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開演・非情な演奏会

あまりにも静かで不気味な、真っ暗闇の会場。
その会場の中心――皆が見る目の前の舞台に、一つのバイオリンが置かれていた。
バイオリンの名は、ブラッディ・ローズ。まるで魂を引き寄せるかのようなその綺麗なフォルムは、見る者全てを魅了する程。

「目は覚めたか? 演奏者達」

何処かから響き渡る謎の声。その直後に紅音也の目が開き、次第に他の参加者達も起き上がる。
いつ、どこで、何が原因で自分がこんな所に連れてこられたのか……全く状況が飲み込めない参加者達はざわめき始め、どんどんとその雑音は大きくなっていく。
無論、全員が全員騒いでいるという訳ではない。冷静に状況の分析をする者、むしろこの状況を楽しむ者などもいる。

だが、紅音也は慌てるわけでもなく。冷静に状況を分析するわけでもなく。
自分たちがいる真っ暗闇の中、ただ1つだけ照明によって光の照らされた神秘的な悪魔の名器に魅了されていた。
本来ならばブラッディ・ローズは紅音也によって製作されるモノだが、そのことを彼は知らない。

「紅音也。お前は今、舞台に置かれたバイオリンが欲しくて堪らない――そうだろう?」

「確かにそうだ。お前がくれると言うなら、お前ごと貰ってやる」

突然に自分の名前が呼ばれたことに怯むこともなく、音也は普段の調子で堂々と質問に答える。
元々、ファンガイアという未知の生命体と戦ってきた男だ。ある程度の度胸はある。
この怪しげな声を無視するというのも普通なら考えられることだが、そこは紅音也。
声の高さからして女だと思われるのに、それを無視するわけがない。何故なら紅音也は全ての女を愛しているのだから。

「ならば殺し合え!殺し、裏切り、騙し、惨殺し、総てを殲滅し……! そのバイオリンにこの会場に集められた者総ての魂を注げ」

「断る」

音也の答えはあまりにも早く、それはハッキリとした明確な拒否だった。
紅音也は音楽を愛している。しかし、音楽は誰かを殺すためにあるのではない。
音楽をそんな巫山戯たことに使うというのは、殺人の道具に使うというのは――紅音也という男にとっては許し難いことだった。
だから断った。バイオリンに人間の生血を吸わせろなど、冗談にも程がある。
この声の女がどれだけ美人だろうと、その答えは決して変わらないだろう。

「お前程の腕を持ちながら拒否するとは……残念だ。だが、これでこの演奏の主軸は決まった」

☆ ☆ ☆

麻生ゆりは直感する。このままでは、音也に何か危険なことが降りかかるのではないかと。

それは次狼も同じだ。この状況で相手の提案を断るということは、あまりにも危険過ぎる。
とは言え、音也のおかげで一方的な虐殺を免れたのは事実。もしも音也が提案を断ってなければと思うと、背筋が凍る。
それにしても、何故あのバイオリンが舞台の上にある? いや、それ以前に音也のあの返答は明らかに可笑しい。
舞台の上に置いてあるあのバイオリン――あれは音也がファンガイアと一緒に作った物だ。つまり、音也の所有物。
だが、音也はバイオリンを取られたどころか、アレが自分の物だとすら気付いていない。
もしも自分の物だと気付いているのなら、『貰ってやる』ではなく『返せ』と返答をする筈だ。バイオリンを作っていた時の音也の表情からして、そう簡単に音也が手放す物だとも思えない。
ということは、アイツは自分のバイオリンが奪われたことに気付いていないということになる。いや、アレが自分のバイオリンだということすら知らない。
まさかこの音也は――

タイムトラベル、という言葉が次狼の頭を過った。
音也があのバイオリンのことを知らないのも、自分よりも前の『時代』からきているのならばなるほど、納得できる。
仮にも一族の生き残りである自分と、ある程度ならファンガイアに対抗することも出来る音也を攫って無防備に晒したくらいだ。音也を他の時代から連れ去らってこれたとしても、不思議ではない。
尤も、他の時代から移動してきたのは自分で、音也の言っていることの方が「この時代では」正しい認識だとも取れるが、それ以上考えるとややこしくなるからここら辺で一度考えを止めておく。
唯一良かったのは、マスターがこの出来事に巻き込まれていないところか。美味いコーヒーが飲めなくなるのは辛いからな。
……だが、さっきの叫び声にゆりの叫び声が聞こえた気がする。声が聞こえなかったことからして力やラモンが巻き込まれなかった可能性は高いが、ゆりが巻き込まれたのは厄介だ。
真っ先に音也に質問を投げかけたことから察するに、敵は音也を狙っているようだ。となれば、音也と接触する機会が多い俺とゆりは巻き込まれて当然……か。全く、迷惑な男だ。

☆ ☆ ☆

次狼は一通り考察を終えると、何処からか聞こえてくる『声』に再び耳を集中させる。

「此処に集まった選ばれし演奏者共――お前達には、今から殺し合いをしてもらう。
もしも元居た場所に戻りたいのならば、この殺し合いに勝ち残れ。
紅音也を殺した者には、どんな願いでも叶えられる褒美をやろう。……とは言え、それだけでは信憑性が薄い。
だから特別に見せてやろう。貴様らに、『生死を超越した能力』を――」

数多の参加者の中から選ばれた一人の『不幸』な少女にスポットライトが当てられ、直後に銃声が響く。
スポットライトによって照らされ、一時的に参加者達から注目の的となった少女の身体は、腹から血を流して地面へと転倒する。
死んだ。これは死んだ。死なないほうが可笑しい。命の抜け落ちた亡骸を見て、参加者達は様々な音を奏でる。
人が死ぬという出来事にしてはあまりにも呆気無いが、それが死というモノなのだ。人は脆く、簡単に死ぬ。
少女の知人は怒りの音を奏でる。自分の知っている人間が玩具のように殺されたのだ、当然だろう。

「よくもキリカを……!」

「大……丈夫だ、フィア君」

死んだ筈の少女が起き上がり、少女の死に激昂したフィアを落ち着ける。
一部の参加者を除き、殺された筈の少女――上野錐霞の蘇生はあまりにも信じ難いモノだった。
当然だ。これは映画やアニメなどのフィクションではなく、現実で起こったノンフィクションなのだから。
突然死んだ少女が蘇って、実は上野錐霞は不死身でした――などと言われても、わけがわからない。
そう、わけがわからないこと。しかし、それでも、巻き込まれたからには理解せざるを得ない。この世にはそのようなバケモノがいるのだと。

「これでわかったろう、私が言っていることが本当だということが。
もしも奇跡や魔法を起こしたいのならば、紅音也を殺すことだ。
元の場所に戻りたいのならば、相手を騙し、裏切り、憎み――この演奏を無事達成することだ。
……お前たちの健闘を祈る」

一通り放送が終了すると、会場に光が灯り、ピンク色の髪をした少女が童顔の少年へと近づいていく。
天野雪輝と我妻由乃。元々人間を殺した経験のある二人だが、所詮はまだ中学生。やはり先程までの威圧感は、凄いモノだった。
少女は笑顔で「ユッキー!」と雪輝の名を呼び、雪輝は由乃へと駆け寄ろうとする。前進しようとする。
だが、この状況で互いに喜びを分かち合おうとしたのが甘かった。数多くの人間がいる中、殺し合いに乗っている人間がいるかもしれないこの状況で無防備でいるというのはあまりにも甘い。
そしてこれは殺し合い。その甘さに漬け込む者も、当然居る。

「散れ……」

静かだが、明確な殺意が篭った一言。大声で言ったわけはないため、その言葉は天野雪輝や我妻由乃の耳には届かない。
言葉は届かない。だが、その代わりにテニスボールが天野雪輝の腹を突き破る。
男は続けて由乃を狙おうとしたが、突然に他の場所へと転移してしまった。各「スタート地点」への移動が始まったのだ。
尤も、もしもこの場にまだあの男がいたら、殺されていたのは由乃ではなくテニスボールを放った男だったのかもしれないが。

「由乃。これを使って僕の代わりにこのゲームを――」

辛うじて生きてはいたものの、天野雪輝は間違いなく死ぬ。それは我妻由乃にも、天野雪輝本人にもわかっている。
自分の死が決定した今、後は由乃に任せるしか無い。せめて何かの助けになればと、雪輝はダーツを由乃へと手渡す。
そして由乃が雪輝のダーツを受け取ると共に、雪輝は力尽きた。身体の力が前進から抜け落ち、先程まで魂が篭っていた筈の容器が、ドサリと地面に崩れ落ちる。

「ユッキー……。ユッキーは絶対に由乃が助けてあげるからね」

我妻由乃は決める。紅音也を殺し、天野雪輝を蘇生してみせると――
紅音也は知らない。自分が他の場所に飛ばされた後に一人の少年がその命を落としたことを。テニスボールで人を殺すことが出来てしまう危険な人間が紛れていることを。
こうして史上最悪の演奏会は幕を開けた。紅音也は、只々気ままに歩き出す。


【天野雪輝@未来日記 DEAD END】
【残り41人】


GAME START 時系列順 悲劇的序曲・日常の崩壊
GAME START 投下順 悲劇的序曲・日常の崩壊
GAME START 紅音也 [[]]
GAME START 次狼 英雄行進曲・戦いの神
GAME START 麻生ゆり [[]]
GAME START フィア [[]]
GAME START 上野錐霞 [[]]
GAME START 平等院鳳凰 [[]]
GAME START 天野雪輝 DEAD END
GAME START 我妻由乃 [[]]

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最終更新:2012年03月01日 22:10
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