「嫌だよ……こんなの嫌……」
市街地にあるビルの一つ。
パソコンが乗せられたデスクが均等に並んだオフィス。
その隅にあるデスクの下に、その少女はいた。
膝を抱え、耳を塞ぎ、顔をうずめて、押し殺すように涙を流す。
それはまるで外界の全てを拒絶するかのよう。
少女―――鹿目まどかは恐怖に身を震わせ、ただただ泣いていた。
寂しい。怖い。死にたくない。
それは、
殺し合いという異常事態に巻き込まれた者の反応としては至極まっとうなもの。
だが、それで何かが解決する訳でもない。
事態は何ら変わらずに鹿目まどかを包み込み、まるで押しつぶすかのように苦しめる。
「助けて……助けてよ、ほむらちゃん……」
彼女がひたすらに呼ぶ名前は、先の謎の部屋にて出会い、そして自分を励ましてくれた少女の名前。
暁美ほむらは言った。
モニターの中の男が語る恐怖のゲームを耳にして、それでも力強く言い放った。
あなたは私が守る。
それはたった一言の短い言葉。
だが、それでもその言葉には強い強い意志が込められていた。
その一言が、あの絶望の中でどれほど頼もしい言葉に聞こえたか。
「嫌だ……死にたくないよぉ……」
今、鹿目まどかは一人だ。
自分を励ましてくれた暁美ほむらは何処にもいない。
まどかは縋るように想い続ける。
暁美ほむらを。
ヒーローのようにこの絶望から救い出してくれる少女を。
「おや? おやおやおやぁ?」
だが、そんな希望は容易く打ち砕かれる。
泣き続けるまどかの耳に届いたのは、聞いたことのない男の声であった。
ドクンと、心臓が跳ね上がる。
心拍数は早鐘を打ち始め、止まることのないと思っていた涙は一瞬で干上がった。
「聞こえたぞ。わんわんわんわん泣いてる子猫ちゃんの泣き声が。『ここはどこ? お家はどこ?』ってなあ! HAHAHAHAHA!」
声と共に電気が灯され、オフィスから暗闇が消えてまるで日中のような明るさに包まれる。
闇という隠れ蓑を失ったまどかは、息を殺してデスクに体を押し付けて縮こまった。
光から逃げるように、闇を求めるように、デスクの陰へと身体を隠し、瞼を閉ざす。
自身で作った暗闇の中で、その声が一刻も早く立ち去ることを願った。
「さあて。子猫ちゃんはどこにいるのかなあ? 何にもしないから出ておいで。お菓子をあげるよ」
それは、楽しそうな、愉しそうな、声であった。
でも、普通の『楽しい』とは何かが違う。
何か破滅的な様子を含んだ、まるで黒板を引っ掻いてしまった時のような、生理的に嫌悪を覚えてしまうような声色だ。
それは争いとは無縁の所にいたまどかでさえも、察してしまうほど。
いや、争いと無縁だからこそ察知してしまうのか……。
この人物が何処かへ行ってしまうように、まどかは心の中で祈った。
見つからないで、それだけを願いながら、じっと隠れていた。
「あれぇ? 見当たらないな。もしかして俺の勘違いだったかあ?」
声は、比較的遠い方向から聞こえた。
辺りを探し回るような足音は聞こえるが、まどかの居場所を見つける事はできなかったらしい。
オフィスといっても相当に広い場所だ。
誰かが隠れているという確証があるのならまだしも、声が聞こえたかもしれないという理由だけではそう根を詰めてまで探索することもないのか。
ともかく、まどかは胸を撫で下ろした。
このまま足音が遠ざかってくれれば、あの恐怖の声色が遠くへいってくれれば。
目の前に舞い降りた希望を抱えて、更なる祈りを込める。
「ちっ。とんだ寄り道だぜ。仕方がない。他の場所でも探すかなあっと」
祈りが届いたのか。
愚痴のような言葉の後、声と足音が遠ざかるように小さくなっていった。
そして、パチリという音ともに再び暗闇に閉ざされるオフィス。
今度こそまどかの心中に安堵が広がった。
全てを覆い隠す闇の中で、まどかは脅威からの生還を確信する。
身体はまだ恐怖の残渣に震え、心臓も早く強く動いている。
肌は汗ばみ、髪の毛は額にベッタリと張り付いている。
だが、それでもあの声の主は立ち去った。
安堵と共にまどかは瞼を開けた。
そして、見た。
視界を埋める、白色と赤色を。
雪原のような純白に刻まれた、鮮血のような赤色。
それは、顔であった。
白色の皮膚と、赤い口紅。
それが懐中電灯で下から照らされ、吐息すら掛かるほどの間近にあった。
「―――エイプリルフーーール!!! HAHAHAHAHAH!!!」
「―――――――ッ!!!」
まどかは、肺の空気を全て吐き出してしまうのではないかというほどの叫び声をあげて、気を失った。
◇
とある荒廃の世界にて『人間台風』の名で恐れられる男がそこにはいた。
天へと伸びる金色の髪。身を包むはド派手な真紅。
街を歩けば誰もが目を向けるであろう姿。
それは生ける伝説。
一晩にして大都市の一つを瓦礫へと変え、地上から月をも穿つ神の如き所業。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード―――600億$$賞金首が最強のガンマンが、そこにはいた。
ヴァッシュは沈黙の中で空を見上げて、思考する。
唐突に、本当に唐突に始まってしまった殺し合い。
どうしてこんな事になってしまったのかと、思わずにはいられない。
何よりも悲しみが浮かび上がる。
おかしい。間違っている。こんなことをしても何にもならない、そうヴァッシュは語りたかった。
この殺し合いを開催したオジマンディアスへ、声を大にして語りたかった。
だが、もう遅い。
殺し合いは、始まってしまった。
もはや止められる者はいない。
人々は恐怖に駆られ、銃を取り合ってしまうのだろう。
「そんなの、駄目だ」
ヴァッシュは空を見上げたまま、小さく告げた。
それは、ヴァッシュをヴァッシュたらしめる断固とした選択だ。
彼は、再び銃を取る。
そこに迷いはある。そこに恐怖はある。
傷つくのも傷つけるのも、撃つのも撃たれるのも、嫌だ。
それでも銃を取らねば、人々は死ぬ。
誰もが誰もを救えるなどと思ってはいない。
でも、誰もが誰もを救いたい。
だから、銃を取る。
今までも、そうして生きてきた。
それが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの生き様。
救う為に傷付ける―――それが矛盾を孕んだ行為だということは理解してる。
傲慢な偽善だということも理解している。
それでも、銃を取らねば、救える命も救えないのだ。
そんなことは、許せない。
「いくぜ、相棒」
何千と何万という戦いを共にした相棒を手の中にある。
もはや身体の一部と言っても過言ではない程に、馴染みきった存在。
白銀の銃を額に当てて、祈るように目を瞑る。
瞳を開けた時、そこに既に迷いはなかった。
矛盾を抱きかかえ、全ての業を背負いこむ孤高のガンマン。
『人間台風』が、動き出す。
そして、彼は聞いた。
闇の向こう側から届く少女の叫び声を。
踏み出す一歩に迷いはなかった。
赤の外套をたなびかせ、金の髪をゆらして、疾走する。
声の地点に辿り着くのに、そう時間はかからなかった。
暗闇のオフィス。
その隅にて気絶している少女と、少女を抱えるピエロのようなメイクをした男。
異様な光景に一瞬のおくびも出すことなく、ヴァッシュは場に突入した。
突入と同時に銃を構えて、ピエロへと銃口を向ける。
「やあ、ピエロさん。そういうのさ。止めにしない?」
道化の男の反応もまた俊敏なものだった。
何処に隠していたのか、何もないところから奇術のように取り出したナイフを、気絶中の少女へと向ける。
ピエロの男は、不思議そうにヴァッシュを見詰めていた。
「……何だ、てめぇは」
「僕? 僕はヴァッシュ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードだ」
そして、ヴァッシュを名を語る。
誰もが震え上がるその名を、誰もが後ろ指を指すその名を。
彼は、この殺し合いの場で、万感を込めて告げた。
◇
ジョーカーは心底不思議でならなかった。
唐突に場に飛び込んできた男。
男は馴れた手つきで拳銃を扱いながら、その顔には虫をも殺せぬような抜けた笑みを浮かべている。
ヘラヘラヘラヘラと柔和な笑みで固めながら、コチラを見ている。
笑顔。
そう、それは笑顔なはずだ。
だが、何なのだろう。
極限状態で人が見せる『生』の感情を何万も見てきたジョーカーには、その笑顔がとても異質なものに見えた。
楽しみを邪魔された怒りすら沸かない程に、ジョーカーはその笑顔に惹きつけられていた。
「……よし、ヴァッシュ。少しお話といこうじゃねえか。お前は何が目的でここに来た?」
ジョーカーは静かに切り出した。
勿論、ナイフはまどかへと付きつけたままに。
「君を止めにきた」
「俺を? お前が? HAHAHA! そりゃまたぶっ飛んだ冗談だ。おかしすぎて月までぶっとんじまいそうだ―――」
声を遮るように音がした。
それは、銃声であった。
警戒はしていた。
ヴァッシュが少しでも動こうものなら、女の頚動脈を切り裂いて赤い噴水で部屋を染める気でいた。
それでも、その銃声はジョーカーの認識の外から来た。
早い、なんてものではない。
知覚すらできないほどの、それこそぶっ飛んだ冗談のような早撃ち。
ジョーカーが発砲に気づいたのは、銃声を聞き、尚且つ手中のナイフが彼方へと弾き飛ばされ、床に落下した音を聞いた時だ。
HOと笑い声が止まり、衝撃にしびれる自身の手と落ちたナイフとを交互に見る。
「あー、認めよう。大したマジックだ。それなら
暗闇の中の蝙蝠野郎だって撃ち抜けるだろう」
「分かってもらえたかな? だったらさ、その子を離してあげてよ」
「それとこれとは話は別だぜ。マジック代のチップははずむが、財布の中身全部はあげられねえ」
「そうかい」
再び、銃声がする。
銃声と同時に、ジョーカーのクセっ毛の数十本が吹き飛ぶが、今度は彼も驚かなかった。
不気味な笑みをたたえたままに、ヴァッシュを見る。
「そりゃ脅しかのつもりか? だとしたらテンで的外れだ。俺を止めたきゃココを狙いな」
そう言いながら、ジョーカーは己の右胸をトントンと叩く。
「私のハートを射止めて―――なーんてなぁ!」
そのジョークに笑うものはいなかった。
ヴァッシュも、その微笑みに陰りを見せてジョーカーを見る。
「ビビってんのか? 今更なに言ってんだ。それだけの腕前だ。今までだって気に食わねえ奴を何人も殺してきてるはずだぜ」
返答はない。
だが、僅かにブレた銃口が答えを語っていた。
「おいおい、マジかよ……」
今度こそ、ジョーカーは心底からの驚愕に表情を染めた。
全くの素面でヴァッシュを見る。
これだけの銃の腕前を誇り、それでいて不殺を貫く男。
ああ、とジョーカーは思った。
同時に、己がこの男に惹かれた理由を把握した。
コイツは、『アイツ』と、同じだ。
「ハッハ……ブァッハハハハアハハア! こいつは驚いた。アイツみたいな狂人がもう一人いるとはなあ!」
狂ったように笑いながら、ジョーカーは再び何もないところから拳銃を取り出す。
その銃口が向けられるは手中の少女にではなく、ヴァッシュ自身へとだった。
澱みない動作で狙いが付けられ、引き金が引かれる。
銃弾はヴァッシュの頬を掠めるだけに終わり、後方への壁へとめり込んだ。
引き金が引かれた瞬間も、頬に灼熱が走った瞬間も、ヴァッシュは微動だとせずにジョーカーから視線を外さなかった。
「場馴れはしてる。威嚇なんかにゃ瞬きだってしやしねえ……ますます気に入ったぜ。なら、コイツはどうだあ?」
言葉と同時に銃口が少女の方へと向けられる。
そして、再び引き金を引こうとするが、それよりも早く銃弾が来た。
ジョーカーの拳銃が衝撃と共に吹き飛んでいく。
(ざーんねん!)
例えば、この場が数百人の観客から見られた舞台上だとしても、ジョーカーの動作に気付くものはいなかったであろう。
拳銃が発砲されるかという瞬間、ジョーカーは銃を握る側とは反対の腕―――つまり少女を抱える側の腕を動かしていた。
首に巻きつけられた手を少女の顔へと向ける。
彼の宿敵たる蝙蝠男であれば、その動作の意味を理解しできたのかもしれない。
ジョーカーの袖に仕込まれているのは、屈強なマフィアですら容易く死に至らしめる笑気ガス。
拳銃に注目を集め、本命の笑気ガスを少女へと浴びせる。
いわゆるミスディレクションという奴だ。
―――BANG!
だが、笑気ガスが少女に吹きかけられることはなかった。
それよりも早く、ジョーカーの腕を弾丸が蹂躙したからだ。
プロのマジシャンですら気付けるかというジョーカーのミスディレクションに、ヴァッシュが反応したのだ。
遂に自身へと刻まれた銃弾の衝撃に後方へと吹き飛ぶジョーカー。
抱えられていた少女はその場に崩れ落ちる寸前でヴァッシュへと抱き留められる。
ん、という声と共に少女が小さく動く。
少女に傷がないことを確認したヴァッシュは安堵に胸を撫で下ろした。
「HO、やれば出来るじゃないの。人を撃つことのできないタマ無しちゃんかと思ってたよ、ヴァーーーッシュ」
腕から決して少ない量の鮮血を撒き散らしながら、ジョーカーは立ち上がる。
常人であれば動くことすらできない激痛の中で、表情すら歪めることはない。
「さぁて、これからどうする? 俺はお前にゃ敵わない。だが、お前も俺を殺せない。なら、どうする? 二人で踊りでも踊ろうか?」
ジョーカーの言葉に、ヴァッシュは小さく首を振った。
「それも良いね。君がこんな事をもうしないってんなら、いくらでもダンスに付き合うよ」
「おいおい止めろ。ジョークだっての。俺は男と踊る趣味はねえんだ」
こんな状況にも関わらず、二人は笑っていた。
ヴァッシュは薄く、ジョーカーは大きく、笑う。
「時間切れだぜ―――どうするよ、ヴァッシュ」
だが、ヴァッシュの笑みは次の言葉に消えた。
何を、とは言わない問い掛け。
その問いの意味することはヴァッシュには痛い程に理解できていた。
銃口の先には、心底から楽しそうな笑顔を浮かべながら、大仰に両手を広げるピエロが一人。
ヴァッシュは理解していた。全てを。
「俺を撃つか? そりゃ簡単だ。その手にある玩具の引き金を引けば良い。だが、それで負傷した俺をどうする?
縄でふんじばってどこかに隠しておくか? でも、そんなところを心もない悪人に見付かったらどうする?
哀れな俺は抵抗すらできずに殺されちまう。それはお前の望む所じゃねえんだろ?」
そう、まさにジョーカーの言うとおりだ。
何時ものように撃って、保安官に逮捕させれば良いという話ではない。
殺し合いという状況の中、無力化だけして放置するということは、ある意味単純な殺害よりも冷酷なことだ。
だから、ヴァッシュは引き金を引けないでいた。
「……そうだね」
数秒の思考の後に、ヴァッシュは口を開いた。
その表情に、既に笑みはなかった。
「なら、俺が君を守るよ。傷を負って戦えない君を、俺が絶対に守り抜く」
返答に、ジョーカーの表情から笑みが消えた。
それはジョーカーであってして、予想の外にある答えだったのか。
全くの素面でヴァッシュを見詰め、今度は小さく笑った。
その頬には、一筋の冷や汗が流れていた。
「―――狂ってんな、お前も」
不快な笑い声も、下らないジョークを交えた嘲笑もない。
だが、その言葉こそがヴァッシュの心を一番深く抉った。
「……さっきも言ったが、俺は男と踊る趣味はねえんだ。しかも、こんなより取り見取りの楽しいパーティーで、だ」
「逃がすと思うかい?」
「さあな。やるだけやってみるのも、また粋なもんだぜ」
タン、と地面を蹴るジョーカー。
その袖から滑り落ちるは目くらましの煙幕弾。
だが、煙幕弾は起爆することなく再びヴァッシュの銃撃によりあらぬ方向へと飛んでいく。
ヴァッシュが狙いを定めたのは、ジョーカーの右脚であった。
動きを止めると同時に、十分な無力化が得られる。
決意と共に引き金にかける指へと力を込めるヴァッシュ。
弾丸が発射される―――
「だめぇぇぇえええええ!」
寸前で、聞いた。
絹を裂くような声を、己の腕の中から。
ヴァッシュを視線を手中へと向けた。
そこには涙を流しながら、震える少女がいた。
「だめ……だめだよ……こんなの、人を撃っちゃうなんて……だめだよ……」
何時の間にか目を覚ましていたのだろう。
少女はヴァッシュの腕の中で縮こまりながら、声を震わせて呟いていた。
ヴァッシュも、ジョーカーも、時が止まったかのように動きを止め、少女を見る。
「……お嬢ちゃん。この男は止めなくちゃだめなんだ。君は気絶していたから分からないかもしれないが、この男は君を―――」
「そ、それでも……それでも、だめ……人を撃つなんて、しちゃ……だめ」
それは、恐怖から出た言葉なのかもしれない。
平穏な日常からかけ離れた銃撃戦という最中で。思わず出てしまった言葉なのかもしれない。
だが、それでも、少女の言葉は先のジョーカーのものよりも尚深いところに届いた。
「……分かった」
銃口が、下がる。
ヴァッシュは泣きじゃくる少女を見ながら、小さく呟いた。
そして、ジョーカーへと視線を移す。
「行けよ。だけど、覚えといてね。もし、君がまだこの殺し合いの場で暴れまわっているっていうウワサを聞いたら、」
ヴァッシュの瞳には、鋭い眼光があった。
歴戦の殺し屋ですら寒気を覚えるだろう眼光でジョーカーを見やり、口を開く。
「―――今度は容赦はしない」
ジョーカーは無表情に、その言葉を受けた。
小さく頷き、両手を頭上へと上げる。
「分かったぜ、ガンマン」
それきり背を向け、道化師が歩き去っていく。
数メートルほど歩いたところで道化師は背を向けたまま、手を振り、何かをヴァッシュ達の方へと投げた。
一瞬警戒を宿したヴァッシュであるが、その物体を確認すると同時に力を抜いた。
トランプのカードだ。
「名刺代わりさ。とっておいてくれ」
ジョーカー。
己の名を冠するトランプを残して、狂気の怪人が去っていった。
◇
「君は?」
「私は、まどかです。鹿目、まどか……」
道化師が去った後に、二人は言葉を交わしていた。
まだ涙を流しているまどかの横で壁に寄り掛かるヴァッシュ。
ヴァッシュは無言であった。
泣きじゃくる少女に語るべき言葉が見つからずにいた。
「……ありがとな、まどか」
考え抜いた末の言葉は、ヴァッシュの本心であった。
例え異常人物であったとしても、傷付けずにすむのなら越したことはない。
ただ今は、謝礼を。
傷付けずにすんだ、その事実に。
「何で、あなたがお礼を言うんですか……た、助けてもらったのは私なのに」
「何でも、さ」
フリークスの去った場は、台風が過ぎた後のように静かなものであった。
肩を並べて坐する二人。
今はただ静寂だけが二人を包んでいた。
【B-5・市街地ビル内・深夜】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]健康、頬に掠り傷
[装備]ヴァッシュのリボルバー@トライガン・マキシマム、予備の弾丸(6×6)@トライガン・マキシマム、隠し銃@トライガン・マキシマム
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:殺し合いを止める。誰も殺さない、殺させない
【鹿目まどか@
魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、拳銃@現実(15/15)、拳銃の弾丸@現実(50/50)、サバイバルナイフ@現実
[『色』]赤色
[思考]
1:怖いよ……
◇
「く、くくく……くあああはっはあああああああああ!」
市街地の只中で笑い声をあげるものがいた。
ジョーカー。それはゴッサムシティであれば知らぬ者のいない狂人の中でも一際異質な狂人(フリークス)である。
彼は歓喜していた。
最強のガンマンと遭遇し、その武器の多くを失い、左腕を撃ちぬかれて、それでも歓喜していた。
見つけたからだ。
彼の宿敵たるダークナイトとも似通った信念を有した男。
人の域を遥かに超える力を有し、それでいて『不殺』を信条とする男。
ジョーカーには分かる。
矛盾を内包したその信条を貫き通すのがどれほど異常なもので、どれほどの狂気を必要とするのかが。
あいつは、狂人だ。
自分と同じ、ダークナイトと同じ、狂人だ。
狂人でなければ、あのような信条など貫けない。
だからこそ、面白い。
「いいぜ、いいぜ、最高だなあ!」
二つとないと思っていた至高の玩具が、もう一つ存在した。
これは最高だ。
俄然楽しくなってきたというものだ。
「バッツも、あいつも、皆が皆、楽しめるようなプレゼントを用意しなくちゃいけねえ! こりゃあ楽しくなってきやがったぜ!」
闇の中に浮かぶ満月。
満月の中で跳ね回るウサギを見詰めながら、ジョーカーは思いを馳せる。
幸先よく始まった最高のパーティー。
新たな玩具を手に入れたジョーカーが、会場を陽気なステップを踏みながら進んでいく。
【B-5・市街地・深夜】
【ジョーカー@バットマン】
[状態]左腕に銃創
[装備]ジョーカーのナイフ×3@バットマン、ジョーカーのトランプ@バットマン、笑気ガス@バットマン
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:HAHAHA!
最終更新:2013年02月03日 22:56