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三人目の死者

「なんやここ? 都に、こんなゴッツイもん無かったで」
「いちいち面倒くせぇ反応すんじゃねぇよ」
「……いいことすると気分が悪いな……」
「何か言うたか?」
「いや、別に」


◇


 巴御前、香坂幹葦、チェ・ゲバラの三人は、酒を飲んでいる。
 酒を探すため、学校中を探索した結果、「ここならあるんじゃね」と香坂が言い出したことが始まりだった。
 職員室の机の中には生徒から没収したビールや、酒などが隠されていた。
 少なくとも、酒は彼女に時代にあったが、ここまで強い酒ではない。
 それを飲んだ彼女は、酔っ払い寝ている。

 それを確認すると、香坂は、デイパックからデザートイーグルを取り出す。
 香坂はチェ・ゲバラの完全に死角に入っている。
 しかも、酒を飲んでおり、少し酔っ払っており、戦闘も有利に運べる。
 二対一なら勝ち目は無いが、一対一ならまだ勝ち目はあると考えるのが普通だ。
 察し、勝負をかけた香坂は、支給品のデザートイーグルを構えた。

 銃口を向けられている感覚は、背後からでも、大体分かる。
 射殺そうとする殺気の感覚は、背後からでも、大体分かる。

 反撃は出来ない。
 背後を取られた時点で、反撃する前に撃たれる。
 しかし、彼は、能力持ち。
 身体を武器に変えて反撃できる。
 一撃で、更に致命部位を狙わなければならない。

 引き金を引くことに躊躇っている。
 生きている人を殺すことは、警官であっても無かった。
 生きている人を殺すことは、狼人間だっても無かった。
 生きている人を殺すことは、普通の人間なら無いはず。



 二人は黙っていた。







 だが、唐突に鳴った、バン!! という銃声に倒れたのは、





 香坂の方だった。


 突然鳴り響いた銃声に、眠っていた巴御前も目を覚ます。
 的確に、喉もとの撃ち抜かれた香坂の姿に、彼女は目を丸くしている。

「起き上がるんじゃねぇぞ。面倒くせぇことになる」

 咄嗟に両腕を重機関銃に変えた、チェ・ゲバラが注意を促したが、聞く耳を持たず香坂に駆け寄った。
 見えない射手に、撃った場所さえ分からない。相手の武器も、人数も分からない。
 そのような状況では適切な言葉ではあるが、同時に、一人を見捨てることとなる。
 危険を顧みず、出会ったばかりの男の安否を確かめることは、香坂にとって信じられない。
 職員室の窓側では、射手とチェ・ゲバラの銃撃戦がひたすら展開されている。
 いや、どちらかと言えば、一方的な乱射というほうが言葉的には正しいのかもしれない。
 『人間兵器』身体の一部を武器に変えることができる。弾薬も同様に。
 そんな中、香坂の脈もゆっくりと下がり、出血も多くなっていく。

「……ここで死ねるか……俺は悪人に……なるんだ……!!」
「阿呆!! そないなこと考えとる場合か!! 息するんや!!」





「……ったく……最後まで………調子……狂わせられる……」



 それから、彼は黙り込み、口を開けることも、目を開けることも無かった。


 〝正義感〟の一言で片付けられる何の意味も持たない行動。
 もう、助けることは出来ないのに、何度も何度も叫んでいる。
 もう目は開かない。もう返事は返ってこない。
 死んでいる。一人は死んでいる。もう一人の心も殺された。
 ただ、彼女は座り込んでいる。
 つい数時間前に出会っただけであるが、彼女にとっては命の恩人。

 彼らには圧倒的に不利な状況。
 敵が何人かも分からないのに、酒が入った男と一人は廃人の如く動かない女。そして死体が一つ。
 チェ・ゲバラに迫られた選択肢は、この場から逃げるか、巴御前を囮にして逃げるかの二つ。

「面倒くせぇが後退するぞぉ……あぁ、だりィ」

 チェ・ゲバラも、発砲しながら、叫んだが彼女の耳には届いていない。
 彼も、何発かは掠り、傷が出来ている。的確に体力と血液を奪うかのように、血管のあるところを狙っていた。
 大男である彼は、的になる部分が多く、怪我をしやすい。
 さらに、酒に強いといっても、少しくらいは、泥酔による症状は現れる。

 彼女は、何か呟いた。
 何を呟いたかまでは、判断できない。
 そして、ただ立ち上がった。
 彼女は立ち上がる。
 言動自体意味不明。
 発狂したかのように立ち上がる。
 何をするつもりなのかも、誰も窺い知れない。

 銃弾は、鋭く甲高い音を立てて、薄い鎧に当たり飛び跳ねる。
 銃は、ザビエルが種子島に伝えるまで日本には存在しなかった。それから、数百年前の源平合戦の際には存在無しない。
 彼女は一回撃たれている。チェ・ゲバラによって撃たれているため痛みの感覚の覚えはある。
 一度その感覚を体が記憶すると、脳は痛みに恐怖して、体全体で阻止しようとする。

「いかねぇ方がいいぞ。ただの弔い合戦になるだけだ」
「だから、どうしたんや?」
「……あぁ。止めねぇよ。面倒くせぇな」

 支給品の、刀は、戦で何度も使ったことのある武器の一つ。
 弓矢であれば、固有能力である『最強の矢』が使用できたが、贅沢をいえる状況でないことは、言わなくても分かる。

「だりィと思うが、最後に一つ言いか?」

 最後の質問をするために、口を開いたのは、怠惰ことチェ・ゲバラ。
 だが、その質問は、最悪の展開を示唆していた。



「お前。精霊か?」
「ああ……そうや」




 それは、彼の求めていた答えではない。




「面倒くせぇが、気が変わっちまった。だりィ事は早く済ませてぇ。生きて返すわけにはいかねぇみたいだな」


 その言葉は、彼の意思を変えることになった。
 怠惰―――チェ・ゲバラは、その名に似合わない速さで、片手を散弾銃に変える。
 彼女も精霊であるが、彼もまた精霊。幻影の中で殺しあった敵同士。
 蘇り、戦いに負ければ死ぬ。戦いが終えればまた消えるだけの存在。
 怠惰と憤怒。二つの大罪は互いににらみ合う。
 どの道、どちらかが死ななければ、どちらかは生き残れない。
 生き残りたいのは、誰であろうと同じ。死にたい者など、極わずかな存在。

 憤怒と怠惰は刃と銃口、互いに、武器を向ける。
 目的はただ一つ、相手を一発で殺し、生き残って優勝するため。
 しかし、どちらも好戦的性格ではない。どちらも平和主義でもない。
 互いに能力持ち。チェ・ゲバラは、手の内を明かし、巴御前は能力を使用できない。
 どちらかが動けば、どちらかは、死に、どちらかは、相手を殺す。
 もしくは、狙撃してくる第三者により二人とも殺されるか。




 だが、いきなり口を開いたのは、巴御前。


「……ここから、香坂が死んどるトコから東の方向。ゴツくて赤い建物や」
「何言っている?」
「誰かおんで……殺気で大体分かるもんやな」
「……どうして教える?」
「刀じゃ、飛び道具に勝てへん」
「信じていいのか?」
「一応は信頼してんねん……って言えばええんか?」
「面倒くせぇから断るって、言ったらどうするんだ?」




◇


 中華系犯罪組織『蛇龍会』
 スラムを統治し、借金の回収や地上げなどをしていた。
 そして、裏では、麻薬の取引や殺し屋家業、スラムの子供の人身売買など何でもするような組織。
 韓国では、社会問題になるほどの組織で、勢力も規模も最大。
 十七歳の時、そこで古参幹部と出会い、下っ端として働いた。
 ただ、スラムにいて餓え死ぬ様な死に方はしたくなかっただけで、入りたかったわけではない。
 そこの奴らは異様だった。ヤクで頭が狂い、平気で仲間を裏切り、母親であろうと殺している。
 スラムにいるよりはマシ。
 十代のうちは、麻薬密売や抗争の後始末などで暗躍した。
 二十のとき、兵役に就き、兵役終了後は、また、組織へ戻った。
 裏切った仲間を粛正ですることで暗躍し、二十五歳で、古参幹部の右腕的存在になる。
 二十六歳の誕生日に、粛正の経験を生かして、古参幹部を自殺に見せかけ殺して、幹部の一人となった。
 若手実力派として注目され、平和ボケした日本のヤクザと手を組み、拠点を置くために暗躍する。

 ――――完璧な人生のはず。

 人を殺せば殺すほど、心が空っぽになっていく。
 犯罪に手を染めれば染めるほど、心が虚しくて、痛む。
 俺は、心が何を求めているか知らない。
 いや、分からない。

 ――――祖先を虐殺し、殺戮してきた日本人を殺す。

 それが俺が行き着いた結果。
 学校の職員室には、三人いる。大男は、日本人ではないが、警官の男とロン毛の女は、明らかに日本人だ。
 酔いつぶれている女性は、殺すことが容易いが、もう一人の警官姿の男が厄介。
 明らかに何かを企んでおり、もしかすれば、俺の存在に気づいているかもしれない。

 撃ち合うか? もう少し様子を見るか?


 だが、決断は迫られることとなる。
 警官姿の男が、大男に拳銃を突きつけていたからだ。
 仲間だったのに、裏切った男の行動に、怒りが徐々にこみ上げてくる。
 裏切り者の粛正。それが、組織で俺が勤めていた仕事。
 決断しないと、大男は暢気に酒を飲みながら、死ぬ。


 俺が、選んだ道は――――――――――――撃ち合うこと。


 引き金を引くと同時に、スコープには、喉仏が吹き飛んで倒れた男が映りこむ。
 どの道助かりはしない。俺も、悪魔じゃないダイイングメッセージくらい残せる暇は与える。
 その姿を見て、ロン毛の鎧女は、都合よく、呆気にとられていた。



 スドドドドと、地響きが響き渡り、マシンガンの銃弾は無差別に狙いを定め、周囲を破壊していく。
 大男も、ロン毛の女も武器など、持っていなかったはず。
 咄嗟に、狙撃を中止し屈み込む事で、位置を把握されることは無かったが、乱射している手前、迂闊に動けない。
 うっかり被弾するば、生還する確立は無くなってしまう。
 狙撃して、マシンガンの射手を黙らせないと、撤退する途中に、被弾して死ぬかもしれない。
 俺には、無差別に銃撃を受ける今、考える暇など、無い。

 だが、銃撃は突如として、ピタリと止んだ。
 何かを察したのか、射手がどちらかに片付けられたのか。
 顔を上げて確認する。無論、位置を把握されることも、銃撃されることも無かった。

 ロン毛の女と大男が、何か口論となっている。
 ロン毛の女が、大男に刀を向けたことにも驚いたが、大男の両腕が重機関銃の銃口の様になっていた事にも驚いた。
 義手の一種か、そんな類だろうが、かなりの重量であるはずなのに、軽々と振り回していたということになる。

 チャンスだ。

 どの道、あの化け物と戦う羽目になるのだから、殺されればいい。
 殺した瞬間、ロン毛の女を射殺する。もしも。女が殺されれば、逆でもいい。
 好都合。神に味方されるとは思いもしなかった。

 ロン毛の女が倒れた。引き金を引いていないが、銃声が鳴ったということは、大男が撃った。
 大男も、残った力で切られて、倒れている。
 相打ちとなった。
 好都合。神に味方されるとは思いもしなかった。








 パン!! と、いきなり鳴り響き、力が抜けるかのように、狙撃銃が握れなくなった。
 狙撃された、と気づいた時には遅く、二発目の銃弾により銃身を持ち上げていた左手の甲から、血が噴射する。



◇


「面倒くせぇから断るって、言ったらどうするんだ?」
「諦めるしかあらへん」
「絶対ぇ峰打ちにしろよ。痛ぇのは嫌だからな」
「ああ……アンタも、確実に頼むで」


◇


 ニ発目の銃声から、数十分経ったが、恐らく反撃が無いところからすると、相手も様子を見ている。
 手の甲に出来た銃創は、袖を破った布と水で、とりあえず応急処置は出来た。
 出血量は、それほど多くも無く、すぐに死ぬことは無いだろう。
 痛みも、悲鳴を上げるほどではないが、しかし、感覚は失っている。
 早くしないと、生還してからの、生活に響く。これは、少しばかりヤバイかもしれない。
 どこからか撃たれた。つまり相手も射程圏内にいるはず。
 銃声の聞こえた位置は、1階の職員室の方向。
 もう一人の参加者が存在したか、警官姿の男を見事に殺し損ね、反撃されたかのどちらか。
 今度は日本人も、それ以外も関係ない。油断はしない、誰であろうと、一発で仕留める。

「なんや、隠れてもアカンで。バレてるって」

 背後からだった。
 日本語は、何を言っているかは分かるが、喋ることが出来ない。無論、訛りは守備範囲ではない。
 日本語で、訛りのある言葉。声からすると女で、首元に突きつけられているのは、刀の刃。
 そして、職員室にあるはずの二つの死体は――――無かった。
 気配は、二つ。刀を向けている女と、もう一人のデカイ奴。

 つまり、職員室にいた二人。
 彼らは俺に復習する権利がある。同時に、俺を殺す動機もある。
 首を刎ねるか、それとも、義手のマシンガンで撃たれるか。
 どの道、相手のところまで出向いて、易々と逃がしてくれるわけが無い。

「( 命乞いはしない……早く殺せ )」

 言わなくても殺すだろう。逃がしはしない。
 死ぬのは、怖い。俺はそれを隠すために、反射的に格好をつけるかのように言っただけだ。
 どの道、死ぬ。この殺し合いでも、現実でもどの道は死ぬ。

 だが、何故か、遠ざかっていく刃。刀は不思議と、首元から離される。

 何を考えている?
 殺さないつもりか。それとも、大男が俺を射殺するつもりなのか。
 もしかすれば、反撃されるかもしれないのに。俺は、コイツらの仲間を殺したのに。

「……殺し合いなんてだりィ事したくねぇんだ。だから、反撃しないでくれ」

 ただ、その言葉に呆然と立ち尽くしていた。言っている意味の真意すら分からない。

 本当に殺し合いをするつもりが無いか。俺を騙して殺すつもりか。
 後者なら、何の意味も持たない。一体、何のために、という疑問のみが残る。
 つまり、前者ということとなるが、コイツらが、そんなお人好しには見えない。
 自分が死ぬかもしれないのに、他人を助けるような、お人好しには見えない。

 少なくとも、俺の人生の中では、そんなお人好しに出会ったことは無い。
 スラムでも、軍役中でも、無論、マフィアにいた時も。
 本当に、馬鹿馬鹿しい。本当に。


香坂幹葦 死亡】
【第一回放送まで 残り8人】



【一日目/深夜/A-2・学校】

【チェ・ゲバラ(怠惰)@精霊】
[状態]健康 体中にかすり傷 疲労(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3
[思考]
基本:面倒臭いことはしない
1:殺し合いには参加しない
2:酒をもっと飲む


【巴御前(憤怒)@精霊】
[状態]健康 疲労(大) 銃創(治療済み)
[装備]刀
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~4 『大塚英哉語録集』
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:とりあえず、この男(ソ・ワルピン)と行動する

【ソ・ワルピン@伏線キャラ】
[状態]健康 疲労(大) 腕・左手の甲に銃創(応急処置)
[装備]モンドラゴンM1908(12/30)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~1 ドラム弾倉×1
[思考]
基本:………
1:何を考えている?


 ソ・ワルピン
ジェイミーの雇い主で中華系犯罪組織である「蛇龍会」の若手実力派。
差別主義者であるが、冷徹になりきれていない。出身は韓国のとある貧民街。
前ロワに少しだけ出ているが、たいして活躍はしてない。

09:短い話(ズガンもあるよ 目次順 Next:これはロリコンですか? いえ、立派な公務です
GAME START ソ・ワルピン :[[]]
怠慢な革命家 チェ・ゲバラ(怠惰) :[[]]
怠慢な革命家 巴御前(憤怒) :[[]]
怠慢な革命家 香坂幹葦 :GEMAOVER

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最終更新:2012年04月04日 10:56
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