アットウィキロゴ

対峙する者たち

「どうすべきかな……」
 つくづく自分は、こういう物騒な厄介事と縁があるらしい。
 そんな現状にため息をつきながら、トーマ・アヴェニールという名の少年は、状況の整理を始めていた。
 シチュエーションこそ大きく異なるが、殺しを強要されたのは、これで実に2回目だ。
 故にそこまで取り乱しはせず、彼はランタンに火を灯し、ビルとビルの隙間に座り込んで、名簿と地図を見つめていた。
(それにしても……リリィ達まで、こんな馬鹿なことに巻き込むだなんて)
 代わりに胸に込み上げるのは、使命感と主催者への怒りだ。
 自分の愛すべき身内達を、危険に晒したことへの憤怒。
 そんな少女達と姉貴分を、自分の手で守らなくてはという決意。
 ヴェイロンの死という事実にも負けず、平静を保っていたれたのは、その感情によるところが大きかった。
 自分より強いスバルや、サバイバルに長けたアイシスはまだいい。しかしもう1人のリリィには、戦闘能力はないのだ。
(絶対に3人を見つけ出す。それでこの実験から脱出する)
 それが彼の行動指針だ。
 取るべき方針を定めたトーマは、改めて手元の地図を睨んだ。
 学校と橋――記された2つのポイントから、現在地がE-5からE-6の間であろうということは理解できる。
 現在地から少し東に進めば、ちょうどフィールドの端に行き着く地点だ。
 しかし、そこから脱出すればいいかと問われると、そこまで単純な話ではない。
 敵の技術力は未知数だが、少なくとも何らかの魔法技術を有していることは、あの竜を見るに間違いないだろう。
 脱走を図る可能性を考慮し、何らかの仕掛けを用意している可能性も、十二分にあり得るのである。
(となると、この首輪が怪しいな)
 己が首筋をなぞりながら、思考した。
 付属するルールブックによれば、首に嵌められた爆弾は、禁止エリアに侵入しても爆発するという物らしい。
 そのルールがマップ外にも適用されていて、内外の境界を跨いだ瞬間に爆発する、というのは、
 参加者の脱走対策としては、真っ先に想定すべきトラップと言える。
(まずはこれを外さないと)
 ひとまずの目標を設定すると、トーマはランタンの明かりを消した。
 同時に地図と名簿を拾い上げ、立ち上がりながらデイパックにしまう。
 ここから橋を渡り、川沿いに南側へ進むと、研究所という施設があるらしい。
 どうにかしてそこで首輪を解析し、首から外すのが急務と言えるだろう。
 進むべきルートを脳内に叩き込み、デイパックを背負い直しながら、路地裏から表へ出ようとすると、

「――ッ!?」

 びゅん、という風切り音と共に。
 ぐわん、と重量を身体に感じ。
 どしん、とその場に倒れ込んだ。

(もう見つかったか!?)
 不意を突かれた思考を落ち着かせながら、トーマは状況を把握する。
 どうやら何者かに飛び付かれ、押し倒される形になったようだ。
 路地裏に浮かぶ人影は、闇に消え入るかのような漆黒。
 全身黒ずくめの装束は、灯火のない街の暗黒に溶け、その識別を困難なものとする。
 真っ暗闇の真っ黒の中、金の単眼だけが、爛々と不気味な光を放っていた。
「キミが最初の獲物だね」
 ずしん、とのしかかる体重が、トーマの身体を押さえこむ。
 闇の向こうから響くのは、舐めつけるような声色だ。
 トーンは自分のそれよりも高い。恐らくは同い年くらいの女だろう。
 胸元に押し付けられた、2房の柔らかい感触も、性別の違いを物語っている。
 う゛んっ――と空気が揺らいだその時、トーマは初めて、襲撃者の顔をしかと見た。
 不気味に光る爪の向こうで、うっすらと笑みを浮かべているのは、右目を眼帯で覆った少女だった。
 中性的な魅力を湛えた、端正な顔立ちが特徴的だ。短く切りそろえられた黒髪は、ともすれば、男性と見間違えそうにすらなる。
「獲物……君は、この実験に乗ってるのか」
「そうだとも、少年。生憎と私にはこの舞台で、勝ち残らなければならない理由がある」
 すぅ、と薄明かりの下から伸びるのは、爪をまとっていない右手だ。
 細い指先が首筋を伝い、トーマの下顎へと添えられる。
 シチュエーションと相まって、一種官能的にさえ感じられる仕草だが、今の状況ではそれ以上に、左手の恐怖が勝っていた。
「それは死にたくないから? それとも、優勝して叶えたい願いがあるから……?」
 左の爪を一瞥しながら、トーマが少女へと問いかけた。
 恐らくは、魔力で練り上げられたものだろう。袖から伸びた3本の爪は、長剣にも匹敵するレンジを有している。
 まともに食らえばひとたまりもない――その事実が彼にプレッシャーを与え、冷静さを保たせていた。
「厳密に言うなら少し違うね。私は私自身のために、保身を考えた覚えはないよ。
 そして私の願いのために、奴らの手を借りるつもりはない……そんな力は必要ない」
「ならどうして……!」
「邪魔なんだ。彼女のためには、キミ達が」
「っ、彼女……?」
 その言葉を口にした時、声色が僅かに変わった気がした。
 感情の推移を示すかのように、声のトーンが微かに落ちた。
「彼女はこんなところで死ぬべきじゃない……彼女を生かすためになら、どんな汚名を被ってもいい」
「君は……誰かを勝ち残らせるために、他の参加者を殺すつもりなのか?」
「キミにだって分かるだろう? どんな手段を使ってでも、助けたい者くらいいるだろう?」
 にぃ、と口元が三日月を描く。
 鋭い犬歯を光らせて、少女の瞳がトーマを見据える。
 恐らくは彼女も自分同様、知り合いと共にここまで連れて来られたのだ。
 そして彼女はその知り合いのために、対抗勢力を撃滅し、彼女を優勝させようとしている。
 金眼から伝わるのは淀みのない決意だ。あるいはその知り合いのために、自分の命さえ捨てるかもしれない。
「分かったら――」
 少女の顔がトーマへと近づく。
 左目の三爪が持ち上げられる。
 妖しい微笑と殺意の刃が、突き立てられようとする瞬間。
「――確かに、分からなくもないよ」
 ぎらん、と輝く銀の光が、少女の動作を制止した。
「………」
「俺もこの実験場に知り合いがいる……俺だってあの2人のことは、命に代えてでも守りたい」
 下顎に突き付けられたのは、ぎらついた刃を有した銃剣だ。
 ECディバイダー996。かつてリリィと出会ったあの日、エクリプスの呪いと引き換えに授けられた、戦うための武器である。
 所有者の使用意志さえあれば、ノーモーションで具現化できるそれを、少女に向かって突き付けたのだ。
「だけど、そのために人殺しをするのは御免だ。
 俺は奴ら主催者と戦う……絶対に誰も殺さずに、この実験場から脱出してみせる」
「ハ……随分とリスキーな話だね。確実に出られる保障があるとでも?」
「ないよ。今の俺には、まだ何の具体策もない……だけど、必ず見つけてみせる。今はなくても見つけ出す」
 少女の頬を伝う冷や汗が、ぽとり、と重力に引かれて落ちる。
 トーマの頬の冷や汗に、ぴちょん、と落ちて混ざり合う。
 冷笑する漆黒の少女と、真摯に睨み返す少年。
 少年の行動の自由は、少女によって封じられている。
 しかし少女が牙を剥けば、少年がその引き金を引く。
 互いに引かない一触即発。どちらが動いても共倒れ。
 弱冠15歳の少年少女の、緊迫した膠着を打ち砕いたのは、

「――ならば、まとめて排除させてもらおう」

 暗黒の底から響き渡る、低い男の声だった。
「!?」
 耳に覚えのない第三者の声。
 路地裏の更に奥から聞こえた声に、両者はそれぞれの対応を取る。
 上を取っていた黒の少女は、得物を振りかざして闇へ飛び込み。
 下に押さえられていたトーマは、解放されると同時に跳び退った。
 立ち上がる勢いでバックステップを踏み、表の通りへと躍り出る。
 がきん、という金属音を伴い、少女が吹っ飛ばされたのは、それとほとんど同時だった。
 ざっ、と後方から聞こえる、摺り足の音を耳にしながら、トーマは路地裏の闇を見据える。
「思い切りはいいが、力が足りんな。所詮人の身ではそこまでか」
 闇から姿を現したのは、異様な風体をした白い男だ。
 体格には特に問題はない。
 しかし、医者の白衣を身にまといながら、背中に翼を生やして浮遊する姿には、一種シュールな違和感さえ覚える。
 チューブで右腕に植え付けられているのは、巨大な注射器のような武器だ。
 恐らくはこの武器を使って、少女の襲撃を退けたのだろうか。
「アンタは……一体何なんだ?」
 そう尋ねずにはいられなかった。
 尋常ならざるその姿が、自らを人でないように語る口ぶりが、トーマに口を開かせていた。
「我が名はソール十一遊星主が1人、パルパレーパ。三重連太陽系復元のため生み出された、創造神の一角だ」
「三重連……? 創造神……?」
 男から返された答えに、いよいよトーマは目を見開く。
 3ヶ月間の冒険を経て、様々な世界を渡ったものの、神を名乗る者に出会ったのは初めてだった。
 それは傲岸な思い上がりか、はたまた言葉通りの真実か。
 いずれにせよ、ただの人間ではないということは、これで確かになったということだ。
「はッ!」
 刹那、跳躍。
 かんっ、と耳を打つ音と同時に、黒き疾風が吹き荒れる。
 後方のアスファルトの地面を蹴り、少女がパルパレーパに飛びかかったのだ。
 瞬間、鳴り響くのは剣戟の音。
 がきん――と轟く金属音が、火花と共に突き刺さる。
「無駄だと言っているのが分からんのか?」
 対峙する神の顔はあまりにも涼しい。
 超速の突撃を受け止めながらも、その頬には汗一つ浮かんでいない。
 事実、斬りかかられた彼の身体は、しかして微動だにしていなかった。
 威圧的なロウ・トーンボイスも、まるで感情が抜け落ちたかのような、無感動そのものの声質だ。
「神、ね……なるほど、そりゃまた大層なもんだ」
 それでも、少女は怯まない。
 漆黒の燕尾服を翻し、光子の爪を携えて。
 少女も微塵の揺らぎも見せることなく、薄い笑みと共に言葉を紡ぐ。
「だけど、だからってそれが何だ?」
 ぎちぎちと軋む音が鳴る。
 互いの刃ががちがちと震える。
 黒い長袖に覆われた腕が、込められた力に脈動する。
「たとえお前が神であろうと、お前に私は従えられない」
 余裕に振舞っていたのは、パルパレーパだけではなかった。
 黒髪と黒装束の少女もまだ、未だ本力を見せてはいなかったのだ。
 微笑と気配は凄絶さを増し、殺意を不可視のナイフと変える。
 触れるもの全てを貫かんばかりの、どす黒い感情の剣山だ。
「私の神話はただ1つ――胸の心を支配する神は、この世界でただ1人だけだッ!」
 轟然と、振り抜かれた一閃。
 野獣の雄叫びが響くと共に、凶刃ががきんと神を払う。
 振りかぶる魔手の一撃が、パルパレーパを逆に突き飛ばしたのだ。
 たんっ、と着地の音が鳴る。
 地に足つけるは一瞬きりだ。
 次の瞬間、黒の少女は、再び空へと飛びかかった。
 今度はがら空きの右手にも、左手と同じ刃を具現。
 三爪二対の長爪を、渾身の力を込めて振り抜く。
 がきんっ、と乾いた音が響いた。
 パルパレーパの注射器と、少女の爪が奏でる剣戟音だ。
「なるほど……少しは出来るようだな」
 へし折られた針を見やりながら、パルパレーパは淡々と呟く。
 きぃん――と次の瞬間鳴り響いたのは、奇妙な耳鳴りのような音だ。
 刹那、瞬時に注射針が分解され、新たな形となって再構成される。
 銀の光を放つのは、メス。注射本体はそのままに、先端を斬撃武器へと変えたのだ。
「らぁぁぁぁっ!」
「フン!」
 激突。衝突。続いて衝撃。
 ぶつかり合う実体と光の刃が、重なる火花で闇夜を照らす。
 トーマの眼前で展開されるのは、宙を舞い荒れ狂う斬撃の嵐だ。
 黒い魔導師と白い神。モノトーンで彩られた2人1組が、激しくぶつかり合う剣戟乱舞だ。
 今のトーマに空は飛べない。リリィ・シュトロゼックとのリアクトなしには、あの戦場には立ち入れない。
(なら俺は、この状況でどうすればいい?)
 トーマ・アヴェニールは思考する。
 この手とこの銃で出来得ることを、為すべき道を模索する。
 この状況で信頼できるのは、支給品とディバイダーだけだ。
 空中戦が不可能な今、宙を舞うパルパレーパを中心とした戦況には、射撃のみでの対処を強いられることになる。
 あの黒髪の少女のように、ぴょんぴょんと跳び回れればいいのだろうが、
 生憎とそこまでの運動能力は、生身では実現できそうにない。
(あの2人はどっちも危険だ。2人ともが実験に乗る気でいる)
 故にこの場合の理想は、双方無力化させた上での拘束だ。
 現状の装備でそれを実現するには、これからどのように立ち回れば――
「――はぁッ!」
「ぐっ!?」
 刹那、その思考を遮ったのは、パルパレーパの行動だった。
 腕から伸びるそれの形状は、包帯と形容すべきだろうか。
 創造神の手繰るバインドロープが、黒髪の少女を拘束したのだ。
 両手から伸びる凶悪な爪は、その両手ごと封じられている。
 互角に見えた戦いは、一気にパルパレーパ有利に傾いたと言っていいだろう。
「惜しかったが、ここまでのようだな」
「くそっ……」
 勝ち誇る神と、睨み返す少女。
 優者は悠然と劣者を見下ろし、劣者は悔しげな視線で優者を見上げる。
(だけど、何だ?)
 何か変だ。
 トーマはそんな2人の状況に、奇妙な違和感を覚えていた。
 殺すのが目的だったにしては、パルパレーパの対応は、あまりに余裕に満ちすぎているのだ。
 敵をいたぶるのを楽しむようなサディストには、どう考えても見えない男だ。
 ひと思いに殺しにかからないのは、あまりにも不自然に感じられた。
「このまま殺すのもいいが、貴様には利用価値がありそうだ」
 瞬間、男の片手が懐に伸びる。
 パルパレーパが取り出したのは、巨大な螺子のような物体だ。
 純白のボルトは合計2つ。それが彼の手の上で、ふわふわと宙に浮いている。
「何を……」
「その力、使わせてもらうぞ」
 反論の隙すら与えることなく。
 ボルトが両のこめかみに向かい。
 少女の頭部に突き立てられた瞬間。
「ッ……がぁあああああああああーっ!!」
 瞬間、闇を塗り潰すのは緑の極光。
 ばちばちと響くスパークの奥から、それさえも塗り潰すのは娘の絶叫。
 深夜の静寂を破り裂き、少女が悲痛な叫びを上げた。
「なっ!?」
 再びトーマは瞠目する。絶叫と共にもがく少女を、驚愕の眼差しをもって見つめる。
 凶悪な光を放つのは、頭部に突き立てられたボルトだ。
 あの巨大な2本の螺子が、緑色のスパークを発し、少女を苛んでいるのだ。
 くわと瞳を見開いて、口から涎を撒き散らす様は、明らかに尋常なものとは思えない。
「ぅ……や、めろっ……やめてくれぇぇ……ッ!」
「おいアンタ! その子に何をしてるんだ!?」
 恥も外聞もなく哀願する少女は、先ほどまでのそれとはまるで別人だ。
 事の深刻さを再認識し、トーマは怒鳴るようにして、パルパレーパへと問いかけた。
「この娘の人格を書き換えているのだ。こ奴の神とやらではなく、私のために戦うようにな」
「!? 人格を、書き換えるだって……!?」
 それはつまり、そういうことか。
 パルパレーパの返答によって、ようやく状況を飲み込んだ。
 あれはいわゆる洗脳装置だ。
 かつてスバルの姉・ギンガが、そうしたプログラムを打ち込まれ、時空管理局に反旗を翻したことがあったという。
 つまるところ、今の少女は、それと同じ状況に直面している。
 彼女が語った最愛の存在を、彼女の脳内から抹消し、殺戮人形を作ろうとしている。
「ぐ、ぅああああっ……!」
 胸を引き裂くような叫びが、トーマの耳に突き刺さった。


 私の記憶が、消えていく。
 緑色に光る刃が、私の思い出を引き裂いていく。

 バラバラにちぎられていくのは、一番大切なあの人の記憶だ。

 私に向けてくれたあの笑顔が。
 私に振舞ってくれた紅茶の味が。
 私のために流してくれた、あの涙が頭の中から消えていく。

 嫌だ。
 それだけは絶対に駄目だ。

 この思い出だけは消されてはいけない。
 それが私の中から消えてしまえば、私は私でなくなってしまう。

 あの人への愛が全てだった。
 有限の献身を連鎖して、無限の愛情を伝えることが、私の為すべき全てだった。
 あの人がいて、私の隣で、一緒に笑ってくれるのが嬉しかった。
 私に死ねと言った時、あの人がこんな私のために、泣いてくれたのが嬉しかった。

 お願いだ。
 そんな記憶を消さないでくれ。
 私の大切な思い出を、私から奪わないでくれ。

 頼む。
 嫌だ。
 忘れたくない。

 誰か。

 誰か。

 どうか、誰か――


 がんっ――と響いた銃声が、炸裂の音を停止させる。
 緑のスパークを止めたボルトが、ゆっくりと地面へ落ちていく。
 続けざまに打ち鳴らすのは、ディバイダー996の銃声だ。
 魔力で練り上げられた弾が、次々と包帯に風穴を開け、少女の身体を解放した。
 虚空に放り出された身体を、駆け寄って両手で受けとめる。
 かたん、と硬質な音と立て、螺子が落ちるのと同時だった。
「……どういうつもりだ?」
 問いかけたパルパレーパを見上げる、トーマ・アヴェニールの姿があった。
 咄嗟の判断だった。
 考える前に身体が動いた。
 事態を認識した瞬間、トーマの指は引き金を引き、洗脳行動を中断させたのだ。
「その娘はつい先ほど、貴様の命を狙ったのだぞ? 貴様の敵となる相手を、わざわざ助けて何になる?」
 ああ、確かにそうかもしれない。
 どんな理由を掲げたって、この手の中で気絶した少女が、自分を襲った事実は消えない。
 敵か味方かと問われれば、この黒いバリアジャケットの娘は、間違いなく厄介な敵だろう。
「……だとしても、俺は見捨てたくないんだ」
 脳裏に記憶が蘇る。
 パルパレーパの問いかけに呼応し、あの歪んだ視界が蘇る。
「敵だから助けないとか、憎いから許さないだとか……そんな残酷な過ちを、俺はもう二度と犯したくない」
 戦艦フッケバインを舞台にした、あの戦いの記憶を追想する。
 エクリプス因子の力により、悲痛な戦いの波動を察知したトーマは、戦いを憎悪し暴走した。
 全ての戦闘員を敵と見なし、全てを消し去ろうとしてしまった。
 あんな恐ろしい思いは、もう二度と味わいたくはない。
 誰かを憎しみのままに殺したとしても、平気で戦えたであろう自分には、もう絶対に戻りたくない。
「同じことを繰り返して――」
 故にこの手を伸ばすのだ。
 たとえ握られているのが剣だとしても、その手をこの手で掴み取るのだ。
 もう二度と過ちを繰り返さないために。
 尊敬する姉貴分が教えてくれたように。
 トーマ・アヴェニールのこの両手は、誰かを守るためにあるのだと、自らに知らしめるように。
「――同じ後悔をしたくはないんだ!!」
 少年の叫びは光を成し、パルパレーパの網膜へと突き刺さった。


 もうもうと立ち込める黒煙が、夜風に流され晴れていく。
 地上に広がった暗雲が消えたあとには、ただ1つの人影だけが残された。
「スタングレネードと煙幕の同時使用か……」
 もはや誰もいなくなった道路の上で、パルパレーパだけが呟いていた。
 少年が少女を庇ったあの時、彼の身に襲いかかったのは、強烈な閃光と爆音だ。
 もちろん、三重連太陽系復元プログラム・ソール十一遊星主の一角たる彼には、その程度の刺激など、さしたる足止めにはならない。
 問題はその一瞬の隙を突き、周囲に展開された煙の方だった。
 足音をスタングレネードの音で消され、姿を煙幕で消されたことにより、
 結果パルパレーパはあの2名に、まんまと逃げおおせられてしまったのだ。
「貴重なケミカルボルトを無駄遣いしてしまったしたが……まぁいいだろう」
 それでも、超然たる創造神の一柱は、その程度で気性を荒げたりはしない。
 所詮は下等種族の戯れだ。神は無感動な平静を保ち、悠然とアスファルトに着地した。
 さらさらさら、と音が鳴り、足元の白いボルトが消える。
 対象の精神に干渉し、その意思を自在に操るケミカルボルト――あれはこの殺し合いの場で、パルパレーパが作ったものではない。
 恐らくは好き勝手に量産されては、実験が不公平になるということだろう。
 どうやらケミカルボルトの生成能力は、主催者の言う能力制限とやらによって、封印されているようだった。
(だが、私に支給された荷物の中には、そのケミカルボルトが入っていた……)
 現状の何が気に食わないかと問われれば、それを挙げるべきだろう。
 彼のデイパックには、その制限されているケミカルボルトが、合計4本入っていたのだ。
 ケミカルボルトは、2つで1組のアイテムである。つまり二度までならば、参加者の洗脳を許すということだ。
 そのハンデの中でやってみせろと、挑戦状を叩きつけられたというわけだ。
 何たる傲慢。何たる不遜。
 愚かで脆弱なる人間風情が、神を試そうなどとおこがましいことだ。
(一刻も早く参加者を殲滅し、奴らに引導を渡してくれるわ)
 奴らには分からせなければならない。
 自分達が一体何者に、喧嘩を売ったのかということを。
 不敬なる愚か者達には、その者自身の命をもって、それを理解させてやる。
(そして、同じく倒すべきはエヴォリュダー・ガイ)
 その傍らで思い出すのは、名簿に書かれていた1つの名前だ。
 獅子王凱。
 忌むべき破壊神の奏者。
 黙示録の笛を吹き鳴らし、創造神を喰い殺す癌細胞。
 ソール十一遊星主の対となる天敵――ジェネシック・ガオガイガーのパイロットである。
 三重連太陽系復元の上で、最大の障害となるのはあの男だ。事実この身も奴相手に、既に2度も殺されている。
 滅亡の時から数えれば、3度目の復元を迎えた今こそ、奴を確実に仕留めなければならない。
 奴がジェネシックから切り離され、生身でうろついている今こそがチャンスだ。
「神に刃向かう愚かさを、その身にしかと教えてやる」
 それは高慢なる主催者に向けて。
 そして忌まわしき宿敵に向けて。
 そしてこの場に集められた、29人全員に対して。
 静かに、悠然と宣言すると、パルパレーパは行軍を始めた。


【一日目/深夜/E-6】

【パルパレーパ@勇者王ガオガイガーFINAL】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】基本支給品、ケミカルボルト@勇者王ガオガイガーFINAL
基本:優勝して実験を終わらせ、主催者を皆殺しに行く
1:凱はこの場で確実に倒す
2:アベルとは合流しておきたい
【備考】
※第8話にて、二度目の死亡を迎えた直後からの参戦です。
※能力制限により、ケミカルボルトを自力で生成することは不可能になっています。


(……とりあえずは、これでいいかな)
 羽織った白いジャケットを脱ぐと、横たわる人影にそっとかける。
 トーマ・アヴェニールの現在地は、雑居ビル2階の飲食店だ。
 未だ目覚めぬ黒髪の少女を、ソファに寝かせて安静にすると、自分はドリンクバーへと向かう。
 手頃なガラスコップを取って、オレンジジュースを汲み取ると、それを一口飲み込んだ。
「ぅ、う……」
 まだダメージが残っているのだろう。
 バリアジャケットが解除され、白いシャツとミニスカートの姿になった少女は、時折うめき声を上げている。
 それでもとりあえずは、身体の方は問題なさそうだ。
 あの螺子のおかげで負った怪我も、それこそ、唾をつければ治るくらいのレベルだろう。
(この子のことをどうすべきか、今はまだ分からない……)
 故に今それ以上のことはせず、これからのことを考える。
 助けた少女の目的は、大切な人を守るための殺人だ。
 その決意は並々ならぬものがある。生半可な説得では、決して覆ることはないだろう。
 故にこの娘と自分とは、目覚めれば確実に対立する。
 殺し合いを望まぬ者と、殺しを望む者は、必ずぶつかり合うことになる。
(それでも、見捨てるわけにはいかない)
 たとえそうなったとしても、黙って見殺しにするよりはマシだ。
 そんな薄情な真似はしたくない。できることなら、お互いが無事に済む道を探したい。
 そうだろ、スティード――と。
 引き離された相棒へと、胸の内で問いかけた。


【一日目/深夜/E-6 ビル内】

【トーマ・アヴェニール@魔法戦記リリカルなのはForce】
【状態】魔力消費(極小)
【装備】ECディバイダー996@魔法戦記リリカルなのはForce
【道具】基本支給品、不明支給品0~1
基本:実験場から脱出する
1:パルパレーパを撒くために身を隠す
2:とりあえず、キリカが起きるまで待つ
3:リリィ、アイシス、スバルと合流したい
4:研究所へ行き、首輪を外す
【備考】
※第17話終了後からの参戦です。
※キリカのことを、「魔法戦記リリカルなのはForce」の世界観の魔導師だと思っています。

【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
【状態】気絶、両こめかみに切り傷(小)、精神ダメージ(中)、魔力消費(小)
【装備】ソウルジェム
【道具】基本支給品、不明支給品1~3
基本:「彼女」を生還させるために、他の参加者を皆殺しにする
1:………
【備考】
※第4話終了後からの参戦です。


Back:愛するあいつを殺せるか 時系列順で読む Next:神邂逅 -かみがきたりて-
Back:愛するあいつを殺せるか 投下順で読む Next:神邂逅 -かみがきたりて-
GAME START トーマ・アヴェニール Next:[[]]
GAME START 呉キリカ Next:[[]]
GAME START パルパレーパ Next:[[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年04月21日 16:08
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。