参加者に支給された地図上にてA-1と記されている地点に、それはあった。
A-1地点の最端。小規模な港のような場所で、それは水に浮かんでいる。
港に繋がれ、その巨体を波に揺らしていた。
プトレマイオス2―――とあるド外道集団が拠点とする戦艦だ。
「訳分かんねぇ……どうしてこうなった……」
「余り気にするな。肉体がどうあれお前はガンダムではない。分かるな? 天地がひっくり返ろうとお前はガンダムではないんだ。それを肝に銘じておけ」
「せっさんはちょっと黙ってて……」
そのプトレマイオスの中を歩いている者がいた。
ガンダムEXVSプレイヤーにてAO勢長兄のセシールと、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター刹那・F・セイエイだ。
二人は肩を並べながら歩き、プトレマイオスの内部を探索していた。
刹那からすればプトレマイオスは我が家のようなもの。
武器の有無や他の参加者の存在を確めながら、内部を進んでいく。
(配備されている筈の武器も全て回収されているか……)
だが、その結果はあまり芳しくない。
プトレマイオスには、敵対勢力に乗り込まれた時を想定して、各所に武器が配備されている。
大抵は敵に察知されないよう壁の内側などに隠されているのだが、今はその全てが無くなっていた。
おそらくは……先のガンダムに酷似した存在が回収したのだろう。
他の参加者については特段期待していなかった刹那ではるが、この事態には僅かに焦りを感じていた。
そもそもが、どのような手法を取ってプトレマイオスを奪取したのかが不明である。
四機のガンダムが配備され、その居場所もトップシークレットとされている戦艦なのだ。
見つけ出すことも、奪い取ることも、極めて困難な筈だ。
それは刹那を拉致した事にも言えた。
Sクラスの秘匿情報であるガンダムマイスターを、こうも容易く拉致軟禁し、
殺し合いに参加させる。
少なくともイノベイター並みの権力と、アロウズ以上の組織力がなくては叶わない所業だ。
「……セシール、ブリッジへ行くぞ」
焦燥感は無視できないものとなっていた。
鼓動が騒ぎたて、言いようのない切迫感が襲う。
刹那は険しい顔を浮かべながら、今だショックから回復しないセシールへと告げた。
「ああ、良いけど、他の部屋はどうすんだ?」
「後回しだ。何よりも優先して確認しなければならないことがある」
その抜き差しならない様子を感じたのか、セシールも刹那の言葉に従った。
早足で無機質な通路を進む刹那を、素直に追いかけていく。
ブリッジまではほんの数分程で辿り着いた。
自動扉が開き、大型モニターが幾数も設置された室内へと足を踏み入れる。
本来いるはずのクルーは誰もおらず、モニターも全て暗闇に染まっていた。
「何だ、フェルトちゃんはいないのか……」
何故だか大きく溜め息を吐くセシールを置いて、刹那は機械の一つを操作し始めた。
カタカタと流れるような動作でボタンを押していき、モニターを作動させる。
だが、作動したモニターも真っ黒な画面で停止し、それきりうんともすんとも動かない。
本来映し出されなくてはいけないものが、映らない。
くっと声を漏らし、他の危機を弄くる刹那であったが、モニターに変化はなかった。
何も映さず、ただ漆黒を映し出すだけであった。
「……セシール、お前はここで待機していろ。俺には行かなければいかない所ができた」
「は? い、行かなければって、何処いくつもりだよ」
「安心しろ、直ぐに戻ってくる。その間、お前はブリッジを探索していてくれ」
「お、おい!」
刹那は焦った様子でブリッジを飛び出した。
足音が離れて行き、遂には何も聞こえなくなる。
「……マジかよ……」
残されるはセシールただ一人。
静寂の場で、セシールは現在の殺し合いという状況を思い出す。
先程までは傍に刹那がいたから安心していたが、一人になると恐怖心が頭をもたげる。
もし、この瞬間にも誰かが潜んでいて襲ってきたら……そう考えると、怖くてたまらない。
「おおおお落ちけつ、素数を数えるんだ……ともかく誰か入ってきてもバレにくい所で……」
セシールは周囲を見渡しながら、できるだけ入口から見えずらいであろう場所へと移動する。
本来ならば操舵士である男が座る席に腰を下ろし、できるだけ縮こまって待機をする事に決めた。
まぁ、狭いブリッジなので何処に座ろうと侵入者がいれば、直ぐにバレてしまうのだが。
「ふう、ラッセの席あたたかいなりぃ……」
などとふざけた事を呟きながら、セシールは取りあえず刹那を待つことにした。
ブッリジの探索なんて怖くて出来やしない。ともかく刹那が帰ってくるまでは何もせず待っていることにした。
(それにしても、どうなってんだろうなあ……)
暗闇のモニターに映る自身の顔を見て、セシールは考える。
その顔はどっからどう見ても紛れもなく『ガンダム』であった。
白色の顔に二本角。黄色の二つのカメラアイは将に『ガンダム』。
自分の手を見てみても、そこにはやはり人間のそれとは掛け離れたものがある。
触った感触も、まるで金属のようだ。
とはいえ痛覚や熱感覚が消えた訳でもなく、ぶつければ軽く痛いし、熱さや寒さも感じる。
まさに訳が分からないの一言だ。
(何か普通にせっさんやふんすもいるしよお……ホントに訳分かんねえなあ)
これだけでも異常な状況なのに、更に現われるのは二次元の世界の方々だ。
刹那・F・セイエイにエクストリームガンダム。
思い返せば、最初の場にはもっと沢山の二次元世界の方々がいたように思う。
自分の身に何が降りかかったのか、誰でも良いから教えて欲しい。
夢ならば、覚めてくれ。
セシールは機械の身体で溜息を吐き、視線を落とした。
「ん……?」
と、そこで、目の前にあるものに気付く。
それはセシールにも良く見覚えのあるものであった。
何故これがここにあるのか? と思いつつもセシールは適当にボタンを押す。
本来ならば他にも必要な動作がある筈なのだが、それは何故か起動した。
「何でこれがここに……」
画面に映り出されるは、カラフルなカラーリングの機体の数々。
中央にデカデカと表示される一つの単語―――『機動戦士ガンダム EXTREME VS.』。
そう、それはセシールが愛好しているアーケードゲームが一つ。
『機動戦士ガンダム EXTREME VS.』。その筐体が、プトラマイオスの操舵管があるべき位置に埋め込まれていた。
◇
「くっ、開かない……」
セシールが『機動戦士ガンダム EXTREME VS.』を弄っているその時、刹那は目当ての場所へと辿り着いていた。
いや、厳密にはその手前といったところか。
刹那は格納庫の入口に両手を付き、俯きながら悔しげに表情を歪めていた。
刹那の目当てとは、プトレマイオスの格納庫。刹那にとって命と同等に大切ともいえる存在―――ガンダムが配備されている場所だ。
ガンダムの無事を確かめるべく格納庫を目指した刹那であったが、その扉は固く閉ざされていた。
ブッリジからの操作では開かず、ならばと直接扉に手を掛け無理矢理に開けようとした刹那であったが、それでも扉は動くことがない。
中にあるガンダムは無事なのか、もし敵の手中に落ちていたとしたら……焦燥が、募る。
「……すまない、ガンダム……」
力無く俯きながら、刹那は一度扉を叩いた。
音が無人の通路に反響する。
「俺が至らないばかりに……」
開かない扉を前に、刹那は膝から崩れ落ちる。
扉を見上げ、悔恨の表情で瞳を閉じた。
「………ガンダム………」
震えた声は、知らずの内に零れたものだ。
抑えることのできない感情が、胸中で騒ぎまわる。
「ッ、ガンダァァァァァァァァァァァァァム!!!」
慟哭が、虚しく響き渡った。
ガンダムマイスターの、ガンダムであろうとする者の、ガンダム(自称)の絶叫は、悲しみに満ちたものであった。
その声を聞くものは居らず、ただ無機質な世界に包み込まれるだけだ。
彼が復活したのは、慟哭から数分ばかりの時間が経過した後のこと。
壁に手をつきながら立ち上がり、よろめくように歩き始める。
その時だ。
壁を伝う手が、扉の横の端末に触れた。
ピ、という軽い電子音と共に、端末の画面が光灯った。
画面に映し出されるは、一つの文章。
『あなたはクレジットを有しています。1プレイ可能です、挑戦しますか?』
そして現われる、『はい』と『いいえ』の二つの選択肢。
刹那は、混乱しながらも促されるように『はい』を選択した。
次いで、再び画面が切り替わる。
『このさきには暴力的で鬼のような極殺兵器どもがあなたをまっています。
そ れ で も プレイしますか 』
【はい】 いいえ
『はい』を選択する刹那。
画面が、切り替わる。
全ての人類に絶望をあたえる、地獄の画面へと。
(……何だこれは)
画面が切り替わると同時に端末のキーボード部がスライドし、下部から別の操作盤がせりあがってくる。
スティックに三つのボタン。シンプルな操作盤であった。
画面に映るは一機の飛行機。
ステッィクを傾けると、その動きに連動して画面中の飛行機が動いた。
ボタンを押すと、飛行機が数多のミサイルを吐きだす。
もう一つのボタンを押せば、ミサイルが収束して極太の光線となる。
最後に残ったボタンは、何か爆発のようなものを発生させるようだ。
(これは……確かシューティングゲームとかいう……)
困惑しながらも、刹那は思い出す。
かつて日本に潜伏していた時に、街中で見かけたゲームセンター。
その中に何台か、このようなタイプのゲームがあったような気がする。
なぜ殺し合いの最中でゲームなのか、なぜ格納庫の扉端末にゲームが組み込まれているのか、疑問に感じながら刹那は操作を続ける。
そうして試運転を進めて一分ばかりが経過したその時、画面に大きな赤色の文字が浮かび、アラートが鳴り響いた。
『蜂だ! 蜂だ!』
端末から音声が流れ、直後画面の上端から『それ』が現われた。
巨大な、飛行型の敵機だ。
これを打ち倒せということなのだろうと思考しながら、刹那は画面に集中する。
ガンダムと再会できるのならば、ゲームだろうと何だろうとクリアするまでだ。
戦闘時と同等にまで引き上がった集中力で、刹那は画面を睨み、そして、
「なっ!?」
驚愕した。
敵機から撃ち出される圧倒的な数の弾幕と、狭い画面内を一瞬で縦断する脅威的な弾速。
画面が敵機の弾で埋め尽くされる。
刹那は殆ど反射的にスティックを操作していた。
その反応の速さは、流石のガンダムマイスターといったところか。
初見の初操作で、刹那は弾幕を回避し続ける。
弾丸の全てが、機体を際どく掠めながらも、決して直撃はしない。
そして一分後、画面の上部にある戦艦のライフゲージが0となり、敵機が爆散する。
(ク、クリアできたのか……? これでガンダムが……!)
が、そんな刹那の希望を打ち砕くように、再びアラーム音が鳴り響く。
画面の中では、先程のとはまた別の巨大敵機が現れていた。
四角い戦艦のような敵機。
自機に向けて間断なくばら撒かれる赤色の弾丸と、弾幕のように広範囲に撒かれる青色の弾丸。
逃げ場は殆ど存在せず、弾と弾の間をすり抜けていくしかない。
加えて弾丸は高速。避けきれるものではない。
思わずボムを使用して弾幕を打ち消すが、敵の耐久力が回復してしまう。
その事実に目を見開きながら、それでも刹那は集中力を切らさなかった。
粘り強い戦いの末に、二機目の敵機が爆散する。
何十分と戦い続けたかのような疲労を感じつつも、画面を見詰める。
やはり、敵機はまだいた。
三度目のアラーム音と男の叫び声。
次に出て来た敵機は、亀を思わせるシルエットであった。
「ああ……!」
そして、刹那は敗北した。
敵機のHPを三分の一程にしたところで現れた、無数のガンポッドに対応しきれなかったのだ。
ボムを使用したところで焼け石に水のような状況で、遂に一発の弾丸が自機を捉えた。
爆散する自機に、画面に現れる『GAME OVER』の文字。
呆然とした表情で、刹那はその文字を見詰める。
「ガンダム……ガン、ダァァァァァァァァァァァァァァァァム!!!」
こうしてガンダムは刹那の前から姿を消す。
絶望の咆哮は何時までも続いていた。
◇
「お、せっさん! 良いタイミングで帰ってきた!」
刹那が戻ってきた時、そこではセシールが画面の前で騒いでいた。
その人外であった身体は、何故だか更におかしなことになっていた。
青色の光に包まれ、輪郭がぼやけているのだ。
まるで実体などないかのような、光の靄が動いているかのような、そんな状態。
セシールは不可思議な身体で刹那を画面の前へと手招いた。
「これだ、これ! このフルクロスって奴か、クアンタって奴のところでボタンを押してくれ!」
画面の中では、ルーレットのようにカーソルが動いていた。
そこにあったのは十や二十ではきかない程の大量のキャラクター。
確かにセシールの言うとおり、そのキャラの中にはフルクロスという機体とクアンタという機体がある。
「……これは何だ……。何故、ダブルオーやエクシアが描かれている!!」
だが、刹那が注目したのは別のところであった。
多数のキャラクターの中には、刹那の愛機たるダブルオーやエクシアがあったのだ。
秘匿が守られている筈のガンダムが、見たこともないような形状のガンダムが、何故こんなにも並べられているのか、刹那には理解できない。
「セシール、お前は一体なんなのだ! 何故ガンダムを模した姿を取る! 何故当然のようにガンダムのデータを知っている! 答えろ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。俺だって分からないんだよ! ともかく頼む。フルクロスかクアンタだぞ、分かったな!」
セシールの声色に嘘を吐いている様子はない。
本当に困惑し戸惑っている様子だ。
セシールからすれば何もかもが分からない事だらけだ。
『ガンダム』となった身体。
ゲームをクリアしたかと思えば唐突にキャラ選択画面となり、身体が青色に光り出した。
そうして始まったルーレットのようなキャラ選択。
クリアの奨励として機体を変化させてくれるという事なのか。
理解の追い付かぬ状況であったが、何とか強機体を選択して貰えるように、刹那へと頼み込んだのだ。
セシールだって訳が分からないのだ。
刹那が何を聞いてこようと答えられる訳がなかった。
だが、だからといって刹那の不審も消える訳がない。
苛立った様子でセシールから視線を外し、画面を見詰める刹那。
そして、しっかりと集中してボタンを押した。
カソールはピタリと思い通りの所で停止した。
刹那の、思った通りの所で。
セシールの身体が変化する。
赤色の身体にモノアイの瞳。
丸みを帯びた流線型の形が、その身体の愛らしさを増加させる。
「お前、何してんのおおおおおおお!!」
その姿は―――アッガイであった。
VSシリーズにてマスコット的ポジションを不動のものとする、(愛くるしさ)最強の機体だ。
まぁ、その分機体性能はお察しだが。
「何で、アッガイイイイ!! てか、何そのドヤ顔おおおお!! その顔面、このクローでぶち抜いてやろうかああああ!?」
「お前にはお似合いの外見だ。姿だけとはいえ、お前がガンダムを模すのは侮辱だ」
刹那の虫の居所が悪いことも影響したのだろう。
セシールはアッガイの身体となり、バトルロワイアルに参加する事となった。
こうして(自称)ガンダムと、ガンダムになれなかったものとが並び立つ。
二人のバトルロワイアルは、まだ始まったばかりであった。
【一日目/黎明/A-1・プトレマイオス艦内】
【セシール@セシール&相方(EXVSプレイ動画)】
[状態]健康、アガーイ
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:死にたくないけど、殺し合いになんか乗れない
0:刹那あああああああああああああ!?
1:相方を探す
[備考]
※姿はアッガイとなりました。
【刹那・F・セイエイ@武力介入できないCB】
[状態]健康、ガンダム
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:俺が、ガンダムだ!
0:ざまぁwww
1:ガンダムとして行動する
2:格納庫の横にあったゲームをクリアして、ガンダムを取り戻す
3:セシールはガンダムではない!
[備考]
※プトレマイオス・ブリッジに『機動戦士ガンダム EXTREME VS.』があります。クリアすれば、『EXVSプレイ動画』からの参加者は自分の姿を変更できます。
※格納庫の扉の端末に『怒首領蜂大往生』があります。因みにモードと難易度はデスレーベル二週目。クリアできれば格納庫は開きます。
※クレジットについては現状では詳細不明です。
【動画紹介】
怒首領蜂大往生・デスレーベル@シューティングゲーム
全シューティングゲームの中で最も難しいとされるモード。「人間にはクリア不可能」と言われる程の難易度で、クリアされたのはPS2版の発売から7年5ヶ月経ってからであった。
最終更新:2012年05月15日 20:44