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I――

「オハヨーハヨー。ご機嫌いかが?」
殺すために組み敷いた少年に、ここまで余裕たっぷりなことを言われてしまったら、私はなんて返せばよいのかしら。


方丈葉月、と、私が名を名乗れば、多くの妖怪は驚く……はずなんだけど、なあ。
黄昏と呼ばれる国で、すこし前に事件を起こした私。当初は深い考えもなく、私たちが楽しめればいいと、そういう考えで、「夜空の唄事件」というものを起こした。
結局あの時は、人間と座敷童と妖狐、それから半妖精というなんとも微妙な四人の少年に、事件を解決されてしまったのだけれど、あの事件をきっかけに、「不老不死の歌姫」なんて呼ばれるようになった。
楽しい物好きな黄昏の住人は、夜の唄に困っていたわけではなく、夜の唄に飽きていたらしい。四人の少年もどちらかというと「飽きたから」解決したようだったわ。
黄昏の住民(ただし中級妖怪以下)たちに、夜空の唄事件直後謝罪に言ったのだが(正直形だけだった)、九割以上の者が「次を楽しみにしているぜ!」とのことで。流石四番目の事件。住民たちは慣れたものだった。
残りは、五番目の「紅月の桜事件」で首謀者は北上将士、あとは三番目の「黒い罪の華事件」で首謀者は土御門伊織、二番目の「白い水晶剣事件」で首謀者は鬼一樹月。――――それと、忘れてはいけない、一番目の事件……「祭りの鏡事件」。首謀者は、

柚希。

最初は、彼女が黄昏で第六の事件を起こしたのかと思った。また、皆が恐れるだけのつまらない事件か、と、そう思った。
もしくは、今度こそ本当に黄昏が

滅ぼしたくなって、対抗勢力になりそうな、いおりんやつきちゃん、マサ……そして私をここへ連れ込んだのかと、そう思ったのに。
それにしてはおかしい。あそこにいた大多数の者たちに妖力を感じなかった。人間だとしか、思えない人たち……。
まあ、それでも、「なんらかの特殊能力を所持する人間」であれば、理解できなくは無い。私たちの部下がここにきているのは、対抗勢力を再び作らないため。……理解できなくも無い。

――――それでも、もう一つだけ説明できないのだ。

ゆずゆずの部下、しーちゃんこと、葵志貴。身体能力は非常に優れていながら、性格が年不相応に幼い、彼。幼稚と表現してもいいしーちゃんを、何故この場につれてきたのかしら?
ゆずゆずに心酔しきっているしーちゃんのことだ、ゆずゆずがなにをしても従うはず。そんな彼をわざわざ殺し合いに紛れ込ませる必要なんてあったの?
一瞬。しーちゃんもみやびくんも共犯なのかとも思った。
でも違う。
共犯――つまり演技だとしたら、しーちゃんがあまりにうますぎるのだ。
みやびくんならともかく、しーちゃんがあんな声(「柚希様!?」ですって)を演技で出せるわけが無い。教室を出る時だって、彼はもう殆ど泣いてしまいそうな顔だった。もし共犯なら、あの場面、しーちゃんは微笑んでいてもいいくらいなのに。
しーちゃんを共犯ということ以外でゲームに混ぜ込ませ、且つ上級妖怪や大量の人間を殺しあわせる理由……そんなのはそれこそ一つ。

ただ、楽しみたいだけなのだ。

流石妖怪。楽しいことは正しいということなのでしょう。……これが楽しいのは柚希だけど、ね。

そんなゆずゆずの考え方を推測したところで、私がどうするかは同時に決まった。
藍を守らないと。
いつも私を守ってくれていた、藍。私の部下、藍。多分今回も、私を守ろうと行動してくれているんだろう。ただ死なないだけの人間の私を。きっとこのゲームでは、私は殺されたら死ぬ。聡明な藍は、そこまで気づいて、私を守ってくれるんだ。
でも、いいんだよ。今回はそんなことしないでいい。藍は弱くないんだから、私じゃなくて自分に気を使えば、きっと生き残れるんだよ。……こんなことを私が心で言ったって、今の藍には通じないんだ。わかってる。だったらどうするか?
私が藍を守る。
藍が私を守るなら、私が藍を守ればいい。上司が部下をまもるのは当然なんだから。これでおあいこにしましょう? 私のほうがきっとあなたより弱いけど、これで許してね。


改めて名簿を確認し、続いてデイパックの中を覗く。武器は細く鋭い短刀だった。
「……喉元に刺せば、殺せるかしら……」
正直、いままでの人生において、刀で殺人を犯したことが無い。だから少々自信は無いけれど……きっと大丈夫。ちゃんと殺せる。
なるべく音をたてないように歩き、人影を探す。はじめに見つけた人を、どんな人であろうと殺そう。……あ、でも藍ならなしね。

山の麓をなるべく走って抜ける。反対側でも良かったのだが、なんとなく気分が乗らなかったのだ。
できるだけ学校から離れ、人と大量に接触するのは避ける。接触するのは一人でいいのだ。複数いたらきっと勝てない。

……いた。数十メートルほど先の湖のところに立っている少年。ここからだと後姿しか見えないが、木の陰から彼の様子を伺う。
あれはスーツか学ランか? わからない。だけどここからみるにさほど体格がいいようには思えない。
……いけるか? ……違うわ、いくのよ。殺す、殺してやる! 幸い彼はデイパックを地においているし、どうみても武器を持っていない。

消していた気配を殺気に変えて、彼に後ろからばっと駆け寄る。デイパックは木陰においてきた。だって邪魔だもの。あとで回収すればいい。
彼の首根っこをつかみ、引き倒してマウントポジションをとる。……なかなかの美少年じゃない。だけど顔の右半分は包帯に覆われていて、それがなかなか痛々しい。そんな彼の首の右のほうに刀をぴったりとくっつけ(勿論死角を狙っている。なんとでも言って頂戴)、彼の顔を改めてみる。
彼の顔は恐怖に歪んでいるのかもしれない。少々の罪悪感を抱えながらも彼の顔をみて……そこではじめて気づいた、――――彼は、笑っていたのだ。

そして彼が言ったのが、冒頭の言葉である。
「オハヨーハヨー。ご機嫌いかが?」
「……え?」
「今から殺人を犯そうというご気分はどう?」
彼は死角にあるはずの刀を私の手の上からさらっと握り、引き裂くような笑みを浮かべる。大きく弧を描くその唇が怖い。
「な、何を言っているの? あなたは今から殺されるのに、どうしてそんなに余裕があるのよ」
「僕は殺されないから」
即答された。……この人はもしかして阿呆なの?
「ちょっと、いくらなんでも私を馬鹿にしていない? 私は女だけど、組み敷かれたら抵抗だってし難いはずでしょ?」
「うん、馬鹿にはしてる、かなあ」
だって、と、彼が続けたと同時に、くるっと視界がまわった。次いで後頭部に感じる衝撃。視界の中の彼とその衝撃から考えて、彼から押し倒し返されたのだと思う。彼自身はもうその場にはおらず、するりと私の下から逃れて、すぐさま私の後ろに回っていた。……はやかった。
骨ばった手が私の右肩をがっしりとつかむ。
「ほら、もう僕のほうが有利」
肩がありえない方向に曲がっていく。
「ああっ……痛い、痛い痛いっ!」
「痛くないとしょうがないでショー?」
残る部位で必死に抵抗を試みてみるが、全く意味がなかった。それほど筋肉があるように見えない彼。どこから沸いて来るんだというほどの力が私の肩にかかる。
「痛い、折れるわ、やめてよおっ!」
「だーいじょーぶ、折らないよ、ちょっと外すだけだから」
その言葉をきっかけに、一気に力をこめられ、ごりっという不吉な音をたてて。
肩が外れた。
「ああああああああっ!!!」
「はーい。オツカレサマデスー」
力が入らない。痛い。耳元で彼が何かを囁いている。聞こえない。痛い。やだ、なんで、知らない。痛いイタイイタイ。
肩を抑えて蹲った私の横で、くっくっく、と彼が特徴的な笑い声を上げている。痛い。
でもダメだ。諦めるな。殺さなくちゃ。

こんなきけんなひとと、あいがあったら――!!

「まだやる気? 無駄だってば」
ひっくり返されたと同時にどこかへいってしまった短刀を殆ど手探りで探し出し、左手で握り締める。途中で彼の邪魔な声が混ざったけれど、知らない。そんなの聞いてない。
もう涙で視界が歪んでしまったで必死に彼を睨んで、彼の身体に刀を……。

「君は自殺志願者?」
ぱん、と左手を叩かれ、刀がぱたりと地に落ちた。その後彼が短刀をつかんで、しげしげとそれを眺めてから、私のくびもとに突きつける。
「あ……あああ…………!!」
今度こそどうしようもなくなって、ぽろぽろと流れる涙が止まらない。どうしよう、どうしよう。こんなとこじゃ死ねない……!
「あい、藍、あい……ッ!」
「は?」
ごめん藍。上司の分際で部下の一人も守れなくてごめん、私部下失格だね。助けてくれなんて思わないよ。私がここを自分で切り抜けなくちゃいけないんだよね。わかってる。わかってるよ。でも、でもね、どうしたら……!
「おい」
彼の声の温度が変わった。さっきまでの遊ぶような声じゃない。彼がはじめて人間に見えた。
「『あい』って誰だよ。名簿によると「あい」って名前の奴は「五条藍」だけだったはずだけど……そいつか?」
彼の顔を再び見る。あの恐ろしい笑みは消えている。声だってどうしてか優しい。
「……そう、そうよ。藍は五条藍よ。あの子は強いけど、私はあの子を守ってあげたいの」
「何故?」
「決まってるじゃない。仲間だからよ!」
半ばやけになって言ってやれば、彼は暫く考えるように黙った後、刀をぽいと投げ捨てた。放られた刀はぽちゃんと音をあげて湖に沈んでいく。跳ねた雫が彼の目元にも飛んでいた。彼はそれを拭う様子もなく、私の外れた右肩に触れた。
「ひっ……?」
「動くな」
再びごきりと音がして……なんの魔法かというほど、私の肩が綺麗にはまった。
「え?」
「僕はここから離れる。僕の姿が見えなくなってから三分後以上たって、お前がここから離れるんだ」
言うが速いか、彼は自分のデイパックを持って足早に去ってしまった。途中で「まって」と声をかけたのに、立ち止まってすらくれない。

……これからどうしよう。
とりあえず沈んだ短刀を取れるかと思って湖面を眺めて、思わず呟く。
「ひっどい顔……」
まずは顔をあらわないと。
そうしたら、

そうしたら、次に会う人は殺さないでみよう。




【6-H/源五郎池付近/1日目-昼】
 【方丈葉月@黄昏シリーズ】
 [状態]:不安(強)
 [装備]: なし
 [持物]: 基本支給品一覧
 [方針/目的]
  基本方針:今度からは無理なく行動する
  1:藍をできるだけ助ける
  2:とりあえず顔を洗いましょう
  3:……あの少年は……

 [備考]
 ※ 「夜空の唄事件」……方丈葉月とその部下である五条藍による、「夜になるとどこからともなく歌が聞こえてくる(ような気がする)」というもので、その歌声はとても美しい女性の声で紡がれていたという。
  ちなみに、事件を解決した少年はそれぞれ、日南馨・麻生一・七瀬蛍・折原優樹
 ※ いおりん=土御門伊織 つきちゃん=鬼一樹月 マサ=北上将士 ゆずゆず=柚希 しーちゃん=葵志貴 みやびくん=雅礫(がれき)







【SIDE:包帯の少年】
……らしくないことをした。自分を襲ってきた奴を助けるなんて、僕はどうかしている。
最初だって、湖を眺めていた僕を木の陰から覗いていたやつがいたことになんて気づいていた。それでもよけなかったのは簡単。相手が間違えなく格下だったから。それこそ攻撃を避ける意味も無いほどに。
だから彼女の攻撃をわざと受けてみたんだ。
ちょっと会話だってしてみたけれど、興奮状態の彼女には殆ど意味がなかったみたい。
そのあとは楽しむ方向をすこし変えて、じわじわと苦しめて、抵抗できないほど弱らせた後、最後は湖にドボン! ……なんてプランを考えていたわけなんだけど。――あれは卑怯だ。
≪あい、藍、あい……ッ!≫
彼女の声が蘇る。……畜生。
あいつに、「藍とはだれか」とたずねたら、「仲間」だと即答された。
それはダメだ、ずるい。反則だ。

仲間を守りたいなんていわれたら、邪魔なんてしたくなくなるだろ?

……らしくない、らしくないよ、僕。そんなの僕じゃないのに。僕なら「そんなの知らない」って、殺してやるんだろう?
せめてもの抵抗に、短刀は湖に捨ててきてやったけど……多分手を伸ばせばぎりぎり取れるだろう。右腕もはめてやったし。

あーあ。らしくないよ。
ざまあみやがれ、僕。





【6-H/源五郎池付近/1日目-昼】
 【千歳遊@ヒカリノコエ】
 [状態]:健康、動揺(極小)
 [装備]: なし
 [持物]: 基本支給品一覧
 [方針/目的]
  基本方針:楽しめそうな人がいたら殺しあいたい
  1:部下は無事かねえ。ランとか。
  2:あれはない、反則だ。

 [備考]
 ※ 顔の右半分には包帯を覆っていますが、その状態に慣れている彼にとっては、さほどハンデではありません。





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最終更新:2012年12月20日 21:48
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