「こ、殺し合えって……何よそれ……」
美樹さやかは、分かりやすく動揺を表しながら、暗闇の中に立っていた。
唐突に始まった
殺し合い。
死にたくなければ、願いを叶えたければ、殺しあえと告げられ、この場に連れられた。
訳が分からない。どうしてこんな事になっているのか。
「ど、どうしよう……どうすれば……」
パニック状態になりかけながら、美樹さやかは思考する。
これからどう行動していけば良いのか。
どうにかしなくては……、胸中に湧き上がる焦燥に押されるように走り出す。
と、そこで思い出した。
「あれ? でも、そういえば私って……」
そう、自分が負ける筈がないという事を、美樹さやかは思い出す。
この殺し合いに連れて来られる少し前の出来事。
クズな親友が魔法少女になろうとした瞬間、その願いを奪い取った。
親友の声色を蝶ネクタイ型変声機で真似して、願いを告げた。
『さやかちゃんが全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女になれる』ように、と。
願いは受け入れられ、自分は強くなった。
魔法少女として最高の才能を持つとされていたクズな親友を打ち破れる程に、強くなった。
そうだ。
自分に勝てる存在なんている訳がない。
どんな敵であろうと自分に掛ればお茶の子さいさいの筈だ。
「そうだよ、私に敵う奴なんていないんだ……まどかだって私にかかれば……!」
負けない。
『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』になった自分が、負けるはずがない。
「ふん。なら、もう何も恐れるに足らず!! 待っててね、さやかちゃんがちょちょいと皆さんのことを助けちゃいますから!!」
自身の強さを確かめた事で、さやかは平常心を取り戻した。
何時も通りの軽口を飛ばしながら、魔法少女に変身して走り出す。
空気を切り裂いて進む姿は、圧倒的なものであった。
彼女が通った後には豪風が吹きすさぶ。
木々が揺れ、葉が飛ばされる。
凸凹な地面の状態など気に止める必要すらない。
人影が青色の流線となり森林を走っていく。
ほんの十数秒で一キロを走り抜いた彼女は、そこで他の参加者を発見した。
遥か彼方の住宅街、家と家の間から見えた姿を見て取り、その場に立ち止まる。
焼け焦げた匂いを残しながら、さやかは見た。
パッと見はそこらへんに居そうな男性。
取り敢えず合流でもして安全な場所に連れてってあげますか、と軽く考えたところで、青色の魔法少女は再び動きを止めた。
またもや、思い出したのだ。
殺し合いに連れて来れる前の出来事を。
その苦い記憶を、思い出してしまった。
『男子の皆さんは、くれぐれもさやかちゃんとは交際しないように!』
クズな親友との戦いに勝利した直後の事、親友はわざと弱った振りをして被害者面をした。
いつのまにか集まっていた皆の前で、恥も臆面もなく、泣き真似をしたのだ。
そのせいで、皆は自分が親友の事を虐めていると勘違いをし、そこにいた担任の先生がこう言った。
『あい』
『ああ』
『うん、分かった』
そこにいた男性陣は、揃って頷き始めた。
まだ幼稚園にもいっていない子どもから、良識ある大人、果てには謎の宇宙生命体さえも。
『うん』
そして、幼馴染の少年も、そう言った。
幼馴染の少年は、もう自分の事など目にも止めなかった。
危機を救ってくれた少女に首ったけとなり、しきりに話しかけていた。
もう見てくれない。
誰も、私のことを信じてはくれない。
全ては、クズな親友……いや、もう親友ですらない……ただのクズ女に奪い取られてしまった。
幼馴染の少年は、心の底から好きだった少年は、
もう二度と振り向いてはくれなかった。
もし。
もし、だ。
この殺し合いで優勝してしまえば、願いを叶えてしまえば、元通りになるのではないか。
友達も笑いかけてくれる、想い人とも笑いあえる、そんな日々が戻ってくるのではないか。
また、彼と笑って過ごせる日々が、そんな楽しい日々が戻ってくるのではないか。
そう、優勝さえしてしまえば―――、
「……ダメだよ」
さやかは、振り切るように頭を振った。
己の内に湧き上がった邪な感情を振り切るように。
自分が魔法少女になった理由は、彼の手を治すためだ。
自分の為に魔法少女になった訳ではない。
魔女やその使い魔に苦しめられる人々を救う為に、魔法少女となったんだ。
自分勝手な理由でこの強大な力を振るってしまえば、それはアイツと同じだ。
どこまでもクズな女―――鹿目まどかと同じになってしまう。
それだけは、嫌だ。
自分はアイツのような魔法少女にはならない。
それが、今の自分に残されたたった一つの道しるべ。
彼に捨てられようと、周りの皆から見捨てられようと、アイツと一緒になることだけは嫌だった。
「そうだよ。私は絶対にアイツのようにはならない。絶対に―――!」
迷いを振り切り、さやかは行動を再開する。
ずっと遠くにいる男の元へと瞬く間に到着し、男へと笑みを向ける。
男は少し驚いた様子で、突然現れたさやかのことを見詰めていた。
勇気づけるように、自信に満ちた笑顔を浮かべて、口を開くさやか。
大丈夫ですか? 安心してください。
そんな事を言おうとしたが、それよりも先に、
「―――諦めろよ!!」
男が、叫んだ。
とてつもなく大きな声で、さやかを睨み付けて。
「どうしてそこで頑張るんだ、そこで! 嫌な事、悲しい事、辛い事、誰も分かっちゃくれないんだよ!!
世の中思い通りにならないことばかりだ! あーはぁん、何の意味もないよねー。頑張ってもさあ、崖っぷち!!」
男が何故こんな事を言い始めたのか、さやかには分からない。
ただ困惑でもって、男の言葉を聞いていた。
だが……何でなのだろう。
寒い。
冬国に連れてこられたかのように、周囲の空気が冷たくなってきている。
それも体だけでなく、心までも。
全てが冷えていくのを感じていた。
「な、何を……わ、私は別に……」
「分かるよ! 頑張ろうとしているんだろ、努力しようとしているんだろ! 馬鹿野郎!! 諦めろ!! 絶対にできない!!」
「な、なんでアンタにそんなこと言われなくちゃなんないのよ! 私はこの殺し合いを叩き潰す! 絶対に殺し合いなんてさせるもんか!」
さやかも、侵襲してくる寒気に抗うように声を荒げた。
決意を口にだし、己を奮い立たせる。
「そんなの出来る訳ないだろ!! だめだめだめだめ、出来る訳ない!! 世間はさ、厳しいんだよ!! そんな甘い考えが通じるようなもんじゃないんだよ!!」
「そ、そんな事……!」
言葉は止まらない。
さやかの抵抗を嘲るように、声は勢いを増していく。
「無理無理無理!! できないできない!! もう諦めろよ!! 絶対にできない!! 分かってくれる人はいる? そんな訳ねえじゃん!!」
「う、うるさい! 私は絶対にやり遂げるんだ! あ、あんたが何て言おうと絶対―――」
「んな訳ねえだろ!! 諦めろよ、諦めてみろって!! お前だって心の中では分かってんだろ!! 誰も分かっちゃくれないって!! 努力したって誰も理解してくれないって!!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!! 何も知らないお前が、これ以上喋るな!!!」
「嫉妬、悪口、そんなんばかりだ!!! どんなに頑張ってもさあ、誰も分かってくれねえんだ!!! だから―――」
「だ、黙れ……!」
寒い。寒い。寒い。
まるで極寒の地にいるかのように、全てが凍えて思えた。
頑張ろうと決意した全てが、虚仮にされ、消えていく。
「―――だから、諦めていけ!! Give up!!」
最後の一言は、あまりに力強いものだった。
心に衝撃が走る。何もかもが崩れ落ちていく。
嫌だ。私は皆を守るんだ。皆の為に戦うんだ。
諦めてなんかたまるか。
だから、だから―――、
「っ、黙れよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
―――グシャリ。
「え……」
そして、惨劇が広がった。
さやかからすれば、軽く押しただけであった。
ネガティブな言葉ばかりを吐く男を止めたくて、その胸を押しただけだ。
だが、考えてみて欲しい。
今現在の美樹さやかは魔法少女である。
それも、生半可な魔法少女ではなく、『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。
最強の魔法少女である鹿目まどかをも打ち倒す、究極の魔法少女。
その身体能力は如何ばかりか……推し量ることすら難しい。
少なくとも、軽く押すという動作だけでも、常人からすれば脅威である事は確かのようだ。
そう、美樹さやかの、胸を軽く押すという動作で男は死亡した。
大型トラックに衝突されたかのような衝撃に、男の身体は後ろへ吹っ飛んで、民家の一件をぶち壊す。
男の胸部にはさやかの手形が刻まれていて、その奥にある内臓器官全てがぐちゃぐちゃに潰れていた。
上半身は原型を留めない程にメチャクチャになっている。
即死であった。
男―――鬱岡修造は、惨状のど真ん中で死亡した。
「う、うそ……わ、私……」
数秒までの言い合いが嘘のように、周囲は静寂に包まれていた。
さやかは己がしでかした事を受け入れられずに立ち尽くす。
呆然と眼前の惨劇を見詰めて、左右に首を振った。
「ち、違う……私は―――」
遂には背を向け、走り去ろうとしてしまう。
そこで、見た。
警戒心に満ちた瞳でコチラを見詰める少女の姿を。
「ち、違うのよ! これはコイツが!」
「……見てたわ、全部」
「な、なら、分かるよね! 私は悪くない、全部誤解なんだって!」
「何を口論していたかは分からないけどね……無抵抗の人間をこんな風に殺害しといて誤解っていうのは、ちょっと虫が良すぎると思わない? いくら状況が状況とはいえね」
「違う……」
「……あなたを、拘束します」
「違うの……」
少女は、軽蔑に満ちた瞳でさやかを見詰めていた。
少女は、本当に見ていただけなのだ。
さやかと鬱岡との口論は、聞こえていなかった。
口論をしている、というのは分かっても、その詳しい内容までは聞こえなかった。
だから、敵意と警戒心を剥き出しにする。
「この異常な状況です。これ以上罪を犯さなければ、情状酌量の余地はあります。だから、抵抗はしないで……お願い」
ティアナ・ランスター。
時空管理局の若き魔導師は、己の正義心を信じて行動をする。
「違う……違うぅぅ」
さやかは涙をポロポロと零しながら、己の正当性を叫んでいた。
だが、声は届かない。
鬱岡を殺害してしまった事は紛れもない事実であり、覆しようがない。
さやかが何と言おうと、ティアナに引くつもりはなかった。
だからこそか、その瞳が怖かった。
警戒心に満ちた瞳が、不信しかないその瞳が、怖い。
何で信じて貰えないのだ。
私は、私は、私は―――、
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!」
思わず、手を払いのける。
拘束しようと掴んできたティアナの手を、思い切り。
何度も言うが、今のさやかは『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。
その身体能力で払いのけられた腕は、容易く曲がってはならない方向に曲がってしまう。
しかも今回は鬱岡の時のように軽く押した訳ではない。
殆ど反射的な動作であり、そのため手加減をする余裕がなかった。
ティアナの腕は、折れ曲がってなおも勢いを止めない。
折れた腕が捻じれていき、遂には―――捻じ切れる。
ブヅリと、嫌な音をたてて、ティアナの腕が千切れ落ちた。
「あ、あああああがあああああああああああああああああああああああああ!!!」
「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
絶叫が重なる。
片や痛みからくる絶叫と、片や己のしでかした事に対する恐怖からくる絶叫。
絶叫を迸らせながら、魔導師は気絶し、魔法少女は場から逃亡した。
自分のしてしまった事に恐怖し、とめどなく涙を零しながら、美樹さやかは逃げ出した。
【一日目/深夜/D-3・住宅街】
【美樹さやか@クズなまどかシリーズ】
[状態]全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女
[装備]ソウルジェム@クズなまどかシリーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを阻止する
0:うそだうそだうそだうそだ……
◇
そして、場に残るは惨状。
家に突っ込み、上半身を潰した男の死体と、右腕をなくし、切断面から大量の血液を零し続ける少女。
そんな惨状を、遠くから眺めている者がいた。
その人物は、全てを全て見ていた。
鬱岡とさやかとの口論から始まり、ティアナが腕を失い気絶するまでの全てを、見て聞いていた。
その人物からすれば、異常なのは鬱岡の方であり、さやかは被害者のようにも見えた。
さやかの殺人は確固たる事実であるが、その動作から殺意は見られなかった。
弾み、という言葉がしっくりと来るか。
少なくとも、さやかが悪人のようには見えなかった。
「ううっ……ヒドいな、こりゃ」
だが、その人物にさやかを擁護するつもりはなかった。
このまま騒ぎを拡大してくれれば、自分の目標が早く達成できると思ったからだ。
人物の名は、エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
エイラは物陰から現れて惨劇の場を見渡し、気絶中のティアナの傍で立ち止まる。
その傷を見て顔をしかめる。
「手当をすれば、命は助かるだろうけどなあ……」
傷は酷く、出血も危険な域だ。
とはいえ、しっかりとした手当さえすれば、命は助かるだろう。
屈み込み、その傷に身体を近付ける。
そして、
「―――でも、無理ダナ」
右手にもった拳銃で、ティアナの頭を打ち抜いた。
額に眉を寄せ、顔を曇らせながら、それでもしっかりと引き金を引いた。
「悪いな。私は……サーニャを助けなくっちゃいけないんだ」
エイラは殺し合いに乗った。
想い人たる一人の少女を救う為、ただそれだけの為に。
引き金を、引いた。
「だからさ……出てこいよ」
エイラはゆっくりと立ち上がりながら、デイバックへと手を伸ばす。
取り出されたのは、MG42―――汎用機関銃。その銃口を暗闇の先に向けた。
「……気付いてたのか」
「ううん、そういう訳じゃないけどなー」
エイラが有する固有魔法『未来予知』。
その能力により察知できたのは、数秒後の未来に物陰から出てくる『筈だった』男の存在。
エイラの言葉により未来は変わり、男はエイラの促しにより出てくる形となった。
少年は警戒に満ちた表情でエイラの事を睨んでいた。
「……何で、この女を撃った」
「優勝を目指してるからに決まってるだろ。そういうお前はなんで止めなかったんだ?」
「……止めるのが、間に合わなかっただけだ」
「嘘だな」
少年は、どうすべきか悩んでいた。
森林の奥から聞こえてきた轟音に導かれてみれば、そこにあったのは一つの惨劇。
この女が惨劇の全てを引き起こしたのか、少年には分からない。
辿り着いたその時には、既にこのような状況であった。
だが、エイラがティアナに向かって引き金を引く瞬間には、少年はこの場にいた。
止めようと思えば、止めれただろう。
一言止めろと声を上げ、エイラへと殴りかかる。それだけで十分だった筈だ。
だが、少年はそうしなかった。
迷っていたからだ。
殺し合いに乗るべきか否か、少年はまだ迷いの中にあった。
「お前、分かり易いぞ。顔に全部でてる」
「……うるせえ」
叶えたい願いがあったのは確かだ。
願いの成就を追い求めて、次元をも超えた殺し合いに参加したことも事実。
現界した6人のサーヴァントによる、聖杯を巡る争乱。
結果だけを言えば、少年は勝ち残る事ができなかった。
敗北し、自分の願いを叶える事はできずに……だがしかし、相棒たる人物の願いを叶えて、消滅した。
その末に辿り着いた、殺し合い。
再び訪れた願いを叶える機会。
自分はどうすれば良いのか。どうしたいのか……正直に分からないというのが、答であった。
「じゃあ、悪いけど死んでくれ」
「嫌だね。断る」
ともかく、まだ何も決めていない状況で、むざむざと死んでやる訳にもいかない。
相手は明確な殺意をもって戦おうとしている。ならば、応戦するしかない。
第6次聖杯戦争において『キャスター』の位でもって現界した英霊―――エドワード・エルリック。
エドは戦闘の構えをとって、エイラと相対した。
エースウイッチとサーヴァント。
時間も世界すらも違った二人の人物が、惨劇の場で戦いの火ぶたを切ろうとしていた。
【鬱岡修造@現実 死亡確認】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】
【一日目/深夜/D-3・住宅街】
【キャスター(エドワード・エルリック)@第六次聖杯戦争】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:俺は……どうしたいんだ……?
1:眼前の少女を倒す。殺すかどうかは……
【エイラ・イルマタルユーティライネン@ストライクウイッチーズ】
[状態]健康
[装備]MG42@ストライクウイッチーズ、護身用拳銃@ストライクウイッチーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~1
[思考]
基本:サーニャを生還させる
1:目の前の少年を殺す
2:サーニャや仲間とは……合流したくない
3:青髪の少女には暴れまわって欲しい
最終更新:2012年04月06日 22:50