1話 イツワリ
「……大変な事になった」
青年、亜神月貴は草むらに立ち尽くしていた。
殺し合いの始まりの、一部始終を見て彼が感じた感想。
それは矢張りというかなんというか。矢張りありえないといったものであった。
知らない場所への拉致。
始めて聞かされた裏社会の残酷な遊び。
自分の首に填められている鉄の輪。
突然の殺し合いの宣言。
唐突に殺された名もなき女性。
突然現れた鬼のような生物。
それら全てが亜神には理解ができなかった。
「それにしても、本当になんなんだよこれ……」
亜神月貴は、日本有数の財閥である亜神財閥の御曹司である。
しかしその生活は特に特別でも高級でもなく、ごく普通の一般市民のものであった。
普通の学校に通い。
普通のマンションで暮らし。
普通の家具に囲まれながら、普通の食事を普通の食器でとっている。
勿論部屋も普通で、寝具も普通であるし、所持品も普通のものであった。
彼は上流市民の一員ではあるが、それがどうも肌に合わなかった。
肌に合わない、という言い方は彼に関しては少し違うのかもしれないが、そんな感じであった。
亜神月貴は――自分の豪華絢爛な立場を偽り、あたかも普遍的な高校生として生きてきたのである。
「ディパック、か……
殺し合いなんてする気はないけど、襲われてきたときぐらいには……使える、かな」
亜神はとりあえず、そんな事を思いながらディパックを開いた――のだが。
「……これは、普通じゃあ、ないな」
――中に入っていたのは、自分の人生の中で全く見たことのないもの。であった。
「大きい、銃……だよなこれ」
レミントンM31。
狩猟用ライフルやショットガンの大手メーカー、レミントンで開発されたショットガンの一種である。
当然、亜神は現実でこんな代物を見たことがなかったし、生まれた世界である、亜神財閥内でも見た事はなかった。
「……物騒だし、しまっておこう。
こんなもの、ぼくには使えないだろうし……」
亜神はそういうとショットガンをディパックの中にしまった。
できれば、もうそれを見たくないとも思ったが、矢張りそうはいかないんだろうなと少し身震いした。
「ふぅ、とりあえず見つからないようにどこか安全なところへ隠れないと」
亜神がそう言った矢先であった。
その女が亜神に詰め寄ったのは。
「あのぅ、あなた、殺し合いに乗っているんですか?」
柔らかな笑顔で女は亜神にそう尋ねた。
亜神はその声に気づき、振り向き、そしてその女に何かしらの恐怖を抱きながら警戒する素振りを取った。
女はそんな亜神にぽんと肩を置き、一言呟く。
「大丈夫ですっ、私は殺し合いには乗っていませんから」
――そんな事を言われたが、嘘かもしれないと亜神は女の腕を片手で払い、すぐさま女の下から離れようとた。
「わ、私は違いますよっ!
それに、"掻き掻き棒"なんかで人殺しできるわけないじゃないですかぁ!」
――掻き掻き棒。
その一言に亜神は体制を崩し、地べたへとその体をうずめた。
「だ、大丈夫ですかぁ!?」
「いてて……」
「ごめんなさい、私が変なこと言ったから」
「気にして、ないよ。
……それにしても、"孫の手"が支給品だなんて……酷いね。
最初は"掻き掻き棒"なんていうから気が抜けちゃったよ」
「わ、私、家でその、孫の手って言いましたっけ?
それを"掻き掻き棒"って言ってて、まさか孫の手なんて名前なんて知らなくて……あの、ごめんなさい」
「僕は、亜神月貴。君は?」
「あ、枠名称子といいます。よろしくお願いしますね」
「うん、よろしく。枠名さん」
こうして亜神月貴と――
枠名称子、もとい凸田ロコは共に行動を開始する事となった。
凸田ロコが名乗ったその名、「枠名称子」は偽名である。
その名は、彼女の本名が枠のような名だから枠名さん――といったあだ名のようなものなのであった――が。
いつしかクラスのみんなや学校の中だけではなく、家や町、今まで出会った人間全てに本名ではなくそのあだ名で呼ばれていたのだった。
それが、何故なのかは、"神"しか知らない、知り得ない。
ただ一つ言える事は、その「枠名」という名前は、意識的に呼ばれている。ということだけであった。
だから彼女は――「凸田ロコ」の名を捨て、偽りの名「枠名称子」として生きる事をいつの日か心に決めていた。
――どちらにしろ、自分の本名は知ってても知らなくても言われる事がないのだから――そう思いながら、自分の名前を笑顔で偽っていた。
それは自虐的なものであり、そして自らの救いとなる行為。
彼女はそう思っているのであった。
「では、行きましょうか♪」
「?」
【D-7/草むら/00:28】
【亜神月貴】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、レミントンM31
[思考]基本:殺し合いには乗らない
1:不思議な人だなぁ……
2:これからどうするか……
【凸田ロコ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、孫の手
[思考]基本:殺し合いなんて、できるわけないじゃありませんか
1:みんなのいう事をきいていよう
2:絶対に逆らう事だけはしないようにしないと……
キャラクター紹介
【亜神 月貴(アノガミ ツキタカ)】
亜神財閥の御曹司だがその立場にしがらみを持っており、金持ちではなく、普通の人の生活をしようと思っており、実際に私生活は家元を離れて普通に暮らしている。
そのコンプレックスじみた彼の思考には、幼少時に受けたトラウマが起因している。
上記の理由から、金持ちだからといって自慢したり上からの態度で見下すなどの行為はまったくしない。というよりもそういった行為を毛嫌いしているといったほうがよいか。
性格は穏やかでやや臆病。
【凸田 ロコ(トツダ ロコ)】
どこかふわふわとした雰囲気を見せる少女。
自分の名を「枠名 称子(ワクナ ショウコ)」という偽名で偽っている。
理由は、いくら本名を言ってもその偽名で呼ばれるかららしい。
学校で酷いいじめを受けているらしい、というよりはほとんどの人間や動物、親すらにも辛辣な扱いを受けているという噂がある。
| GAME START |
亜神月貴 |
Next: |
| GAME START |
凸田ロコ |
Next: |
最終更新:2013年01月08日 13:47