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If

「もし……もし美緒さんがもう亡くなってたらどうするんですか?」
なんて、隣で震える瀬戸綾乃が問うものだから、思わず手が出かけた。……あっぶねえ。


現在は南に向かって進んでいる。瀬戸綾乃は俺にデイパックを渡し(荷物は全て俺のデイパックに移した。瀬戸綾乃のデイパックはさっき殺した少女の近くに捨ててある)、俺の左腕に抱きつくようにして歩いていた。歩きづらいんだけど。
≪あいつは死にません。俺が見つけます、絶対に≫
「で、でも、もし……」
≪…………そのときは、そのときです≫
そう、そのときはそのとき。まあ、そのときになったら俺は多分発狂するから、ものを落ち着いて考えられるかは知らないが。

……さて、瀬戸綾乃に会う前にルールと地図と、それから名簿は全て頭に入れてある。大体どこに人が集まるのかは想像できるが……美緒はそこにいるだろうか?
あいつのことだ、「兄さんが探しに着てくれるまで生き延びればいい」とでも思ってるんだろう。……そうとしか考えられないのは自信過剰からじゃ無いと思うんだが……気のせいだろうか。
多分美緒は俺以外の使えそうな人材を頼って、今はまだ生きているはず。……善人を頼れよ、美緒。必ず見つけるからな。
…………もう一人。瀬戸狐太郎のことだが。――瀬戸綾乃には言わないが、彼はもう助からないような気がする。
瀬戸狐太郎。美緒と同い年の少年。
心臓に病を持つと聞いているが、どうなのだろう。彼の病気については詳しく知らないが、極度の緊張や運動には弱いはず。バトルロワイアル開始からそろそろ一時間は経過する(と思う)。彼にこの状況は辛すぎるだろう。
加えて彼と親しくないので、彼がいそうな場所の予想が出来ない。……偶然でも見つかればソレが最善であるが、無理があると思う。十中八九、彼とは会えない。死体を含めてもいいなら話は別だが。

「あっ、あの……!」
ここで思考を中断。瀬戸綾乃が声をかけてきた。……そこそこ声がでかいし、面倒なことに上擦っている。やめてくれ。
「しー……っ」
人差し指を口の前で立てて微笑んでみせる。うえ。気持ち悪。うえ。久々に発した言葉の意味が「静かにしてくれ」とか。しかも「しーっ」とか。うええ。
けれど瀬戸綾乃は「気持ち悪い」とは思わなかったようで。ぽっと頬を染めて俯いてしまった。……しかしこいつ、面白いほどにうまく騙されてるな。ここまでうまくいくとは思っていなかったんだが……まあ、よしとする。
≪……それで、なんでしょうか? 聞きたいことがあったんでしょう? 小声でどうぞ≫
問えば、彼女はゆっくりと顔をこちらに向け、続いてまだ赤みの残る頬が動いた。
「その、私たち、どこに向かっているんですか?」
……あー。その質問はしないでほしかった。いや別に変なことをしようとしているわけじゃないんだが。今のこいつなら妙な妄想をしかねない。……まあいいか、ここで秘密にして疑われても困る。
ばさりと(勿論音はたててないが)地図を広げる。
≪E-4のホテルに向かっています。今はD-4にいるので……≫
と、ここで瀬戸綾乃が俺からばっと離れた。飛び退いた、という表現がより近いだろうか。必然的に触れないと伝わらない俺の言葉は途切れるわけだが。
「……!!」
赤みの引きかけていた頬を再び赤く染め上げ、彼女は手で顔を覆った。指の間からこちらを見ている。
「え、まさか、まさかまさか真田さんまさかそういう……」
「違います」
正直触ってから訂正するのが面倒だった。なんだよ、「ホテル」「男女」ってこれだけのワードで何を妄想してんだよふざけんな。興味も無いからやめてくれ。……ていうか、やっぱりそういうのが真っ先に思いつくんだな、この女。
「ホテルって、広いでしょう? その上、障害物も多いから、逃げやすいし隠れやすい。直線的なのがやや欠点ですが、その程度、カバーできます」
日本語を話すのが久しぶりなもので、長文を話すのが少々辛かった。もちろんこれは絶対口に出さないけど。ゆったりと話すようにして、その辛さを隠す。
幸い彼女は気づかなかったようで、青くなったり赤くなったりを繰り返して(「自分は何を考えているのだろう、恥ずかしい」とでも思っているのだろう)、それから謝ろうとしたのかこちらを見て口をあけるので。
「静かにお願いしますね」
念を押してから謝らせた。別に謝らせることに深い意味は無いのだが、「謝ろうとしているところを遮られる」というのはそれなりに気分の悪いものであると思ったので、頭を下げてもらうところまでは拒否しなかった。
それからそっと近づいて彼女の手を握る。
「ご、ごめんなさい……私、はやとちりしちゃって」
本当だよ。
≪いえいえ、それくらい余裕があるほうが後々有利でしょう≫
「そ、そうですよね、真田さんが私となんか……」
当たり前だろ。
≪瀬戸さんはとても魅力的な女性ですから、俺には釣り合いませんよ≫
「そんな、真田さんのほうが魅力的です」
知ってる。
≪だってほら≫
コミュニケーションのために触れていた彼女の手を両手でさわり、ゆっくりとそれを見る。
≪こんなに白くて美しい手を持ってる。家事をなさっているんでしょう? それなのにこんなに綺麗だなんて。手入れだってあるでしょうに。これほど努力している方が、魅力的で無いわけがないですよ≫
にっこりと、計算済みのスマイル、ゼロ円。
……ちなみにこいつが家事をやっているかはしらない。けれど彼女の家庭環境はある程度知っている。姉と弟の二人暮らしだ。弟の病気などを考えても、どちらかといえば家事をしているのは瀬戸綾乃のほうだろう。
ビンゴだったようで、彼女はぱくぱくと口を動かして慌てている。……やりすぎたかな? 表情のよく変わる奴だ、としておこう。
真田麻緒の社交辞令、笑顔込み。今だけでもないけどなんとゼロ円のお買い得。お一ついかがですか? やらねーけど。
赤面どころか固まって動かなくなった瀬戸綾乃の顔の前で手を振ってやれば、ハッとしたようにこちらに焦点を合わせて、
「い、いきましょう、ホテル!」
≪そうですね、なるべく静かに≫
なんかこいつに思い切り足を引っ張られている。やっぱ最初に会ったときに殺しておくべきだったか? だけどこいつの耳は使えると思ったんだよな……第一足音とかで俺の接近はばれていただろうから、丸無視、とはいけなかったんだろうが。
……まだ聞いてないことがあった、くそ、タイミング逃したじゃねえか。あれ。…………馬鹿、何、人のせいにしているんだ俺。俺が未熟だったからだろ。人のせいにするな、他人に押し付けるとそこから負の選択肢が増える。
こいつの耳はどこまで聞こえるんだろう? なるべく早く聞いておきたいことだった。だけど、「○○メートル以上聞こえますか?」なんて聞いたところで正確に返ってくるとは思えないから、ホテルに行ってからゆっくりと聞くことにしよう。
目の前には既にホテルがある。思ったより大きい。
ここまで誰にも接触しなかったが、大丈夫だろうか。それほど移動距離は長くなかったものの、誰かの気配くらい感じてもいいものだと思う。心配しすぎか?

ホテルの入り口周辺にも気配は無い。細心の注意を払って扉を開ける。
「……」
「……」
「……」
「……真田さん?」
≪……大丈夫です、問題ありません≫
問題は無い。うん、思ってたより埃が無いから驚いているんです。それだけです。
しばらく使われていないように見える島だったから、てっきり埃まみれだと思っていたのだ。だから俺の足跡の上を瀬戸綾乃に歩かせるか、とか思っていたわけだが。……大丈夫かこれ。俺が心配性なだけか。
中に気配が無いことを確認、彼女に聞いてあたりに足音や吐息の音が無いかを確認し、二人で中に入った。





【4-E/ホテル中/一日目-昼】
【真田麻緒@亡國ノ村】
 [状態]:健康
 [装備]:ベレッタM92@山城美樹(ヒカリノコエ)
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:生き残る
  1:弟である美緒を探す
  2:生き残るついでに綾乃の保護
  3:ついでに狐太郎の捜索
 [備考]
 ※ 瀬戸綾乃に少々イラついています
 ※ 見た目と感情が殆ど一致していません。ほぼ演技です
 ※ ホテルの埃については、麻緒が心配性なだけです。多分

【4-E/ホテル付近/1日目-昼】
 【瀬戸綾乃@亡國ノ村】
 [状態]:健康、不安
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:生き残る
  1:麻緒に助けてもらいながら行動する
  2:狐太郎を見つける
  3:真田さんって、やっぱりかっこいい……
  4:「囮にならなくちゃ……!」
 [備考]
 ※ 聞こえる範囲は次回参照


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最終更新:2012年12月20日 21:47
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