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ウラオモテ

「このふざけた殺し合いにのっているか」という問いに対する答えは「はい」か「いいえ」しかないと思っていた。

「それは今から決めることさ」
……なんだそれ?



くそ憎たらしいことに、空は綺麗に晴れていた。こういう日は友達とバカ騒ぎするに限るっつーのに……。柚希のやつまだこりてなかったのかよ。
≪皆さんにはこれから殺し合いをしていただきます≫
あんなの、もう絶対忘れられない。
殺し合い、殺し合い、殺し合い――――。
繰り返すたび胸に響くその言葉に思わず吐き気を催した。だって、友達が、死ぬかも――――。
「う゛っ……!」
吐いてない。吐いてないけど。思わず口を押さえてしゃがみこむ。立てない。なんだよ。俺、こんなにヘタレだったか?
人の死体だって何度か見たことあるだろ。友人の死体を想像したくらいでこうまでダメなのか。だらしねぇ、立て。活路を見つけろ。
――とりあえず、こんな道の端にしゃがんでちゃいけねえ。地図によればこの近くに山がある。目で見える位置だ。まずはそこにいってみて、木の陰に隠れながら考えよう。ここにいるよりずっとマシだ。
さあ、立て、動け!
「……っ」
情け無いことにマジでふらつく身体を無理やりに動かして、地図と勘と目を頼りに山へ向かう。

木の葉は青々と茂っていて、森林にしては土が湿っていない。さっきも言ったけど、空は本気で憎たらしいほど快晴。雲は……あるけど。そして風は不気味に冷たいんだ。
……お?
待てよまてよ。
今の季節はいつなんだ?
確か、昨日までは友人と炬燵でぬくぬくやってたんだよ。
「男ばっかでむせぇよ」「じゃあ、彼女いる人挙手ー。今度つれてきてー」「いるわけねーだろバーカ」「俺にはいるよ」「嘘だ!」「嘘だよ」「炬燵蜜柑こそマジ至高」「炬燵彼女こそマジ至高」「お前開墾されろ」「なにそれこわい」
……思い出すとアホらしい会話。
だけどさ、やっぱ思い出してむるとあきらかにおかしい。
だって炬燵は冬だろ? ……でも目の前の木は葉を着込んでいて、まるで夏のようだ。
「あー……炬燵蜜柑してぇ……」
呟いてもどうしようもないから、どうしようもないけど、どうしようもないからこそどうしようもないことを呟いてみた。

そんで。

「炬燵彼女はいいのか?」
「ぅひゃうっ!」
後ろから知り合いの声(しかも思ってた内容ばっちり)を食らったせいで、思い切り変な声が出た。


――――。

「……おい」
「ごっ……ごめ、ちょ、待っ……あはははっ」
先ほどの「ぅひゃうっ!」から約三分。振り返ったら、炬燵彼女の友人が未だに爆笑している。
……ちなみにこいつのために言っておくと、炬燵に入ったまま「炬燵彼女こそマジ至高」って言ったのは別人な。「お前開墾されろ」がこいつ。

「なあ、笑いすぎじゃね?」
「だ、だって、十七歳男子が「うひゃう」、「うひゃう」……!」
「殴るぞ」
「やめろ痛い」
脇腹を押さえながら涙目でこちらを見上げる「彼」は、人間ではない。
半妖精、という種族のれっきとした妖怪なのだ。
「下手したら俺より年下に見える分際で妖怪なんてな……」
「よし馨君、言いたいことがあるなら言ってごらんなさい」
「おりはらゆうきさんじゅうななさい」
「よし殺す」
「ごめんなさい」
それなりに適当なことを言いあっているが、俺は正直なところかなり安心していた。
後ろから突然声をかけられたせいでびびったけれども、こいつは俺ら四人組の一人で、「折原優樹」という。
先ほども言ったように「半妖精」という種族の妖怪で、基本的に、「外見年齢×二=実年齢」ということであるようで。大体俺の二倍は生きているらしい。
……他の二人に比べたら大分マシなんだけど、俺が四人の中で最年少なもんだから(人間だもの)、たまに、たまぁにむなしくなるんだ。
四人の中で最も情報を所有する彼に出会えたことは、もしかしたら安心感以外でもラッキーだったのかもしれない。
……まてよ。
俺は優樹を信用していいんだよな?
いや。疑いたいわけじゃない。疑いたくない。
だけど、優樹のことだから。俺らの中で一番頭のいい優樹のことだから、もしかしたら「俺と組まないほうが優樹のためになる」ルートを考えついちゃってるんじゃ……。
「ええい!」
「は?」
声を上げつつ自分の頬を叩いて喝を入れる。隣で優樹が若干引いた声を上げたけど、気にしない。
躊躇っててもいいこと無いぜ、俺。聞いてしまえばいいだろ、さっさと聞いちゃえ。

「優樹」
「あ?」
「このふざけた殺し合いにのっているか」

「それは今から決めることさ」

……どういうことなの。
優樹はさして表情も変えず、デイパックを地面に置き、学ランの左ポケットから十円玉を取り出した。
それをぴんっと空に向かって放り、両腕を勢い良く胸の前で交差させた。……どちらかの手で十円玉をキャッチしたらしいが(だって地面に無いし)、さっぱり見えなかった。

「馨が、コインを握ったほうを当ててくれたら、俺は「なるべく安全な道を選んで生存」することを誓おう。当てられなかったら、俺はこの場で今すぐ死ぬ」
そして、優樹の爆弾発言。
「は!? なんだよそれ!」
「人に自分から挑むほど強くないからね、俺。だけど殺されるなんて言うのは、たまらなく不快なのさ。思い浮かんだ二つのルートを馨に託すよ」
優樹はにこりと不気味に――けれども目を逸らせなくなるほど綺麗な――笑みを浮かべて、芝居がかった口調で続けた。
「さあ、人の子よ。賽は地上高く投げられました。どうか、どうか、あなたのお好きなように、素晴らしく、無様に、足掻いて見せてくださいませ」
――――それは、ほんの一年と少し前、柚希が俺に言い放った言葉だった。
悪趣味な優樹らしい。



「……右」
「へえ、なんで?」
「右か左だったら左だと思うんだ。だけど、性格の悪いお前に合わせて、あえての右」
「そう」
優樹が、両手を前に差し出し、ゆっくりと両手を開いて見せた。
右手には、十円玉が――――。



「悪かったね、性格悪くて」
あった。

「……あった」
情け無い。身体から力が抜けた。けれどよかった。優樹が、まだ生きてる……!
どさりと膝から崩れるようにしゃがみこんだ俺に、優樹が一瞬驚いたように瞬きし、それからまた腹を抱えて笑い出した。
「おい、あはは、なあ馨、大丈夫かよ、このチキン」
「だっ、大丈夫じゃねえよバカ!」
「ははは、ごめんて。でも俺、それなりに死と遠い存在だったからさ、なんか死ぬことに興味が無いというか」
……そうだった。
俺らが住まう、「黄昏」という国に存在する妖怪の多くは、人間に比べると大分「死ににくい」。人間より回復力が高いうえに、そもそも身体能力自体が人間とは比べ物にならない。
けれども多くの妖怪には(種族ごとに差はあるけれど)寿命というものは存在するし、急所を刺されればしっかり死ぬ。つまり、「死ににくい」だけで、妖怪といえど最後は死ぬのだ。

――しかし、妖精は違う。
そもそも、安定した肉体を持っていない妖精は、普段だと実体化と消失を繰り返してふわりふわりと生きているらしい。たいした目的もなく、ただただ存在するためだけに生きている。
故にそんな妖精の身体を殴ったところですぐに傷口はなくなるし、どこかが千切れてもまた修復されてしまう。優樹曰く「綿のようなもの」だそうだ。
そんな、永遠に死なない妖精と、当然ながら簡単に死ぬ人間のハーフ。それが半妖精だ。要するに、人間のように実体を持ちながら、永遠にいき続ける妖精。
半妖精が「人間側」「妖精側」のどちかに転がるかは五分であり、「人間側」に転がってしまえば「実体を有し、自由に活動できるものの、絶対死ねない」。
「妖精側」に転がってしまえば、「生へ執着できなくなる代わりに死ぬことが出来てしまう」。ちなみに優樹は「人間側」だそうだ。
優樹に何度か「逆じゃないのか」と問うたが、これであっているのだという。「根本が交わって入れ替わってこその半妖精だ」。
……故に、優樹はこのバトルロワイアルでも(恐らく)数少ない死の恐怖が無い参加者だと思っていたわけだが、先ほどからどうも「死にたい」と、そういっているように聞こえる。
つまり。

「優樹、今なら死ねんの?」
「うん」
彼があまりにあっさりと頷くものだから、思わず流しかけてしまった。
「……マジかよ!?」
「まじまじ。実際さっき柚希に殺されかけたし」
「なんだそりゃ」
「いやあ、それがさ……」

――情報通、折原優樹は過去にも何度か情報のために「つっこまなくてもいい首」を突っ込んだことがある。そのたびに何度か死に掛けては、それでもその身体を利用して何度も無傷に笑顔を携えて帰還する、彼。
時間を置いて何度も「情報収集」し、結果的にしっかりと情報をつかんでくるのが優樹であった。
そんな彼が、唯一望む情報を手に入れられなかった相手。それが柚希だった。
いつものように興味で情報に首を突っ込み、それが柚希を怒らせた、と。
本人はもう思い出したくも無い記憶なようで、俺に詳細を教えてくれたことは無い。けれど、彼女の話をするときに優樹が見せるくらい表情は、どれほど柚希が恐ろしかったのかをしっかりと語っていた。

「教室出る直前にすっごい華麗な足払いをくらってさ。そのまま首筋にナイフ突きつけられて「このまま刺したら、今のあなたは死ねますわ。チャンスですね」って」
柚木の口調を真似て嘯く優樹。なんだそりゃ。
「それでさ、さっき試してみたんだよ。傷口がどうなるかって」
優樹が差し出した左の中指には、綺麗な歯並びの噛み跡があった。どうやら流血したようだけれど、血は多分唾液と一緒に拭われた後だ。
「……噛んだのかよ」
「うん。持ってるのは銃でね。流石に自分の手を狙うわけにはいかなくてさ。だからこう……「がぶっ」とやってみたわけですよ。そしたら、こう。傷が残ったままでね。へえ、傷って残るんだあ、って思った感じ?」
「おまえなあ……」
相変わらずのテンポだった優樹に安心した。突然死ねるようになるなんて、驚くどころか俺ならパニックになりそうなもだが、そこは流石の優樹。本人の脳みその中では「どうでもいいこと」に分類されたらしい。

「あ、でも別にどうでもよくないよ?」
俺の心を読んだかのように優樹が言う。
「どうでもよくない。だけど、きっとこのあといくらでもパニくることが起こるだろうから、無理に押さえ込んでるだけだ」
優樹は、先ほど地面に下ろしたデイパックをあけている。しゃがんでいる上に俯いてしまっている彼の顔は全く見えないが、口調から察するに自嘲的な表情を浮かべているに違いない。

「…………」
それでなんて返して良いかわからなくなった俺に、優樹が話題をがらりとかえるようにデイパックの中から見つけたらしい名簿を差し出してきた。まだ顔は上げてくれない。
「……さて、「なるべく安全な道を選んで生存」についてなんだけど。とりあえず、俺たち二人じゃ心許ないから、仲間から増やしていこうと思う。一人か二人だけど」
優樹が、知っている人の名前の横に爪で傷を作っていく。あまり目だって無いけれど、そこまで考えているのだろうか。
「知っている奴らは、「葵志貴」「麻生一」「雅礫」「鬼一樹月」「北上将士」「五条藍」「西行氷哉」「高屋敷司」「土御門伊織」「七瀬蛍」「方丈葉月」「円千代」だね」
「全部で十二人……。俺らを入れて十四人か」
「バトルロワイアルに参加している人数は、俺らを入れて、且つ船山あきを抜いて六十四人だから、このなかだけで考えること自体がかなり愚かなんだけど、考えないよりはマシってことで」
「おう」
「まず、なるべく接触したくない人を除外していくよ」
「葵志貴と雅礫か?」
葵志貴は柚希の忠実な部下だ。心酔しちまってる。雅礫のほうはそんなことも無いけど、志貴と仲が良いから除外したほうが良いだろう。
蛍は――――。

七瀬蛍は、過去に一度俺たちを裏切った。

……いや、そんなことは考えない。あの時は蛍が重大な問題を抱えていたのだから、あれはもう忘れよう。
蛍は、今でも俺たちの大事な友達だ。

「葵志貴と雅礫。うん、まずそいつらは最初に除外すべき」
うんうん、と優樹は頷いて、そして続ける。
「次に外すべきは、鬼一樹月と土御門伊織、あと方丈葉月だな」
「え?」
予想外だった。
「え、まてよ、なんでその人たちが? 確かに一回戦ったことあるけどさ……」
いや、「戦ったことがある」なんてものを優樹が除外理由に挙げるわけが無い。だって三人とは既に和解しているし、「戦ったことがある」なら将士さんを忘れてる。
何故か優樹が呆れたように笑い声を上げて(悪かったな)、解説を始めてくれた。
「――鬼一樹月は、善人だから。多分あの人は多くの人間を救いたがるから、俺らにとっては浪費することになる時間が出てくる。最悪、柚希に挑みそうだし。「俺らが」生き残りたいなら、善人は仲間に入れないこと」
まあ、馨も善人だけどね。
なんていう優樹は本当に悪趣味だと思った。
だって優樹は、「俺たちが生き残れば、他の奴らはどうでもいい」と言っているように聞こえたのだ。きっと、そういっているんだろう。
「土御門伊織は、絶対俺より頭イイでしょ? あの人はあの人で、何か考えているだろうね。俺は俺の意見を変える気はないから、この人と議論して時間を浪費したくない」
「ああ……」
頑固者だからなあ、二人とも。
「方丈葉月を見捨てる理由は一つだよ。あいつはただの不老不死人だ。俺と同じ状況だとすると、あいつも普通に死ぬ。だったら、そんな一般人を仲間に入れたら足手まといになるだけだから」
「お前……ッ」
「おっと、怒るなよ馨。俺たちに救える余裕があるなら救いたいよ? だけどどう考えても無理だろ? 俺たちは助け合える仲間を見つけなければならない」
「見捨てる」なんて言葉をあえて使ったらしい優樹は、すこしイラついた俺と一歩距離をとるようにそう言う。それでも彼は顔を上げなかった。

優樹は冷たいと思う。

こういうと彼は、「馨があったかすぎるんだよ」と返してくるが、俺が暖かいならば、他の人はなんなんだろう。
助け合いたいとこの優樹はいうけれど、助け合うのと頼るのと縋るのは――どれくらい罪なんだろう、

俺は暖かいんじゃなくてぬるいんだよ。俺は優しいんじゃなくて甘いんだよ。俺は助け合えるんじゃなくて――。


「馨?」
優樹が心配そうに俺の顔を覗くだから、慌てて笑顔を作る。
「あ、いやいやなんでもないから。続けて。なんで将士さんは除外しないんだ?」
話題を作ってやれば、優樹が納得できなそうに首をかしげて、また俯いて、それから返答してくれた。
「北上将士は基本的に「来るもの拒まず」だ。できれば俺たちより強い奴らとは接触したくないんだけど、彼の場合は重要な目的とか持ってなさそうだから、ついてきてもらえる可能性はあるね」
「へえ……」
「で、次に除外すべきは西行氷哉と円千代だ。理由はわかってもらえる?」
「志貴と同じか?」
「そう。あいつらは主人たる鬼一樹月と土御門伊織を追っているだろうから、俺たちに協力してくれるとは思えない」
「残るのは一と将士さんと五条さんと司くんと蛍?」
「そうそう、あー……でも高屋敷司はなあ……」
「ん?」
「だってあいつバカじゃん?」
「はっきりいうなあ」
バカとはあんまりな物言いであるが、まあ優樹からすればバカなんだろう。直感で走りまくってあげく暴走するのが司くんだ。でも語り口からするに、会えたなら行動を共に出来るんだろう。頑張れ司くん、負けるな司くん。

「五条藍は悪くない。寧ろ良い。……けど、彼女に対しては情報が少なすぎるんだよなあ……」
もっと調べておけばよかった、という優樹の口調が、今日の中で一番悔しそうだ。
「彼女はなあ……彼女の中で「協力するか否か」のボーダーラインがあるらしいんだけど、よくわかんないんだよねえ。今度ゆっくり考えようとか思ってたのによお……。多分俺じゃ無理だよなあ……」
おおう、優樹の声がどんどん低くなってる。おお、こわいこわい。

「じゃあ将士さんと司くんと五条さんは保留?」
「そうだね」
「あ、じゃあ残ったのは」

麻生一と七瀬蛍だ。
俺たちの、友達――――。


「一は全く問題ないね。あいつは人といると途端に頼りになるタイプだ」
「……蛍は?」
「戦闘力なら一番頼りになるな。あいつが僕らに協力してくれれば最高なんだけど……信じるしかないよ」
それは、優樹にしてはとんでもなく煮え切らない台詞だったけど。

「そうだね」

彼はもう、僕らを裏切らないから。信じればそれで良い。

「まあ、会わなくちゃ考えても無駄なんだけどなあ」
俺が呟けば、優樹が待ってましたといわんばかりの顔で。
「二人がいそうな場所は既に考察済みだ」
「おおー!」
皆さん、折原優樹に全力の拍手を。

なんなんだこいつは、物事考えすぎだろ。
……ん?
待てよまてよ。

こいつがものをよく考えてるのはわかったけど、おかしくね?
俺、こいつの考え、まだきいてねえぞ?
そうだよ、優樹が「考えてる」といっただけで、二人の居場所も、そもそも優樹の考えてる「なるべく安全な道を選んで生存」する方法も聞いてない。
聞かなくちゃ。

「なあ、優樹……」
俯いていた優樹の顔がやっとこちらをみたのと同時に、その端正な顔が思い切り引きつった。
「馨、動くな!」
そのまま優樹がデイパックから銃を引っ張り出して、ろくに狙いも定めず(定めて無いように見えた)、発砲した。

「!?」
動くなといわれたけれど、これはもう振り向かざるを得ない。振り返ると、そこには腹を押さえた少年がいた。

「「子供……!?」」
俺だけじゃなくて、優樹まで驚いたような声を上げる。
少年は思い切り辛そうで、だけど悲鳴なんて上げずに――。少年はデイパックを持たずに、転がるように逃げていった。

その手には、抜き身の刀――――。

そのまま少年の去った先を見ていた俺の耳に飛び込んできたのは優樹の声だった。
「子供……? 俺、馨の後ろに影が見えて……馨が危ないと思ったから、大して確認もせずに……?」
先ほどの余裕たっぷりな優樹の声じゃない。まるで子供みたいな、まるで志貴みたいな、ぐらぐらと不安定な声。

「優樹?」
「俺――なにやってんの? あんな成長途中の子供なんて、簡単に……」
「おい、優樹」
「そもそも俺――そんなにうまく撃てないのに……? バカじゃないの……?」
「優樹、おい! 大丈夫かよ?」
左利きの彼が、左手に銃を構えたまま、固まってしまっている。

優樹は、子供に弱い。
これは多分、優樹自身が幼少期に虐げられてたからだと思うんだが、自他共に「悪趣味」であると認める彼、は子供にだけは手を出せないのだ。
だけど。
彼は、少年の姿がよく見えなかったからとはいえ、俺を守ってくれるためとはいえ、「子供」を撃った。
妖怪たる彼は外見で少年か否かを見分けることは無いと思っていた。外見が優樹より年下でも、優樹より何十倍も生きている妖怪だっている。
だけど、今わかった。彼の「子供」の判断基準は、「虐げられていた当時の彼」と同い年くらいに見えるかどうか、なんだとおもう。
だって先ほどの少年は大体十二歳くらい。「死にたい」「殺してください」と呟いていた、抜け殻のようだった当時の優樹の外見年齢も、十二歳くらいだった。

「優樹、大丈夫だよ。ほら、お前だって知らなかったんだし。それに俺グズだからさ、優樹が撃ってくれなかったら多分死んでたんだよ」
フォローをいれてみる。だけど優樹には通じなかったようで、目を見開いてがたがたと震えてだしてしまっていた。
「優樹、優樹、大丈夫だよ、な?」
「……たぶん、きっと、大丈夫、じゃ、ない……から」
未だにしゃがんだままだった彼の手を引いて立ち上がらせる。
さっきの銃声が、だれかに聞こえてしまったかもしれない。こんな状態の優樹と、「危険な奴」には会わせられない。

ふらふらと立ち上がった彼から手を離し、彼のデイパックのを俺のデイパックに押し込むことにした。だってほら、優樹はデイパックなんてもてる状況じゃないから。
少年のデイパックについては一瞬悩んだけれど、持って行かないことにした。少年が帰ってくるかもしれないしな。

「優樹……とりあえずこっから離れよう? な、あの子についてはさ、ここまで接近に気づかなかった俺が悪いんだよ?」
「……俺も、気づかなかった……」
優樹に肩を貸して、もう片方の肩にデイパックをかける。

……とりあえず、ここから離れなければ。

【5-F/神塚山麓/一日目-昼】
 【日南 馨@革命】
 [状態]:健康、心配(中)
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品+優樹の基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針: 優樹の考えている作戦に乗る
  1:優樹がやばい
  2:仲間みつけたいなあ……
  3:もっと頼れる人はいると思うけど。
 [備考]
  ※ 一、蛍、優樹のことは親友だと思っている

【5-F/神塚山麓/一日目-昼】
 【折原優樹@革命】
 [状態]:混乱(大)
 [装備]:なし
 [持物]:なし
 [方針/目的]
  基本方針: 少なくても俺と馨は生き残る
  1:どうしよう子供を撃ってしまった
  2:馨が心配してる。けどどうしよう子供を撃ってしまった
 [備考]
  ※ 偶然馨と出会ったので生存を選びましたが、そもそも山に来たのは自殺するためだったり
  ※ 馨のことは信頼しています。一も同様。ただし蛍とは若干溝がある。
  ※ しばらく行動不能




【side:???】
高貴な私が、こんな安物の服に身を包むだなんて、本当に不愉快だわ。
それにこんなに高貴なこの私が、土の上に座って、草木に隠れるなんて、不愉快極まりない。

この私にはこの後にも沢山の未来が待ち受けているのだから、こんなバトルロワイアルごときで死ぬわけにはいかないの。
けれど私には、強い人たちとやりあうような実力は無い。
名簿を見たら、お兄様の名前も、妹の名前もあった。
だったら彼らや他の知り合いを頼れって? 冗談はよして頂戴。

こんな状況で誰かを頼れるわけが無いじゃない。

私の武器は、運よく銃だった。銃――ライフル。使い方はよくわからなかったけれど、説明書を何度も読んで覚えた。
これで、あたりを通った人を射殺する。
ずっと粘っていれば、それだけで人数が減らせるはずだ。
がんばれ私。黙って、潜んでいなさい。

「……!」
ぱあん、と近くで聞こえた発砲音。思わず肩が跳ねる。
次いで、何かがごろごろと転がるように、というか殆ど転がって山の麓から逃げてきた少年の姿が見えた。

「はぁ……っ! ぐれーてる……!! 僕は――まだっ……!」
少年の苦しげな声。木の陰から様子を伺えば、お腹の辺りからかなりの血を流している少年が視界に飛び込んできた。
ふらふらと、けれども先ほどの発砲音の場所から逃げるように歩く少年。

……普通の人は、彼を救いに動くのだろうか。
だけど、私は違う。

私は迷わずライフルを構えた。
あんなに傷ついていれば、きっとすぐに死ぬだろうから。

私の潜む茂みを通り過ぎた彼の背中を、しっかりと狙って――撃つ。

たあん。

音と同時……だったかな。
彼の足に紅い花が咲いた。
臓器を狙ったのだけれど、やっぱりうまく当たるものじゃない。

「ぐれー、てる……!」
まだ生きているらしい彼は、はあはあと荒い息を吐いていた。
絞りあがった声から察するに、「グレーテル」という子を探していたのだろうか。その名前は名簿にもある。

「……落としたパンくずがあればよかったのかもしれないわね、坊や」
再び茂みに身を隠しながら、そう呟いた私の声は、少年に届いたのだろうか。

まあ、そんなことは高貴な私にはどうでもいいのだけれど。


【5-F/神塚山麓/一日目-昼】
 【アシュリー・エルゼーン@UNKNOWN】
 [状態]:健康
 [装備]:ライフル(名称不明)
 [持物]:基本支給品一覧
 [方針/目的]
  基本方針:優勝狙い
  1:この私がこんな場所にいるなんてありえない
  2:誰も信じない





【ヘンゼル@Rondo:死亡】
【残り56名】



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GAME START アシュリー・エルゼーン Next:[[]]
GAME START 折原優樹 Next:[[]]
GAME START 日南馨 Next:[[]]
ヘンゼル

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最終更新:2012年12月18日 10:47
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