なんて、ふざけた話だろう。
僕は今、やりようのないこの怒りを何処にぶちまけていいのか分からずに一人苛ついている。
よりによって僕を騙すとはいい度胸じゃないか、白宮雨雲。
僕が一番嫌いな『人殺し』を強要させた時点でお前は万死に値するよ。
僕は本来殺し合う為に与えられた武器、ナイフを右手に握ってそう決意した。
僕の名前は葵崎蜜柑。
『僕』なんて一人称を使っているから電話なんかじゃよく間違われるんだけど、れっきとした女の子だ。
職業は詐欺師だ。
――――おいおい、君達は今、きっと勘違いしているぞ。僕は確かに詐欺師だが、弱者にたかって金銭を巻き上げるような低俗な小悪党ってわけじゃない。
むしろその逆だ。小悪党を相手に金銭を巻き上げる、いわば正義の詐欺師とでも言ってみようか。
まぁやっていることは詐欺に変わりはないし、警察に通報でもされれば一発でブタ箱行きなんだけどね。
とにかく僕が下らない悪党連中とは一線を画す存在だってことは、何となく分かってもらえたと思う。
その僕が、こんな『悪』の
殺し合いに賛成する訳はないだろ。
まったく僕としたことが、つい騙されてしまった。
タイムマシンを使用する権利なんてものがあれば、僕のたった一つの『過ち』を修正することができる―――たったそれだけ出来れば良かった。それなのに、これは詐欺だった。
白宮雨雲の道楽の為に仕組まれた殺し合い。
タイムマシンが実在することは間違いないとして、でも連中は最初からタイムマシンを使わせる気なんてさらさら無い、ってところだと僕は思う。
そりゃそうだよ、あちらさんからすれば機密事項を漏洩してしまうことになるんだ。
リスクこそあれどメリットは何一つない―――優勝者だって、その後どんな目に遭わされるのやら。
騙されてしまったことは不覚だったけれど、僕はミスを重ねるという失態を見せるのが何より嫌いだ。
ここからは僕のターンだよ、白宮雨雲。
葵崎蜜柑を敵に回したってことがどういうことかくらい、君だって分かっているだろう?
君は"僕の持つ力を知っている"―――その上で、僕をわざわざ探し出して招待したんだから。
だったら覚悟した方がいいぞ。生憎と、僕はもうとっくの昔にブチ切れてるんだ。
どれだけの金額を積もうが、どれだけの誠意を見せようが、僕は君を許さない。
その『命』を『騙し取る』までは、何があっても君には屈しないし、君が屈することも許さない。
君は、僕が殺す。
君が何を考えているのか、その深い瞳の深奥に何を隠しているのかは知らないけど、君の作戦も計画も、何から何まで一つ残さずメチャクチャにしてやるから、待っているんだね。
「で、えーと………樋之上壊と松下健吾、この二人は危険と見ていいね。あれだけ世間を騒がせてるサーカス殺人コンビとこんなところでお目にかかれるなんてね」
名簿の名前2つに、赤いマーカーで線を引く。これは『危険』の証だ。
次に、自分が知っている人物の名前を探す。
しかしそれは見つけられず、結局危険な人間以外には皮肉にも知る者がいないのようであった。
これは幸運と見るべきか、不運と見るべきか。
知り合いが死ぬのは嫌だし、そう考えれば幸運だと言える。だけど、逆に言えば自分を知っている人物がいないということにもなる―――打ち解けることが難しくなりそうだ。
ま、そこは詐欺師の腕の見せ所だね。
口先の使えない詐欺師なんて、飛べない鳥と何ら変わらないじゃないか。
「………んー? おっかしいなぁ……白宮つぐみ。この娘って……殺されたんじゃなかったっけ」
『白宮』なんてそうそうある苗字ではないのだ、恐らくは雨雲の縁者と見るのが妥当か。
信用するかしないかは会ってみなきゃ分からないけど、注意しておくに越したことはないね。
血は争えないって言うしさ。
一応白宮つぐみの名前にも赤丸をつけて、今度こそ名簿の確認を完了する。
残念ながら
行動方針の役に立つ情報は得られなかった。まあ、絶対に近付きたくない相手を決められただけでも順調としておこうかね。なんか空しいし。
んで、樋之上壊と松下健吾に遭遇したなら、問答無用、死力を尽くしてブチ殺す。
こちらは個人的な苛立ちもあるんだ。
『殺人鬼』なんてかっ飛んだ連中と同じ空間を共有していると思うだけで吐瀉物をぶちまけたいくらいだぜ。
二人で一つのペアならば、一人ずつ殺せるこの機会を逃す手はない。
是非とも優先して殺しておきたい。いや、必ず殺す。
「うん、だけど―――ちぃっと、不自然だよね。バレバレだよん、少年」
脈絡もない独り言を切り出してみた。
しかし、誰にも向けていない筈の独り言に―――反応があった。
すぐ後ろの物陰から、『がさっ』という、明らかに動揺した物音がした。
殺すのは僕の流儀に沿わないし、かといってこいつを放置しておくのも何だかな。
(んじゃ、お一つ説教タイムといきますか)
悪ガキにもひねくれ者にも悪人にも、いつの時代だって対処の仕方なんて決まりきっている。
善意を振りかざす人間が、理不尽な理屈を並べ立ててやるしかないのさ。
「あのね、君名前は?」
「………神無月恭一」
「そ。神無月君ね―――単刀直入に聞く。君の変えたい過去は何だ」
話しているだけで込み上げる不快感が実に心地悪い。
今すぐにでも適当に話を切り上げてしまうか、この場でこの『鏡』を叩き割ってやりたい衝動に駆られる。
過去を清算するために人を殺す、なんてのは最低の手段だ。
「………父親だよ」
「ふぅむ?」
「母親の再婚相手。あいつさえ居なければ――」
「ふざけんなっての」
神無月君の台詞を途中で遮った。
うーん、これは相当な重症のようだぞ。
そ もそも説教されていると言うことにさえ自覚を持てていないとは、やれやれだ。
「いいかい神無月君。本来過去っていうものは取り返しのつかないものだ」
「そうだな」
「君がそれを書き換えて、取り替えそうという気持ちは人間として何も間違っちゃいないよ」
「だったら」
「――――っ、だからってな! 他人に迷惑かけてんじゃねえっつってんだよっ!! 」
びくっ、と神無月君が大袈裟によろめく。
ああああああ、苛々する。
こいつ、何なんだ。
まるで『僕』の中身を全部見透かしているかのような、その上であえて感に障ってくるような人間。
詐欺師たる僕が――――あれ?僕っていう人間は、本当にこういう人物だったかな。
いや―――違うだろ。
僕はそういう、正義に生きるような人間じゃなかった。
人殺しの否定。そんな偽善を振るうような『つまらねえ』人間じゃなかったんじゃないか。
じゃあ僕はどうしてそんなことを考えた?
どうして僕はこんな真似をしている?
その時、僕の―――『自分』の脳内に、何かが砕ける音が響いた。
何かが劇的に紐解かれていく中、視界は不敵に笑って銀の刃を構える神無月君を、捉えていた。
「それが本性か」
どすっ。
◇ ◇
僕は知っていた。
彼女、『詐欺師』葵崎蜜柑(あれだけ大声で独り言言ってたら誰だって名前くらい分かる)が、殺し合いのゲームに乗った殺人者であるということに、幸運にも一早く気付くことが出来たのだ。
気付くことが出来た、と言えば大層なものだが、実際には偶然その現場を目撃しただけの話である。
争奪戦開始直後―――ぶつぶつと、自分に『暗示』をかけている葵崎の姿を、ね。
彼女の持つ技術は『詐欺』を極めた極地、自他を問わず人間に『暗示』をかけるものである、とまず僕は仮説を立てた。
誰がどう見たって怪しい、にたにたと笑いながら何かを呟いていた人物が数秒後にはまるで人が変わったかのような、不自然とさえ言える善性を発揮し始めた事実を、偶然だとか個性だとか、そんなもので片付けていいとは思えない。
自己暗示で人格を改革する――そんな馬鹿馬鹿しい理論を成り立ててしまう人間を、放置してはおけない。
彼女は自分に暗示をかけ、人格そのものを『騙した』。
あたかも自らが悪と正義の狭間に生きるダークヒーローであるかのように振る舞いつつも、しかし争奪戦に必ず反逆する。そういう風に、騙してやったのだろう。
誰にもその振る舞いが嘘だと気付ける筈はない。
本人すらも自覚のない嘘を見抜くことはそれこそ、目撃者の人間くらいにしか叶わない。
一番強力な嘘ってのは、自分への嘘だ。
自分を作り替え、本来ではありえないような結果を生み出す事態さえ引き起こす。
葵崎蜜柑の嘘のトリックははっきり言ってよく分からないし、彼女なりに『暗示を解く』手段を用意しているのか、それとも一生自分を騙し続けるつもりなのかもまた、分からない。
ただ一つ、ここで僕がこの詐欺師の嘘を暴けたこと―――それは、何よりの幸運だった。
これから僕が『あいつら』を殺すまでに、不安因子は一つでも多く取り除いておきたかったのだから。
目の前の女の胸に、僕は一切の躊躇なく、裁縫用の大鋏を突き立てた。
こんなに簡単に暗示を破れるとは思っていなかったけど、深くは考えないことにしよう。
「あれ」
その時だ。僕は目の前の光景に、僕の身体に伝わっている感覚に、違和感を覚えた。
電流が走るように脳髄が、違和感の正体を即座に導き出さんと演算する。
歯車が噛み合わない。当たり前の現実が当たり前でなくなっている。
この女―――葵崎蜜柑の身体に、鋏は一寸たりとも侵入できていなかった。
「な………っ!?」
「ざぁんねんでした。お姉さんを殺すんなら、もっと優しくしなきゃ駄目だぞっ☆」
僕はそんなに力のある方じゃないし、どちらかと言えばひ弱な方だと自覚している。
『あの娘』を守るだけの力さえ持っていない、情けなくて使えない男だという自覚はある。
だが―――先の鋭利な刃を薄い衣服越しに突き立てて、それで無傷など――ありえない。
葵崎は先刻の、暗示で自らを騙していた時とは大違いの邪悪な笑顔で笑っている。
圧倒的不利な状況だというのに、妙に自信ありげな表情で、動けない僕に右手をかざした。
「やぁ、『初めまして』神無月君。お姉さんは葵崎蜜柑。御察しの通り詐欺師だ」
「………驚いた。―――そういうことだとはね。いくら何でもそりゃ、やり過ぎってやつだろ……」
「お姉さんの嘘を見抜けたところは誉めてあげようかね。ただし、甘いよホームズ。
あたしの能力は『世界に嘘を吐く』ことさ。
あたしの身体には包丁は刺さらないしギロチンも通らない。
逆に言えば、爪楊枝でもあたしは殺せるし、首を切りたきゃ裁縫糸一本で事足りる。
あたしが軽く物を放ればそれは弾丸の威力になるし、思い切り投げたらゆっくり飛ぶ訳だ」
言葉だけで見れば、ただ物事があべこべになっているだけだ。
しかし彼女はきっと、意図的に一部の情報を開示していないのだ―――それこそ、詐欺師の常套手段。
今ここで僕が『あべこべ』を攻略したとしても、葵崎は笑いながら僕を踏みにじる。
僕では敵わない。どう考えても、この女を殺すのは現実的ではない。
いやいやそれよりも、僕、絶体絶命じゃね?
目の前には嘘を吐く怪人。
その距離およそ一尺となし。
彼女が『軽く』手を真横に振りでもすれば即座に、僕の身体は根こそぎ破壊される。
唯一の頼りである鋏もまともな使い方では通じないし、そもそもこの詐欺師が僕にそんな反撃の機会を許すとも思えなかった。やれやれ―――どうしたものか。
しかし、僕は死ねない。
『あの娘』と共に帰るまでは、絶対に死んではやれないのだ。
たとえそれが世界の決定だろうが何だろうが、僕は誰のためにも死んでやる気はない。
「それっ」
少女のように甲高い声で掛け声一つ、葵崎は僕の身体を軽々と―――しかしこれでも加減した威力なのだろうが―――、片腕で投げ飛ばした。
空気抵抗が肌に痛い。
気管の中で何かが暴れているように呼吸が出来ず、見事に僕は文字通り『すっ飛んでいった』。
意識を失うってことは今のところないけど、流石に叩きつけられたらやばいな。
良くても四肢をどこか折ることになるだろうし最悪首がぽっきりいってしまうかもしれない。
でも、そんな心配はまさしく無用だ。
葵崎蜜柑が僕をわざわざ、手加減してまで放り投げたのは―――単純に、足止めだったんだろう。
世界を騙す女が激突することを面倒臭がる程の、それでいてこんな危機的状況にある人間を見つけたなら手を差し伸べずにはいられない、そういう人物。無論信頼できる。
彼女は人を騙すことに秀でていたからこそ、人の本質を見抜く力もまた、卓越していたのだ。
(本当……厄介な女だよな)
予想通りに、お人好しの
ヒーローに僕がキャッチされたことは言うまでもない。
□ □
そんな劇的なファーストコンタクトを果たした僕と―――『消防士』見上壮一さんは、ひとまず情報の交換を行っていた。
幸い此所は寂れた廃墟街。入り込む建物などいくらでもある。
手近な一軒の飲食店跡に入り込み、埃塗れの椅子に腰掛けて僕らは情報交換を開始した。
「ふむ……見上さんは、知り合いと呼べる人物がいない」
「ああ。残念ながら、君の言った『白宮つぐみ』という名にも心当たりはない」
彼が何かしらの未練を抱えていることくらいは、その陰りを含んだ表情から簡単にわかる。
幸運だったのは、この人の人柄は『修羅』の道を往くことが出来ないという善良なそれだったことか。
過去を変えられるというのは、確かに魅力的だ。
どんな失敗も―――後悔も、取り返せる。
僕は自分がこの争奪戦の参加者として選ばれた理由、自らの抱える未練が何かも、理解している。
だが、状況が少し変わった。
あるはずのないその名前を見た瞬間に、神無月恭一の執るスタンスは明確に決定した。
白宮つぐみを守る。
それだけのこと。
「……では、これからしばらくよろしくお願いいたします。ですがその前に、僕の知っている限り最悪の危険人物の話をしておきましょう」
僕は自分の声色が平静を保てているか分からなかった。
争奪戦開始直後、参加者名簿でこいつらの名前を見つけた時――自分はどんな顔をしていたのか。
きっと、憎悪と憤怒に塗り潰されたひどく無様な表情を浮かべていたに違いない。
そして、僕にこの争奪戦での目的を明確に示唆した名前でもある。
一体何人の人間の人生を奪ってきたのか分からないような外道の鬼畜、『サーカスの殺人鬼』。
あの二人を殺すまで、僕は絶対に止まれない。
「松下健吾と樋之上壊―――『サーカスの二人』と言えば、分かって頂けますよね、見上さん」
「………それは、確かに最悪だな。手段を選ばず、獲物を曲芸のように殺す鬼畜―――許せん」
僕は一瞬ぎょっとした。
見上さんの顔は相変わらずの陰りの色に包まれていたけど、その両目が、変わった。
肉親を殺された猛禽類のように威圧的な光を灯し―――『怒って』いる。
「……済まない。職業柄、人命を弄ぶ輩はどうしても許せん性分なんだよ。………ったく、私が語れたことではないだろうに」
見上さんは、押し出した激情を消し去って哀しげに苦笑する。
この人の『未練』もまた、僕と同じような、『誰かを救えなかった』ことなのかもしれない。
この人は、つい数時間前までの僕に似ている。
抜け殻のように無価値な日常を過ごし、自分が弱いせいで失ってしまった恋人の面影描く、僕に。
名簿の中に彼女、白宮つぐみの名前を発見しなければ、今もそんな風になっていただろう。
「見上さん」
「何だ」
「少し、ね。僕の過ちの話を聞いてもらえませんか?」
特に意味のない行動。
そんな無駄話をしている暇はないのに、僕はそうせずにはいられなかった。
自分を納得させるために、自分の弱さを嘲って貰いたいという身勝手な理由で。
見上さんは、静かに頷く。
肯定の意思、か。
「……私で良ければ聞こう。不謹慎かもしれないが、興味がない訳でもないのでな」
「ありがとう。そうですね、遡れば、四年前になります」
脳内に再生される、今も尚色褪せぬあの公園の思い出。
未来永劫訪れることは二度とないであろう程の幸せ。
長い時間を共に過ごしてきた、長所より短所が多い二人の日々が、鮮明に甦る。
白宮つぐみ。僕の恋人。
優しい、人見知り、コミュ障の少女。
神無月恭一。僕。
屁理屈、意気地無し、雑魚。いいとこがない。
似た者同士の毀れ物二つが織り成した幸せと絶望の記憶を反芻しながら―――、
僕は、語り始める。
【B-1/廃墟街/朝】
【神無月恭一@生還者】
[状態]健康
[装備]裁縫用の大鋏
[道具]支給品一式
[思考]
基本:つぐみと主催を打倒
【見上壮一@消防士】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品
[思考]
基本:他人の命を守る
【名前】 神無月恭一(かんなづき・きょういち)
【性別】 男
【年齢】 16
【職業】 男子高校生
【身体的特徴】 華奢な矮駆
【性格】 屁理屈を並べ立てて満悦する悪癖を持つ。
嫌いな人間にはとことん厳しいが、好きな人間には甘い
【趣味】 推理
【特技】 作戦の計画
【経歴】 十二歳の時から白宮つぐみと交際中。
つぐみが殺されて以来抜け殻のような日々を過ごしていた。
【好きなもの・こと】 彼女(白宮つぐみ)
【苦手なもの・こと】 下品な人間
【特殊技能の有無】なし
【備考】 『白宮つぐみを死なせてしまった』ことを未練としていて、そこを研究局に狙われた。
樋之上壊たちを激しく憎んでいる
【名前】 見上壮一(みかみ・そういち)
【性別】 男
【年齢】 35
【職業】 消防士
【身体的特徴】 表情に陰りがあり、引き締まった体つき
【性格】 彼の犯した事件以降は罪悪感を常に抱えている。
しかし消防士という立場に長らくいることで、無作為に命が奪われることを極端に嫌う
【趣味】 訓練
【特技】 人命救助
【経歴】 普通の大学生だったが、火の不始末で一人の少女を殺してしまう。
その少女の亡霊に取り憑かれたまま生きてきて、人を救うことにとにかく盲目。
【好きなもの・こと】 酒
【苦手なもの・こと】 愛情
【特殊技能の有無】なし
【備考】 人を救うことに特化し過ぎたことで、人間離れした身体能力を得ている
◆ ◇
「うふふ。くふふ、くふふ」
不気味な薄ら笑いを漏らしながら、その女性は、自らを取り戻した詐欺師は、会場を闊歩していた。
つい十数分前までにあった瞳の光は、艶やかで妖艶なそれへとすっかり変貌。
自分にかけた暗示を解かれた、自分が攻略されたという事実に悦んでいた。
完璧な詐欺師である自分が、葵崎蜜柑が一杯食わされたことが、たまらなく滑稽で、可笑しい。
「神無月君は凄いね。あたしも流石に驚いちゃったよん」
単なる一高校生が、現場を目撃していたとはいえプロの嘘を破ったのだ。
これが、興奮せずにいられるものか。
本性を表した詐欺師は、いつもに増しての、とてつもなく不吉な上機嫌に浸る。
世の中というのはこれだから面白い。
これだから、人生というのは止められない。誰にだって一発逆転のチャンスが平等に与えられている。ただし格差がそれを阻んでいる、高難易度のゲーム。
現にこうして、上位のキャラクターを自称する葵崎蜜柑が、明らかな下位のキャラクターに負けた。
この争奪戦という『バグ』の中でなら、そんな奇跡がいとも簡単に起きる、起こされる。
「たまんないね」
口許が三日月の形になる。
手の中で支給された銃、ワルサーP99を弄びながら、玩具を目の前にした幼子のように笑う。
一つだけ、幼子のそれと違うところがあるとすれば―――、それは『邪気』の有無だろうか。
「じゃあ始めよう、争奪戦。警察にあたしの情報をリークされたことを消したかったんだけど……これはこれでいいじゃん。優勝、してやるよ」
何人もの人間を、世界を騙して狂わせてきたあべこべの詐欺師。
彼女の行く先に待つものは栄光か、それとも一発逆転がもたらした奇跡的な敗北か。
――――答えが出る瞬間を楽しみにしながら、葵崎は薄ら笑いをまた漏らす。
【葵崎蜜柑@詐欺師】
[状態]健康
[装備]ワルサーP99
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:優勝狙い
【名前】葵崎蜜柑(あおいざき・みかん)
【性別】女
【年齢】22
【職業】詐欺師
【身体的特徴】常ににこにこと笑っていて、スタイルがいい
【趣味】ゲーム
【特技】話術
【経歴】中学の頃に友人を騙して金をせしめたことに快感を覚え、詐欺師となった。
最近警察にマークされてしまい、そのミスを帳消しにするために争奪戦に参加した
【好きなもの・こと】ギャンブル
【苦手なもの・こと】
正々堂々
【特殊技能の有無】世界を騙す能力。詳しくは本文中にて言及
【備考】詐欺師だが金目当てというよりも騙される人間を見て楽しむのが好き。
ギャンブルは好きだがとにかく下手で、詐欺師なのにギャンブルとなるとポーカーフェイスが
急に出来なくなる。
最終更新:2012年04月12日 21:19