運命・ウェイクアップ!

「う……。 ここは?」

地面の冷たい感触を肌に感じながら、紅渡は起き上がった。
辺りを見回すと渡の父親である紅音也と渡が慕っている人物である名護啓介が立っていた。
今は何も始まっていないが、嫌な予感がする――。渡はこのあまりもの不自然な現状に何か嫌な気配を感じ取っていた。
何故なら紅音也は過去の人間だ。1986年にはいたが、現代にはいない。

「父さん、どうしてここに……」

渡が何気なく思ったことを声に出すと、それに応えるように父、音也が反応する。

「渡……やっと起きたか」

音也の表情はいつになく真剣で、まるで渡と共闘してキングと戦っていた時のようだ。
父と子の感動の再開――と言うには、少し不気味過ぎてどちらも素直に喜ぶことが出来ない。
特に音也はキングを倒した後に自分が死ぬことすら覚悟していたため、自分がこうして生きているというだけでも喜ぶ価値があるだろう。

「渡くん! きみはとんでもないことに巻き込まれてしまった。死にたくないなら今すぐ俺についてきなさい!」

感動の再開を邪魔するかのように大きな声を張り上げて登場した男の名は、名護啓介。紅渡の(自称)師匠だ。
渡は突拍子も無い展開に戸惑ったが、音也が「行くぞ、渡」と言ったことで名護についていくことを決めた。

歩き出してから数分後、渡は自分の背後から数人の銃を持った人間が追ってきていることに気がついた。
先程までは全く気が付かなかったが、歩いている渡の足元の地面に銃弾が発砲されたことで気がついた。
自分の足には当たらなかったものの、突然の発泡に渡は困惑して立ち止まりそうになるが、名護は声を張り上げて渡に話しかける。

「何をぼさっとしている! 健吾の犠牲を無駄にしたいのか!」


健吾さんの犠牲――――?

犠牲って、なんだろう。
まさか健吾さんが死んだ?
ははっ、そんな馬鹿な。あの健吾さんがそう簡単に死ぬわけがないよ。
でも、もし死んでいたらどうする?
誰とも友達になれなかった、こんな僕と友達になってくれた健吾さんが本当に死んでいたら。

「名護さん、それは本当ですか……?」

僕には名護さんの言ったことが引っかかった。
あの健吾さんがそう簡単に死ぬとは思えないけど、どうしてもさっきの名護さんの言葉が頭の中から離れない。
健吾さんは優しかった。きっと、ここにいる全員の中で一番優しいのは健吾さんだ。
だから、余計に心配だったんだ。健吾さんなら、自分が死んででも誰かを助けるっていうことを本当にやりかねないから

「――――ッ!」

名護さんは声にもならない声で、表情を険しくする。
健吾さんが死んでいないのなら、素直にそう言ってほしかった。
だって、名護さんがそんな表情をするってことは本当に健吾さんが死んでしまったっていうことになっちゃうじゃないか。
僕は嘘でもいいから、健吾さんが生きているって言ってほしかったのかもしれない。
健吾さんが死ぬことなんて、今まで考えたことがなかった。

「渡くん、 君が今こうして生きているのは健吾のおかげなんだ」

「僕が生きているのは健吾さんのおかげ? それってまさか――」

僕がまだ眠っている時、名護さん達はもう起きていた。
つまり、僕が眠っている時にはもう始まっていたんだ。この出来事は。
僕は眠っている間、完全に無防備だったはずだ。
そんな僕がこの大騒ぎで無事に生き残れたのは、もしかして健吾さんのおかげ?

「ああ。健吾は、眠っていたきみを銃弾から庇って死んだ」

「そうなんですか。やっぱり、僕が原因で……」

自己嫌悪。
僕がはやく起きなかったから、健吾さんは死んだ。
あんな時に呑気に寝ていた僕が悪いんだ。僕が起きていたら健吾さんは死ななくて済んだのに。
健吾さんが死ぬなんて、考えたくもなかった。人間はこんなに簡単に死ぬんだ。

「それは違うな。あいつは、自分でお前を助けることを選んだんだ。誰でもない、自分の意思でな」

自分の意思……。確かにそうかもしれない。
でも、それは僕が起きていれば良かったことで。やっぱり僕のやった罪は消えない。

「なーにーをウジウジしてるんだ」

父さんがいつもの調子で僕に話しかけてくる。
父さんは健吾さんのことを知らないから、僕と健吾さんが友達だっていうことを知らないのかもしれない。
それに、父さんは健吾さんのことを全然知らないから、健吾さんのやったことは父さんから見ると、赤の他人が息子を庇って死んだだけなんだ。
だから父さんはこんなに元気なんだ。
父さんに、今の僕の気持ちなんてわからない。

「渡、お前が本当にあいつのこと愛していたのなら、さっさと歩け。お前がここで死んだら、アイツは本当に無駄死になっちまうだろ」

父さんは真剣な声で僕に話した。
さっきまでのお調子者みたいな声じゃなくて、しっかりとした真剣な声で。
父さんの言った何気ない言葉は、僕の心に響くように聞こえた。

ここで僕が死んだら健吾さんが無駄死、か。確かに、僕を助けるために死んだのに僕が死んだら健吾さんは何のために僕を庇ったのかわからなくなる。
僕は生きなくちゃいけないんだ。健吾さんの分まで、健吾さんの命を背負って。
そして倒さなければならないんだ。健吾さんを殺した人を。
多分、その人を倒すことは凄く難しいことになると思う。でも、その人を倒さないと誰かがまた殺される……そんな気がするんだ。

「ありがとう、父さん」

父さんはいつも僕の力になってくれた。
ブラッディーローズが壊れた時も、深央さんが死んでしまって落ち込んでいた時も。

僕は、僕の音楽でみんなを幸せにしたい。
そう気付かせてくれたのは父さんだったんだ。

誰かがみんなの音楽を消すのなら、僕がその音楽を守ればいい。だから僕は走る。
せっかく健吾さんが命をかけて守ってくれたんだ。こんなところで無駄死にするわけにはいかない。


☆  ☆  ☆
「起きろ!起きろって言ってんだろ、バユム!」

ふと、目が覚める。
俺の目の前にはハルナがいて、セラがいて、ユーがいない。
ついこの間までは普通に会っていたはずのユーの姿が、何処にもない。

「……おいハルナ、ここは何処だ?」

俺がハルナに起こされたその場所は、何処かもわからない謎の舞台。
さっきまで俺がいたはずの俺の家じゃなくて、やけに照明が眩しくて大きな演劇の舞台だ。

「そんなことあたしが知るか!そんなことよりも舞台の上にいる奴らを見ろよな!」

舞台の上には、一人の少女と男がたっている。
遠くからだとよく見えないが、少女は小さな身体にはあまりにも不似合いな甲冑をきているようで、その姿はまるで――

「ユー……なのか?」

俺の言葉に、ハルナとセラが頷く。

「どうやらヘルサイズ殿は、あの男に力を利用されているようですね」

ユーは言葉を話すだけで、そいつの運命を変えてしまうことが出来るらしい。
それだけじゃない。ユーはゾンビを作ったり、吸血忍者を作ったり……普通じゃ考えられないようなことが出来るんだ。
誰かがその巨大な力を利用しようとしたとしても、不思議じゃない。

「君達には、今から殺し合いをしてもらう」

突然、舞台の男がわけのわからないことを話しだした。
いきなり殺し合いだなんて何かの冗談だと思いたいが、舞台の上にたっている男の表情は冷静で、とてもじゃないが冗談を言っているようにも思えない。
だが、それでも冗談であってほしいと俺は願う。ハルナやセラと殺し合いをしろだなんて、そんなことするわけないだろ。それに、舞台の上のユーはどうなるんだ。

「どうやらそう簡単には信じてくれないようだね。少しでも現実味を出すために襟立健吾くんには犠牲なってもらったんだけど……。まあ、仕方無いか」

男が指を擦ってパチンッという音を鳴らすと、俺の近くから何かが爆発したような音が聞こえた。
何か起こったのか?と思い辺りを見回してみると、そこには首から上の無い不気味な死体が横たわっていた。
頭があったはずの首からは大量の血が吹き出していて、まるでハリウッド映画か何かを見ているような錯覚に落ちる。
今までの出来事も色々と現実離れしすぎていたが、本当にこれが現実で起こっていることなのか?

「さて、これで理解してくれたかな? それでは、殺し合いのルールを――と言っても、特に決まったルールはない。ここにいる全員で殺し合いをして、最後まで生き残った一人が優勝さ。
優勝者には賞品として、何か1つだけ願いを叶える権利をあげよう」

願いか。そういえば、ひな祭りの時に短冊に願いを書いて飾ったな。
その時のユーの願いを、俺は叶えてやることが出来なかった。

「ルールはわかったかな? それじゃあ、君達を各エリアへと転送していこう」

男が話すと、それと同時にこの舞台にいる俺以外の大人数の奴らが霧に包まれ、何処かへと消えていった。
ハルナは「アユム、あいつムカツク」と言い残して消えていったが、俺もそう思う。
最後まで残ったのは、俺一人。

「ユーをどうするつもりだ」

別に俺みたいなゾンビ一人がこの大人数を前に人殺しが出来るような化物を倒せるとは思えない。
ただ、ここでユーを見捨てるのは嫌だった。諦めきれなかった。
だから俺は――

「ッ!?」

豪快に吹っ飛んだ。
ありのまま今起こったことを話すと、アイツの顔面を一発殴ってやろうと走って行ったら何故か俺の腹が殴られていた。
相手の攻撃をくらって情けなく地面へと転倒した俺を見て、ユーが心配そうな顔をしているように、俺の目には見えた。

「君では俺を殺せない。本当にユークリウッドを救いたいのなら、殺し合いを勝ち抜いてくるのが一番の近道だよ」

クソッ! 俺はユーをあんな寂しそうな表情にさせたいわけじゃないのに。
腕を地面にたて、立ち上がろうとするが、何故か身体が言うことを聞いてくれない。
そしてだんだんと意識が沈んでいき、結局俺はユーに何も出来ないまま殺し合いの会場へとワープしてしまった。

「さあ、楽しいゲームの時間だ――ユークリウッド」

男は不敵に笑う。このゲームの開始を祝うように、自分の死を願いながら。

GAME START 時系列順 杏子の決意、さやかの後悔
GAME START 投下順 杏子の決意、さやかの後悔
GAME START 紅渡 [[]]
GAME START 紅音也 [[]]
GAME START 相川歩 [[]]
GAME START ユークリウッド・ヘルサイズ [[]]

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最終更新:2012年03月17日 21:29
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