「こ、これは……」
相方は声を震わせながら、その広場に立っていた。
地図上にてサイド7と記されている広場。
D-2にあるそこは、ガンダムEXTREM.VSのプレイヤーである相方にも見覚えのあるものであった。
EXTREM.VSにて、対戦の際に殆ど暗黙の了解で選択されるステージ―――サイド7。
設置されている建物や土地の起伏などが、この広場と酷似している。
建物や木々は全てミニチュアのような大きさで、相方の膝くらい、大きくても相方の背丈と同じくらいの大きさである。
まるでゲーム中の等尺と同じである。ゲーム中のサイド7をそのまま持ってきたかのような造りであった。
そんなサイド7にて相方は己の身体を見て、わなわなと震えている。
唐突に始まった
殺し合いに恐怖を覚えている訳ではない。
こんな殺し合いを開催したエクストリームガンダムに怒りを覚えている訳でもない。
ただ単純に、驚き、喜んでいた。
相方の身体は、他のEXTREME.VSのプレイヤー同様にゲーム中の機体へと姿を変えていた。
紫色の機体。背部には双翼に分かれた赤色のウイング。
ガンダム特有の二本角は、Y字に分かれた頭部に重なるようにあった。
相方は震える。
これは、この機体は、最強の狩り機体と初心者プレイヤーに恐れられる機体であった。
「マ、マスターガンダム……」
マスターガンダム。
高コストたる3000機体の中でも純正の格闘機。
東方不敗マスターアジアが狩る、機動武闘伝Gガンダムの中でも最強に位置する機体だ。
その能力たるや、ゲーム内でも凶悪そのもの。
優秀な伸びと発生、判定を誇る各種格闘、接近戦での読み合いや格闘拒否に使える横サブ、全機体中でも最高レベルの旋回性能。
そして、特筆すべき特徴として、覚醒時の圧倒的な爆発力。
格闘機への対策を熟知している中級・上級プレイヤーならまだしも、初心者では訳も分からぬ内に撃破される、所謂分からん殺しが殆ど。
まず最初に初心者がぶち当たる強大な壁。それがこのマスターガンダムである。
そんな純格闘機に、今相方は変貌を遂げていた。
何故こんな身体となっているのか。相方に分かる訳もない。
だが、その性能と身に滾る力は普段の自分からは想像もできないもの。
ゲーム内でのマスターガンダムの力が、確かにその身で体現されていた。
「し、しかも、これは……」
更に相方を驚かせる要素があった。
試しに身体を動かし、まるで初めて使用する機体を扱う時のように、自身の状態を確かめる。
前格、横格、格CSに横サブ、Nサブ。
動けば動く程に、相方は確信を強めていった。
このマスターガンダムは自分が知るそれとは大きく違う。
数か月前アップデートにより追加されたマスターガンダム。
未だケルディムがバグレベルの猛威を振い、数多のエクバプレイヤーを絶望の淵に立たせる中で追加された新たなバグキャラ。
「まさかの無修正おじいちゃん……!?」
そう、それはアップデート当初の、修正される以前にあった産まれたままのおじいちゃん。
曰くバグ。曰くチート。
あらゆるプレイヤーの百円硬貨を浪費させてきた最強の機体。
修正前ケルディムと修正前マスターが君臨していた一週間を、人は魔の一週間と呼ぶ。
無修正マスターが、今の相方の姿であった。
力が溢れだす。この姿ならばどんな相手にも負ける気がしない。
昂る気持に圧されるように、夜の空に拳を突き上げる。
そして、その瞬間に攻撃があった。
魔物が住むとされるサイド7の丘から、紫色の光弾が飛来してきたのだ。
反射的にシールドガードを発生させ、光弾の衝撃を無効化する相方。
暗闇の先にいたのは、相方と同様に機械のような身体をした、それでいてガンダムとはかけ離れたフォルムの存在であった。
「ほう、木偶にしては良い動きをするじゃないか」
「な、なんだよ、お前は」
「おれか? おれは天才だ~!」
ブラスト―――エクバとはまた別種のアーケードロボットゲームに出てくるロボット。
そのブラストの姿形をした人物が、そこにはいた。
アミバ様(BB天才プレイヤー)。
奇抜であり、それでいて実用性のある戦術(芋成分高め)を生み出しては、戦犯模倣犯を量産するプレイヤーである。
アミバ様は問答無用といった様子で肩に担いだプラズマカノンを連射する。
それはまるで連射式でありながら弾速と爆風範囲が向上したバズーカ。
エクバではおそらく有り得ることのない強力な武装だ。
複数で迫る光弾に相方は僅かに怖気ながら、だが無意識のうちに行動していた。
そのトップレベルの旋回でもって、最小限の動きでプラズマカノンの掃射を回避。
同時に十二王方大車併で6機のチビマスターを召喚させ、解き放つ。
更に格闘CSを溜めながら、ブーストダッシュで移動を始めた。
対するアミバ様は、迫るチビマスター達をホモステ改めハフステの機敏な動作で避け、装備武器を変更する。
選択する武装は、重火力兵装が誇る最強かつ凶悪とされる武装・ECMグレネード。
アミバ様が装備しているECMグレネードは、試験型ECMグレネードというもので、爆破範囲30メートルにいるものの視界を数秒の間ジャミングするという効果を持つ。
ECMグレネード系列の中でトップの脅威度を誇るものである。
試験型ECMグレネードを投擲するアミバ様。
高機動を誇るマスターガンダムであるが、その驚異の効果範囲から逃れる術はない。
視界が壊れたブラウン管テレビに映る砂嵐のように歪み、正常な機能を失う。
「うお、目が!?」
途端に動きが鈍る相方へ、アミバ様は怒涛の攻撃を見せた。
再び武装を変更し、主武器たるGAXダイナソアを構える。
大半のブラストを二、三秒で行動不能に至らせるという凶悪な瞬間火力を有するガトリング砲。
それを構えて、引き金を引き絞る。
長い空転時間の後に、ダイナソアが咆哮のような呻りをあげ、弾丸の排出を始めた。
一瞬で形成される弾幕に、相方は成す術もなく逃げ惑うだけであった。
聞こえてくる轟音に慄きながら、それでもがむしゃらに駆け回り弾幕から逃げる。
勿論、視覚が働かない状態でまともな回避などできる訳もなく―――右肩と左足に灼熱が走った。
思わず体勢を崩す相方であったが、マスターの高耐久が作用してかダメージは少ない。
何とか足を止めることなく移動を続け、そしてついにECMの効果が切れる。
視界の回復と共に相方は反撃へと転じた。
痛む左足と右肩を庇いながらも旋回、シールド防御で弾幕をしのぎ、着実に接近してくる。
とはいえ相手はダイナソアの弾幕だ。ある程度の接近はできても、マスターガンダムの主戦場たるクロスレンジへ踏み込まむことは出来なかった。
これはアミバ様の技巧によることも大きいだろう。
ダイナソアを適度に冷却させつつ、代行にプラズマカノンを使用することで、オーバーヒートによる攻め手の欠如を防ぐ。
そして、ダイナソアの冷却が済むと共に再び弾幕を形成する。
勿論、隙をみて距離を取ることも忘れない。
相手が接近を目論んでいることは目に見えており、そのような相手の接近を許すほどアミバ様は甘くはない。
ガトリング砲による弾幕とバズーカによる範囲攻撃を縦に、ジリジリと相方の耐久を削っていく。
「笑止! 天才にブンブン丸が通じると思うかぁ?」
確かに天才の言うとおりであった。
修正前マスターの機動力とブースト量をもってしても、相方がアミバ様に近付くことは困難極まった。
2on2のタッグバトルならまだしも、タイマン戦で相手に接近できぬ以上マスターガンダムに攻め手はない。
そう、それが今現在のマスターであったならば、だ。
何度も記したが、今の相方は修正前マスターである。
耐久値、機動力、各武装の能力、そのどれもが現在のマスターガンダムとは一線を駕す存在。
何より強みなのは、修正前マスターには現在マスターにはない強力な飛び道具があった。
「甘すぎワロタ。今こそ必殺のォ!!」
格闘機であって格闘機の範疇に留まらない、ともすれば射撃機が持つもの以上に優秀な飛び道具。
近距離であれば横ブーストでも回避は難しく、足の遅い機体であればシールド防御かステップしか有効策がない。
驚異的な誘導と攻撃範囲を兼ね揃え、威力も単発射撃武器の常識を覆す……修正前マスターをチートと言わせる一つの要素。
「―――流派・東方不敗が最終奥儀―――」
その名も―――、
「―――石破天驚拳!!!」
一瞬のタメと共に放たれたのは、巨大な手のひらであった。
紫色の光が形成した、人間一人を丸々包み隠せそうな程の巨大なてのひら。
てのひらは射撃武装にしてはゆっくりとした速さだった。
「そんなものでこの天才が捉えられると思うかァ~?」
その巨大さに僅かに身構えるアミバ様であったが、なんてことはないと判断する。
正面きってのタイマンで出すには、あまりに動きが遅い。
如何に範囲が大きかろうと、これならば回避せぬ道理がなかった。
「とらえられまい……」
数回横にダッシュし、てのひらの範囲から逃亡するアミバ様。
再びの銃撃を行おうとダイナソアを構え直すアミバ様であったが、そこで予想外の出来事が発生する。
「な、何ぃ!?」
手のひらがアミバ様がいる方向へと曲がったのだ。
一言で言うならば、誘導している。
それもほんの僅かに、といった風でもなくまるでそれ自体が意思を持っているかのように強烈に。
緩やかにではあるものの、殆ど90度近くのカーブを見せて、アミバ様へと巨大な手のひらが迫る。
攻撃の為に使用する筈であったダイナソアを手のひらへと向けて、トリガーを引く。
何とか撃ち落とそうとするアミバ様であったが、その行為は何ら意味を成さない。
石破天驚拳には、実弾・ビーム両系統の射撃をかき消す効果がある。
それはダイナソアもプラズマカノンをも無効化し、アミバ様へとゆっくりと迫っていく。
「こ、この天才がぁ~~~」
そして、直撃。
アミバ様の身体が手のひらと激突し、宙に浮かんだ『驚』の文字と共に吹き飛んだ。
その強力な攻撃は、たったの一撃でアミバ様の意識を刈り取り、地面へと横たわらせた。
「た、倒したか……よ、よし、じゃあ今のうちに逃げよう」
勝利を確信した相方は小さく溜め息を吐き、気絶しているアミバ様へと背中を向ける。
相方にアミバ様を殺害する気はなかった。
襲ってきたから抗戦しただけであるし、いくら何でも人を殺害するなんてことはできやしない。
如何に強力な力を持っていてもその精神は飽くまで一般人。
何処にでもいるゲームが得意な青年だ。こんな異常状況にあっても人殺しなど怖くて出来なかった。
逃げるように立ち去ろうとする相方。
と、数十メートルほど走り、サイド7の端に辿り着こうかとしたその時であった。
唐突に相方が動きを止めた。
動かし方を忘れてしまったのかのように、ピタリと。
走る動作そのままに立ち止まり、そのまま静止する。
(な、何が……?)
その事態に混乱するのは相方自身であった。
どう念じれど、どう力を込めようが、身体が動かない。
現状は、完全に相方の意志の外で執り行われていた。
何故だか徐々に意識が遠ざかっていく。
意識が鈍り、視界が段々と暗闇に染まっていく。
混乱する頭は遂にはパニック状態にもなろうかとしていたが、それすらも段々と闇が差し、鈍く暗くなっていく。
相方は何も理解することができぬ内に、意識を失った。
それが彼の終点であり、始まりであった。
彼の意志とはかけ離れたところで、事態は最悪の方向へと向かっていった。
◇
「私、マリナ・イスマイール。戦争、殺し合い……とても素敵な事だと思います」
直立不動のまま意識を失った相方の傍らに立つ者がいた。
枝毛の一本とない真っ直ぐに腰まで伸びた黒色の髪。
吸い込まれるような青色の瞳には一点の陰りもなく、純粋な―――悦びに満ちていた。
この狂気の場にあって、ただ純粋な悦びに。
女性の名はマリナ・イスマイール。とあるガンダム馬鹿を心底から愛する一国の女王であった。
マリナは何をするでもなくただ立っていた。
動いたのはその傍らで固まっていた相方だ。
相方は走ってきた道をゆっくりと戻り、気絶中のアミバ様を見下ろすように立つ。
そして一撃、紫色に発光した右手をアミバ様の頭部へと叩きこんだ。
右手の発光はそのままに、片腕だけでアミバ様の頭部を掴み締め上げる。
抑えつけられた頭部から、苦悶に満ちたアミバ様の声が漏れるが、気にする者はこの場にいなかった。
マリナは何もなかったかのように立ち尽くし、相方はそもそも意識がない。
右手を染める紫の光が徐々に輝きを増していく。
それから数秒の時間が経過した次の瞬間、アミバ様の頭部が爆散した。
爆散の中心にあって相方の右手は一つの傷もなく、アミバ様の頭部だけが粉々になって地面を染めた。
凄惨な死体を前にしても、相方は眉一つ動かすことはなく、ただただ無表情であった。
グロテスクという言葉がこれ以上なく合いそうな惨状に、だがしかし事態はまだ収まることはない。
頭部を喪失した筈のアミバ様が立ち上がったのだ。
身体稼働の為に必要な信号を送る筈の頭部を失い、それでも二本の足で直立している。
驚愕どころか恐怖を覚えずにはいられない光景に、マリナも相方も動揺する様子は見られない。
「待ってて、刹那。今あなたの元へ行くから」
いや、そもそもマリナに至ってはその惨状を視界に捕えてすらいなかった。
星の散らばった夜の空を見上げて、女神のような柔和な微笑みを浮かべている。
そして、マリナが呟いた瞬間であった。
轟音が、サイド7に響き渡る。
音の発生源には更なる惨劇が広がっていた。
頭を無くした人物が、一人増えていた。
アミバ様と相対している相方のその頭部が、影も形もなく消失している。
アミバ様の手中では、何時の間にやら構えられていたGAXダイナソアが硝煙を上げていた。
その光景だけを見ればまるで、死んでいる筈のアミバ様が相方を殺害したかのよう。
だが結論だけを言ってしまえば、まさにその通りなのだ。
頭を無くし物言わぬ死体と化した筈のアミバ様が、対面にいる相方を頭を無くし物言わぬ死体とした。
つまり、死者が人を殺害したのだ。
常識の範疇からは余りに掛け離れた光景が、サイド7にて広がっている。
その現象を理解できる者は恐らく存在しないだろう。
全ての執行人たるマリナ・イスマイール以外には―――。
そう、この異常事態はこのマリナ・イスマイールが引き起こしたものであった。
MD(マリナ・ドールシステム)。
MSやMAを思うがままに操るという、マリナが有する人外の力。
本来ならばMSやMAに作用される力が、相方とアミバ様に対して使用されたのだ。
MDに掛った相方は自由意志を失い、ただマリナが命を聞く傀儡人形となり果て、忌避していた筈の殺人を行った。
MDに掛ったアミバ様は死んでいるにも関わらず、それこそ操り人形のように無理矢理に動かされ殺人を行った。
死者への冒涜も甚だしい行為を強制され、しかしそれでも冒涜は終わらない。
相方とアミバ様、二つの首無し死体が動き出す。
MDの力だ。もはや何もできぬ死体となった二人を操り、動かしているのだ。
もはや相方とアミバ様は、マリナが有する武器でしかなかった。
公式チートと恐れられた無修正おじいちゃんを傍らに、数多の戦場を駆け抜けてきたボーダーを傍らに、魔王と恐れられた女が行動を始める。
その胸中を占めるは、歪んだ愛を一心に向けたとあるガンダム馬鹿の姿だけ。
つい数瞬前に殺害された二人など、付き従える二人の傀儡など、一瞬たりともその思慮の中に浮かぶことはなかった。
【相方@セシール&相方(EXVSプレイ動画) 死亡確認】
【アミバ様(BB天才プレイヤー)@ボーダーブレイクプレイ動画 死亡確認】
【一日目/深夜/D-2・森林】
【マリナ・イスマイール@武力介入できないCB】
[状態]健康、魔王
[装備]相方(修正前マスターガンダム)@セシール&相方(EXVSプレイ動画)、アミバ様(BB天才プレイヤー)@ボーダーブレイクプレイ動画
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを楽しみつつ、刹那と添い遂げる
1:相方やアミバ様を操り、参加者を殺害していく
最終更新:2012年03月27日 20:18