5話 紳士淑女
「……ここらへんでいいでしょうか」
海沿いの岩場にて、一人の男が自分の右手に握られていたディパックの紐を離し、両手に持ち替え、それを冷たく白い岩の上に置いた。
ディパックをそこに置いたその青年は、ふうとひとつため息をつくと、中身の確認をはじめた。
「箸……ですか。まさか、これだけとは……まあ、私にはお誂え向きの武器。といったところでしょうか。
箸は、食事をするにあたって器と同様に大切なものです。栄養の適度な補給も、さばいばるには必要な事ですからね」
男は仕方ない。といった様子で箸をディパックに戻すと、自身も岩の床の上へと腰掛けた。
そして、そのままふっ、とため息をつくと、死んだように動かなくなった――
それから、約十分の時間が経ち、男はその瞳を閉じたまま、岩に腰掛けたまま、隣にディパックを放置したまま――彼はその体勢から微動だにしていなかった。
その男はそれから目立った動きはしていない、が息遣いは感じられているので息絶えてはいないようだ。
自分が
殺し合いというどうしようもない状況に於かれているにも関わらず――彼は微動だにしていなかった。
「あの……そこの殿方、生きていらっしゃいますか?」
と、その時。
一人の着物姿の少女が現れ、男に声をかける。
目を閉じたまま微動だにしない人間を発見したのだから、その反応も理解はできた。
しかし、男は反応はしない。
生きている――しかし、男は少女の声に1コンマの反応も示してはいなかった。
生きているのなら――死んでいないのなら、少女の声には反応できたはずだ。
なぜなら、人間は意識がある中では、意識的でない限り他人の行動には何かしらの反応を示すはずだからだ。
では――――何故、彼は反応という行動をしなかったのだろう?
疑問はおいおい解った。
それは、彼が約一分弱のタイムラグの後、その反応を示した時だった。
「ん……おや、貴方は?」
「なんだ。生きていたのですね。
……わたくし、うっかり死んでしまっているものと思い、少し怖かったですわ」
「それは失礼。夜風に当たっているうちに少々睡魔に襲われまして……」
「あらあらまあまあ。寝ていらっしゃいましたのですわね……
わたくしも、そうとは知らず無礼な行動をしてしまい、申し訳ありません」
まあ、ネタをバラしてしまえば……彼は単純にうっかり寝てしまっていただけなのだった。
少女も、男も、深々とお辞儀をすると、夜の雑談と洒落込む事にした。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■
「私の名前は、福司榊貴と申します。少しの間ではございますが、よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくおねがいしますわ。
わたくしは、意箏巳昊という者ですわ」
「ふふ、素敵なお名前で」
「あらあら、いやですわ。お上手ですのね」
福司榊貴。
彼はまあ外見はごく普通の青年である。
身体的な能力も、特に突出したものはない。
華道の道を極め、神の領域までも超えた神童だと、まことしやかに話題になっているだけの、ごく普通の青年である。
彼はそれほどこの参加者中では異端ではない。
ただ、極稀にしか手に入れることができない才能をほんのひとかけら持っているだけの、ただの一般の人間だ。
席を同じくしている意箏巳昊もまったく同様だ。
彼女も日本では世界的に有名な家元の一つである、意箏家の一人娘というだけだ。
由緒正しき貴族の末裔とか何かとは言われているものの、やはりそれはさほど異端ではない。
両親からの躾で、ほぼ全ての習い事を極めてはいるものの、それは社会的に驚かれるだけ。この殺し合いに於いては塵一つにもならないものである。
二人は、それを知っていた。
だからこそ、この殺し合いをどう動こうか迷っていた。
殺す気はない――
まず、自分では実行前に殺されてしまうだろうから。
だからゲームに乗る気はない。
しかし、それ以外で行動するなら、どう動けばいいのか。
二人が考えていたのはそれである。
しかし、それは全く持って思いつきやしない。
――――だから。
「……しばらく、ここにいることにしましょうか」
「……ええ。そう、ですわね」
二人は、今は行動しないことにした。
それもまた一興だろう。
参加者の性格や個性はそれぞれ十人十色。いや、四十八人四十八色である。
故に、そういうケースもある。
だからこそ、これは面白きものだ。
【B-1/海沿い/一日目/0:50】
【福司榊貴】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、箸
[思考]基本:今は、考えないでいましょう
1:いずれ、兄を探さなければいけませんね……
2:意箏さんについては……どうしましょうか……
【意箏巳昊】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考]基本:あらあら、困りましたわ
1:なにもしない、というのもまた良きものですわね
キャラクター紹介
【福司 榊貴(フクシ サカキ)】
福司兄弟の弟。
見た目はごく普通の青年なのだが、華道に対しては神をも超える才能を擁している。
テレビの出演経験もあるが、華道のほうが疎かになるため、一回出演したきり出ていないとのこと。
彼の知人曰く、『礼儀正しく涼やかな印象を持つ美少年。』とのこと。
【意箏 巳昊(イゴト ミソラ)】
世界的に有名な家元、意箏家の一人娘。
性格は穏やかでおとなしく、春の日差しのようにぽわわんとしている。
両親の躾から、ほぼ全ての習い事をしており、ほぼ極めている。
日本でも雑誌や新聞で取り上げられるなど、色々と話題の少女である。
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最終更新:2013年06月04日 17:10