その少女は知っていた。
自分を想ってくれている親友の存在を。
いや、彼女はおそらく、親友に対する思い以上の感情を自分に対して有している。
知っている。分かっている。理解している。
だからだ。だからこそ、少女はこの窮地にあって焦燥を隠す事ができなかった。
彼女がどのような行動を選択するか、手に取るように分かってしまう。
それは彼女にとって苦渋で苦痛で残酷な選択だ。
でも彼女は、迷い、悩み、怯えながらも絶対にその選択肢を選ぶ。
彼女はそう、自分の為に何もかもを捨てる筈だ。
嫌だった。
彼女が自分の為に苦しむ姿など見たくない。
仲間と殺しあう姿など、見ず知らずの人々を殺す姿など、本来守るべき存在の人々を殺す姿など、見たくない。
自分の為に、自分を救う為に、彼女自身を捨てる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。そんなの嫌だ。
苦しんでほしくない。悩んでほしくない。笑っていてほしい。また傍に寄り添って笑いあいたい。
彼女と一緒に同じ時を過ごしていきたい。
「私は……」
少女は悲しげな瞳で空を見上げた。
空に光は綺麗な星々と、真ん丸のお月様。
一緒に飛んだ夜の空。
いつもは綺麗だけど寂しくも思える夜の空も、彼女がいたら違って見えた。
彼女は、少女にとって無くてはならない存在だった。
だから少女は、心優しい少女は、悲しみに染まった瞳で決意する。
一人にはしない。同じ道を行く。
どんな寂しい道であっても、悪夢に繋がる道であっても、進む道は同じだ。
同じ所に立ち、同じ道を行くんだ。
彼女だけに、辛い思いをさせる訳にはいかない。
「……ごめんなさい」
だから、謝罪と共に、引き金を引き絞る。
暗闇の中で轟音が鳴り、構えた武器から反動が響く。
フリーガーハマー。九つのロケット弾が込められた、人一人を殺害するには十分すぎる武装だ。
絞られた引き金に従って、フリーガーハマーからロケット弾が尾を引いて放たれる。
視線の先には……森林を歩く男の人がいた。
少女の存在に気付いておらず、隙だらけの身体を夜の森に晒している。
ロケット弾が音をたてて直進し、そこでようやく男も反応を見せた。
振り返り、だがそれだけだ。
避ける事も身構える事もできずに、ただ呆然と迫るロケット弾を見詰め、そして、
「危ない!!」
直撃する寸前で、誰かに突き飛ばされた。
現れたのは、ウニのようなツンツン頭の少年であった。
少年は男を突き飛ばし、二人でぐちゃぐちゃになりながら地面に転がる。
外れた。
その事実に動揺しながらも、少女はフリーガーハマーの矛先を地面に倒れる二人へと向ける。
今度は外さない。
今度こそ……殺害する。
そうしなくてはいけない。
そうしなくちゃ、彼女一人に重荷を背負わせることになる。
だから―――、
「止めろ、こんな
殺し合いなんて馬鹿げてる! お前も拉致されただけなんだろ。普通に平穏な生活を送ってただけなんだろ。
なら、駄目だ! ここで殺し合いになんか乗っちまえば、その平穏な生活は二度と戻ってきやしない! 人殺しなんかして生き延びたって、後悔しか残らない筈だ!」
声が、響いた。
ウニ頭の少年が振り絞った、力に満ちた声。
その声に、引き金を引こうとしていた少女は動きを止める。
涙を湛えた瞳を見開いて、少年を見詰める。
少年の瞳は力強く輝いていて、寸分の迷いすらない。
「諦めちゃダメだ! ハッピーエンドを目指すんだ! 誰も傷つかない、誰も泣いたりしない、そんなハッピーエンドを目指すんだ!」
少年の言葉は、不思議と胸に刺さるものだった。
こんな状況なのだ。少年の言葉が絵空事だということは、子どもにだって分かる。
だが、少年は本気であった。
全ての言葉を、本気で語っていた。
迷いもなく、躊躇いもなく、本心をそのままに放っていた。
だからこそ、こんなにも心を揺さぶる。
少女の心を、少年に助けられた男の心を、熱く滾らせる。
少年の言葉に、少女は表情を歪ませた。
悲しみの中で起てた決意が、揺らいでいく。
ともすれば、武器が手から滑り落ちそうになる。
でも、
「私は……駄目よ」
「な……!?」
でも、それでも―――少女は、決意を曲げなかった。
「私はエイラと同じ道を行く。彼女を一人にはしない。エイラだけに全てを背負わせない。せめて、私だけでもエイラと一緒にいてあげなくちゃいけないの」
誰もが誰も幸福で終わる未来を、その未来を目指すことを、否定する。
皆を救うでなく、ただ一人を救う為に、少女はハッピーエンドを切り捨てる。
「だから……ごめんね」
少女―――サーニャ・V・リトヴャクは、悲しみと共にそう決意した。
瞳に涙を溜めながら、それでも決して揺らがぬ決意でもって、宣誓する。
想い人の為に全てを捨てる決意を、サーニャは固めたのだ。
掲げられるフリーガーハマー。
その九つの銃口を突き付けられながら、対する少年は悔しさと悲しさに拳を握った。
「ッ、バカ野郎……! そんな、そんな悲しい結末で良いのかよ……そんな悲しい選択で良いのかよ……!
そんなんでエイラって奴が、お前が、お前たち二人が救われるとでも思ってるのかよ!」
「ううん、誰も救われないよ。でも、それでも、決めたから」
「ふざけんな……ふざけんなよ! 俺は認めない……そんな悲しい選択なんて俺は絶対に認めねぇぞ!
お前に、エイラって奴に見せてやる。この世界はそんな悲しいものなんかじゃないって、誰も悲しまない道だってあるんだって、見せてやる!」
瞳と瞳が、言葉と言葉が、交錯する。
サーニャはフリーガーハマーを、少年は右拳を、掲げる。
最初に動いたのは、少年であった。
ロケット砲を構えるサーニャへと、少年は怯えをおくびにも出さずに、一歩を踏み出す。
「だから、まずは―――」
少年が、走り出す。
己の右拳だけを武器に、少年が走り出す。
「―――お前の、悲しい幻想を―――」
湧き上がる感情に任せて。
信じる心に従って。
「―――誰も救われないその幻想を―――」
サーニャの幻想を、
余りに悲しすぎるその幻想を、
「―――ぶち殺す!!」
ぶち殺す為に!!
「感動した!!」
拳は、届かなかった。
拳が届くよりも先に、引き金が引かれるよりも先に、言葉が響いたからだ。
言葉に、誰もが動きを止めた。
サーニャ・V・リトヴャクも、少年・上条当麻さえも、動きを止めた。
言葉は上条のそれすらま越えて力強く、そして何よりも―――熱いものであった。
「凄い、凄いよ、君たち!! 二人とも心こもってた!! 魂からの言葉だった!!! 感動した!!!」
拳が届く距離にまで接近した上条とサーニャ。
拳とフリーガーハマーを交差させて対峙する二人へと、男は笑顔で歩み寄った。
「君! エイラって人の為に、全部投げ打とうっていう気持ち! 凄い伝わった! 声は小さいけど、俺感動したよ!!」
「え……」
そしてサーニャへと顔を向け、声を掛けた。
一度殺されかけた相手へと、ともすれば握手すら求めかねない勢いで語りかける。
表情は笑顔で染まっており、まるで殺されかけた事など忘れてしまったかのよう。
……いや、本当に忘れているのかもしれない。
「君! 他人の為に本気で怒れる気持ち!! 他人の為に全てを賭けられる勇気!! それ、すっごい大事!! 俺感動したよ!!」
「は、はぁ……」
次いで上条へと顔を向け、声を掛けた。
寸前までのシリアスな雰囲気は何処へやら、上条も戸惑いを浮かべて答える。
上条の背中をバシバシと叩き、ひとしきり褒めちぎると男はサーニャへと再び顔を向けた。
「俺は松岡修造!! 君、名前は!!」
「サ、サーニャ・V・リトヴャク……です……」
男は一度殺されかけた相手へ、普通に名乗って、普通に名を聞いた。
とてつもなく大きな声で、傍にいる上条すら耳を押さえたくなるような大きな声で、さも当然のように自己紹介を行った。
……もう一度言う。相手は、不意打ちでロケット弾をぶっ放して、男の殺害を模索した少女である。
男―――松岡修造からすれば、怨み言の一つや二つですむような相手ではない。
普通の人であれば、怒りに殴りかかるか、恐怖に逃げ出す。
当然ではあるが、松岡と同じ行動を取る人間は皆無であろう。
「サーニャね! 良い名前だ!! 俺、君の言葉に感動した!!」
「は、はい……」
そんな相手を前に、松岡は感心といった様子で言葉を送る。
心底から尊敬する。そんな気持ちが言葉からひしひしと伝わってくる。
これにはサーニャも困惑せざるを得なかった。
訳が分からないといっても良い。
「でも、ダメだよ! 人殺しだけはダメ!! ダメ、絶対!!」
だが、続く松岡の言葉に、サーニャの心中に決意が思い出された。
エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
大切な想い人とともにいくという、大きな決意を。
「で、でも、そうしなくちゃ、殺し合いに乗らなくちゃエイラが……」
松岡の勢いに気押されながらも、サーニャは反論した。
エイラを救う為の決意を、震える声で紡いだ。
その、瞬間であった。
「―――バカ野郎!!!!!!!」
松岡の表情が、一変した。
敬服から、憤怒へと。
怒髪天をつく勢いで放たれた声に、森林が揺れる。
「やりもしないで、努力もしないで、諦めるのかよ!!!! ここの彼が言った通りだよ!!!! 皆が笑って終われるような、そんな最高の結果を目指さなくちゃ!!!!」
轟く声はサーニャの身体を痺れさせ、震撼させる。
腹の底にまで響く声だ。
サーニャは己の内側に沸き上がる熱気を感じていた。
今にも炸裂しそうな、抗いきれぬ程の熱気。
熱い。身体中が熱を訴える。
「でも! エイラは私の為に殺し合いに乗るわ! だから、私が!」
だが、それを認める訳にはいかなかった。
決意を曲げることは、エイラを裏切ることは、エイラを一人にすることは、できない。
信念に満ちた言葉をどれだけぶつけられようと、どれだけの熱き言葉をぶつけられようと、そこだけは曲げられなかった。
「諦めんなよ!!!! エイラが殺し合いに乗ったんなら、お前が止めてやれよ!!!! お前が、命を賭けてでも、エイラを止めてやれ!!!!
ぶん殴ってでも、蹴っ飛ばしてでも、お前がエイラを元の世界に連れ戻すんだ!!!!! この悲しい世界から、いつもの平穏な世界に、お前が連れ戻せ!!!!!!」
続く言葉に、電流のような衝撃が走った。
エイラを、止める。
命を賭けて、殴ってでも蹴ってでも、エイラを止める。
この悲しい世界から、エイラを救いだす。
救う?
殺し合いに乗るのではなく、同じ道を進むのではなく、連れ戻す?
「それで、こんな殺し合いなんてぶっ潰せ!!!! それで笑うんだ!!!!!! 二人で、今まで通りに、最高の笑顔で笑いあえ!!!!!!」
二人で笑い合う?
今まで通りに、悲しみなどない世界で、笑い合う?
それが、そんな未来があるのだろうか。
こんな殺し合いの中で、自分にそんなことができるのだろうか。
「私に……そんな事が……」
消沈の声に、
「出来るよ!!!!!! 君なら、エイラの為に殺し合いに乗ろうとまでした君なら―――絶対にできる!!!!!!!」
松岡は間髪入れずに答えた。
刹那の逡巡すらなく、絶対にできると言い切った。
サーニャ・V・リトヴャクならば、エイラ・イルマタル・ユーティライネンを救いだせると、松岡修造は迷うことなく断言した。
「だから、諦めんな!!!!!! 胸を張って、絶対にできるって信じるんだ!!!!! 自分を、信じろ!!!!!!! エイラをそこまで想える自分を信じろ!!!!!!」
熱き血潮が、遂にサーニャの心に沁み渡った。
真夏の太陽のように熱い、雪原の中にでの焚び火のように温かい、言葉。
悲しい決意が融けていき、優しい決意に移り変わる。
「君ならできる!!! 俺も信じてるから!!!! 君ならできるって!!!!」
未だ口を止めぬ松岡を見詰め、サーニャは微笑んだ。
温かくて優しげな、本当の微笑み。
両の瞳から涙を零しながらの微笑みは、心が芯から温まるような柔和なものであった。
「……分かり、ました」
決意は、更なる決意をもって覆った。
サーニャ・V・リトヴャクは、ここに誓う。
親友であり、仲間であり、家族であり、とてもとても大切で掛け替えのない存在を、絶対に救ってみせると。
また二人で笑い合ってみせると、ここに誓った。
◇
「……ありがとう、ございます……」
「良いよ、お礼なんて! 俺、本当に感動したんだから! それにしても君は声が小さいな! もっと腹の底から声出せ、声!!」
「は、はい……」
「まだ小さい!!」
「す、すみません……」
「うん、まぁOK!!! じゃあ行こうか!!!」
そして、二人は並び立つ。
道を見つけた少女と、道を切り開いた男。
二人は手を取り合い、バトルロワイアルを進むことを決めた。
「あ、あの……」
そんな二人の数メートル程後方に、少年はいた。
上条当麻。決め台詞まで言い放ったのに、何故か展開から置いてけぼりをくらった不幸な少年だ。
何だか纏まってしまった場をみながら、上条はおずおずといった様子で二人に声を掛けた。
「あ、君か!! 忘れてた!!」
「わ、忘れてたって……うう、不幸だ……」
あまりの虚しさに涙すら浮かべて肩を落とす上条。
そんな上条に、松岡は悪びれた様子も見せずに豪快な笑顔を向ける。
「いや、君の言葉も良かったよ!!! 本当気持ち入ってた!!! 感動した!!!」
「あ、ありがとうございます……じゃなくて! その俺も一緒に」
「当たり前だろ! 一緒に行くぞ!!」
「は、はあ。よろしくお願いします」
「声が小さい!! さっきの熱さはどこいった!!」
「いや、いつもあんな叫んでる訳じゃ……」
上条からしても、何とも熱い……いや、熱すぎる男であった。
様々な事件を通して色々な人物を見てきた上条であるが、あまりこういうタイプの人間とは会った事がなかった。
むしろ何時もは、上条自身がこういう熱血的な役目を担っているところがある。
松岡の暑い笑顔に引きつった笑みを返しながら、上条は松岡から視線を外す。
向き直った先には、暗い表情をしているサーニャがいた。
「……その、サーニャもよろしくな。俺は上条っていうんだ。何か色々あったけどさ、俺も全力で協力するからよ」
「……ごめんなさい。私、あなたが説得してくれたのに……」
謝るサーニャに、上条は呆れた様に笑い掛ける。
伏し目がちに俯くサーニャの、その頭へと手を置き、笑った。
「言いっこなしだ。俺だって松岡さんがいなけりゃ、お前のことぶん殴ってただろうしさ。それに、ミサイルまで撃たれた松岡さんがあの調子なんだ。俺なんか何もされてないようなもんさ」
「……そう……。……ありがとう」
上条の笑みにつられる様に、サーニャも微笑む。
松岡の豪快な笑みとは正反対の、つつましげな微笑だ。
その微笑みに上条は右手を差し出し、サーニャもそれを受ける。
握手を交わしながら、二人は笑い合う。
「うん、爽やかな仲直りだ!! 青春だね青春!!!」
そんな二人を見ながら、松岡は楽しげに頷いていた。
出会いとしては最悪で、だが手を取り合うことのできた三人組が、ここに誕生した。
【一日目/深夜/C-4・森林】
【松岡修造@現実】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:サーニャ、上条と共に行動する。
2:サーニャに協力し、エイラを止める
【サーニャ・V・リトヴャク@ストライクウイッチーズ】
[状態]健康
[装備]フリーガーハマー(8/9)@ストライクウイッチーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]
基本:エイラを止める
1:松岡、上条と一緒に行動する
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:松岡、上条と共に行動する
2:サーニャに協力する
最終更新:2012年03月27日 20:17