50:幾つもの苦しみの先に――――
学校のとある部屋は、遺体安置所になっていた。
白いシーツをかけられた遺体達。部屋には死臭が漂い始めている。
「……」
葉月は、めくられたシーツの下の黒い狼の死体をぼーっと眺め続けていた。
ついさっきまで、生きていたのに。
ついさっきまで、自分を愛してくれていたのに。
今はただの冷たい屍だと言う現実を、葉月は自分なりに受け止めようとしていたが、上手く行かなかった。
「神様って酷い……折角会えたのに……レックス……」
レックスの死体を撫でる葉月。
まだ微かに温もりが残っていたが、やがて完全に冷たくなるであろう。
なぜか涙は出なかった。余りの出来事にショックを受け過ぎているのだろうかと葉月は思った。
「稲垣、さん…」
「ああ、xR君……」
部屋に◆xR8DbSLW.wが訪れる。
レックスの死体を見に行った葉月を心配して来たのだ。
葉月自身も浅からぬ傷を負っている事もあった―――一応の手当はしているが。
「ごめんね、私はもう大丈夫」
「そう、か……?」
「うん……今、戻るね……」
葉月はレックスの死体に再び白いシーツを掛けた。
◆
「……」
これで二人を殺した。
野比のび太はとある教室内の椅子に座りながら、考えていた。
この
殺し合いにおいて彼は二人の人命を奪っていた。
どちらも殺し合いに乗った参加者だったがそれでものび太にとって、
「他人の命を故意に奪った」と言う現実である事に変わりは無い。
「のび太さん…」
「静香ちゃん」
静香がのび太に声を掛ける。
放送前、のび太が静香のいたグループを襲撃した男を射殺した時、再会を果たした。
「……静香ちゃん、僕……ここに来る前も、一人、撃ったんだ……」
「えっ」
「その人も、殺し合いに乗っていて、ドラえもんを、殺したって……それを聞いて僕は……」
「ドラちゃん……」
「……っ……」
「……のび太さんは……のび太さんは悪くないわ、こんな、こんなゲームが悪いのよ。
こんなゲームに私達を巻き込んだ、あのヒリューって人が、悪いのよ……余り自分を責めないで」
「静香ちゃん……ありがとう」
何を言ってものび太には気休めにもならなかったかもしれないが、
静香にはどうしても何か言葉を掛けてやれずにはいられなかった。
◆
カイテルはメモ帳にまとめた首輪についてのデータを改めて確認していた。
今は亡き
レイ・ブランチャードと一緒に首輪を解析して得られた情報がメモ帳に詰まっている。
(レイちゃんと一緒に頑張ったんだから、絶対成功させないとな……)
カイテルは胸の内で決意を固める。
振り向き、待機しているムシャと糸賀昌明の方を向く。
「それじゃムシャ、それと糸賀さんだったかな、他のみんな呼びに行こうか」
「ああ」
「あ、ああ」
カイテルは荷物をまとめて、ムシャと昌明と一緒に学校内にいる生き残りの仲間達を集めに向かう。
数分後。
学校内の多目的室にこの殺し合いの生存者全員が集まった。
カイテル、
稲垣葉月、糸賀昌明、ムシャ、◆xR8DbSLW.w、野比のび太、源静香。
知人を失い、殺し合いの中で出会った仲間も失い、生存者の心中には、
様々な感情が渦巻いていたが、一つだけ一致する感情があった。
主催者ヒリューへの憤怒である。
「誰か、希望者はいる?」
カイテルが他の6人に訊く。
カイテルが解体作業をするのが、失敗すれば解体作業を受けている者の命は愚か、
生存者全員の命が失われる危険があった。
解体する側もそうだが、受ける側も相当な覚悟が必要であると、全員が思った。
「俺が」
名乗り出たのはxR。
「……いいか?」
「信じてる」
「……よし、椅子に座ってくれ」
カイテルは椅子にxRを座らせ、工作室で調達した工具を手に持つ。
残りの5人は少し離れた所で様子を固唾をのんで見守る。
二、三回深呼吸をした後、カイテルは両手に持った工具を、xRの首輪に宛がった。
教室内に、小さな金属音と、呼吸音が響く。
カイテルは全神経を集中させ、工具を操る。
xRは固く目を瞑り、金属音に耳を澄ませていた。
祈るような気持ちだった。
知らず知らずの内に震える両手を固く握り締め、カイテルを信じ、ただ、待った。
そして。
ガチャリ。
目を閉じていたxRの耳に何かが外れる音が入り、首から金属の感触が無くなった。
それが何を意味するか、xRが理解するまでにそう時間は掛からなかった。
「……やった」
xRが目を開け、立ち上がり振り向く。カイテルの手に、外れた首輪が持たれていた。
教室が歓声に包まれた。
そして、糸賀昌明、稲垣葉月、ムシャ、野比のび太、源静香の首輪も外される。
「最後はカイテルだな」
xRがそう言った。
「よし! もうここまで来たんだ、もう何も怖くないぜ!」
カイテルが嬉々として言った。
直後。
ピィーーーーーッ。
バァン!!
カイテルの首輪が爆発し、6人に血飛沫が掛かった。
カイテルは床に崩れ落ち、喉元を押さえしばらく苦しみ、やがて静かになった。
「……え?」
「…い、や、あああぁああああぁあ!?」
「何て、こった…」
「……!」
「そんな……」
昌明、葉月、ムシャ、のび太、静香が呆然とする。
「何だよ、これ…あとちょっとだったじゃないかよ、カイテル……! 畜生、畜生……!」
xRが悔恨の声をあげた。
直後、教室のスピーカーからハウリング音が鳴り響く。
何事かと6人がスピーカーの方に目を向ける。そして聞き覚えのある声がスピーカーから流れた。
『まさか首輪外すなんてなぁ、もうちょっとちゃんと作るべきだったよ……』
「ヒリュー!」
『やあ、枷を外された6人、お前らには特別ステージを用意しといたから、今から来て貰うよ』
ヒリューがスピーカー越しにそう言った直後、6人を光が包んだ。
まばゆい光に包まれ、そしてその光が消える頃には6人の姿も無くなっていた。
◆
「ようこそ、特別ステージへ」
赤い竜、ヒリューが目の前に立っていた。
意識を取り戻した6人の視界にこの殺し合いの主催者である憎き存在が映る。
周りを見れば、石造りの四角い広い床。奈落の上に建っている闘技場のような場所。
「俺の事が憎いだろう?」
「当たり前だ、この糞野郎! 何人死んだと思ってやがるんだ!」
吠えるxRに、ヒリューは見下したような笑みを浮かべる。
「お前さ、それ言ってて心痛まない? 自分の物語ん中で何人も殺してる癖してよォ、
何今更善人振ってる訳ェ? カッコ良いと思ってんのか? この偽善者が」
「…ッ、このっ…!」
「よせxR、ただの挑発だ…」
飛び掛かろうとするxRをムシャが制止する。
しかしそのムシャも、煮え滾る怒りを必死で自制しているようにxRには見えた。
いや、全員が同じ気持ちだろう。
「まあ良いや、お前らに良い条件出してやる……俺を殺してみろ。
俺殺せたなら、お前ら帰れるようにしたからよ。まあ、出来るかどうかは知らないけどな」
「…へぇ、お前を殺せば俺達は生きて帰れるんだな」
「真偽が怪しいが、どちらにせよ、魔王様や娘様、嫁様、他の皆を死に追いやった貴様は、
俺が叩き斬ってやろうと思っていた所だ」
「お前のせいで、ドラえもんが、スネ夫が、ジャイアンが……許さない!」
「取り敢えず、馬鹿な俺でも分かるよ、お前は最悪の野郎だって」
「貴方がこんな事しなければ、レックスは死ななかったのに!」
「貴方は、許せない! ドラちゃんや、スネ夫さん、武さんを返して…!」
「ごちゃごちゃ言ってないでかかってきなさいよ」
尚も挑発を続けるヒリューに、6人がそれぞれ武器を構えて向かって行った。
xR、葉月、昌明、のび太、静香はそれぞれ持っている銃でヒリューに向け銃撃する。
ヒリューの身体に銃弾が食い込み、血が噴き出すが、ヒリューは特に動じる様子は無い。
「おお、痛い痛い、銃弾食らうとやっぱ痛いなぁ……ねぇ狐君!?」
「ひっ!?」
ヒリューが突然ダッシュし、PPSh41を撃っていた昌明の頭を掴み持ち上げた。
「がっ、は、放、せ」
「ああ放すよ」
グシャッ!!
ヒリューの手の中で昌明の頭が簡単に潰れた。
血と脳漿がヒリューの指の間から溢れ出る。
「この!!」
ザクッ!!
ムシャが背後から、刀でヒリューの身体を刺し貫く。
「うぐっ……やるじゃない、けど、甘いなまだ」
「がはっ!?」
多少効いたようだが、それでも動きを止めるには至らず、ヒリューの強烈な後ろ蹴りによりムシャは吹き飛ばされ、
リングの壁に激突し、吐血して倒れ込んだ。
「ムシャ!」
「ムシャさん!?」
「ほら、他人の心配してる場合じゃねーよ!」
吹き飛ばされたムシャの方に気を取られたxRと静香に向け、ヒリューは口から猛烈な勢いの炎を吐き出した。
紅蓮の炎は瞬く間に二人を包み、全てを焼いた。
「うわぁああぁあああああああぁアアアアアァアアアアアアァアアアアア!!!!!」
「キャアアァアアァアア熱い熱いアツイアツイアツイィ、ア、ああぁあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
悲痛な叫びが炎の中から響いていたがそれもすぐに止み、後には、
真っ黒に煤けた床と焼け焦げた炭と化した二人が横たわるのみだった。
「し、ずか、ちゃん…!?」
「ああ、何て事…」
目の前で、ようやく再会出来た友達が炭にされ呆然とするのび太。
仲間が目の前でどんどん殺され、ショックを受けるしかない葉月。
「……よくも、よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
激昂したのび太が我を忘れてヒリューに向かって行った。
「! だ、駄目、のび太く――――」
葉月が止めようとしたが、時既に遅し。
数メートル前で、少年の首が飛んだ。
「あ、あ……」
葉月はもう、すっかり戦意を失っていた。
その場にへたり込み、絶望の表情を浮かべる。
首輪が外れた時は「生きて帰れるかもしれない」と言う希望を持てたのに、現実はやはりそう甘くは無かった。
身体中に傷を負いながら平然としている赤竜が、ゆっくりと座り込む葉月に近付く。
「いや、いや、こ、来ないで、来ないで…!」
ダァン! ダァン! …
手に持った拳銃をヒリューに向けて乱射する葉月。
だが、銃の弾もすぐに底を突く。
「あ…!」
「俺にそんな物通じないよ……残るはお前だけだな、安心しろ、痛いのは一瞬にしてやる」
ヒリューがにいっと牙を覗かせ、血塗れの右手を振り被る。
あれが振り下ろされれば、葉月の身体など容易く細切れにされるだろう。
立ち上がって逃げ惑ったとしても逃げ場などどこにも無い、いずれ、辿る道は同じ。
もう助からない。
絶望。ただ絶望だけが葉月の心を満たしていく。
「レックス…………」
自然と、今は亡き最愛の狼の名前が口から出た。
ドカッ!!
しかし、爪が葉月に振り下ろされる事は無かった。
葉月の目の前で、ヒリューの首が斬り飛ばされ、血の噴水が高く噴き出す。
葉月に文字通り、血の雨が降り注ぎ、そして首を失った赤竜の身体は崩れ落ちた。
その向こうに、刀を持った鎧武者の姿が見えた。
「む、ムシャ、さん」
「…詰めが…甘いな……こいつも……死んだ事ぐらい、確かめろっての」
仮面が外れ、素顔を晒したムシャは、血を吐きながら屍と化した赤竜に言い放つ。
そして、間も無くムシャも倒れた。
我に返った葉月は倒れたムシャに駆け寄る。
「ムシャさん…!」
「葉月……ガハッ……悪いな、別嬪さんを汚い、血で……汚しちまって……」
「そんなのどうでも良いよ! それより、しっかりして!」
「無理だ…どうやら、折れた肋骨が内臓突き破ったみてぇ、で、ゲホッ、ゴフッ…!」
「そんな…!」
「……もう、ヒリューも死んだ、きっとこれで帰れる、ぜ……」
「……」
「……愛する人、失った人生ってのは……辛いかもしれねぇけど」
「……」
「生きろ……きっと……あんたの愛した……レックスも………それ…………を…………………」
ムシャの言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
紡がれる前に、彼の命の灯は燃え尽きた。
生き残ったのは、葉月ただ一人。
見れば、光の道が暗闇の向こうに出来ていた。
あれを辿れば、帰れるのだろうか。
「……これで、終わり? じゃあ、後は、エンディング、スタッフロール、だよね……」
ふらふらと、葉月は光の道に向かって歩き出した。
「……レックス」
途中で、葉月は両目から込み上げるものを感じた。
それは、最愛の狼を失った時でさえ、出てこなかったと言うのに、今になって抑えられなくなった。
「……レックス……レックス……ぅ……あ……ああぁあぁ……あああぁあああぁあぁあ…………!」
葉月の号泣が、静寂と化した空間に響いた。
【カイテル@オリキャラ 死亡確認】
【糸賀昌明@オリキャラ 死亡確認】
【◆xR8DbSLW.w@非リレーロワスレ書き手 死亡確認】
【源静香@ドラえもん 死亡確認】
【ムシャ@VIPツクスレ・もしもシリーズ 死亡確認】
【ヒリュー@オリキャラ 死亡確認】
【稲垣葉月@オリキャラ バトルロワイアルより生還】
最終更新:2012年02月25日 20:21