「なんやここ? 都に、こんなゴッツイもん無かったで」
「いちいち面倒くせぇ反応すんじゃねぇよ」
「……いいことすると気分が悪いな……」
「何か言うたか?」
「いや、別に」
◇
巴御前、香坂幹葦、チェ・ゲバラの三人は、酒を飲んでいる。
酒を探すため、学校中を探索した結果、「ここならあるんじゃね」と香坂が言い出したことが始まりだった。
職員室の机の中には生徒から没収したビールや、酒などが隠されていた。
少なくとも、酒は彼女に時代にあったが、ここまで強い酒ではない。
それを飲んだ彼女は、酔っ払い寝ている。
それを確認すると、香坂は、デイパックからデザートイーグルを取り出す。
香坂はチェ・ゲバラの完全に死角に入っている。
しかも、酒を飲んでおり、少し酔っ払っており、戦闘も有利に運べる。
二対一なら勝ち目は無いが、一対一ならまだ勝ち目はあると考えるのが普通だ。
察し、勝負をかけた香坂は、支給品のデザートイーグルを構えた。
銃口を向けられている感覚は、背後からでも、大体分かる。
射殺そうとする殺気の感覚は、背後からでも、大体分かる。
反撃は出来ない。
背後を取られた時点で、反撃する前に撃たれる。
しかし、彼は、能力持ち。
身体を武器に変えて反撃できる。
一撃で、更に致命部位を狙わなければならない。
引き金を引くことに躊躇っている。
生きている人を殺すことは、警官であっても無かった。
生きている人を殺すことは、狼人間だっても無かった。
生きている人を殺すことは、普通の人間なら無いはず。
二人は黙っていた。
だが、唐突に鳴った、バン!! という銃声に倒れたのは、
香坂の方だった。
突然鳴り響いた銃声に、眠っていた巴御前も目を覚ます。
的確に、喉もとの撃ち抜かれた香坂の姿に、彼女は目を丸くしている。
「起き上がるんじゃねぇぞ。面倒くせぇことになる」
咄嗟に両腕を重機関銃に変えた、チェ・ゲバラが注意を促したが、聞く耳を持たず香坂に駆け寄った。
見えない射手に、撃った場所さえ分からない。相手の武器も、人数も分からない。
そのような状況では適切な言葉ではあるが、同時に、一人を見捨てることとなる。
危険を顧みず、出会ったばかりの男の安否を確かめることは、香坂にとって信じられない。
職員室の窓側では、射手とチェ・ゲバラの銃撃戦がひたすら展開されている。
いや、どちらかと言えば、一方的な乱射というほうが言葉的には正しいのかもしれない。
『人間兵器』身体の一部を武器に変えることができる。弾薬も同様に。
そんな中、香坂の脈もゆっくりと下がり、出血も多くなっていく。
「……ここで死ねるか……俺は悪人に……なるんだ……!!」
「阿呆!! そないなこと考えとる場合か!! 息するんや!!」
「……ったく……最後まで………調子……狂わせられる……」
それから、彼は黙り込み、口を開けることも、目を開けることも無かった。
〝正義感〟の一言で片付けられる何の意味も持たない行動。
もう、助けることは出来ないのに、何度も何度も叫んでいる。
もう目は開かない。もう返事は返ってこない。
死んでいる。一人は死んでいる。もう一人の心も殺された。
ただ、彼女は座り込んでいる。
つい数時間前に出会っただけであるが、彼女にとっては命の恩人。
彼らには圧倒的に不利な状況。
敵が何人かも分からないのに、酒が入った男と一人は廃人の如く動かない女。そして死体が一つ。
チェ・ゲバラに迫られた選択肢は、この場から逃げるか、巴御前を囮にして逃げるかの二つ。
「面倒くせぇが後退するぞぉ……あぁ、だりィ」
チェ・ゲバラも、発砲しながら、叫んだが彼女の耳には届いていない。
彼も、何発かは掠り、傷が出来ている。的確に体力と血液を奪うかのように、血管のあるところを狙っていた。
大男である彼は、的になる部分が多く、怪我をしやすい。
さらに、酒に強いといっても、少しくらいは、泥酔による症状は現れる。
彼女は、何か呟いた。
何を呟いたかまでは、判断できない。
そして、ただ立ち上がった。
彼女は立ち上がる。
言動自体意味不明。
発狂したかのように立ち上がる。
何をするつもりなのかも、誰も窺い知れない。
銃弾は、鋭く甲高い音を立てて、薄い鎧に当たり飛び跳ねる。
銃は、
ザビエルが種子島に伝えるまで日本には存在しなかった。それから、数百年前の源平合戦の際には存在無しない。
彼女は一回撃たれている。チェ・ゲバラによって撃たれているため痛みの感覚の覚えはある。
一度その感覚を体が記憶すると、脳は痛みに恐怖して、体全体で阻止しようとする。
「いかねぇ方がいいぞ。ただの弔い合戦になるだけだ」
「だから、どうしたんや?」
「……あぁ。止めねぇよ。面倒くせぇな」
支給品の、刀は、戦で何度も使ったことのある武器の一つ。
弓矢であれば、固有能力である『最強の矢』が使用できたが、贅沢をいえる状況でないことは、言わなくても分かる。
「だりィと思うが、最後に一つ言いか?」
最後の質問をするために、口を開いたのは、怠惰ことチェ・ゲバラ。
だが、その質問は、最悪の展開を示唆していた。
「お前。精霊か?」
「ああ……そうや」
それは、彼の求めていた答えではない。
「面倒くせぇが、気が変わっちまった。だりィ事は早く済ませてぇ。生きて返すわけにはいかねぇみたいだな」
その言葉は、彼の意思を変えることになった。
怠惰―――チェ・ゲバラは、その名に似合わない速さで、片手を散弾銃に変える。
彼女も精霊であるが、彼もまた精霊。幻影の中で殺しあった敵同士。
蘇り、戦いに負ければ死ぬ。戦いが終えればまた消えるだけの存在。
怠惰と憤怒。二つの大罪は互いににらみ合う。
どの道、どちらかが死ななければ、どちらかは生き残れない。
生き残りたいのは、誰であろうと同じ。死にたい者など、極わずかな存在。
憤怒と怠惰は刃と銃口、互いに、武器を向ける。
目的はただ一つ、相手を一発で殺し、生き残って優勝するため。
しかし、どちらも好戦的性格ではない。どちらも平和主義でもない。
互いに能力持ち。チェ・ゲバラは、手の内を明かし、巴御前は能力を使用できない。
どちらかが動けば、どちらかは、死に、どちらかは、相手を殺す。
もしくは、狙撃してくる第三者により二人とも殺されるか。
だが、いきなり口を開いたのは、巴御前。
「……ここから、香坂が死んどるトコから東の方向。ゴツくて赤い建物や」
「何言っている?」
「誰かおんで……殺気で大体分かるもんやな」
「……どうして教える?」
「刀じゃ、飛び道具に勝てへん」
「信じていいのか?」
「一応は信頼してんねん……って言えばええんか?」
「面倒くせぇから断るって、言ったらどうするんだ?」
◇
中華系犯罪組織『蛇龍会』
スラムを統治し、借金の回収や地上げなどをしていた。
そして、裏では、麻薬の取引や殺し屋家業、スラムの子供の人身売買など何でもするような組織。
韓国では、社会問題になるほどの組織で、勢力も規模も最大。
十七歳の時、そこで古参幹部と出会い、下っ端として働いた。
ただ、スラムにいて餓え死ぬ様な死に方はしたくなかっただけで、入りたかったわけではない。
そこの奴らは異様だった。ヤクで頭が狂い、平気で仲間を裏切り、母親であろうと殺している。
スラムにいるよりはマシ。
十代のうちは、麻薬密売や抗争の後始末などで暗躍した。
二十のとき、兵役に就き、兵役終了後は、また、組織へ戻った。
裏切った仲間を粛正ですることで暗躍し、二十五歳で、古参幹部の右腕的存在になる。
二十六歳の誕生日に、粛正の経験を生かして、古参幹部を自殺に見せかけ殺して、幹部の一人となった。
若手実力派として注目され、平和ボケした日本のヤクザと手を組み、拠点を置くために暗躍する。
――――完璧な人生のはず。
人を殺せば殺すほど、心が空っぽになっていく。
犯罪に手を染めれば染めるほど、心が虚しくて、痛む。
俺は、心が何を求めているか知らない。
いや、分からない。
――――祖先を虐殺し、殺戮してきた日本人を殺す。
それが俺が行き着いた結果。
学校の職員室には、三人いる。大男は、日本人ではないが、警官の男とロン毛の女は、明らかに日本人だ。
酔いつぶれている女性は、殺すことが容易いが、もう一人の警官姿の男が厄介。
明らかに何かを企んでおり、もしかすれば、俺の存在に気づいているかもしれない。
撃ち合うか? もう少し様子を見るか?
だが、決断は迫られることとなる。
警官姿の男が、大男に拳銃を突きつけていたからだ。
仲間だったのに、裏切った男の行動に、怒りが徐々にこみ上げてくる。
裏切り者の粛正。それが、組織で俺が勤めていた仕事。
決断しないと、大男は暢気に酒を飲みながら、死ぬ。
俺が、選んだ道は――――――――――――撃ち合うこと。
引き金を引くと同時に、スコープには、喉仏が吹き飛んで倒れた男が映りこむ。
どの道助かりはしない。俺も、悪魔じゃないダイイングメッセージくらい残せる暇は与える。
その姿を見て、ロン毛の鎧女は、都合よく、呆気にとられていた。
スドドドドと、地響きが響き渡り、マシンガンの銃弾は無差別に狙いを定め、周囲を破壊していく。
大男も、ロン毛の女も武器など、持っていなかったはず。
咄嗟に、狙撃を中止し屈み込む事で、位置を把握されることは無かったが、乱射している手前、迂闊に動けない。
うっかり被弾するば、生還する確立は無くなってしまう。
狙撃して、マシンガンの射手を黙らせないと、撤退する途中に、被弾して死ぬかもしれない。
俺には、無差別に銃撃を受ける今、考える暇など、無い。
だが、銃撃は突如として、ピタリと止んだ。
何かを察したのか、射手がどちらかに片付けられたのか。
顔を上げて確認する。無論、位置を把握されることも、銃撃されることも無かった。
ロン毛の女と大男が、何か口論となっている。
ロン毛の女が、大男に刀を向けたことにも驚いたが、大男の両腕が重機関銃の銃口の様になっていた事にも驚いた。
義手の一種か、そんな類だろうが、かなりの重量であるはずなのに、軽々と振り回していたということになる。
チャンスだ。
どの道、あの化け物と戦う羽目になるのだから、殺されればいい。
殺した瞬間、ロン毛の女を射殺する。もしも。女が殺されれば、逆でもいい。
好都合。神に味方されるとは思いもしなかった。
ロン毛の女が倒れた。引き金を引いていないが、銃声が鳴ったということは、大男が撃った。
大男も、残った力で切られて、倒れている。
相打ちとなった。
好都合。神に味方されるとは思いもしなかった。
パン!! と、いきなり鳴り響き、力が抜けるかのように、狙撃銃が握れなくなった。
狙撃された、と気づいた時には遅く、二発目の銃弾により銃身を持ち上げていた左手の甲から、血が噴射する。
◇
「面倒くせぇから断るって、言ったらどうするんだ?」
「諦めるしかあらへん」
「絶対ぇ峰打ちにしろよ。痛ぇのは嫌だからな」
「ああ……アンタも、確実に頼むで」
◇
ニ発目の銃声から、数十分経ったが、恐らく反撃が無いところからすると、相手も様子を見ている。
手の甲に出来た銃創は、袖を破った布と水で、とりあえず応急処置は出来た。
出血量は、それほど多くも無く、すぐに死ぬことは無いだろう。
痛みも、悲鳴を上げるほどではないが、しかし、感覚は失っている。
早くしないと、生還してからの、生活に響く。これは、少しばかりヤバイかもしれない。
どこからか撃たれた。つまり相手も射程圏内にいるはず。
銃声の聞こえた位置は、1階の職員室の方向。
もう一人の参加者が存在したか、警官姿の男を見事に殺し損ね、反撃されたかのどちらか。
今度は日本人も、それ以外も関係ない。油断はしない、誰であろうと、一発で仕留める。
「なんや、隠れてもアカンで。バレてるって」
背後からだった。
日本語は、何を言っているかは分かるが、喋ることが出来ない。無論、訛りは守備範囲ではない。
日本語で、訛りのある言葉。声からすると女で、首元に突きつけられているのは、刀の刃。
そして、職員室にあるはずの二つの死体は――――無かった。
気配は、二つ。刀を向けている女と、もう一人のデカイ奴。
つまり、職員室にいた二人。
彼らは俺に復習する権利がある。同時に、俺を殺す動機もある。
首を刎ねるか、それとも、義手のマシンガンで撃たれるか。
どの道、相手のところまで出向いて、易々と逃がしてくれるわけが無い。
「( 命乞いはしない……早く殺せ )」
言わなくても殺すだろう。逃がしはしない。
死ぬのは、怖い。俺はそれを隠すために、反射的に格好をつけるかのように言っただけだ。
どの道、死ぬ。この
殺し合いでも、現実でもどの道は死ぬ。
だが、何故か、遠ざかっていく刃。刀は不思議と、首元から離される。
何を考えている?
殺さないつもりか。それとも、大男が俺を射殺するつもりなのか。
もしかすれば、反撃されるかもしれないのに。俺は、コイツらの仲間を殺したのに。
「……殺し合いなんてだりィ事したくねぇんだ。だから、反撃しないでくれ」
ただ、その言葉に呆然と立ち尽くしていた。言っている意味の真意すら分からない。
本当に殺し合いをするつもりが無いか。俺を騙して殺すつもりか。
後者なら、何の意味も持たない。一体、何のために、という疑問のみが残る。
つまり、前者ということとなるが、コイツらが、そんなお人好しには見えない。
自分が死ぬかもしれないのに、他人を助けるような、お人好しには見えない。
少なくとも、俺の人生の中では、そんなお人好しに出会ったことは無い。
スラムでも、軍役中でも、無論、マフィアにいた時も。
本当に、馬鹿馬鹿しい。本当に。
香坂幹葦 死亡】
【第一回放送まで 残り8人】
【一日目/深夜/A-2・学校】
【チェ・ゲバラ(怠惰)@精霊】
[状態]健康 体中にかすり傷 疲労(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3
[思考]
基本:面倒臭いことはしない
1:殺し合いには参加しない
2:酒をもっと飲む
【巴御前(憤怒)@精霊】
[状態]健康 疲労(大) 銃創(治療済み)
[装備]刀
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~4 『大塚英哉語録集』
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:とりあえず、この男(ソ・ワルピン)と行動する
【ソ・ワルピン@伏線キャラ】
[状態]健康 疲労(大) 腕・左手の甲に銃創(応急処置)
[装備]モンドラゴンM1908(12/30)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~1 ドラム弾倉×1
[思考]
基本:………
1:何を考えている?
ソ・ワルピン
ジェイミーの雇い主で中華系犯罪組織である「蛇龍会」の若手実力派。
差別主義者であるが、冷徹になりきれていない。出身は韓国のとある貧民街。
前ロワに少しだけ出ているが、たいして活躍はしてない。
最終更新:2012年04月04日 10:56