どうしてかな。
どうして、この世界はこんなにも狂っているのかな。
世界だけじゃない。この世界を創った神様だって、頭のおかしい狂人だ。
歴史は繰り返されるなんていうけれど、戦争なんてものが繰り返されるのは神の頭が狂っているからに違いないし、もし私が神だったなら戦争なんてものは無くす。
神様は人間が大好きだって言ってた某シリアルキラーの言うことにも頷けるよ。
天上の神様は人間で遊ぶのが大好きなんだ。
小さな子がお人形遊びをするように、小説家がプロットを組むように。
いつだって必死に生きている人間を弄んで一人笑う。
私はそんな神様が許せない。
私はそいつの世界が許せない。
そんな私の糾弾も空しく、また狂った物語が始まる。
私の行っていることは、無駄なこと。公園の砂場の砂粒を数えるような途方もない旅。
まともな神経を持つ人間ならきっとすぐに挫折してしまうこと間違いないけれど、私はまともな人間じゃないからこんなにも無駄なことを延々続けられる。
小さい頃から、私は狂っていると呼ばれ続けてきた。
幼稚園では友達を泣かせてもただ笑い続けて気味悪がられた。
―――――現在は。
馬鹿みたいな憧れを捨てきれない狂人だ。
特撮ヒーロー。いつの時代も子供たちの憧れの的・正義の味方。
日曜朝なんかに放送しているのが大抵そうだ。
実写だったりアニメだったりするけど、私はどっちも大好き。
幼少期、狂っていた自分を変えたのはきっとこの
ヒーロー達だ。
正義は必ず勝つ―――安っぽい台詞ではあるけど、悪くない響きでもある。
小学一年生から見始めたのは大分遅いと思うけど、これに出会って私は変わった。
少なくとも人を泣かせたら謝る、人をいたわる心というものを得た。
――――ただし。歪んだ正義も同時に私の頭の中に叩き込まれた。
誰も死なせない。
誰も不幸にならない結末を望み、それに向かい行動する。
もしも誰かが不幸になる結末なら、それが最善でも破り捨てる。
例えば子供同士の間で主張が衝突したら、是が非でも両者納得の結末に至らせる。
そんなことを続けていたら、私は児童会の会長になっていた。
教師・生徒問わずに人気があり、正義のヒーローなんて呼ばれている。
でも、私は。
あまりにも『よくある』善行を行い、最悪の物語に足を踏み入れた。
バトル・ロワイアル。
異常能力者たちの
殺し合いの宴に。
私こと死神舞凪(しかみ・まいなぎ)は。
車に轢かれそうなクラスメイトを助けて。
私は、死んだ。
次に目を覚ましたのは妙な美術館のホール。
後は説明せずとも分かるだろうけど、私は殺し合いに巻き込まれた。
当然、ヒーローとして善悪問わずに参加者を救おうと動いた。
そして私はとある男に殺される。銃で胸を撃たれて、ほぼ即死だったはず。
それは終わりでも何でもなく、永劫に繰り返す正義の始まりに過ぎなかった。
私の能力はとっても優秀な、まさに当たりといえるもの。《相手の考えていることが分かる》なんて、ヒーローにとってふさわしくない能力だとは思うけれど。
でも、私には覚えがなかった。
12年間生きてきて、ただの一度も読心なんてしたことがない。
常に発動されているような能力なのに、覚えがないのはおかしいよね?
断言してもいい、私は異常能力者なんかじゃ《なかった》。
物凄くフィクションじみた話だけど、可能性としては《事故》が挙がる。
呼ばれる前の事故で死にかけた拍子に、秘められた才能が開花した!なーんてアホらしい煽り文句がついちゅいそうな話だけど、これくらいしか考えられない。
まあそういう超展開はヒーローらしくて好きだけどさ。
それでも私は殺された。
よく考えてみれば読心なんて大した力じゃないんだよ、少なくとも私みたいに非力な小学生が持っていてもただの宝の持ち腐れっていうもの。
最後までまともに力を生かせず仕舞いだったっけ。
しかし、私はヒーローを志す者。
ヒーローは倒れない、何度だって立ち上がらなければヒーローではない。
次に瞼を開いた時、私は自分がこの物語の『鍵』だと知った。
脳裏に焼き付いた美術館。
その光景を脳が認識した時、私は全てを悟り、自らを見舞った《不運》に感謝した。
繰り返された。
殺し合いの物語が、巻き戻された。それは即ち、救えるということ。
約束された悲劇の未来を、塗り潰す為の一抹の希望になり得る能力。
《自分が死亡した時特定の時間を巻き戻す》なんて力を、私は潜在的に保持していたようだ。
恐らく楓坂闇薙もこの能力には気付いていない。
この能力が発現するのはあくまで『死神舞凪』が死亡した時。
殺し合い開始時点では《人の考えていることが分かる》能力しか持たない。
だけど。
私を待っていたのは、死と絶望の螺旋。
繰り返した時間は総合してまだ半年分くらいだけれど、辛いなんてものじゃない。
一度に戻せる時間が短いのも厄介。
もたもたしていれば、開始数分で殺されてしまうことだってある。
余裕が持てない。それがある意味一番辛いかもしれないな。
でも私は諦めない。
《死神(しにがみ)》なんて悪役じみた名字を持っているけれど、私は悪に屈しない。
死神になんかならない。
ヒーローじゃなくたっていい。
ただ、ハッピーエンドを勝ち取れたらそれだけでいいんだ。
『誰もが』笑っていられる未来、たとえ夢物語でも私はそれを目指す。
どんなに青臭い、世界を知らぬ若者の台詞だとしても、私は救いたい。
幾度となく見てきた因縁の星空を見上げて、私は
決意新たに告げた。
「私は、天使になってやる」
死神の名と対極の存在を、目指して。
□
さて。ここで一つ補足説明を加えておこうと思う。
死神舞凪という少女の父・死神麻次(しかみ・あさつぎ)は極道一家の総長である。
死神一家、ありとあらゆる手段を以て害敵を始末することで恐れられた一家。
尤も今は麻次が殺し屋に暗殺されたことで、力が衰えているのだが。
最悪の一家の最凶の長を殺害した殺し屋を戦慄させた、それが死神舞凪である。
しかし彼女はそれを覚えていない、そもそもそれは彼女ですらない。
死神舞凪を騙る狂戦士が存在する。
その狂戦士は―――バトルロワイアルに招かれているとだけ、言っておこう。
■
「あー……普通じゃねえなこれ……」
俺は佐原裕二。普通を愛し普通に生きる、何処にでもいたらおかしい無個性な高校生。
そんな俺は今、改めて自らが置かれている状況の異常さを再実感していた。
バトルロワイアル。
15人の『異常能力者』とやらを集めて、最後の一人まで殺し合いをさせる。
まあ何とも頭のおかしい奴が考えそうなことだ。現にあの楓坂って女は相当イカれているように見えた、俺の大嫌いな狂人ってやつだな。
俺は決めた。この殺し合いは叩き潰してやる。
―――『普通』なら、ここは保身に走って無様に人殺しをするところだ。
だけどもう疲れた。
正直な話、無難な人生って滅茶苦茶つまんねえから。
毎日厄介なことを避け続けて、毎日無難に生きてきた俺が言うんだ、間違いねえ。
普通はつまらん。
普通に生きてたら人生損するよマジで。
思えばさ、俺ってのは本当につまらない男だったと思うんだ。
17年も生きてきて、やっと俺はそんな当たり前のことに気付いた。
俺は今まで、『普通じゃないこと』『異常』を嫌ってきた。
だからここらで、佐原裕二の価値観をかるーく改革しておこうと思う。
「普通はお終いだ。これからは、異常に生きることにしよう」
異常って言っても、まさか快楽殺人鬼や強姦魔を目指す訳じゃないぜ。
俺は手始めに、普通の人なら避けて通るか諦める『理想像』になってみようと思う。
簡単に言えば、ヒーロー。正義の味方とも言うかな。
だけど正義の味方なんて仰々しい肩書きは要らない、万人に等しく味方する
『ヒーロー』であればいいんだ。
たとえ悪人だろうが殺さない。
誰もが心に描く理想像に、誰もが望みながらも異常として切り捨てる理想像に。
そうでもすれば―――俺は、誰もが望む『異常者』になれるだろう?
「ははっ、違えねえ」
俺の腕っぷしは元からちょっと普通ではない。
親父に叩き込まれた拳法を幾つか習得しているから、下手な格闘家よりは強いぞ。
肝心の能力とやらには心当たりがないが、別に無くても戦えそうだ。
ヒーローが念力使ったりするのはどうも俺のイメージじゃあないしな。
「んじゃ一丁始めてみますか、ヒーロー」
佐原裕二の冒険はここから始まる!!―――なんてな。
□
「佐原裕二さん…………?」
「…………えーっと、どちら様ですか?」
佐原裕二は、一人の小学生に詰め寄られていた。
小学生こと私死神舞凪は、信じられないといった顔で佐原さんの体をぺたぺたと触る。
有り得ない。なのに、此処に有り得ている。あれ、日本語おかしいかな?
佐原裕二という青年が、殺し合いに乗っていないなんてこと、今まではなかった。
繰り返してきた殺し合いで、佐原さんはいつも『普通』の人間として『異常』な人間たちを殺すという奇特な役割だったはず。しかも腕っぷしも冴えるから、かなり厄介なマーダーだった。
なのに、私の読心能力はとてもイレギュラーな事態を知らせている。
―――ヒーローになって殺し合いを潰す。
ヒーローという存在は、現実的に考えてみれば『異常』な存在のはず。
それを誰よりも『普通』に執着している佐原さんが目指すということは。
佐原裕二という人間の価値観が、良い意味で崩壊しているということになる。
「あっ………と、すみませんっ、私は死神舞凪という者ですっ」
「俺は佐原裕二。宜しくな舞凪ちゃん」
◇
「私は天使になりたいんです」
「俺はヒーローになりたいんだ」
狂人だらけのバトルロワイアルにて、二つの希望が交差した。
【深夜/B-2アミューズメントパーク】
【死神舞凪《人の考えていることが分かる》《自分が死亡した時に特定の時間を巻き戻す(封印中)》】
《状態》健康、決意
《所持品》不明支給品
《思考・行動》
0:《天使》としてこの殺し合いをハッピーエンドで終わらせる。
1:佐原さんについていく。
2:今度こそ全てを救って元の世界に帰りたい。
※巻き戻しの力は彼女が生命活動を停止するまでは封印されており、誰にも感知できません
【佐原裕二《少し先の未来を直感かつ無自覚で予知する》】
《状態》健康、決意
《所持品》不明支給品
《思考・行動》
0:《ヒーロー》としてこの殺し合いをハッピーエンドで終わらせる。
1:舞凪ちゃんを守る。
※能力を自覚していませんが、無自覚に使用しています
※能力の効果は《何となく直感が優れている》くらいです。
【死神舞凪(しかみ・まいなぎ)】
12歳、身長135cm。髪色は水色で赤いカチューシャを付けている。服は白いワンピースを着用。
元は『正義の味方』を目指していたが、今は『天使』を目指している。
バトルロワイアルの時間を繰り返しており、既に数十回ループしている。
《相手の考えていることが分かる》能力は一番近くに居る人間の思考が頭に流れ込む。
死を引き金に《自分が死亡した時特定の時間を巻き戻す》能力が発現し、《
サイキッカーバトルロワイアル》の時間をループさせる。尚このバトルロワイアル以外では発現しない。
【佐原裕二(さはら・ゆうじ)】
17歳、身長176cm。黒髪で、黒い学ランを着用。
《普通》に執着し続け、能力を無自覚に使用して無難な人生を送ってきた。
《未来を直感的に予知する》能力はあくまで《直感的》なものでしかなく、故に予知できる未来は非常に断片的なものになる。また本人は自覚していない。
父に様々な拳法を叩き込まれ、ある程度極めているため腕はかなり立つ。
最終更新:2012年01月10日 10:09