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君だけはずっと信じた

獄石さよ子は見せしめにされた不幸な少女、獄石恵の姉だ。
彼女は妹が死んだ時、何も出来ないまま見殺しにしてしまった。
それは仕方のないことであるし、例え星野月夜であっても止めることの出来ない悲劇だ。
獄石恵が死ぬのはもはや、運命のようなモノだった。一度決まった運命は、変わることなく進んでゆく。
だが、それでも認めることは出来ない。自分の妹がわけのわからない理由で殺され、正気でいられるわけがない。

「さよ子、それは本気で言っているのか!?」

橘蓮には獄石さよ子の言った言葉がわからなかった。
獄石さよ子は優しい人間だ。殺し合いに乗るなど言うわけがない。
そう信じていたかった。
妹の死は残念だったと思うし、それを止めることが出来なかった自分は情けない。
だからと言って、それが人を殺して良い理由にはならない。

蓮は特別正義感が強いというわけでもないが、人殺しをすることだけは絶対にしたくないと思っていた。
無論、それは自分だけではなくさよ子にもだ。
一度誰かを殺してしまえば、その後は誰を殺しても何とも思わなく畜生に成り下がってしまうだろう。
それが嫌なのだ。自分は誰も殺したくはないし、さよ子に誰かを殺してほしくもない。

蓮の言葉には、そんな淡い期待も込められていた。

「本気じゃなかったら、こんな物騒なものはすぐに捨てるよ」

さよ子に支給されたものは、一丁の小型回転式拳銃と鎌。
近距離戦、遠距離戦、両方をこなすことが出来る十分な支給品だ。
対して、蓮に支給されたものは鍋蓋と特殊警棒。
共に殺傷力は低く、特に鍋蓋など何に使えばいいのかわからないほど頼りないものだ。

もしもさよ子と蓮が知り合いでなければ、間違いなく蓮はここで死んでいただろう。
さよ子は殺し合いに乗ると言っておきながら、蓮を殺す覚悟は無かった。
恵が死に、蓮まで死んでしまえば自分の大切なものをほとんど失ってしまう。
殺し合いに乗るのは蓮と共に優勝し、恵を蘇生して一緒に帰るためだ。

「ふざけるな!誰かを殺しても、お前が不幸になるだけだ」

これ以上さよ子が不幸になる必要はない。
そんな思いを込め、蓮は叫ぶ。
今の自分の声が届くかどうかはわからないが、それでも叫ぶ。

「……じゃあ」

さよ子が口を開く。
瞳には涙を浮かべ、今まで抑えていた感情が溢れ出す。

「じゃあ、どうすればいいの!?恵は死んだ!恵を復活させて帰るには、誰かを殺すしかないじゃない!」

「それは……」

言葉に詰まる。
死人を生き返らせる方法など、この世には存在しない。
獄石恵は死んだ。その事実が覆されることが無い。
当然だ。世の中そう上手く出来ていない。
死人を生き返らせるなど、今の技術では到底不可能だ。

だが、もしも生き返らせることが出来たなら?
大量の人間を殺すことで、誰かを生き返らせることが出来たなら?

恵は蓮やさよ子も気付かない間に死んでいた。
まるで有り得ない光景だったが、それで恵が死んだのは事実だ。
現実だ。夢ではなく、確かな現実。
簡単に、短時間で一つの命が散った。くだらない理由によって。

それは決して許し難いことだ。
特に恵のことをよく知っている蓮やさよ子にとって、その怒りは大きなものだった。
でも、さよ子は殺し合いに乗ろうとしている。
簡単に人を殺した畜生と同じ道を辿ろうとしている。

あれだけの短時間で人を簡単に殺せたのだから、人を蘇生することも出来るかもしれない。
絶望の淵まで追い詰められた人間は、正常にものを考えることが出来ない。
普段では『有り得ない』と一蹴するようなことでも、案外あっさりと信じられてしまう。

「――――だが、恵ちゃんはそんなことを望んでいると思うのか!?」

蓮は説得しようとすることを止めない。
恵を失ったショックが大きいのは蓮も同じだが、だからといってそれが人を殺す理由にはならない。
むしろ、大切な人間を失ったからこそわかるのだ。人間の命の重さが。
さよ子が誰かを殺したら、殺された人物と仲が良い人間が今の自分やさよ子のように大きなショックを受けなければならない。
誰かを殺すということは、誰かの人生を狂わすということなのだ。
そんなことをさよ子にしてほしくはない。


「わからない」

「それなら――――」

それなら、殺し合いになんて乗らずに無事に帰る道を探せばいい。
それは難しいことかもしれないが、可能性はゼロじゃない。
そう言いたかったが、それよりもさよ子が言葉を紡ぐ方が早かった。

「でも!でも、あの子はこんなことに巻き込まれてなければ死んでなかった!」

確かにその通りだ。
このわけのわからない『ゲーム』に巻き込まれたせいでさよ子の妹、恵は死んだ。
本来ならば生きていたはずの存在なのだ。まだ死ぬはずのない少女だったのだ。
だが、だからと言って誰かを殺すことが許されるわけではない。
理不尽な理由で殺害された人間は数多く存在するだろうが、だからといって復讐していたらキリがない。
さよ子が今しようとしていることは、『復讐』など鼻で笑える程に恐ろしいものだ。
無差別殺人など、殺人鬼と、恵を殺したあの憎き少女と何も変わらない。

「それでも、恵ちゃんはお前が殺人鬼になることなど望んでいないは――――」

ドガッ


鈍い音と共に頭を襲う謎の衝撃。不意打ち。
蓮の視界が霞む。瞳に映っていたクリアな世界にはモヤがかかり、景色があまりよく見えない。
今にも消失しそうな意識をギリギリな状態で保ちながら、蓮は考える。

誰がやった?

答えは、考えるまでもない。
答えなど既にわかっている。理解している。
この場にいるのは蓮とさよ子しかいないのだ。誰が自分を襲ったかなど、考えなくともわかるではないか。
だが、何故だ。さよ子は本当に殺人鬼になるとでもいうのか?
それだけは止めなければ。彼女を殺人鬼にするのだけは、なんとしても止めなければ。

「やめ……ろ、さよ……子」

今にも途切れそうな意識。
少しでも気を抜けば、プッツリと自分の意識は消え去ってしまうだろう。
不意打ちを食らい、バランスをしっかりと保てていない今の自分の姿は、とても滑稽なものだろう。
傍から見れば命乞いをしようとしているだけに見えるかもしれない。
いや、もしかしたらそう意識していないだけで無意識に命乞いの行動をしているだけかもしれない。

「ごめんなさい、橘君」

ドガッという音がなり、直後に二度目の衝撃が頭を襲う。
今度こそ、蓮の身体は情けなく地面へと崩れ落ちる。

死んではいない。意識はまだある。ギリギリだが、なんとか保っていられる程度には残っている。
何故殺されなかったのかはわからない。もしかしたら、さよ子はまだ『殺人鬼』になりきれていないのかもしれない。
本気で殺そうとするなら銃か鎌を使うはずだ。間違いなく、さよ子の心にはまだ善意が残っている。
だから、心のままに叫ぼう。喉が壊れそうになるくらいに、少女が『殺人鬼』になる前に。

「さよ子ォォォォォォォ!!!!!!!」

叫ぶ。大きな声で、自分が出せる最大の音量で、喉が張り裂ける程に。
自分に出来ることはこの程度しか出来ないが、それでも全力で叫ぶ。

「――――、」

しかし、必死の呼びかけも虚しくさよ子は真っ直ぐに歩き出す。

ドサリと何かが倒れたような音が聞こえたが、後ろは振り向かない。
蓮を見れば再び自分が『殺人鬼』ではなくなってしまいそうだから。
獄石さよ子は殺人鬼でなくてはならない。殺人鬼にならなければ、このゲームに勝ち残ることは出来ない。
それでも蓮を生かしておいたのは、それがさよ子に出来る最大限の情けだったからだ。
彼はさよ子を命懸けで止めようとしたように、さよ子もまた、彼女なりに蓮を守ろうとしていた。

すれ違うそれぞれの思い
二人は互いのために、全く違う道を進んでゆく。
例え進む道が違っていても、再び共に笑えあえることを信じて。

【一日目/朝/B-1】
【橘蓮】
[状態]後頭部に軽傷、気絶中
[道具]支給品一式、特殊警棒、鍋蓋
[思考・状況]
基本:さよ子を止める
1:俺はどうすれば――――

【獄石さよ子】
[状態]健康
[道具]支給品一式、鎌、S&W M36(5/5)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗るが、橘君は殺さない
1:まずは今後の手立てを考える

【橘蓮】
目立ちやすい真っ赤なジャンバーを羽織った少年。
正義感が特別強いというわけではないが、しっかりとした常識を持っているが故に殺し合いに乗るつもりはない。
頭脳、身体能力共に一般人にしてはそれなりに良い方。
さよ子とは幼馴染で、度々周囲から恋人同士と間違われる程に仲が良い。無能力者。

【獄石さよ子】
極普通の何処にでもいる少女。
見せしめの少女、獄石恵の姉。面倒見が良く、決断力もある。無能力者。

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最終更新:2012年04月15日 17:25
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