/目的]
基本方針:なるべく多くの人間とともに脱出する
1:柚希には本気でイラついてます
2:本気で疑われていると思っています
最終更新:2012年01月31日 23:11